2010年9月 

 
Classic ALBUM Review【管弦楽曲】

「ワーグナー:前奏曲&序曲集、ヴェーゼンドンク歌曲集/フランツ・ウェルザー=メスト指揮、クリーヴランド管弦楽団、ミッシャ・ブルガーゴーズマン(ソプラノ)」(ユニバーサル ミュージック、ドイチェ・グラモフォン/UCCG-1508)
 最初の「リエンツィ」序曲の冒頭、たった一本のトランペットの響きに管楽器全体の優秀さを感じとることが出来る。そしてヴァイオリンを始めとする弦楽器群の統率がとれたマッシヴな響きと相俟って、クリーヴランド・サウンドは今や全米オーケストラの中で最上級に位置しているといえる。そして今年小澤の後任としてウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任するウェルザー=メストが、手兵クリーヴランド管弦楽団を率いて近代的ながら美しく重厚なワーグナー絵巻を繰り広げている。なお、「ヴェーゼンドンク歌曲集」で深みのある美声を聴かせるカナダを代表するソプラノ歌手ブルガーゴーズマンは、今年のバンクーバー冬季オリンピック開会式に於いてオリンピック賛歌を歌ったことでも記憶に新しい。 (廣兼 正明)

Classic ALBUM Review【器楽(バロック・ヴァイオリン)】

「バロック・ヴァイオリンの奥義/エンリコ・オノフリ」(アンカーレコーズ/UZCL-1003)
 世界有数のバロック・ヴァイオリン奏者、エンリコ・オノフリは、ラ・カペラ・レイアルを経て、イル・ジャルディーノ・アルモニコのコンサート・マスター及びソリストとして活動。近年、指揮活動も開始し、ベッリーニ音楽院で後進の指導にもあたっている。2009年6月イタリアのクレマで録音されたこのアルバムは、鬼才オノフリが超絶技巧を駆使した演奏で、聴き手をスリリングな興奮に導きいれるバロック・ヴァイオリン独奏曲集。昨今の研究から弦楽器を想定して書かれたとも言われるバッハのオルガン曲「トッカータとフーガBWV565」をオノフリが編曲したヴァイオリン独奏版をはじめ、ビーバーのパッサカリア、タルティーニのソナタ、テレマンのファンタジア、杉田せつ子と弾いた「ガリヴァー組曲」他全9曲収録。まことに鮮やかで、奥の深いヴァイオリン演奏の「技法」と「姿」を次々に発見してゆく面白さに満ちている。(横堀 朱美)
http://homepage3.nifty.com/enricoonofri/

Classic ALBUM Review【器楽(クラリネット)】

「驚異のヴィルトゥオーゾ・クラリネット/アレッサンドロ・カルボナーレ他」
(LN ナミ・レコード ライヴノーツ/WWCC-7653)

 イタリアが生んだ名クラリネット奏者、アレッサンドロ・カルボナーレは、フランス国立管弦楽団を経て、2004年にローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団の首席に就任。欧米の主要オーケストラと共演し、ソリスト、客演首席をこなすほか、世界各地の音楽大学の客員教授やローマ聖チェチーリア音楽院の教授を務めるメクラリネットのトップランナーモである。これは、彼の変幻自在、かつ正確無比の超絶技巧を凝縮したといえるアルバム。バッジーニ「妖精の踊り」、イザイ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番」をはじめ、ティリンカンテン「クラリネットロジア」やジャンジャン兄弟「ギスガンドリー」、J.ウィリアムズやモリコーネのシネマ・ナンバー、ブラームスとサン=サーンスのソナタをジャズ風にアレンジしたサルヴィアの作品他全14曲収録。クラリネットの可能性、表現力、そしてカルボナーレの妙技に感服。ライヴなら満場総立ち必至!(横堀 朱美)

Classic ALBUM Review【舞台音楽(声楽曲)】


「カール・オルフ:《カルミナ・ブラーナ》パトリシア・プティボン(ソプラノ)、ハンス・ヴェルナー・ブンツ(テノール)、クリスティアン・ゲアハーヘル(バリトン)、テルツ少年合唱団、バイエルン放送合唱団、ダニエル・ハーディング指揮、バイエルン放送交響楽団」(ユニバーサル ミュージック、ドイチェ・グラモフォン/UCCG-1507)
 ドイツの作曲家、オルフが書いた舞台音楽、劇的三部作「勝利」の第一作「カルミナ・ブラーナ」の人気は素晴らしい。まさに日の出の勢いで20世紀クラシックの名作としての地位を不動のものとした感がある。そして今や同じように日の出の勢いで人気指揮者の仲間入りをした、イギリス生まれの若手、この8月末で35歳の誕生日を迎えるハーディングがこの曲に挑んだ。錚々たるソリストたち、実力派の合唱団とオーケストラを従えてこの若い指揮者は端正なイギリス人的な容姿からは想像できない程の、活気に溢れる驚くべき密度の濃い音楽に仕立て上げたのである。特に最初と最後に歌われる合唱「おお、運の女神よ」でのどこか狂気を感じさせるテンポの持って行き方は凄い。またソリストであるプティボン、ブンツ、ゲアハーヘルたちの台詞のような歌い回しは何とも喜劇的で聴いて楽しい。このライヴは結構話題になる要素が多いのでは。 (廣兼 正明)

Classic DVD Review【管弦楽曲】

「シェーンブルン宮殿 夏の夜のコンサート2010/フランツ・ウェルザー=メスト指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、イエフィム・ブロンフマン(ピアノ)、ウィーン楽友協会合唱団」 (ユニバーサル ミュージック、ドイチェ・グラモフォン/UCBG-1287)
 シェーンブルン宮殿の庭園で毎年6月に行われるウィーン・フィル夏の夜の祭典である。今年は「月、惑星、星」をテーマとして、ウィーン・フィルとしては初演となるジョン・ウィリアムスの《スター・ウォーズ》の「メイン・タイトル」、「レイア姫のテーマ」、「帝国のマーチ」を初め、リストの《ピアノ協奏曲第2番》、ホルストの《惑星》からの「火星」、このテーマでは絶対に除くことが出来ないヨーゼフ・シュトラウスの《天体の音楽》など全12曲が収録されている。多くの市民が集うこのコンサートだが、会場が野外であることなど、演奏を論ずるのではなく、遠いウィーン・シェーンブルン宮殿の夏の夜の雰囲気をこのDVDから感じ取る事だけで十分であろう。《スター・ウォーズ》でのキュッヒルの、曲にそぐわない真面目なコンサートマスターぶりが何とも微笑ましい。 (廣兼 正明)

Classic DVD Review【協奏曲(ヴァイオリン、ピアノ)】

「ユリア・フィッシャー(ヴァイオリン&ピアノ)/サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番、グリーグ:ピアノ協奏曲/マティアス・ピンチャー指揮、ユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニー管弦楽団」 (ユニバーサル ミュージック、デッカ/UCBG-1287)
 ドイツの俊英ヴァイオリニスト、ユリア・フィッシャーが何とピアノでもプロフェッシュナルとしてデビューしたコンサートのライヴである。プロのヴァイオリストがピアニストとしてもプロ・デビューしたという例を筆者はまだ知らない。勿論、音大に入るためにはピアノの試験もあり、少なくてもある程度のソナタ位は弾ける必要があろう。だが、プロ・ピアニストとして舞台で協奏曲を弾くことは、二つの楽器の性格や機能を考えても不可能と言うのが常識である。もともとユリアはヴァイオリニストとしてデビューし、世界の一流オーケストラの多くと協演している才媛である。だからこのための練習を欠かすことは出来ない筈である。このDVDを視聴してみると最初のサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番は、流石に子供の時から慣れ親しんだ曲であり、確固とした彼女の音楽がそこにあることが分かる。しかし、グリーグのピアノ協奏曲の場合、確かに弾いてはいるのだが、当然の事ながら聴衆を音楽で感動させるまでには全く至っていない。まだ27歳の若さ、そしてあくまでメインはヴァイオリンである。ヴァイオリンという楽器は奥が深い。いくつになっても精進が必要な楽器である。手を壊す前にその危険があるピアノはほどほどにすべきでは。(廣兼 正明)

Classic CONCERT Review【オーケストラ】

「スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団」6月6日 ザ・シンフォニーホール
 指揮者のレオシュ・スワロフスキーは、オーケストラ曲でスメタナ交響詩「モルダウ」とドヴォルザーク交響曲第9番「新世界より」を聴かせた。チェコを代表する2人の大作曲家に対して、指揮者とオーケストラは心からの敬意とたぎるような情熱をこめて、向き合った。東欧の土壌に根ざした精神が、生き生きと再現されて、爽やかな清風がホールを吹き抜けた。山本貴志のベートーヴェンピアノ協奏曲第5番「皇帝」には熱気があふれている。精一杯の打鍵には気迫が感じられたが、もう少し抑制してもよかったと思う。(椨 泰幸)
(写真提供:ザ・シンフォニーホール)

Classic CONCERT Review【協奏曲(ピアノ)】

「ブルーノ=レオナルド・ゲルバー&京都市交響楽団」6月26日 びわ湖ホール(大津)
 ピアノ協奏曲の金字塔ともいえるベートーヴェンの全作品(5曲)のシリーズ演奏に着手したゲルバーは、関西では西宮に続いて大津に登場した。大津ではベートーヴェンの個性を明確に刻み込んだ第3番、第4番、第5番「皇帝」を大山平一郎の指揮で集中的に弾き、延べ2時間を超えるハードなプログラムをものともせずに、巨人の実像を見事に描き切った。中でも「皇帝」は圧巻で、ゲルバーは鍵盤にのしかかるようにして、精魂を傾けた。この作品にはピアニストに全力疾走を求める超人的エネルギーが秘められている。3番から4番、4番から5番へと、徐々に演奏者のヴォルテージが高まっていく様が肌身に感じられて、心地よかった。新進と大家の2人の演奏を聴き比べてあれこれ品定めする前に、ベートーヴェン音楽の偉大さを改めて痛感した。(椨 泰幸)
(写真提供:びわ湖ホール)

Classic CONCERT Review【オーケストラ】

「ベルリン交響楽団」7月11日 ザ・シンフォニーホール
 洋の東西を問わず、名指揮者と言われるほどの人は数多くいる。演奏にかけては抜群で、音だけで聴衆を圧倒する。だが、たっぷり名演を披露して、なおかつ合間には対話やジェスチュアを交えて会場をわかせる指揮者となると、10本の指に満たないほどである。ベルリン響を率いるリオール・シャンバタールは、まさに希少価値のある人間の筆頭であろう。演奏は滅法に上手く、ユーモアのセンスは抜群である。演奏のフィナーレを飾ったベートーヴェン「交響曲第7番」は切れ味がよく、音色を細部までくっきりと浮かび上がらせて、納得させた。そして、面白い仕草で聴衆のハートをわしづかみにする。フォン・オーエンのラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」は若々しさを前面に出し、指揮者もその魅力をうまく引き出していた。(椨 泰幸)
(写真提供:ザ・シンフォニーホール)

Classic CONCERT Review【声楽】

「横山恵子/二期会ゴールデンコンサートin津田ホール」7月26日、津田ホール
 横山恵子の歌は「ディーヴァ」そのもの。ドイツ・リートでは、シューマン「ミルテの花」、ワーグナー「ヴェーゼンドンク歌曲集」の、グッと抑えた中に秘めた熱い思いの表現もさることながら、ヨーゼフ・マルクス「愛がおまえの心に宿ったなら」では、力のこもった類いまれな歌唱を聴かせた。後半はイタリア・オペラ、「ノルマ」「アイーダ」「マノン・レスコー」「トゥーランドット」からアリアを並べた。ノルマの情熱的な表現、アイーダの深い思い、マノンの激しい悲しみ、そしてトゥーランドットの強固な意志をじっくりと表現する。横山のクレッシェンドする声は他に代え難い。(宮沢 昭男)

Classic INFORMATION【オペラ】

「ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》」
 びわ湖ホールでは愛の極致を描いたワーグナーの大作を芸術監督沼尻竜典の指揮で上演する。トリスタンは米国出身のジョン・ピアース、イゾルデにはドイツで活躍する小山由美を起用する。ドイツのケムニッツ歌劇場の協力をえて制作、同歌劇場オペラ監督のミヒャエル・ハイニケが演出を担当する。管弦楽は大阪センチュリー交響楽団、合唱はびわ湖ホール声楽アンサンブル、東京オペラシンガーズ。沼尻は「ピアースは屈指のヘルデン・テノール。小山もワーグナーオペラの本場バイロイトに出演して、国際的なキャリアを積んでいる。ハイニケは経験豊富で、最高の舞台をみせてくれる」と抱負を語っている。(T)
日時 10月10日、16日いずれも午後2時
会場 びわ湖ホール(大津)
お問い合わせ先 077−523−7136 http://www.biwako-hall.or.jp/