◇その他のモーツァルト 「モーツァルト:ホルン協奏曲集(全曲)/ヨハネス・ヒンターホルツァー(ホルン)、アイヴォー・ボルトン指揮、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団」(BMG JAPAN BVCO-37431)
このところのザルツブルク・モーツァルテウム管の質は昔に較べ格段に良くなってきている。CDでホルンのソロを吹いているヒンターホルツァーはこのオケのメンバーだが、このCDを聴くと彼が世界でも第一級のホルン吹きと言われていることが理解できる。ここではホルンとオーケストラのための曲の断片を含めたすべてを聴くことが出来るが、協奏曲第1番ニ長調K.412、ロンドニ長調K.514、ロンドー変ホ長調K.371の3曲でヒンターホルツァーはナチュラル・ホルンを用い、その魅力をモダン・ホルンと比較させている。彼の柔らかな音色、そして奏法が難しいナチュラル・ホルンをこれ程までに軽々と吹きこなしてしまうテクニックを、バックの秀逸なオケの伴奏で楽しめる。(廣兼 正明)
「モーツァルト:ピアノ・ソナタ集VOL.?/ロバート・レヴィン(フォルテピアノ)」(BMG JAPAN BVCD-38168~9〔2CDs〕)
音楽学者でピアニストのロバート・レヴィンがフォルテピアノを弾いて自身の演奏解釈で表現した実践版モーツァルトのピアノ・ソナタ集である。今回は第1番ハ長調K.279(189d)、第2番ヘ長調K.280(189e)、第3番K.281(189f)の3曲で、1枚目が演奏CD、2枚目が第1番第3楽章を題材とした講義のDVDである。彼の校訂楽譜も日本を含め世界のいくつかの国で発売されているので、レヴィン版を演奏する人にとっては最高のプレゼントとなるであろう。レヴィンは19世紀以降の聴衆がモーツァルトを美化しすぎて流麗な演奏を好むようになり、当時を蘇らせるものでなくミイラのようにしてしまったと嘆く。モーツァルトは当時の雑多な人間社会に生きていたのだからそれは違うと断言する。また軽快な音が出せる楽器で演奏すれば、モーツァルトを理想的に表現できる、そしてそれにはフォルテピアノが最も適しているのだとも言う。レヴィンの主張には強い説得力がある。(廣兼 正明)
「モーツァルト:歌劇《皇帝ティートの慈悲》/ V.カサロヴァ(M.Sop)、C.カストロノーヴォ(Ten)、V.ジャンス(Sop)、M.ブリート(M.Sop)、A.ヴルガリドゥ(Sop)、P.バッタリア(Bass)、ピンカス・スタインバーグ指揮、ミュンヘン放送管弦楽団・合唱団」(BMG JAPAN BVCC-34141~2〔2CDs〕)
このオペラ・セリエ「皇帝ティートの慈悲」ではホーゼンローレ(男役)のセストを演じるアルトのヴェッセリーナ・カサロヴァの素晴らしさを先ず挙げなければならないだろう。今やセスト役の最右翼に位置するカサロヴァの人気は声質の良さ、見事なテクニック、それに加えて男役としての凛々しい容姿で観客を魅了している。第1幕第9曲のセストのアリア「私は行く、でも、いとしいあなたよ」ではうってつけのセスト役、カサロヴァの魅力のすべてが凝縮されており、至難なコロラテューラ的なパッセージを完璧に歌い上げている。又、ティートを演じるカストロノーヴォ以下のソリスト陣とスタインバーグ率いるミュンヘン放管、合唱団も、台本のつまらなさをカバーして余りあるモーツァルトの音楽に呼応して熱演。 (廣兼 正明)