2013年6月 

 
Popular ALBUM Review

「クアルテット・ヒューマン/ボブ・ジェームス&デヴィッド・サンボーン」(ビクターエンタテインメント:VICJ-61684)
 ボブ・ジェームス(p)とデヴィッド・サンボーン(as,ss)の双頭コンボによる新作。27年前の大ヒット作品「ダブル・ヴィジョン」を思い起こさせるが、前作がエレクトリックなフュージョン作品であったのに対して本作品はアコースティックなコンテンポラリー・ジャズの仕上がりだ。全曲ボブ・ジェームスが編曲を手がけて、一曲一曲に緻密な音の色合いを聞かせてくれる。デヴィッド・サンボーンの流麗なサックス、精密で詩情豊かなボブ・ジェームスのピアノの響きが巧みに絡み合う。ベースのジェームス・ジナス、ドラムスのスティーブ・ガッドがクアルテットの屋台骨を支える。今秋には来日も予定されており、コンテンポラリー・ジャズの代表的なユニットとしてあらためて期待される。(三塚 博

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「ライヴ・アット・ロイヤル・フェスティバル・ホール'72/メリー・ホプキン」(エアーメイル・レコーディングス:AIRAC-5004)
 アップル社からのセカンド・アルバム「大地の歌」を発表した翌1972年にロンドンで行ったコンサートの貴重なライヴ音源(当時22歳)。すでにポール・マッカートニーの手から離れており、結婚したばかりの夫でもあるトニー・ヴィスコンティ(T.レックスやデヴィッド・ボウイのプロデューサーとしても有名)と共にステージに立ったメリーはジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」やジョーン・バエズで知られる「ドナ・ドナ」など本来の姿であるフォーク・シンガーに立ち返り、アコースティックを基本にビートルズ曲「イフ・アイ・フェル」(夫婦でデュエット♪)や「悲しき天使」(元々はトラッド・ソング)なども披露。曲の合間に挟まれる自然体のおしゃべりも生かされており、歌ともども何とも清楚で初々しく彼女の魅力を再発見する思い。63歳になった今も現役。(上柴とおる)


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「ソフィスティケイテッド・レディ~カナディアン・スウィート/ピーター・アップルヤード」(Muzak:MZCF-1270)
 ベニー・グッドマン・セクステットで活躍したカナダの伝説的ヴァイヴ奏者、ピーター・アプルヤ—ドの生誕85年を祝ってカナダの歌姫10人が集まって、一人一曲づつスタンダード曲を彼のクインテットで歌う豪華なアルバム。それぞれ、彼のヴァイブ・ソロもフィーチャーされる。エミリー・クレア・バーロウ、ソフィー・ミルマン、キャロル・ウエルスマン、ダイアナ・パントン、エリザベス・シェパード等々日本でもお馴染みの顔が多い。ダイアナ・クラールは、入っていないのが残念だがこうしてみるとカナダには良い歌手が多い。ベテランのモリー・ジョンソンや男かと間違えそうなジャッキー・リチャードソンの個性味が光っている。(高田敬三)

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「パステル/ホルン・アンサンブル ヴィーナス」(日本アコースティックレコーズ:NARD-5043)
 故 伊藤泰世の発案で結成された日本初の女性5人によるホルン・アンサンブルが、ヴィーナスだ。その若く美しいヴィーナス達が、タイトル通りに多彩な楽曲に挑戦した作品がアルバム『パステル』だ。小林俊太郎作の華やかな「輝ける明けの明星」から始まり、チャイコフスキー、ドビュッシー、ポップス、映画音楽etcとバリエーション豊かな内容に驚かされる。唯、確かな演奏テクニックがあるからこそ、選曲とアレンジにもっと気を使って欲しかった。「スカボロー・フェア」の様なヴォーカル曲は、ホルンだけのインストには不向きであり、アルバムに於いて使用したホルン以外の楽器が、フリューゲルホルンとパーカッションだけと言うのも如何なものか。もっとチャレンジしたアレンジで、色々な楽器を散りばめた方が華やかさが増し、聴き易くなったであろう。「アフリカン・シンフォニー」等聴き応えのある演奏もあるので、今後のヴィーナスの活躍に期待したい。(上田 和秀)

Popular CONCERT Review

「さくら学院“The Road to Graduation Final〜さくら学院2012年度 卒業〜”」 3月31日 東京国際フォーラム・ホールC
 ますます快進撃を続ける“成長期限定ユニット”、さくら学院。その2代目生徒会長である中元すず香、および小等部修了時に卒業を発表した杉本愛莉鈴のファイナル公演が行なわれた。中元はPerfumeを輩出したアクターズスクール広島出身。力強いヴォーカルとキレのあるダンス・パフォーマンスで学院の中心的存在となり、そこから派生した重音部BABYMETALでの活動も話題を集めてきた。可憐なところとワイルドなところの両面をハイレベルで併せ持つ彼女の歌声は実に得がたい。この日のステージでは「目指せ!スーパーレディー」や「FRIENDS」といった学院の定番、および“科学部 科学究明機構 ロヂカ?”等の派生ユニットのナンバーもしっかり披露されたが、目玉はどうしても「My Graduation Toss」、BABYMETALの「ヘドバンギャー!!」、ソロ曲「桜色のアベニュー〜from SUZUKA〜」といった中元のフィーチャリング・ナンバーだろう。もちろん彼女は芸能活動を継続するし、BABYMETALも解散しない。しかし、“さくら学院の中元すず香”としては、これが正真正銘最後のステージ。その存在感を永遠に刻み付けるかのように、彼女は全開で歌い踊り、オーディエンスの心に限りない余韻を残した。(原田和典)


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「さくら学院 2013年度 転入式」 5月5日 渋谷区文化センター大和田 さくらホール
 さくら学院を、さくらホールで見る。なんて気分のいい一日なんだろう。前半は10人によるステージ。ぼくは4月30日のイベントでも見ているが、「中元すず香、杉本愛莉鈴の抜けた穴をどう埋めていくか」、相当考え、行動したのではないだろうか。とにかく動きのスケールが大きく、歌声が輝かしい。その団結力とパワーには、彼女たちと親子ほど年齢の離れている僕も脱帽だ。“科学部 科学究明機構 ロヂカ?”は、アルバム『さくら学院 2012年度 〜My Generation〜』に収められていた超名曲「デルタ」をついに初公開。テニス部Pastel Windには「部活のかけもちをしすぎた」堀内まり菜に替わって大賀咲希が新加入した。中盤では新制服のファッションショー、さらに転入生(山出愛子、白井沙樹)の紹介があり、12人の新生さくら学院で「チャイム」、「FRIENDS」を披露。その後、ステージは生徒総会へと移り、飯田來麗(パフォーマンス委員長)、佐藤日向(ムード委員長)、杉崎寧々(トーク委員長)がそれぞれ任命された。そして、新生徒会長(3代目)は堀内まり菜に決定。この名門は、今後ますますファンを楽しませてくれることだろう。(原田和典)


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「フレッド・ハーシュ」 4月17日 コットン・クラブ
 初来日は1979年、伝説のベース奏者レッド・ミッチェルと共に。しかし僕がフレッド・ハーシュをナマで見るのは今回が初めてだ。およそ1〜2年に1枚のペースで新作をリリースしている彼だが、旧作でも近作でもLPでもCDでもとにかく変わらず美しい音色を出しているのは一種の驚異に近い。ようするにどんなスタジオで、どんな風にマイクを立てられたとしても、とんでもなく高い水準でサウンドをキープしているのである。そんなハーシュの、無伴奏ソロ・ライヴ。最初の一音から、ピンと立った、それでいて肌ざわりの柔らかいフレッド独自の音色がクラブに響き渡った。高温多湿の東京でも、彼のピアノ・サウンドは鮮やかに立ちあがり、一点の曇りもない。僕は正直いってソロ・ピアノの熱心なファンとはいえない。だがハーシュのプレイからはメロディ、ハーモニーだけではなく、強烈なリズムも聴こえてくる。「まさしく現代ジャズ・ピアノ界の最高峰」と、思いっきり唸りながら帰路についた。(原田和典)
写真提供:COTTON CLUB
撮影:米田泰久


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「サラ・ガザレク」 5月3日 コットン・クラブ(ファースト・ステージ)
 シアトル出身、今は、ロスアンジェルスを拠点に活躍しているサラ・ガザレクの昨年に続いての来日公演は、連休中とあって殆ど満席の盛況だった。2005年に「ユア—ズ」というアルバムでデビューして以来、なんと8度目の来日だという。メンバーは、最初からの盟友ジョッシュ・ネルソン(p)そして前作からチームを組んだハミルトン・プライス(b)ザック・ハーマン(ds)だ。日本語の挨拶から始まり、そのデビュー・アルバムから「チーク・トゥ・チーク」、そして「マイ・シャイニング・アワー」をナチュラルな心地良い歌で聞かせる。歌う曲と一体感をもってその曲のストーリーを自分なりの解釈で表現したい、と云っていたが、「コットン・クラブ」のゴールデン・ウィーク限定メニューの「アフターヌーン・ティー」に引っかけてベースのソロから入って歌った「二人でお茶を」は、ほんわかとしたロマンチックな香りを漂わせ、当夜のハイライトだった。前作の「ブロッサム・アンド・ビー」とデビュー作からの歌が多かったが、ポルトガル語も交えて歌うジョアン・ジルベルトのボサ・ノヴァの「オパト」や、初めて歌うといっていた「アイ・ドント・ラヴ・ユー・エニーモア」も聞きものだった。快晴の5月にふさわしい明るく清楚な印象を残す気持ちの良いステージだった。(高田敬三)
写真提供:COTTON CLUB
撮影:米田泰久


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「クラフトワーク 3-D CONCERTS 1 2 3 4 5 6 7 8〜アウトバーン」 5月8日 赤坂ブリッツ
 受付でメガネを渡される。クラフトワークのステージはすべて斬新な映像の3-Dで行われた。ドイツの工業都市デュッセルドルフで70年に結成されたエレクトロニック・ミュージックの祖クラフトワークは、80年代初期に登場したシンセ・ポップとは大きく異なり、無機質で知的な音楽性と独自の創造性、メッセージを持っている。昨年ニューヨークでおこなわれて大評判となった8枚のアルバムを8夜連続で行ったコンサート同様、来日公演も8夜行われた。初日はオープニングの「アウトバーン」から快適な疾走感が3-Dの映像とともに楽しめる。「ラジオアクティビティ」を日本語で歌い、「コンピューター・ワールド」「ザ・モデル」「ツール・ド・フランス』と、彼らの歴史をトレイスするように、それぞれ見事な演奏ぶり。今年のライヴのなかでも出色の面白さだった。(鈴木道子)
撮影:土居政則


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「マイケル・ジャクソン ザ・イモータル ワールドツアー」 5月12日 さいたまスーパーアリーナ
 マイケル・ジャクソンに捧げたシルク・ドゥ・ソレイユ公演は、それなりに楽しいものだった。音楽は全編マイケルの歌。大スクリーンには時々マイケルのヴィデオも投影され、彼がいかに魅力的で優れた歌手・作曲家・ダンサー・エンターテイナーであり、地球・人類への愛のメッセージも素晴らしく、心にしみた。が、シルクとしてはやや不満がある。空中サーカスやアクロバット等、シルクらしい芸は見事だったが、割合としては減り、代わって大半を占めた「スリラー」「バッド」「ビリー・ジーン」等、マイケルのイメージをトレイスするようなダンス・シーンが、核となる魅力のスターが不在で振付もいまいち。ブレイクダンス的なものもなく、しまらなかった。日本語表記のどこにもシルク・ドゥ・ソレイユの名前がないのは皮肉だが、当然かも?とも思った。会場は満員だった。(鈴木道子)

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