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●モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ集/バリリ(Vn)、バドゥーラ=スコダ(Pf)〉
(UCCW-3001〜3〈3枚組〉)
このセットだけがクァルテットではなく、バリリとスコダのデュオである。バリリの音は弓が弦に吸い付いている、と表現するのが相応しいような独特な雰囲気を持った音である。これがバリリ・ファンにとっての応えられない魅力なのだ。一方スコダは最初に出たウィーン・コンツェルトハウスと協演した「鱒」が大ヒットして一躍時代の寵児となったウィーンのピアニストである。実に軽やかなそして踊るようなタッチの演奏は長い間の「鱒」の決定盤として、今なお多くのファンの心を虜にしている。誠に真面目風な演奏をするバリリと軽妙洒脱なスコダのデュオは、ウィーンという場所を共有して、根本的に合いそうにない二人の演奏スタイルを、魔法のようにものの見事に融合させてしまった。全部で11曲が収録されているが、変ロ長調 K.378が入っていないのが残念である。
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●シューベルト:弦楽四重奏曲全集/ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
(UCCW-3004〜9〈6枚組〉)
このシューベルトは蓋し傑作である。シューベルトの演奏はこんなものだ、ということを室内楽ファンに教えてくれたバイブル的な存在である。「鱒」と共に一世を風靡した「死と乙女」をはじめ、綿々とした情緒に溢れる「ロザムンデ」、内容的に充実したト長調、悲劇性に満ちた「クァルテットザッツ」の後期4曲の素晴らしい演奏と共に特筆されるのは、それ以前の習作的なもの、曲の一部が遺失して残っていないものを含めた13曲の魅力的な表現によるシューベルト像である。我々の知らない「古き佳き時代のウィーン」の雰囲気は斯くの如しだったろう、と連想させるような演奏である。(写真:左からカンパー〈Vn1〉、ティッツェ〈Vn2〉、ヴァイス〈Va〉、クヴァルダ〈Vc〉) |
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●ハイドン:弦楽四重奏曲集 作品64 & 76/ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
(UCCW-3010〜13〈4枚組〉)
シューベルトとともにウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の十八番と云えば、誰しもがハイドンを挙げるだろう。兎に角清楚で麗しく「水も滴る」演奏に終始する。この12曲の中から1曲だけ挙げろ、と云われれば躊躇なく作品64の5「ひばり」を推したい。しかし他の演奏が悪いわけではない。作品76も含めすべてが素晴らしく麗しいので「ひばり」は敢えて、ということにしておきたい。兎に角このセットもウィーンの馨しさをふんだんに散りばめた「古き佳き時代のウィーン・コンツェルトハウス」の演奏なのである。
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●ベートーヴェン:弦楽四重奏曲集/ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
(UCCW-3014〜17〈4枚組〉)
〈第7〜9番 「ラズモフスキー」全3曲、第10番「ハープ」、第12番、第15番、計6曲収録〉
このセットは中途半端と思われるかも知れないが、残念ながらウィーン・コンツェルトハウスのベートーヴェンはこれしか録音されていないのだ。彼らのシューベルトやハイドンに比較すると、ベートーヴェンでは幾分「古き佳き」は影を潜めてはいるが、メンバーはやはりウィーンの住人、所々でそれは姿を見せる。例えば「ラズモフスキー第1」の第3楽章の幾分のポルタメント、「ラズモフスキー第3」の第3楽章〈メヌエット〉のゆっくりとした独特のテンポ等がそれである。しかし彼らのファンからすると、これが本当のベートーヴェンであって当たり前なのである。
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●ベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集/バリリ四重奏団 (UCCW-3018〜25〈8枚組〉)
「ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団」と比較すると、同じウィーンでも「バリリ四重奏団」の演奏は大きく異なる。「コンツェルトハウス」はフレージングやアーティキュレーション一つとっても、そこにはそこはかとない「古き佳き時代のウィーン」を感じるのだが、「バリリ」にはそれまでの古いウィーンの伝統から脱却した、戦後の「新しいウィーンの時代」到来を告げる演奏様式へのエポックメーキングな変化を感じてしまう。この変化は両四重奏団の母体、ウィーン・フィルについても同じである。
「コンツェルトハウス」を聴いた後、「バリリ」を聴くと表現の新鮮さに驚きを感じる。そしてこの異なった演奏様式の二つのクァルテットが同じオーケストラに存在すること自体、ウィーン・フィルの不思議を見る気がする。
このベートーヴェン全集は幾分遅めなテンポで十分に自分たちの主張を表現しながら、ウィーン・スタイルらしさをそこここに残し、新様式に脱皮した素晴らしい演奏を聴かせてくれる。正真正銘ウィーン室内楽の見本でもあろう。(写真:左バリリ〈Vn1〉、上クロチャック〈Vc〉、下シュトラッサー〈Vn2〉、右シュトレンク〈Va〉)
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●モーツァルト:弦楽四重奏曲集/バリリ四重奏団 (UCCW-3026〜30〈5枚組〉)
〈第1番〜第14番、第20番〜第22番、計17曲収録〉
バリリ四重奏団の演奏の中で最も素晴らしいのは、モーツァルトではなかろうか。もちろん上記のベートーヴェンも素晴らしい。しかしモーツァルトには何かプラス・アルファ的なものがある。それは第一にバリリ・トーンとモーツァルトとの相性だろう。ソナタのところでも書いたように、彼のヴァイオリンの特徴は弓と弦の吸い付くような音色にある。特にデタシェ奏法に於いてその素晴らしさが感じられる。
バリリ四重奏団が上記の17曲をウィーン・コンツェルトハウス・モーツァルトザールで録音したのは1953-55年でバリリの右腕故障が理由で活動を停止したのが1959年だから、その間約4年あったのに残りの6曲を録音しなかったのは何故だろう。このセットの中でCD-5(5-12)プロシャ王第1、第2のチェロ、クロチャックの上手さは抜群である。残りの6曲のないのが今となっては誠に残念と言える。(写真:左からバリリ〈Vn1〉、シュトレンク〈Va〉、シュトラッサー〈Vn2〉、ブラベッツ〈Vc〉)
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★エピローグ・・・・・・・・・・・・(写真:バリリ四重奏団、左からバリリ〈Vn1〉、シュトラッサー〈Vn2〉、ブラベッツ〈Vc〉、シュトレンク〈Va〉)