2011年10月 

 
Classic ALBUM Review【交響曲】

「ベートーヴェン:交響曲第6番《田園》& 第8番、大フーガ(弦楽合奏版) / ケント・ナガノ(指揮)、モントリオール交響楽団」(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル、SONY CLASSICAL/SICC-1474~5)
 ケント・ナガノとモントリオール響コンビによるベートーヴェン・プロジェクトの第3弾。これは08年7月の「運命」、「ザ・ジェネラル」、「エグモント」、そして11年6月の「英雄」、「プロメテウスの創造物」に続くものである。今回の「田園」では第1楽章から清流のような淀みのないすがすがしさに満たされ、これは全曲を通して感じられる。第2楽章も速めのテンポで進められ、第4楽章は通り雨的な雷雨を感じさせ、そしてアタッカで続く終楽章も小気味よいテンポで、まさに嵐のあとの喜びと感謝の気持ちが伝わってくる。1枚目に入っている「第8番」も小気味よいテンポで全曲が爽快な気分に覆われる。この後に収録されている「大フーガ」の弦楽合奏版ではパート毎の声部が実に明快に聴き取れる。そしてこの「大フーガ」を始めとして、モントリオール響の個人技と合奏技術の質の高さが十分に感じることが出来る。 (廣兼 正明)

Classic ALBUM Review【交響曲】

「マーラー:交響曲第6番イ短調《悲劇的》/ アントニオ・パッパーノ(指揮)、ローマ・サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団」(EMIミュージックジャパン、EMI CLASSICS/TOCE-90202~03)
 オペラで大活躍のパッパーノが初めてマーラーのレコーディングに挑戦した。一言で言えば誠にドラマティックなオペラを連想させるマーラーである。今までにいろいろな演奏のマーラーを聞いたが、このように輪郭がはっきりと打ち出された演奏はなかった。第1楽章冒頭のオスティナートを目立たせることや、強烈なティンパニの用い方など、オペラ的な表現をパッパーノなりにマーラーのシンフォニーに持ち込んだと云えるだろう。フレージングやテンポの動かし方も可成り自由で、結果的に彼独特のマーラーを創りあげており、マーラーを非常に色彩的な音楽として表現することに成功している。そしてこれはパッパーノだから出来たことだと思う。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review【室内楽曲】

「二宮玲子作品集《花うつろう》」(BOSCO MUSIC /VBC3042)
 花に託す思いが清らかだ。作曲者・二宮玲子の1980年代から2011年までの軌跡を描く作品集。二宮のねらいと、作品に啓発された奏者の情感がストレートに伝わる。ことに「さくらさくら幻想曲」は、二宮と、南部やすか(フルート)ならびに松本花奈(ハープ)の繊細さと豪快さの賜物。奏者2人の若い世代がとらえた日本情緒の現代的感性として、オリジナリティの高い表現力に満ちている。「万葉集」を元にしたデュエットも、日下部祐子(ソプラノ)と河野文昭(チェロ)の気迫に満ちた演奏で聞き応え十分だ。序破急による作りが内容に深みを与えている。最も若い時期の作品「漱石の俳句による七つの歌」は、歌唱パートに多少変化がほしいが、佐竹裕介の冴えたピアノが彩りを添え興味深い。(宮沢昭男)

Classic ALBUM Review【室内楽(二重奏、三重奏)】

「ベートーヴェン:セレナーデ・ヴァリエーション/ピエール・レネール(Va)、パトリック・ガロワ(Fl)、ジェフ・コーエン(Pf)、フレデリック・ラロック(Vn)、シリル・ラクロウ(Vc)(King International[輸入盤]INTEGRAL Classic/INT-221.141)
 ヴィオラを軸にベートーヴェンの決して一般的とは云えない3つの曲を集めた面白いアルバムである。内容はこの3曲の中では最も知られているフルート、ヴァイオリン、ヴィオラという珍しい形の「セレナーデ」Op.25、次は「2つのオブリガート眼鏡付きの二重奏曲」の名があるヴィオラとチェロのデュオ、「アレグロとメヌエット」WoO.32、最後に有名な弦楽三重奏曲のセレナーデOp.8を他人がアレンジし、自らが校訂したヴィオラとピアノのための「ノットゥルノ」Op.42を、ここではウィリアム・プリムローズがアレンジしたものを演奏している。このCDの軸であるヴィオラのピエール・レネールはパリ・コンセールヴァトワール卒業後、パリ国立歌劇場の首席ヴィオラ奏者を務めただけあり、ヴィオラ独特の深みのある音で室内楽の醍醐味が十分に味わえる。彼と協演している仲間たちも、フルートのパトリック・ガロワを始め、全員が室内楽に長けた奏者たちであり、彼ら自身も心から至福の一刻を楽しんでいる様子が伝わってくる。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review【独奏曲(チェロ)】

「我が心のスペイン/ミッシャ・マイスキー (チェロ)、リリー・マイスキー(ピアノ)」(ユニバーサル ミュジック、グラモフォン/UCCG-1546)
 ミッシャ・マイスキーがピアニストの愛娘、リリーと組んだ初めてのスパニッシュ・アルバムである。マイスキーの小品はいつも素晴らしいが、今回は最も得意とするスペインものであることと、娘の伴奏であることから歌心と優しさに満ちあふれた出来映えである。収録されている曲はデ・ファリャの「7つのスペイン民謡」、「スペイン舞曲第1番」、「火祭りの踊り」、グラナドスの「ゴイェスカス間奏曲」、アルベニスの「タンゴ」、そしてアンコールにはカザルスが弾いて有名になったカタルーニャ民謡の「鳥の歌」など全18曲、マイスキーの音を楽しむにはもってこいの1枚であろう。そして愛娘リリーの父親に寄り添うような心温まるピアノ伴奏も素晴らしい。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review【器楽曲(チェロ)】

「いつかの美しい日のように/植草ひろみ」(ディスク・クラシカジャパン/DCJA-21020)
 チェロの小曲名品の名演奏がリリースされた。元新日フィルのチェロ名手植草ひろみの演奏で、現N響ハープの早川りさこ、とピアノ徳川眞弓の伴奏で甘美 なメロディを聴かせる。有名な曲ばかり17曲を、静寂な中でうっとりと癒やされ る。曲はポッパーの「いつかの美しい日のように」、バッハの「アリオーソ~カン タータ第156番」、ヴィラ=ロボスの「黒鳥の歌」、ピアソラの「忘却」、「アベ マリア」、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」、カザルスの「鳥の歌」、サン=サーンスの「白鳥」、チャイコフスキーの「ノクターン・感傷的なワルツ」などだ。国際的にもすばらしい活躍をしている彼女 の洗練された技術の高さと心の優美さにも感動させられる一枚である。(斎藤 好司)

Classic CONCERT Review【オーケストラ】

「PMFオーケストラ大阪公演」 8月2日 ザ・シンフォニーホール
 PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)は巨匠レナード・バンスタインの提唱により20年前に札幌で始まった。タングルウッド(米国)と並ぶ世界でも屈指の教育音楽祭で、毎年100人を超える若者が内外の各地から集い、トップクラスのオーケストラの首席奏者などから指導を受ける。PMFの芸術監督を引き受けるファビオ・ルイジはイタリア出身ながら、若いころからドイツ音楽を学び、優れた感性を培ってきた。
 プログラムには、得意とする古典派からロマン派の作品をそろえ、重厚なうちにも温かみある音楽を聴かせた。なかでも、ブラームス「交響曲第2番」は伸びやかな旋律で、田園風景をうたいあげた。スティーヴン・ウィリアムソン(メトロポリタン歌劇場管弦楽団首席)のモーツァルト「クラリネット協奏曲」も、口当たりがよく、まろやかである。若者たちの音楽は躍動感に満ちているものの、繊細な味わいにやや欠けて、不満を残した。(椨 泰幸)
(写真提供:ザ・シンフォニーホール)

Classic CONCERT Review【オルガン】

「ハンス=オラ・エリクソン バッハ・オルガン作品演奏会」8月6日 いずみホール
 バッハ・アルヒーフ・ライプツィヒの協力を得て始まったオルガン連続演奏会も、9回を迎えてハンス=オラ・エリクソン(ドイツ・ブレーメン芸術大学教授)が登場した。バロック音楽の伝統に立つバッハの響きは、2分されているように思う。神への祈りを捧げる荘重な宗教曲と、肩のこらない世俗曲では、趣ががらりと異なる。当たり前のことかも知れないが、バッハは何となく重いと信じ込んでいると、とんでもないミスを犯す。例えばパッサカリアもその1つで、エリクソンは明朗かつ快活なテンポで弾いて、気分を引き立ててくれた。一転して、「汝の御座の前にわれは今進み出て」「天にましますわれらの父よ」などでは、清冽な楽音でひたすら天界を目指した。バッハは奥が深く、味わいつくせない魅力を秘めていることを教えてくれる。(椨 泰幸)
(写真撮影:樋川智昭)


Classic INFORMATION【オペラ】

「関西歌劇団《イル・トロヴァトーレ》」
 スペインを舞台にしたヴェルディの作品で、呪われた運命に翻弄される兄弟の姿を描く。オペラの最高傑作といわれる「椿姫」と同じ時期につくられ、旺盛な創作意欲が見事に結実している。9月6日行われた関西歌劇団の記者会見で、指揮者の牧村邦彦は「ヴェルディならではの豊かな旋律にあふれ、劇的なフィナーレでぐっと盛り上がる。最後まで気持ちを引き締めて、音楽を進行させたい」と抱負を語り、演出の井原広樹は「伝奇的な原作を現代に通じるようにして、愛の世界を描きたい」と述べた。出演は田中勉、栢本淑子など。管弦楽はザ・カレッジオペラハウス管弦楽団、合唱は同歌劇団合唱部など。(T)
日時 11月12日午後4時、13日午後2時
会場 アルカイックホール
お問い合わせ 関西芸術振興会 06-6943-1891
http://www.geocities.jp/kaps01feb06

Classic INFORMATION【ピアノ】

「ヴァレリー・アファナシェフ・ピアノ・リサイタル」
 1947年モスクワに生まれ、ピアノの巨人ギレリスの弟子で、バッハ、エリザベート王妃の両国際コンクールに優勝するなど、数々のキャリアを重ねた。ベルギーに亡命、87年に初来日した。指揮者としても活動し、小説、戯曲なども手掛けて、多彩な才能を示している。演奏する曲目はベートーヴェンとショパンの「葬送行進曲」、リスト「葬送」、ドビュッシー「前奏曲集」より「沈める寺」など。(T)
(写真提供:いずみホール)
日時 11月20日午後2時
会場 いずみホール
お問い合わせ いずみホール 06-6944-1188
http://www.izumihall.co.jp

Classic INFORMATION【音楽芝居】

「杜こなての世界Vol.2〜音楽劇《神様の鍵束》初演」
 世界でも珍しい夫婦共作の作曲家杜こなてが台本・音楽を書き下ろした新作の世界初演。ひとりで数役を演じ・語り・歌う俳優と、音楽を担当するピアニストが繰り広げる音楽劇です。人類最大の難問のひとつ、男と女の不可思議な関係をアフリカ起源の昔の知恵は一体どのように見たのでしょう。前半の作曲者によるプレトークでは声の多様な音楽表現を実演付きでみていきます。出演は篠本賢一(写真:俳優)、三木容子(ピアノ)ほか。(K)
日時 10月29日 午後2時半開場 午後3時時開演
開場 代々木上原/ムジカ―ザ
http://www.musicasa.co.jp/information/index.html
入場料 3000円(全席自由)
お問い合わせ:042-488-3048 三木  03-3717-4887 杜