2013年9月 

 
Popular ALBUM Review

2枚組
初回生産限定盤

通常盤

「フォーエヴァー/アース・ウィンド&ファイアー」(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル:SICP-3537)
 8年ぶりの新作が登場♪フィリップ・べイリー(!)、ヴァーディン・ホワイト、ラルフ・ジョンソンを軸に展開する10曲(日本盤は+2曲)。先鋭的な斬新さというものを彼らに求めることはすでになくなったがここでは1970年代後期〜1980年代前期あたりの全盛期のアースが持っていた色合いをベースにまろやか?なAOR的なニュアンスをもったブラコンを聴かせてくれる。往年のファンには'経験済み'のリズム・パターン、コーラス、ホーン・セクションが繰り出される安心のアース・サウンドはある種の'癒し'かも。デラックス盤(2枚組)のDISC-2にはレニー・クラヴィッツやラファエル・サディーク、アウトキャスト、ザ・ルーツ、デヴィッド・フォスターらが各自選んだお気に入りのEW&Fナンバーが11曲(日本盤)。(上柴とおる

Popular ALBUM Review


「マジック・ハニー/シリル・ネヴィル」(BSMF RECORDS:BSMF-2354)
 ミーターズでも活動したネヴィル・ブラザースの末弟(とはいえもう今年65歳)、シリルの新しいソロ・アルバム。昨年は新たに結成したロック・バンド、ロイヤル・サザン・ブラザーフッドでアルバムを出すなど(2012年5月号で紹介)意欲旺盛なニューオリンズの大御所だけにアラン・トゥーサン、ドクター・ジョンらもゲスト参加したこの新作の充実度はかなりなもの。題名からしていかにもな「スワンプ・ファンク」の他、昔のサンタナを思い出させるような「アナザー・ウーマン」やレゲエ調の「スロウ・モーション」など幅広い音楽性を持つシリルならではの豊潤さがたっぷり♪(上柴とおる)


Popular ALBUM Review

「こはくうたひ。/ゆげみわこ」(ミディクリエイティブ:CXCA-1299)
 岩手県久慈市出身。長らくライブハウスやイベント等で活動を続けて来たが周辺の評価も高まり、期が熟したとも思われるこの時期に仕上げられたソロ・デビュー・アルバムは「魂語りの稀有なシンガー」(プロデューサーの増渕英紀)としての光沢を放っている。オリジナルに加えて「木曽節」「ホーハイ節」「奄美の子守唄」といった民謡や三橋美智也の「夕焼けとんび」など全8曲。とはいえ民謡歌手のような歌唱というのではなく、ポップス側からの観点で自然体のサラリとした清らかさ。濃厚な地酒ではなく、琥珀色したウィスキーの水割りのような味わいかも。ステージでは洋楽曲も独自解釈の日本語詞で歌いこなす♪(上柴とおる)

Popular BOOK Review

「クラシックの愉しみ アナログ主義者が選んだ名指揮者・名歌手・名演奏家/横溝亮一」 (角川書店
 ミュージック・ペンクラブの会員であり、長年にわたり東京新聞で健筆を振るってこられた横溝亮一さんの新著には、70年聴き続けてきたクラシック音楽・演奏家への愛と深い洞察力が溢れている。出だしのアルフレッド・コルトーの一章を読むだけでも、著者の博識と探究心がしのばれ、独自の音楽論が読み取れる。レコードや本だけで音楽を論じる人も少なくないが、著者は何度もヨーロッパや現地に赴き、演奏家たちとの直接の交流の中で、人・音楽を論じている。録音ではとらえられない生のミケランジェリのピアノ。彼の弾いたピアノを見せてもらい、血のにじんだ跡を検証する著者。様々なエピソードなど面白く読ませながら、なかなかに奥深い。(鈴木道子)

Popular BOOK Review

「諏訪根自子 美貌のヴァイオリニスト その劇的生涯/萩谷由喜子」(アルファベータ
 新刊書評としてはやや遅くなったが、紹介されるべき本なので記すこととする。著者の萩谷由喜子さんは本会会員で、「田中希代子」「幸田姉妹」など評伝や多くの音楽書で知られるが、長年心にかけ調査・研究を重ねてきた伝説的な美貌の天才ヴァイオリニスト諏訪根自子(1920−2012)の初評伝を世に出した。根自子は天才少女ともてはやされ、16歳でヨーロッパへ留学。パリ、ベルリンはじめ各国で絶賛を博したが、ナチス・ドイツや世界大戦にまき込まれ辛苦をなめ、帰国後に返り咲きながら沈黙の年月を重ねたり、20年余の後レコードで復帰。といった具合に謎の部分が多かったが、この評伝で初めて明らかになる。また西洋音楽創世記の日本はじめ、彼女が生きた時代や当時の音楽状況なども事細かに記されていて、資料的価値も高い。(鈴木道子)

Popular CONCERT Review

「オシビサ」 8月3日 コットンクラブ
 アフリカ系ミュージシャンが集まって、1969年にイギリスで結成。80年代に一度活動を中断したものの、90年代に入ってから創設者テディ・オセイの呼びかけで再結成を果たし、現在もなお精力的な活動を続けているユニットがオシビサだ。彼らの音楽はもっぱらアフロ・ロックという呼び名で親しまれてきたが、ハイライフ、カリプソ、モダン・ジャズ、レゲエ等の要素も感じさせるサウンドはオシビサ独自のもの。トゥーツ&ザ・メイタルズの伴奏も経験したことがあるエマヌエル・レントス(キーボード)、アフリカン・ダンスの大御所でもあるニイ・タゴエ(パーカッション)のプレイも華やかさを加えた。卒中からカムバックしたテディ・オセイはもうサックスを吹かず、コンガをたまに叩く以外はヴォーカルに専念していたが、ステージの中央でメンバーにハッパをかける姿はさすがの貫禄だった。南アフリカの大物歌手ミリアム・マケーバの代表曲「パタ・パタ」や、マット・ビアンコがリヴァイヴァル・ヒットさせた「サンシャイン・デイ」など、どれも楽しく、踊りたくなるような曲ばかり。再度の来日を楽しみにしたい。(原田和典)
写真提供:COTTON CLUB
撮影:米田泰久


Popular CONCERT Review

「宮本貴奈ニューヨーク・トリオ」 8月7日 南青山ボディ&ソウル
 バークリー音楽大学やジョージア州立大学で学び、ボストン、ニューヨークでの活動を経て2001年アトランタに転居。現在も日本とアメリカを往復して活動を続けているピアニストが宮本貴奈だ。僕が初めて彼女のプレイを聴いたのはニーナ・フリーロンとの共演で、その後TOKUのバンドの一員として演奏しているステージに接したこともある。よって“歌伴の抜群に巧いピアニスト”という印象を持っていたのだが、最新作『オン・マイ・ウェイ』を聴くと、彼女は主役としても超一流であることがわかる。今回の公演はCD同様、マット・ペンマン(ベース)、ユリシーズ・オーエンズJr.(ドラムス)を迎えてのパフォーマンス。変幻自在のリズムを絶え間なく打ち出すユリシーズ、堅実なプレイでアンサンブルをまとめあげるマットに鼓舞された宮本は、演奏することが楽しくてしょうがないといった表情で鍵盤に指を走らせる。CDに入っていた曲を中心に披露されたことはいうまでもないが、そこにライヴの興奮が加味されたパフォーマンスは奔放そのもの。クラブを埋め尽くした観客に広がる笑顔、盛大な拍手と歓声が、この夜の大成功を物語っていた。(原田和典)


Popular CONCERT Review

「一十三十一〜Welcome to “Surfbank Social Club”〜」 8月10日 ビルボードライヴ東京
 「ひとみ・とい」と読む。10年以上のキャリアを持つ女性シンガーだ。その歌声は柔らかな中にも芯があり、どんなスロー・バラードを歌ってもリズムの躍動を感じさせる。R&Bやソウル・ミュージック風のサウンドとも、ボサ・ノヴァ的な音作りとも実に相性がいい。この日のプログラムは、ニュー・アルバム『Surfbank Social Club』の世界をライヴで繰り広げるというもの。店内に流れていた波の音が落ち着くのと同時にメンバーがステージに現われる。あとはそのサウンドに身を任せるのみ。なんて美しく、流麗な響きなのか。目をつぶれば、月明かりに照らされた波打ち際や砂浜が浮かんでくる。漂うようなキーボードの音色や趣味の良いギター・カッティングが生かされたバック・バンドの音作りと一十三十一の歌声が一体となって、聴く者に涼風を送り込む。途中、LUVRAW & BTBがトーク・ボックス(ヴォコーダーとは似て非なる)でゲスト参加し、ファンキーな味わいを付け加えたのも嬉しかった。ラストは前作『CITY DIVE』からの「恋は思いのまま」。この日、世界で一番クールでアーバンな場所は、間違いなくここだったはずだ。(原田和典)


Popular CONCERT Review

「Two Voices」(高樹レイX竹内直Duo) 8月13日 六本木スイート・ベイジルSTB139
 ヴォーカルとサックスによるデュオというチャレンジングで画期的な作品を発表した高樹レイと竹内直のコンサート。大きな会場なので二人だけではなく、市川秀男(pf)中村信太郎(b)柵木勇斗(ds)を迎えて「アフロ・ブルー」から入るステージ。その後、テナー・サックス、バス・クラリネット、フルートと曲によって楽器を持ち換える竹内とのぴったりと息の合ったデュオを中心に市川トリオで歌う「ゲス・フー・アイ・ソウ・トウデイ」、彼とのデュオによる「イフ・ユー・ゴー・アウェイ」等組み合わせを変えて進められる舞台構成も見事だった。中村のベース・ソロから入り、高樹の歌と竹内のフルートが絡む「ジョニー・ギター」は、歌い古された歌だが、新鮮に聞こえ特に印象的だった。全体的に高樹の歌にも風格が出てきて自らの進む方向を定めたのではないかという印象を受けた。(高田敬三)
撮影:内山繁


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