2012年2月 

 
Classic CD Review【交響曲】

「マーラー:交響曲第1番ニ長調《巨人》 /チョン・ミョンフン(指揮)、ソウル・フィルハーモニー管弦楽団」(ユニバーサル ミュージック、ドイツ・グラモフォン/UCCG-1566)
 このコンビは前月発売のフランス音楽に続くドイツ・グラモフォン・レーベルへの第2弾。ソウル・フィルは現在の韓国を代表するオーケストラで、チョン・ミョンフンの薫陶下、このところめきめきと力を付けてきた。フランスものによりメジャー・デビューを果たしたソウル・フィルが、マーラーをどのように表現するのか興味をもって聴いた。チョンはこのオーケストラから先ずは自分の考える音楽を特に緩徐楽章では表現豊かに引き出すことに成功したと言えよう。ただオーケストラ、特に弦楽器群の合奏技術に今一つの不満が感じられたのが残念だった。例えば第1楽章冒頭のAのフラジオをはじめ、曲全体に亘って弦の各パートに於ける、ユニゾンでの各奏者が微妙な音合わせにもう少し気配りが欲しかった。しかし今後合奏技術を磨けば素晴らしいオーケストラになることは間違いないだろう。(廣兼 正明)

Classic CD Review【管弦楽曲】

「ウィーン・フィル ニューイヤー・コンサート2012/マリス・ヤンソンス指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン少年合唱団」(ソニー・ミュージック ジャパン インターナショナル、ソニー クラシカル/SICC-1478〜9)
 ウィーン・フィル恒例、今年のニューイヤー・コンサートは先ずCDでの特急発売盤である。今年はマリス・ヤンソンスの棒で全25曲が収録されているが、ラトヴィア出身のヤンソンスらしく今年はチャイコフスキーの「眠りの森の美女」から《パノラマ》と《ワルツ》の2曲が、他の4曲とともに初登場で選ばれている。このコンサートでは指揮者ではなくウィーン・フィルが完全に主導権を握ってウィーンのワルツ、ポルカ、マーチを演奏し、聴く人を喜ばせる。近頃ウィーン・フィルも団員が大分若返ったが、この独特なリズム、ルバート等は以前と不思議なくらい変わらないのは、やはり伝統としか言いようが無い。2月25日にはDVDとBDによるビデオが追っかけ発売されるが、このコンサートだけは映像が加わったビデオの方がCDの何倍も楽しめること請け合いである。(廣兼 正明)

Classic CD Review【器楽曲(ピアノ)】

「ショパン:スケルツォ(全4曲)、夜想曲op15-2、72-1、嬰ハ短調(遺作)、同/リスト編曲:《わたしのいとしい人》、《おとめの願い》、リスト:夜想曲S207、ラヴェル:《夜のガスパール》/ベンジャミン・グローヴナー(ピアノ)」(ユニバーサルミュージック、デッカ/UCCD-1315)
 1992年生まれの英国の新進ピアニスト。来日したこともある。「スケルツォ」の間に「夜想曲」を挟むという凝った曲目編成で、演奏自体も新鮮な感覚とアイデアに満ち、冴えたピアニズムのうちに独特の個性がある。透明度の高い美音で、リズムの切れ味もよいし、技巧の精度も高い。リストの編曲によるショパンの歌曲は華麗さとロマン的な風味が出色で、聴かせどころを心得た演奏。リストの夜想曲は簡潔さのなかに雄弁さを秘めた本CD随一の好演。『ガスパール』は作品のもつ凄味の表出はさほどでないが、遅めのテンポで弾かれる「ジベ」にはグローヴナーの平衡感覚がうかがえ、「スカルボ」での彼独自の斬新な解釈も生彩を放っている。先が楽しみな新鋭の登場だ。(青澤 唯夫)

Classic CD Review【器楽曲(ピアノ)】

「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番《テンペスト》、シューマン:幻想曲/スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)」(EMIミュージック・ジャパン/TOGE-12060)
 1961年8月EMIスタジオでの録音がリマスタリングによる高音質SACD盤で甦った。ベートーヴェンのニ短調ソナタは激しい集中力と緊迫感に貫かれた名演で、表現のスケールの大きさや彫りの深さ、ダイナミックな躍動感は無類。ドラマティックな構成の一方で、幻想性や繊細さにも不足しない。シューマンの幻想曲ハ長調は情感に富み、感情の起伏が大きく、デリケートな詩情が抜群の表現力で陰翳豊かに表出される。2曲ともリヒテルお得意の名作だけにライヴ録音も他にいくつか出ているが、正規のスタジオ録音ならではのバランスのよさが活き、大型装置で現在聴いても音質的不満はない。これは後世に受け継がれるべき名盤だろう。(青澤 唯夫)

Classic CD Review【声楽曲】

「森麻季/4つの最後の歌〜R・シュトラウス:4つの最後の歌、《明日には》、《夜》、《解き放たれて》、《万霊節》、リスト:《おお、愛しなさい》、《愛しうる限り》、《ローレライ》、《ペトラルカの3つのソネット》/森麻季(ソプラノ)、大勝秀也指揮新日本フィル、山岸茂人(ピアノ)」(エイベックス・クラシックス/AVCL-25750)
 R・シュトラウスとリストの歌曲が澄み切った美しい声で、しっとりと歌われる。オーケストラを伴った「4つの最後の歌」はドラマティックな歌唱が光るが、人間の生命の諸相が輝かしく、また敬虔に歌い継がれ、解釈の深まりに裏付けられた近年の充実ぶりがうかがえる。リストの「愛の夢第3番」の原曲や「ローレライ」はロマンティックな情感に満ち、シュトラウスの「明日」やリストの歌曲ではピアノ・パートとの巧みな対話が活き、高度な歌唱技術が多彩に展開される。広い音域を清らかに、自在に、表情豊かに歌いきり、「ペトラルカのソネット」の格調の高さも素晴らしい。SACD盤で音質も申し分ない。(青澤 唯夫)

Classic CONCERT Review【オペラ】

「沼尻竜典オペラセレクション《ドン・ジョヴァンニ》」12月4日 びわ湖ホール
 演出を担当したカロリーネ・グルーバーは随所に現代的な解釈を試みている。稀代の色魔で、悪人に描かれるドン・ジョヴァンニについても「彼だけが悪人でない」「相手の女にも彼に惹かれているものがいる」_グルーバーはそのように言いたかったのであろう。女がちょっと隙をみせたところに、手練手管のジョヴァンニが、すかさず付け入る。そのいい例が、恋人を持ちながら、ジョヴァンニの誘惑に満更でもなさそうなツェルリーナの反応である。
その結果、フィナーレでは地獄に堕ちたジョヴァンニが、蘇生することになる。死に値するほどの悪行でないという判断であろう。煉獄に転落する場面はこのオペラのハイライトシーンの一つであり、どのように仕立てるか演出家の腕の見せ所である。それをあえて避けて、あっさり終わった。いわば見せ場を欠いた平凡な終幕となった。
傾斜のある床を使った舞台は簡素なつくりで、出演者の心象風景を暗示しているようだ。衣装もツェルリーナとその恋人は今風で、愛のシンボルか。古風なスタイルの他の登場人物は、さしずめ憎を意味しているとみたい。以前にグルーバーが演出した「サロメ」の鋭角的な線が後退し、いくらか分かりやすくなっている点は、評価したい。
問題を残した新演出に比べて、音楽の出来はよかった。黒田博(ドン・ジョヴァンニ)、増田のり子(ドンナ・アンナ)らは全開、佐々木典子(ドンナ・エルヴィーラ)は実力を発揮、嘉目真木子(ツェルリーナ)はよく声が透り、将来が楽しみである。沼尻竜典は場面の転換に応じてオケ(トウキョウ・モーツァルトプレイヤーズ)を手際よくまとめ、モーツアルトの核心に迫った。(椨 泰幸)
(写真提供:公益財団法人びわ湖ホール)

Classic CONCERT Review【器楽 (ピアノ)】

「ゲルハルト・オピッツ・ピアノ・リサイタル」12月16日 いずみホール
 円熟期の音とはこういうものであろう。リスト生誕記念にちなんだ企画で、奏法は緩急自在、わが道を行く感があり、ロマン派の巨匠の醍醐味をたっぷり堪能させてくれた。「巡礼の年第2年イタリア」から選んだ「婚礼」の演奏は、華やかな祝典のなかにも厳粛な気分が漂い、描写力に富んでいる。最初に弾いた「2つの伝説 小鳥に語るアッシジの聖フランチェスコ」についても同じことが言えて、もともと抽象的な音楽から具象的なイメージを引き出す才腕は並みのものではない。一転して、「バラード第2番」「ポロネーズ第2番」「ハンガリー狂詩曲第2番」などリズミックな曲は、生命感にあふれて、爽快な印象を残した。(椨 泰幸)
(写真撮影:樋川智昭)


Classic INFORMATION【オーケストラ】

「プラハ・フィルハーモニア管弦楽団」
 1994年に創設された若いオーケストラが来日し、指揮者のヤクブ・フルシャも1981年チェコに生まれ、2008年に音楽監督に就任した新進気鋭である。プラハで初演されたモーツアルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」序曲や、母国の大作曲家ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」などを携え、本場の味をお届けする。ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」も披露する。(T) (c)Hqanya Chlala ArenaPal
日時 3月3日午後2時
会場 ザ・シンフォニーホール
お問い合わせ ザ・シンフォニーホール 06-6453-6000
http://asahi.co.jp/symphony/

Classic INFORMATION【オーケストラ】

「ウィーン放送交響楽団」
  1969年に発足したオーストリア国営放送交響楽団が前身で、ペンデレッキ、ルトスワフスキなど最先端の音楽家がここに結集し、新しい音楽を世界に発信した。その後レパートリーを広げて、音楽の都でも屈指のオーケストラに成長した。同行するコルネリウス・マイスターは1980年生まれ、2010年に首席指揮者のポストについた若手で、ベートーヴェンピアノ協奏曲第5番「皇帝」、交響曲第3番「英雄」などを演奏する。ピアニストには中堅として地位を築いたシュテファン・ヴラダーを迎える。(T)
(写真提供:ザ・シンフォニーホール)
日時 3月10日午後2時
会場 ザ・シンフォニーホール
お問い合わせ ザ・シンフォニーホール 06-6453-6000
http://asahi.co.jp/symphony/

Classic INFORMATION【オペラ】

歌劇「タンホイザー」制作発表
 ワーグナーの歌劇「タンホイザー」が3月びわ湖ホールと神奈川県民ホールで上演される。それに先立って1月17日、びわ湖ホールで指揮者の沼尻竜典をはじめ主な出演者、ホール関係者が出席して、制作発表が同ホールで行われた。
 純愛による救済をうたいあげたこのオペラは、米国サンディエゴ・オペラで上演されたプロダクションを日本に持ち込み、両ホールの共同制作で行われる。ザルツブルク音楽祭で名指揮者カラヤンと手を組んだミヒャエル・ハンペが演出を担当し、ヴェテランの手腕が期待される。この作品には異なった版が存在するが、ハンペは最初に完成したドレスデン版を採用した。沼尻は「こちらがワーグナーの意図をよく表している」と語った。主役のタンホイザーに起用された水口聡は「困難な大役であるが、全力を尽くす」と抱負を述べ、ヴェーヌスを演じる並河寿美も「テーマの愛は普遍的なものである」と期待を滲ませた。(T)
日時:3月10日、11日いずれも午後2時
会場:びわ湖ホール
お問い合わせ: 077-523-7136 http://www.biwako-hall.or.jp/

日時:3月24日、25日いずれも午後2時
会場:神奈川県民ホール
お問い合わせ:045-662-8866 http://www.kanagawa-arts.or.jp/tc/