2009年7月 

 
Popular ALBUM Review

「LIVE 1969/サイモン&ガーファンクル」
(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP2249)

 ファンの間で待ち望まれていたライヴ盤『1969』!サイモン&ガーファンクルの69年といえば、名作『明日に架ける橋』を完成させたところ。全米ツアーの中からベスト6都市のステージを収めている。すでに不仲説が囁かれていたが、彼らがキャリアのピークにいたことは確かだ。事実アートは看板となる最高に美しい歌声を聞かせているし、ポールの繊細で力強いギター、絶妙のハーモニーも聴ける。彼らのライヴ・アルバムは『ライヴ・フロム・ニューヨーク・シティ 1967』、再結成での81年、03年なども有名だが、現役時代は二人だけのステージだったのに比べて、『1969』はラリー・ネクテル(p)はじめ『明日に架ける橋』のバック・バンドと共に、アクースティック/エリクトリック両面でのサウンドで、ピーク時のS&Gの魅力をくっきりと浮き彫りにする。「サウンド・オブ・サイレンス」はアクースティック・ヴァージョンで自信に満ちた好唱。新曲「明日に架ける橋」をしーんとした状況で聴き入るのも面白い。勿論、終わった途端に大拍手だ。尚、S&Gは7月来日。各地のドーム公演に加え、15日の日本武道館が追加された。(鈴木 道子)

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「素顔のローラ/ローラ・イジボア」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13470)
 強烈。アリシア・キーズ+メアリーJブライジ、ローリン・ヒル、ジル・スコット、それにジョス・ストーン、エイミー・ワインハウス風味の果実を全部足してジューサーにかけてでてきたものすごくおいしいジュースという感じの新人がデビューする。その名はローラ・イジボア。全11曲収録のデビュー本作。声もいいし、曲調も昔のソウルから21世紀のR&Bまでをうまく縦断して自分のものにしていて、聴きやすい。6曲目の「パーフェクト・ワールド」は、アリシアにもジェームス・ブラウンを元に作った曲があったように、これもまたジェームス・ブラウン作品(「マンズ・ワールド」)をベースに作ったような感じのもの。「シャイン」はどこか60年代風、エイミー風。ピアノの弾き語りはアリシア風。「フロム・マイ・ハート・トゥ・ユアーズ」は、ヒップホップの要素もある初期メアリー・Jブライジ風。来年のグラミーでのノミネーションが期待される。(吉岡 正晴)


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「レンカ/レンカ」(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/EICP-1230)
 日本ではアメリカよりも約1年遅れてようやくリリースとなったオーストラリア出身のキュートな女性シンガー/ソングライター。昨秋公開の学園ラヴ・コメ映画『ジョージアの日記』(おもしろかわいい!)のサントラ曲「ショウ」を冒頭に全16曲(日本盤ボーナス5曲)。リリー・アレンを思わせるような雰囲気もあるがレンカの場合は世代を超えて共感されるようなメロディーの流れが特に心地好く、昨年から輸入盤で評判になっていたのも納得出来る内容。影響を受けたビートルズ、バカラック、ビョークの‘3B’がレンカのキイワード。ケイト・ブランシェットに指導を受け地元で女優になるもバンド活動を経て2年前にL.A.へ移住、ソロ・デビューを果たした彼女の父親はジャズ・ミュージシャンとか。(上柴 とおる)

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「サニー・サイド・アップ/パオロ・ヌティーニ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13510)

 とても20代のイケメン風男子が歌っているとは思えない。筆者が一番気に入った2曲目「カミング・アップ・イージー」なんて曲調、節回し(?)などまるでオーティス・レディングの「ドック・オブ・ザ・ベイ」かと(エンディングあたりは「トライ・ア・リトル・テンダネス」!?)。7曲目も1960年代のR&Bバラード風だが、かといってブルー・アイド・ソウルを標榜するわけでもなく、スコットランド出身の青年シンガー/ソングライターの持ち味は‘スモーキー・ヴォイス’(レコード会社のキャッチ・フレーズ)を生かした表情豊かな楽曲の数々で、シングル曲「キャンディ」は小気味良いビートを効かせたアコースティック作品。2年ぶりの新作。所属はかのAtlantic♪(上柴 とおる)

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「Pleasure Pleasure/Sawada Kenji」(ココロ・コーポレーション/COLO-0906)
 ジュリーのスタジオ録音ソロ・アルバムとしては通算47作目(!)にあたる本作はミニ・アルバム(御本人曰く“6曲入り満タンCDシングル”)仕様。ジュリーとプロデューサーの白井良明、それに現在のバンド・メンバー4人が各々一作を提供するという趣向で、昔からバンド志向の強かったジュリーらしいコンセプトと言えるだろう。音作りもタイトなバンド・サウンドを全面に打ち出して、メンバー各自の存在感・個性も伺える。ソロ・シンガーのアルバムというよりも、ロック・バンドのそれに近い趣だ。エッジの効いたロック・ナンバーから情感あふれるバラードまで、還暦過ぎて衰えるどころか、さらに輝きを増しているあの艶やかな声で歌われると、メッセージにも説得力が倍増。まさにジュリーの自信と誇りに満ちた1枚である。(中村 俊夫)

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「フォー・ダイナ/チャイナ・モーゼス」(EMIミュージック・ジャパン/TOCJ-66515)
 チャイナは有名ジャズ歌手ディー・ディー・ブリッジウォーターの娘。パリに住んでいるが、先日ブルー・ノート70周年を記念した日本でのプロモーション・ライヴに来日して歌った。小柄だが、歌はパンチがあり、今回のアルバムは尊敬するダイナ・ワシントンに捧げられている。母親と違って、陽気で、はしゃぎまくるなんとも元気のいい新人歌手だ。まだ荒けずりだが、素質があり、もう少していねいに歌えば、説得力が増すだろう。最高のブルース歌手だった故ダイナが得意にした「イーヴル・ギャル・ブルース」やチャイナと伴奏ピアニスト、ラファエル・ルモニエルが共作した「ダイナス・ブルース」などブルースにはすぐれた才能が感じられる。ほかに「縁は異なもの」「恋人よ我に帰れ」「ティーチ・ミー・トゥナイト」などスタンダードを歌っている。(岩浪 洋三)
 チャイナ・モーゼスと聞いて、ジャズ界にまた新人歌手が現れたのかと思ったら、彼女はディー・ディー・ブリッジウォーターの娘で90年代からソウル・シンガーとして活躍、アルバムも何枚か発表している人だった。彼女がフランスのジャズ・ピアニスト、ラファエル・ルモニエと組んで行ったダイナ・ワシントンに捧げるミュージカル・ショウ『ガーディニアス・フォー・ダイナ』が好評だった。そこから本作、ブルー・ノート録音のダイナ・ワシントンに捧げる作品集が生まれたのだ。ダイナに因んだ曲を喉から絞り出すような声で熱唱する。ダイナの歌と聞き比べるのは酷だが、残念ながら全般的に歌が平板で深みに欠け、今ひとつ惹きつけられるものが感じられない。(高田 敬三)

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「バターカップ・ビューグル/ローリー・カレン」(ネイチャー・ブリス/NBCD002)
 ローリー・カレンはカナダ・トロントのジャズ・シーンで活躍する自作自演歌手。キャリア10年のヴェテランだが、近年国際的に注目されだした。92年から曲を書き始め、2000年にフォーク界からCDデビューし、各種フォーク/ジャズ祭に出演。07年録音の本作で本邦デビューとなった。スモーキーな声は暖かく、スマートな音楽性を持つ。カナダではリッキーリー・ジョーンズ、ジョニ・ミッチェル、ジェーン・シベリーに通じると評されている。異才クリス・デドリックの全面協力による共同プロデュースで、全編に配されたトゥルー・ノース・ブラス5重奏団の円やかな響きがどこかノスタルジックで特別な雰囲気をかもし出す。軽くバウンスする「ボックス・オブ・シングズ」はじめ8曲が自作。4曲はカヴァー。ゴードン・ライトフットの「ビューティフル」もジャズにして軽やか。魅力的なジャズ・シンガーの登場だ。(鈴木 道子)

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「ターン・ミー・ルース/イーデン・アトウッド」(SSJ/XQAM1512
  1990年代のコンコード・レーベルのアルバムや96年に富士通コンコード・ジャズ・フェスティバルで来日した時のイーデン・アトウッドの歌は、あまり印象は残らないものだった。その後、どのような経緯か、インドネシアやシンガポールでアルバムを発表していて本場アメリカでは売れなくなったのかな、などと考えていたが、今回の作品を聞いてそれまで抱いていた彼女の歌に対するイメージがすっかり変わった。声は、以前より太く低くなり、魂がこもった歌は、聞き手に強く訴えてくる。両親の離婚、父親の自殺、肉体が完全に女性ではないアンドロゲン不応症であったという事実の発見、歌手にとっては重大な喉の手術等など多くの困難を乗り越えてきた経験が彼女をシンガーとして大きく成長させたのだろう。彼女は、ジミー・スコットの歌に深く感じるものがある、と言っていたというが、彼の歌に相通ずるような感動をあたえる作品だ。(高田 敬三)

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「LIVELY/安井さち子トリオ」(ポニーキャニオン/MYCJ-30549)
 いまもっとも旬を迎えているピアニスト、安井さち子の5枚目の新作。いつもきらきらと輝くシャープでスマートなプレーをみせてくれるが、今回はそれに余裕も加わり、大人の、おおらかでゆったりした表現もみられるようになり、さらに一歩前進したといえる。そんな一曲がキャロル・キングの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」であり、スタンダードの「テンダリー」だ。また、彼女の場合、いつもオリジナルがすばらしいが、今回も「ナイト・ライド」「アップ・ジャンプト・スプリング」「リトル・ラブ」など5曲のすぐれたオリジナル曲を聴かせてくれる。佐藤正(b)、ジーン重村(ds)との呼吸もぴったりで、ピアノ・トリオ・ファンには見逃せないアルバムといえるだろう。(岩浪 洋三)

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「Prelude To A Kiss〜キスへのプレリュード〜/マリア・エヴァ」
(Gift Records/KHMN1002)

 ジャズ・クラブの雰囲気をそのままパッケージにしてくれたような作品だ。スタジオ録音だが、観客ひとりひとりに語りかけるがごとく、また大勢の前で熱唱するかのごときライヴ感を演出できるのはマリア・エヴァの天性だろう。「Black Coffee」に始まり「You Must Believe In Spring」にいたる13曲中12曲は、彼女自身の選曲によるスタンダード・ナンバー集、≪マイ・フェイバリット・ソングブック≫といったところだろうか。一曲一曲が丁寧に、伸びやかに歌われる。「Midnight Sun」「Prelude To A Kiss」にその真骨頂がある。(三塚 博)

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CD

DVD


Blu-ray
「Neil Young Archives- Vol.1(1963-1972)」*輸入盤
(Reprise/2-175292)CD (Reprise/2-511812)DVD (Reprise/2-476732)Blu-ray
 「ついに」である。何年も前に計画が明らかになり、噂だけが先行していたニール・ヤング「究極」のアンソロジー・ボックス・セットが、ついにリリースされた。待ちつづけているうち、あちらの世界に旅立ってしまったという人も少なくないだろう。冗談はともかく、整理しておくと、このセットには3つのタイプが用意されている。CD8枚組、DVD10枚組、ブルーレイ10枚組の3つだ。カヴァーされているのは、カナダ時代から72年まで。長いキャリアの原点となったスクワイアーズ、バッファロー・スプリングフィールド、デビュー作から『ハーヴェスト』までのソロ作品、そしてCSN&Y。ほぼ7年の歳月が、大量の未発表テイクや別テイク、ライヴ音源とともに、充分に練り上げられた流れで、スリリングに描かれている。とりわけ興味を喚起させられたのは、やはりバッファロー以前の音。のちに作品化される名曲の原型をいくつも聴きとることができるはずだ。DVD版とブルーレイ版は、基本的には同内容。かねてから熱心にDVDオーディオに取り組んできたニールの強いこだわりや遊びが随所から感じられる仕上がりだ(ブルーレイ版は、当然のことながら、フォト・ギャラリーを含めた映像要素の解像度がぐっと高くなっている)。「便利で安価な通販」などで入手しては失礼かと思い、入荷日、渋谷の某店で手に入れた。縦横約20センチ、高さ30センチ。重さは2キロ以上あるだろうか。若い店員さんが、袋に入れるのに苦労していた。近くのコーヒー・ショップで236頁のブックレットを読んでから仕事場に戻り、まずDVD/ブルーレイ版の10枚目に収められている『ジャーニー・スルー・ザ・パスト/過去への旅路』を観た。きちんと観るのは、もちろん、これかはじめて。「生きててよかった」である。でも、純粋な映像作品として観た場合、公開当時に酷評されたのも、しかたのないことだったのかなと思ったりもした。(大友 博)

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「アット・フォルサム・プリズン・レガシー・エディション/ジョニー・キャッシュ」
(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP2201〜3)
 2003年に他界したカントリーの大御所ジョニー・キャッシュが、1968年に麻薬から再起を期して行ったフォルサム刑務所での歴史的な公演を、未発表を含むフル・ヴァージョンで収めた特別盤。フォーク/カントリーの交じり合ったドスの利いた声で歌うクライム・ソングの数々には、彼の人柄と真実が溢れ、囚人たちの熱狂ぶりにもその価値が伺える。加えて新たに製作された2時間を超えるドキュメンタリー映像が見応えがある。当時の写真を駆使し、コンサート風景は勿論、フォルサムの歴史、それにか関わる人々の証言、キャッシュが救い上げて囚人から人気歌手となった人の生涯や、キャッシュの人となりが浮き彫りにされ,熱い感動がこみ上げる。(鈴木 道子)

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「ダーティ・ワーク」(ユニバーサル ミュージック/UICY-91488)
「スティール・ホイールズ」(ユニバーサル ミュージック/UICY-91489)
「ヴードゥー・ラウンジ」(ユニバーサル ミュージック/UICY-91490)
「ブリッジズ・トゥ・バビロン」(ユニバーサル ミュージック/UICY-91491)
「ア・ビガー・バン」(ユニバーサル ミュージック/UICY-91492)

 ローリング・ストーンズ・レコードの発売権がユニバーサルミュージック・グループに移行したのにともない、1970年代以降のRSレコードの作品が改めてファンの前に・・。我が国においては、RSR作品集として初となるSHM-CDでの発売。6月24日にリリースされた第一弾続き、7月15日に第二弾として5タイトルが登場する(ストーンズ初の2枚組ニュー・スタジオ・レコーディング・アルバム/LP、72年作品『メイン・ストリートのならず者』は、年内に拡張版で登場するとのことで、今回のシリーズには含まれていない)。1980年代中期、ミック・ジャガーのソロ活動先行の中でミック&キース・リチャーズのザ・グリマー・トゥインズが反目、ストーンズ解散説がマスコミを賑わした。その時期、86年の『ダーティ・ワーク』はジャケットからもキース作品集として知られる。そのアルバムをひっさげてキースはストーンズのツアーを行いたかったがミックが了承しなかった。そのすぐあとに、キースもソロ・アルバム/ツアー。そんなふたりが89年に和解、『スティール・ホイールズ』ツアーが同年から翌年にかけて開催され世界中から大きな注目を集めた。90年には日本で初のコンサート、東京ドーム10公演が実現したのだ。80年代から今日まで、ストーンズはスティール・ツアーを基本としたライヴの形体を推し進めながら数年毎に新作を発表しながら世界最強ロックンロール・バンドとしてころがり続けている。94年の『ヴードゥー・ラウンジ』、97年の『ブリッジズ・トゥ・バビロン』、そして最新スタジオ・レコーディング・アルバムとなるのが05年の『ア・ビガー・バン』である。(Mike M. Koshitani)


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「スモール・フェイセス/スモール・フェイセス+21」
(ビクターエンタテインメント/VICP-70107)
「スモール・フェイセス/オグデンズ・ナット・ゴーン・フレイク+12」
(ビクターエンタテインメント/VICP-70108)
「スモール・フェイセス/オータム・ストーン+1」
(ビクターエンタテインメント/VICP-70109)
「スモール・フェイセス/イン・メモリアム+15」
(ビクターエンタテインメント/VICP-70110)
「スモール・フェイセス/ゼア・アー・バット・フォー・スモール・フェイセス+15」
(ビクターエンタテインメント/VICP-70111)
「ハンブル・パイ/アズ・セイフ・アズ・イエスタデイ・イズ+5」
(ビクターエンタテインメント/VICP-70112)
「ハンブル・パイ/タウン・アンド・カントリー+5」
(ビクターエンタテインメント/VICP-70113)
「エーメン・コーナー/フェアウェル・トゥ・ザ・リアル・マグニフィセント・セヴン+8」
(ビクターエンタテインメント/VICP-70114)
「エーメン・コーナー/ナショナル・ウェルシュ・コースト・ライヴ・エクスプロージョン・カンパニー+7」
(ビクターエンタテインメント/VICP-70115)
「ビリー・ニコルス/ウッド・ユー・ビリーヴ+2」
(ビクターエンタテインメント/VICP-70116)

 ローリング・ストーンズの初期マネージャーとして知られるアンドリュー・オールダムが、盟友トニー・カルダーと1965年に設立したイミディエイト・レコードこそは、活動期間こそ5年弱と短かったものの、ブリティッシュ・ロックの歴史を語る上でも、アイランドと並ぶくらいに重要な役割を果たしたインディペンデント・レーベルの一つだ。そんなイミディエイト音源の日本での配給権を2000年以降有するビクターから、このたびスモール・フェイセスをはじめとするオリジナル・アルバム10タイトルが、新規ボーナス・トラックなどを追加する形で新装版として、SHM-CDおよび原盤に忠実な紙ジャケット仕様にて再発された。
 まずは、イミディエイトの象徴的存在でもあったスモール・フェイセス。「オール・オア・ナッシング」(66年)の全英No.1ヒットを放ち、またモッズ族のアイドルとしても当時ザ・フーと人気を二分する勢いだった彼らが、よりアーティスティックな方向性を目指すべく英デッカより移籍、イミディエイトよりリリースしたのが『スモール・フェイセス』(67年/英12位)だ。ちょうど時代もモッズからサイケへとシフトしつつあった頃の作品であるだけに、モッズの精神性はそのままに、サイケ、さらにはフォーク、トラッド、カリプソ、戦前のミュージック・ホールやキャバレー音楽にいたるまで雑多な要素が織り交ぜられた佳作に仕上げられている。スティーヴ・マリオット、ロニー・レインそれぞれの音楽的な成長も確認することが出来る一枚であり、今回は、アルバムのステレオ、モノそれぞれのヴァージョンに加え、サンプラー・シングルなど超貴重なトラックも追加収録。68年に発表されるや英アルバム・チャ−トの首位に輝いた『オグデン〜』は、現在でもザ・フーの『トミー』やキンクスの『アーサー』などと並び賞される、いわゆるブリティッシュ・ロック産コンセプト・アルバムの金字塔的作品。こちらはステレオとモノの2イン1。タバコ缶をあしらった円形のファンタジックなジャケットはいつ見ても美しい。続く『オータム・ストーン』(69年)はマリオットが脱退、バンドそのものがハンブル・パイとフェイセズに分裂した後、倒産直前のイミディエイトからリリースされたベスト盤。「レイジー・サンデー」(英2位)や「イチクー・パーク」(英3位)といった同レーベルでの大ヒット曲はもちろん、デッカ時代のヒット曲、さらには未発表曲やライヴなども収録されており、バンドの全体像を掴む上では最適な一枚といえるだろう。『イン・メモリアム』(69年)は、マリオット脱退直後に西ドイツ、英国のみでリリースされた編集盤。本編はライヴおよび未発表曲からなるが、ボーナスとしてイミディエイト時代の全シングル両面などをモノ・ミックスにて追加。一方、『ゼア・アー・バット〜』(68年)はアメリカで発売されたアルバム。『スモール・フェイセス』をベースにしてはいるものの、アメリオカでのヒット曲が収められていること、さらには美麗なジャケットもあって、ファンには人気の高い作品である。今回の目玉といえば「ヒア・カムズ・ザ・ナイス」(英12位)のUSモノ・シングル・ミックスが世界初CD化されたことだろうか。
 スモール・フェイセス脱退後のマリオットが、元ハードのピーター・フランプトンに合流する形で生まれたバンドがハンブル・パイである。そのデビュー・アルバム『アズ・セイフ・アズ〜』(69年/英32位)とセカンド『タウン・アンド・カントリー』(69年)も、新規ボーナスを加える形で再発された。ともにサイケ、R&Bからジャジーでフォーキーなナンバーまで、ごった煮の状態であるとして当時は酷評する音楽誌もあったようだが、このブライトかつナチュラルなテイストは現在の耳で聴いたほうが、よりしっくり来る。その3年後に全米制覇を果たすことになる彼らの、記念すべきファースト・ステップといえよう。
 現在では、エリック・クラプトンやロジャー・ウォーターズの参謀格的セカンド・ギタリストとしてすっかりお馴染みになったアンディ・フェアウェザー=ロウが、シンガーとして率いていたのがエーメン・コーナーだ。彼らもまた“移籍組”なわけだが、その第一弾として発売されたのがライヴ盤『ナショナル・ウェルシュ・コースト・ライヴ〜』(69年/英19位)。とにかく女性ファンの嬌声が凄まじく、実力派でありながらもルックスの良さゆえにティニーボッパー・アイドルとしてのギャップに悩んでいたという当時の彼らの苦悩も垣間見られるようだ。『フェアウェル・トゥ〜』(69年)はスタジオ録音盤で、全英No.1ヒット「ハーフ・アズ・ナイス」などのシングルをすべて収録。スタックス・サウンドとブリティッシュ・ビート・ポップの融合を目指してスタートしたという彼らの最高の瞬間を捉えた一枚である。なお、このバンドには、アンディ以外にも、ブルー・ウィーヴァーやデニス・バイロンなど、のちにストローブスやビー・ジーズで大活躍することになる凄腕ミュージシャンも在籍していた。
 最後のビリー・ニコルスの68年の作品『ウッド・ユー・ビリーヴ』は、ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』に対する英国からの回答、とも評されるアルバム。10数年前の我が国でのソフト・ロック・ブームの際にも、高く再評価されるに至った作品であり、スモール・フェイセスやジョン・ポール・ジョーンズらのサポートのもと、流麗で最高の域に近いブリティッシュ・ポップ聴かせてくれる。(小松崎 健郎)


Popular ALBUM Review

「ラ・カージュ・オ・フォール /ハイライト・ライヴ盤」
(東宝ミュージック/TOHO-M-0905)

 ジェリー・ハーマンのお馴染みミュージカル。今年1月23&24日、大阪シアター・ドラマシティ公演を録音したライヴ盤で、この作品の日本語版CD化は初めて。加賀丈史、市村正親、今井清隆、島谷ひとみ、山崎育三郎、香寿たつき、真島茂樹、新納慎也、森公美子、林アキラ、他の出演。収録曲は「ありのままの私たち」「アンヌと腕を」「砂に刻む歌」「ラ・カージュ・オ・フォール」「男のレッスン」他、愉しいナンバー全18曲。ミュージカル・ファン必聴、必携の1枚。(川上 博)


Popular ALBUM Review

「RUDOLF -AFFAIRE MAYERLING- CAST ALBUM WIEN」(Hit Squad 668298) *輸入盤
 「ジキル&ハイド」「スカーレット・ピンパーネル」等のヒット・メーカー、フランク・ワイルドホーン作曲の「ルドルフ」が、ブダペスト(2006)、東京 (2008)に続いて、去る2月26日からウィーンのライムント劇場で上演されている。ドリュー・サリッヒ、リサ・アントーニ、ウーヴェ・クレーガー等により、ドイツ語で歌われるこの初演キャスト盤は、「ルドルフ」の世界で初めてのアルバム発売となった。輸入盤が山野楽器、宝塚アンほかで入手可能。(川上 博)


Popular ALBUM Review

「NOEL COWARD'S "BITTER SWEET" SELECTIONS」
(SEPIA Records /SEPIA 1130)  *輸入盤

 ノエル・カワードの作品中、最も有名な「ビター・スイート」(1929) ロンドン初演の時の録音から、ニューヨーク・キャスト、パリ・キャスト、1958年の初ステレオ録音まで集めた豪華盤。出演はペギー・ウッド、イヴリン・レイ、ヴァネッサ・リー、ジェーン・マーナク、他。「アイル・シー・ユー・アゲイン」「キス・ミー」「ツィゴイネル」「ディア・リトル・カフェ」等、全23トラック。最後の締めはノエル・カワード自身の唄で「アイル・シー・ユー・アゲイン」。CEDAR 24ビット・マスタリングにより、全編きれいな音でまとまっていて聴きやすく、楽しい。(川上 博)


Popular DVD/Blu-ray Review

Blu-ray


DVD



Blu-ray


DVD

「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト コレクターズBOX」
(ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント/GNXF-7008)*Blu-ray
(ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント/GNBF-7546)*DVD
「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト デラックス版」
(ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント/GNXF-7007)*Blu-ray
(ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント/GNBF-7545)*DVD

 我が国でも昨年から今年にかけて映画公開されたマーティン・スコセッシ監督『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』がいよいよDVD/Blu-rayでファンの前に登場だ。世界中をかけめぐったザ・ローリング・ストーンズのア・ビガー・バン・ツアーから2006年秋のニューヨーク/ビーコン・シアターでのまさに手に汗を握るエキサイティングでドラマティックな世界最強ロックンロール・バンドのライヴをじっくりと味あわせてくれる力作なのだ。数多いストーンズのライヴ映像の中でもトップ・レベルの作品といえる。コンサート準備に忙しいミック・ジャガー、そのミックといろいろやりあうスコセッシ、そしてリハーサル・シーンなど前半からRSフリークの心を躍らせる。そしてライヴがスタート、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」から始まり次々に名作、マニアックなナンバー、懐かしの作品、ベスト・セラー、ライヴ定番曲が・・・、キースのリード・ヴォーカル・パートもたまらない。ジャック・ホワイト、クリスティーナ・アギレラらのゲストもジョイント。圧巻はブルース界の重鎮、バディ・ガイとの「シャンペン・アンド・リーファー」だ。故マディ・ウォーターズのカヴァーだ。グループ結成から半世紀近く経つ、ライヴ・バンドとしての生き様をひたすら走り続けるストーンズの魂がこの『シャイン・ア・ライト』に籠められているのだ。ザ・ローリング・ストーンズ、その活動は♪まだまだ、続くヨ!♪。(Mike M/ Koshitani)


Popular DVD/Blu-ray Review

「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー  デジタル・リマスター版」
(ジェネオン・ユニバーサル・エンタテイメント/GNBF-7547)

 1981年9〜12月、ザ・ローリング・ストーンズはアルバム『刺青の男』をひっさげて≪THE ROLLING STONES AMERICAN TOUR‘81≫を敢行。その模様をハル・アシュビー監督が映像に収めた、それが本作だ。11月5日、6日のニュージャージー州イースト・ラザフォード/ブレンダン・バーン・アリーナ、12月13日アリゾナ州テンペ/サン・デヴィル・スタジアムでのライヴを纏めてある。我が国でも83年6月に映画公開された。ミック・ジャガーがアメリカン・フットボール・プレーヤー・スタイルでパフォーマンス、特にスタジアムでのカラフルでそれまでのグループのイメージを一新したそのステージ・セットも大きな話題を呼んだ。ここでもお馴染みのナンバーからマニアックな選曲、そしてカヴァーとストーンズのライヴ・バンドとしての姿がみごとに記録されているのだ。エディ・コクランの「トゥエンティ・フライト・ロック」はこのツアーで初登場し、ライヴ・アルバム『スティル・ライフ(アメリカン・コンサート’81)』にも収録された。今回、デジタル・リマスター版で改めてファンの前に登場したことは、往年のフリークはもちろんだが、40歳代前半以下の若いストーンズ信仰者から特に話題になっている。今度はBlu-ray版を期待する。(Mike M. Koshitani)


Popular BOOK Review

「俺と仲間 ロン・ウッド自伝/ロン・ウッド著 五十嵐正・訳」
(シンコーミュージック・エンタテイメント)

 1960年代からブリテッシュ・ロック・シーンで活動、70年代前半から中期までのフェイセズのメンバーとしてその名を知られるようになったロニー・ウッド(ロン)、彼は75年のザ・ローリング・ストーンズのアメリカ・ツアーのサポーティング・ギタリストを務め、翌76年からはグループのメンバーとして迎えられる。そのロニーの波乱万丈に満ちた自伝が遂に邦訳された。音楽一家に育ち、絵画の才能にも長けている彼の60年の人生が正直に語られているのだ。英国音楽界の大きな流れが内側からしっかりと捉えられているし、何よりストーンズの30年余りのインサイド・ストーリーがファンにはたまらないだろう。ストーンズ・フリークにとってはもちろん必読書だが、多くの音楽愛好者にもじっくりと読んで欲しい。(Mike M. Koshitani)


Popular BOOK Review

「マーヴィン・ゲイ物語‘引き裂かれたソウル’/デヴィッド・リッツ著 吉岡正晴・訳」
(ブルース・インターアクションズ)

 レイ・チャールズやアレサ・フランクリン等R&Bの大御所の伝記本を数多く手がけるデヴィッド・リッツが近しい間柄であった故マーヴィン・ゲイの生涯を入念な取材を基に描き出した入魂の書(初版:1985年)が著者とも親交のある吉岡正晴さんの実直な訳でついに本邦初登場となった。幼い頃から確執があった実父に射殺されるという数奇な運命を辿ったマーヴィンが山あり谷ありの歌手人生の大半を過ごした‘モータウン’の生々しい(そして興味深い)サイド・ストーリーでもあるのは言うまでもないが(総帥ベリー・ゴーディ・Jr.へのマーヴィンの微妙な感情も含めて)、新進4人組オリジナルズ(当方もフェイヴァリット♪)の制作を契機にクリエイターとして音楽的に新たに目覚める経緯やあの「ホワッツ・ゴーイン・オン」誕生に実弟のフランキー・ゲイが貢献していたことなど個人的にも興味深い事柄の連続でどんどんページを繰ってしまう。生誕70周年&没後25周年という節目に日本版が刊行となったが、私生活面でのさまざまな葛藤など人間的な弱さの部分にも真正面から対峙しマーヴィン・ゲイという不世出なスーパー・スターの素顔に愛情と畏敬の念を持って迫った真摯な1冊である。(上柴 とおる)

 マーヴィン・ゲイ生誕70周年&没後25年周年の本年に日本発行された本書。著者はマーヴィンと親交の深い、彼の大ヒット曲「セクシュアル・ヒーリング」作詞者でもあるデヴィッド・リッツ。彼がマーヴィンの遺族、側近者に長年の歳月を費やしたインタビュー取材と自身のマーヴィンとの回顧録を中心に書いたMG伝記。名曲誕生秘話、離婚問題、父との確執、ドラッグ。著者の憶測的な箇所は疑問部分もあるが、丹念に調べ積み重ねたマーヴィンの真実は実に興味深い。特に後半、父の凶弾で倒れるまでの迫真の過程は、まるでサスペンス映画のように興奮してしまった。吉岡正晴氏の24年越しの翻訳文にもソウルが迸る。(松本 みつぐ)


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「UKジャズ・ダンス・ヒストリー/マーク“スノウボーイ”コットグローヴ著 杉田宏樹・訳 直井晴樹・監修」(K&Bパブリッシャーズ)
 DJとして70年代からUKジャズ・ダンス・シーンを牽引、スノウボーイ名義で自らアーティストとしてアシッド・ジャズ・シーンを席巻。さらにラテン・パーカッショニスト、音楽ジャーナリストとしてもマルチに活躍するマーク・コットグローヴが10年以上の歳月を費やして取材し書下ろした本作。多くのDJ、ダンサー、アーティスト、レーベル・オーナーなど現場に直接携わった人々に対する彼のインタビュー&彼等の証言は、とても生々しい。それ故、ダンスフロアを彩った音楽、ダンス、ファッションなどのUKカルチャーが躍動的に描写されているす。ディスコDJの私には、かなり興味深い。是非、DVDなど本作の映像企画に期待したい!(松本 みつぐ)


Popular BOOK Review

「ハード・バップ大学 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの天才養成講座/アラン・ゴールドシャー著 川嶋文丸・訳」(ブルース・インターアクションズ)
 アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの全貌を去来した主要メンバーを通して解き明かそうとした本であり、視点はユニークだ。たしかに作・編曲が得意ではなかったブレイキーにとっては、メンバーこそが頼りであり、名手がいた時に演奏は充実したものとなった。ホレス・シルヴァー、べニー・ゴルソン、リー・モーガン、ウェイン・ショーター、フレディ・ハバード、カーティス・フラー、ハンク・モーブリー、シダー・ウォルトンらが果たした役割と活躍ぶりが論じられている。ただ、日本人ベーシストの鈴木良雄についての記述が抜けている。著者自身もいっているが、少々アマチュア的な、あるいは一ファン的な書き方に少々物足りなさを感じる。川嶋文丸氏の訳文はわかりやすく、読みやすい名文だと思う。(岩浪 洋三)


Popular CONCERT Review

「Perfume ディスコ!ディスコ!ディスコ!」 5月9日 代々木第一体育館
 この日をどれほど待ち望んだことか。08年11月の武道館公演から半年ぶりのPerfume単独ライヴである。僕はテレビもラジオもウェブも紙媒体も可能な限り追っているが、音楽ユニットとしての彼女たちの凄み、生々しさを味わうのであれば実演に勝るものはない。あの広い場所を、たった3人で(Perfumeはバック・バンドも、別のダンサーも起用しないのである)、歌い、踊り、動きまわり、溢れんばかりのグルーヴで満たしてしまうさまは、じつにマジカルだ。僕は開演前、自分の場所とステージが遠いなあと思った。が、どうだろう。彼女たちが出てくると、距離感が飛ぶ。同じ空間にいる喜び、いれる幸せがこみあげてくる。会場で、“ああ、俺の魂はPerfumeの音楽で揺れている”と100回は思った。それは客席を埋め尽くした1万2千人の誰もが同じであろう。音響の良くないことで知られる代々木第一体育館にしてはPAも上等だった。7月発売のニュー・アルバムが、さらにさらに楽しみになってきた。(原田 和典)


Popular CONCERT Review

「アカシモモカ」 5月16日 池袋/すずんごや
 アカシモモカは1999年に“くじら”のメンバー、キオトのプロデュースでCDデビューしたシンガー・ソングライター。2007年からは故郷の大分を拠点に活動している。『コスモポリタン・パレード』発表記念ツアーの一環である本ライヴは、久しぶりの東京公演にあたる。同作でプロデュースを務めた三沢洋紀(LETTER、ゆふいんの森など)を含むバンド“ポリタンズ”をバックに、キーボードの弾き語りだけではなく、スタンド・マイクを使った振り付け入りのパフォーマンスも交えつつ、アルバム収録曲をたっぷり楽しませてくれた。フレンチ・ポップス風、カントリー風など楽想はさまざまだが、どことなく醤油のにおいが漂う。そこに親しみを感じるのは僕だけではないだろう。三沢のギターやタブラも冴えていた。(原田 和典)


Popular CONCERT Review

「マデリン・ペルー」 5月19日 BLUE NOTE TOKYO
 ふとアルバムに耳を傾けて以来、心の中に住み着いてしまったマデリン・ペルーの歌声。最近はジャズ・シンガーというよりシンガー/ソングライターとしての側面を強く打ち出しているが、この日はオリジナル・ナンバーに加え、傾倒しているベッシー・スミスからレナード・コーエン、セルジュ・ゲンスブールまで、旧作からのカヴァー曲も披露。ややハスキーがかった暖かみのある声で、ノスタルジーの香りを漂わせながら、ブルージーでしなやかなヴォーカルを聞かせてくれた。その歌声が放つまったりとした心地良さからは、懐古趣味には終わらない今ならではの主張と強い信念もうかがえる。ミッド・テンポのリズムを主体としたバックの演奏も彼女に寄り添い、会場を終始リラックスした良いムードに包んでいた。(滝上 よう子)
写真:佐藤拓央


Popular CONCERT Review

「JAPAN BLUES & SOUL CARNIVAL 2009」ロバート・クレイ 5月24日 日比谷野外音楽堂
 10数年ぶりで観たブルースの雄、ロバート・クレイのステージは、実に重量感のあるタイトな出来だった。56歳という良い熟成感を久々に体感した。この8月にリリースするニュー・アルバムの中から数曲プレイしたのも新鮮だった。そして、何よりも彼が曲ごとの聴かせどころを熟知していたことを痛感させられた。ブルース・ファンのみならず、日本人好みのマイナー・コードを完璧に披露してみせた。バックのミュージシャンも決して出すぎず、押さえどころも十分に把握。終演後、友人でもある日本人ブルースマン、吾妻光良が「昔は精密機械のようだったけど、今は実にパワフルな演奏、年齢がそうさせるのだろうか・・・」と呟いたのもうなずける。素晴らしいギグであった。(田中 京)
写真:SongBro.


Popular CONCERT Review

「アラン・トゥーサン」 5月30日 Billboard Live TOKYO
 初めてニューオーリンズ・ジャズの名曲に挑んだインストゥルメンタル新作『ザ・ブライト・ミシシッピ』を引っさげての来日公演。元々同地のR&B界における最重要人物として多くの尊敬を集めてきたトゥーサンは、3年前のエルヴィス・コステロとの共演作を含め、ここのところファン層を拡大してきたのも事実だ。当夜はファンにはお馴染みの代表的なレパートリーと、新作からのナンバーで構成。中盤のピアノ独奏では「トルコ風ブルー・ロンド」「スキヤキ」、ストライド調の「オール・ザ・シングス・ユー・アー」等のメドレーで、幅広い音楽性を印象付けた。サックス&クラリネット奏者がサッチモばりの歌唱で、ジャズ的ムードを演出したのも個人的な収穫。ラストはヒット曲「サザン・ナイツ」を、マイクにエコーをかけてノスタルジックに歌い、1時間半のスタージを堪能させてくれたのだった。(杉田 宏樹)
写真:Gousuke Kitayama


Popular CONCERT Review

「レオン・ラッセル」 6月12日 Billboard Live TOKYO
 ストーンズの「Jumpin' Jack Flash」でオープニング 、メドレー・スタイルでテンプテーションズ・カヴァー「Papa Was A Rolling Stone」。すかさず、思わせぶりなこれまたストーンズの「Paint It, Black」のイントロから「Kansas City」へ、なかなか心憎い構成とトップ・スピードで観客を魅了する。スワンプ・ロックの雄として40年前に一世を風靡し、多くのミュージシャン達に多大なる影響を与えた、レオン・ラッセルの独特の癖がある歌い回し、溜め、ノリと言った表現は以前のままだ。「Dixie Lullaby」「Hummingbird」「Prince Of Peace」等オリジナル曲を中心に、またまたストーンズの「Wild Horses」、上手いアレンジでビートルズの「I’ve Just Seen A Face」やレイ・チャールズでも知られる「Georgia On My Mind」といったカヴァー曲を交え観客を楽しませた。そして、待ちわびた名曲「A Song For You」に至っては、もう言葉を無くしてしまうほど感動、ラストの「Delta Lady」で興奮は頂点と達する。観客がこれで終わらせる訳もなく、アンコールに応えて再登場したレオンとバンドは、ロックンロールの名曲「Roll Over Beethoven」を演奏。会場全体が大興奮のままステージを後にした。余談だが、終演後の客誘導BGMはストーンズの「Monkey Man」、もちろんレオン・ラッセルの選曲だった。(上田 和秀) 
写真:acane


Popular CONCERT Review

「ジョン・ピザレリ ゲスト:ヒラリー・コール」6月16日 COTTON CLUB
 ジョン・ピザレリのショウは、スイングしていて、いつも楽しい。マット・デニスの「Will You Still Be Mine」と「Everything Happens To Me」の2曲から始まり、スイング・ナンバー、バラードと交互に混ぜ合わせ、ラリー・フラー(p)マーチン・ピザレリ(b)トニー・テデスコ(ds)の息の合ったグループで軽快に歌いプレーする。4曲を歌ったところで今回の目玉、初アルバム『魅せられし心』が大評判のヒラリー・コールが登場、「How Am I To Know」「I Didn't Know About You」「「Deed I Do」と3曲、健康的色気を感じさせる魅力的な歌を披露する。後半は、ジョンのギターをフィーチャー、ピアノとのインタープレイから彼のギターとユニユゾンでスキャットする「Falling In Love Is Love」で山場を作ったあと、前週亡くなったケニー・ランキンに捧げてベースとのデュオで「Haven't We Met」そして、ランキンのアルバムからジョンのソロで「Here's That Rainy Day」を歌って会場をしーんとさせる。アンコールでは、再び、ヒラリーが現れジョンとデュエットで「It's Love」を歌った。ほぼ満員のお客も満足しただろう、素晴らしいエンターティンメントだった。(高田 敬三)
写真提供/コットンクラブ 撮影/土居政則


Popular CONCERT Review

「THE BLUES BROTHERS ブルース・ブラザーズ〜Musical Live On Stage Japan Tour 2009〜」 6月18日 渋谷C.C.LEMONホール(昼の部) 
 ブルース・ブラザーズ・ナンバーの数々を、映画『ブルース・ブラザーズ』のシーンを思い起こさせる演出とともに楽しませてくれた。ジェイクとベルウッドになりきった主役2人(サイモン・コノリー&べン・ワトソン)の熱演ぶりに拍手。歌も動きも、かなり研究し、練習したのだろうと思わせられた。しかし、似ていればいるほど、ダン・エイクロイドのクールなヌケぶり、ジョン・ベルーシの狂気を秘めた笑い、そして彼らのブルースやR&Bに対する本気度が懐かしくもなる。あくまでもこれは、そっくりさんたちによるショーだということを理解した上で、乗せられるのが良いようだ。(細川 真平)


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「チャイナ・モーゼス」
 ブルーノート・レーベルからの第1弾『ダイナ・ワシントンに捧ぐ』発表したチャイナ・モーゼスがそのアルバムの発売を記念してブルー・ノート東京に初登場する!彼女は、シンガー、プロデューサー、MTVの司会者としてマルチな活動を続けている。人気シンガーのディー・ディー・ブリッジウォーターと『ルーツ』で知られる映画監督のギルバート・モーゼスを両親に持ち、幼い頃より音楽活動を開始。1996年に初のソウル分野でのソロ・アルバムを発表し、今回のアルバムでは、“ブルースの女王”こと故ダイナ・ワシントンゆかりの名曲に新たな光を当てている。(KT)
*7月4日 5日 Blue Note TOKYO 2回公演
お問い合わせ:(03)5485-0088  http://www.bluenote.co.jp/


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「ローラ・イジボア」
 R&B界に素晴らしい女性新人歌手が登場した、アトランティック・レコードから「素顔のローラ」をリリースしたばかりのローラ・イジボア。早くも彼女の我が国におけるファースト・ライヴが決定した。10代でその才能を発掘され、4年かけてデビュー・アルバムを制作。アレサ・フランクリンの魂を受け継ぎ、まさにソウル・ミュージック/R&Bの新たなる伝説をこれからじっくりと作り上げようとしている。楽しみだ!(MK)
*8月26日 Billboard Live OSAKA 2回公演
お問い合わせ:06(6342)7722 http://www.billboard-live.com/
*8月28日 29日 Billboard Live TOKYO 2回公演
お問い合わせ:03(3405)1133 http://www.billboard-live.com/

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「上田正樹 with スライ&ロビー」
 1970年代から活動を続けるジャパニーズR&Bの重鎮、上田正樹。彼のグループ、サウス・トゥ・サウスが35年前に京都でアイク&ティナ・ターナーのサポーティング・アクトを務めたことは忘れられない・・。その後、ソロとなってからも上田は多くの世界的ミュージシャンと共演。84年のアルバム『抱きしめたい』ではレゲエのスーパー・デュオ、ストーンズと交流も深いスライ&ロビーとコラボした。そんな上田が25年ぶりにスラロビと競演、再会なのだ。ぜひともライヴ・アルバム/DVDも制作して欲しい!(MK)
*8月26日 27日 Billboard Live TOKYO 2回公演
お問い合わせ:03(3405)1133 http://www.billboard-live.com/
*8月28日 29日 Billboard Live OSAKA 2回公演
お問い合わせ:06(6342)7722 http://www.billboard-live.com/

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「阿川泰子」
 日本のジャス・シーンを代表するヴォーカリスト、阿川泰子がBillboard Liveで初のパフォーマンス。1970年代後半にデビュー、以来、着実な活動を続け世界的アーティストとも共演していることはよく知られている。あの、エモーショナルな歌いっぷりは多くのファンを魅了し続けているのだ。そして、何よりジャズという殻だけにこだわることなく、新たなる挑戦へトライする意気込みがドラマティックなステージ展開を生んでいくのだ。(YI)
*9月11日 12日 Billboard Live OSAKA 2回公演
お問い合わせ:06(6342)7722 http://www.billboard-live.com/
*9月17日 Billboard Live TOKYO 2回公演
お問い合わせ:03(3405)1133 http://www.billboard-live.com/

Popular INFORMATION

「ライ・クーダー&ニック・ロウ公演」
 映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』でも知られるライ・クーダーが14年ぶりに来日することが決定。ファンを狂喜させている!ローリング・ストーンズ・ファンだって必ずコンサートに行くことだろう。ワールド・ミュージックに造詣も深く、沖縄サウンドも彼のフェイヴァリット。近年はカリフォルニア・シリーズで注目を集めている。そんなライ・クーダーと日本公演でコラボするのがニック・ロウ、ふたりは同世代だ。70年代からアーティストとしてばかりでなくプロデューサーとしても脚光を浴びた。「Cruel To Be Kind」は大ヒット!今度の日本公演であの≪リトル・ヴィレッジ≫を彷彿とさせるステージングも期待したい。(MK)
*11月4日 19時 名古屋/Zepp Nagoya 
*11月5日 19時 東京/JCB HALL  
*11月6日 19時 大阪/グランキューブ大阪   
*11月9日 19時 東京/BUNKAMURA オーチャードホール
*11月10日 19時  同
*11月11日 19時  同     
お問い合せ:ウドー音楽事務所 03(3402)5999 http://udo.jp/

Classic ALBUM Review

「ブラームス:ピアノ四重奏曲 第1番、第3番/フォーレ四重奏団」(グラモフォン、ユニバーサル ミュージック/UCCG-1462)
 3年半近く前、同じグラモフォンから、モーツァルトのピアノ四重奏曲2曲でCDデビューした、常設の珍しい組み合わせ(Vn、Va、Vc、Pf)によるフォーレ四重奏団を聴いたとき、音楽的に実に清々しい演奏をするグループの出現に、以後の演奏に大きな期待を持ったことを思い出した。しかし今回のブラームスはこのグループの若々しさと明るさが、ブラームス独特の陰鬱な影の部分を十分に表現しきれず、今ひとつの不満を感じさせることになったのではないだろうかか。だがこのフォーレ四重奏団の隙のないアンサンブルは素晴らしい。今後時間の経過とともにどのように成長していくかが楽しみだ。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「パガニーニ:24のカプリース/神尾真由子(Vn)、」(RCA、BMG JAPAN/BVCC-40001-2)
 神尾のRCAレーべルに於ける第2弾である。この曲集は普通ヴァイオリニストがテクニックを誇示するために演奏や録音することが多いが、神尾の場合、テクニックに溺れることなく、1曲1曲彼女らしく音楽的な完成度の高い演奏を目指している。この曲はすべてが先ず技術的に難しい。ダブル・ストッピングでの速いパッセージ、オクターヴによる速く長い旋律線、アルコとピッツィカートの混在するパッセージ、このどれをとってもヴァイオリニストにとって大変な難曲である。神尾がメジャー第2弾にこれを選んだのは余程の自信がなければ出来なかったことであろう。かの名手ハイフェッツにしてもやらなかったのだから。何はさておき今回の演奏は、技術、音楽とも完璧に近い域に到達していると言って良い。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ集(第24〜30,32〜36,40〜43番)/シモン・ゴールドベルク(Vn)、ラドゥ・ルプー(Pf)」(デッカ、ユニバ−サル ミュージック/UCCD-4201〜43)
 20歳でフルトヴェングラーに乞われてベルリン・フィルのコンサートマスターとなり、翌年にはパウル・ヒンデミット(Va)、エマヌエル・フォイアマン(Vc)の名手たちと当時100万ドル・トリオといわれた弦楽トリオを組むなど、オーケストラ、室内楽、ソロで一世を風靡したゴールドベルクの生誕100年記念盤。このソナタ集は65歳の時にこれも名手のルプーと組んでロンドンで録音されたものである。ゴールドベルクの演奏はモーツァルトに対する愛と慈しみを湛えており、美しさと清潔感に溢れた音楽を聴かせる。そして彼と組んだルプーのピアノもゴールドベルクと一心同体ともいえるもので、モーツァルトの場合伴奏者と言うよりも対等の協演者としての素晴らしさを見せてくれた。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「プッチーニ:歌劇『蝶々夫人』/ゲオルギュー(蝶々夫人)、カウフマン(ピンカートン)、シュコサ(スズキ)ほか、パッパーノ指揮、ローマ・サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団・合唱団」/(EMIミュージック・ジャパン/TOCE-90095〜96)
 アンジェラ・ゲオルギューの重厚な声の響きと濃密な歌唱を主軸に、硬質の抒情をたたえたカウフマンの熱唱、そしてなによりもパッパーノの颯爽として劇的な指揮が聴きもの。脇役も粒ぞろい、オーケストラもプッチーニの勘所をよく知っていて、音楽を巧みに運ぶ。細部まで緻密に仕上げられたスタジオ録音で、ステージやDVDでオペラを観るのは胸が躍るにしても、CDの音だけでも壮大な叙事詩がプッチーニの卓越した筆致と優れた演奏によって音楽のドラマとして迫真的に伝わってくる。この名作オペラの代表作の一つになり得る新たな名盤の誕生だ。(青澤 唯夫)

Classic ALBUM Review

「ホフマンの舟歌 カサロヴァ・シングス・オッフェンバック〜〈小さなリンゴ〉、〈ペリコール〉、〈ホフマン物語〉、〈ジェロルスタン大公妃殿下〉、〈美しいエレーヌ〉、〈青ひげ〉、〈地獄のオルフェ〉などから/ヴェッセリーナ・カサロヴァ(メゾ・ソプラノ)、ウルフ・シルマー指揮/ミュンヘン放送管弦楽団、バイエルン放送合唱団ほか」(RCA・BMG JAPAN/BVCC-40005)
 オッフェンバックのオペレッタの名アリア、二重唱、合唱などが選りすぐられ、カサロヴァの幅広いレパートリーへの見事な対応性と、性格描写に秀でた多彩な歌唱が堪能できる。歌いぶりは変化に富み、コミカルで風刺性があり、女性の魔力を感じさせて、変幻自在。声の使い分け、高度な歌唱技巧はさすがで、ブルガリア出身なのにフランス語の発声もなかなかきれいだし、ニュアンスやキレのよさも申し分ない。2007年10月7日、ミュンヘン、フィルハーモニー・ガスタイクでのライヴ録音。(青澤 唯夫)

Classic CONCERT Review

「大阪フィルハーモニー交響楽団&アン・アキコ・マイヤース」梅田芸術劇場 5月13日
 数多くのヴァイオリン協奏曲の中でも、チャイコフスキーの作品は名曲中の名曲と称えられて、抜群の人気を誇っている。情熱と哀愁が全曲にあふれ、聴衆の胸に迫ってくるからであろう。アン・アキコ・マイヤースは大フィルと共演し、楽曲の持つ魅力をたっぷり味あわせてくれた。それは的確な技法とか、優れた解釈力といった表面的なことではなくて、巨匠がこの楽曲に何を託したかを、心の琴線で感じ取り、ありのままに表現したからであろう。
マイヤースの能力を遺憾なく引き出したヘンリク・シェファーの指揮も非凡なものがある。ベートーヴェンの「運命」もいたずらに力を入れるのではなくて、主題をくっきりと浮かび上がらせて、人生の俯瞰図を凝縮して描いたと思う。(写真提供:大阪フィルハーモニー交響楽団)(椨 泰幸)

Classic CONCERT Review

「コンポージアム2009」5月26日〜31日 初台・東京オペラシティ
 “同時代音楽フェスティバル”コンポージアムの第11回公演が行なわれた。今年のアーティスト・イン・レジデンスは作曲家のヘルムート・ラッヘンマン(1935年シュトゥットガルト生まれ)。シュトックハウゼン、ルイジ・ノーノ等に師事した彼の書く冒険的なナンバーの数々が大きくフィーチャーされた。個人的に印象に残ったのは「ハルモニカ〜独奏チューバを伴う大オーケストラのための音楽」。ミュートをつけたチューバ、目覚まし時計、発泡スチロールのアンサンブルに唸らされた。31日は、ラッヘンマンが審査員をつとめた「武満徹作曲賞」(満35歳以下の若手音楽家を紹介する)の本選演奏会。受賞作には酒井健治の「ヘキザゴナル・パルサー」が選ばれたが、オーケストラの拍手で曲が終わる山本和智「ZAI For Orchestra」も興味深かった。(原田 和典)
*写真は2009年5月31日「コンポージアム2009 2009年度武満徹作曲賞本選演奏会」表彰式より講評を述べる審査員ヘルムート・ラッヘンマン氏
〈撮影:大窪道治 写真提供:東京オペラシティ文化財団〉

Classic CONCERT Review

「ウィーン少年合唱団」5月30日 ザ・シンフォニーホール
 余りにも有名なこの少年合唱団は、世界一を自負している。ハプスブルク以来の古い伝統を誇り、現代でも教育システムを完備させ、優秀な若い芽を選抜して特訓する。そればかりではない。毎年立て続けに来演するるので、聴衆も飽きるのではないかと心配したが、舞台に工夫を持ち込んで、魅力をアップしている。これだけの動員力を支えるのは容易でない。今年は日本人団員シンタロウ君をソリストの中心に据えて、親子連れにアピールしていた。曲目は毎年ほとんど決まっており、そこがまたこのコーラスの人気の秘密となっているのだろう。世界の名歌メドレーも定番になっているが、お国振りの分かるような選曲にしたらもっと面白いのではないか。ウィーンをしのぐ少年少女合唱団が現れるのは容易なことではない。(椨 泰幸)
(写真提供:同ホール)

Classic CONCERT Review

「クリスチャン・ツィメルマン・ピアノ・リサイタル」6月4日 京都コンサートホール
 ツィメルマンの音楽には強烈な祖国愛が秘められていると言えば、言い過ぎであろうか。だが、ポーランド人2人の20世紀作品を弾き終えた時、そこにはポーランド人ピアニストの巨大な姿があった。その前に好演したベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第32番」やバッハ「パルティータ第2番」も、印象が薄くなったほどである。
パツェヴィチの「ピアノ・ソナタ第2番」は、女流作曲家と思えないほど骨格のがっしりした内容である。冒頭から精力的な響きが奔流となってうねり、内なるマグマが噴出したようである。中間楽章では柔らかな歌声も洩れてくるが、終楽章に至って再び炎が燃え盛る。祖国を不当に弾圧した大国に対する作曲者の厳しいプロテストとも受け止めることができる。シマノフスキー「ポーランド民謡の主題による変奏」は、牧歌的な旋律のなかにこの国の豊穣な音楽風土への限りない賛歌が捧げられている。(椨 泰幸)
(c)Kasskara/DG

Classic CONCERT Review

「ピオトル・アンデルシェフスキ」6月6日サントリーホール
 世界各国から次々に新しいピアニストが登場するが、私などが心底感心するような音楽
家はめったに現れない。アンデルシェフスキは1969年ワルシャワの生まれだが、この10年ほどの仕事ぶりは目を見張らせるものがある。レパートリーを選ぶせいか格別派手な話題を呼ぶわけではないが、自己の内面を真摯に見つめ、その音楽は確実に進化と深化を感じさせる。そしていまやサントリーの大ホールに位負けしないまでに成長した。シューマンが投身自殺を企てる直前の『暁の歌』はあまり演奏されない作品だが、精神を病む以前の隠れた傑作をアンデルシェフルキは見事に血肉化した。バッハのパルティータ第2番、ヤナーチェクの『霧のなかで』の好演、そしてベートーヴェンのソナタ変イ長調作品110はミスもあったが比類ない抒情と深い精神性を表出した名演であった。(青澤 唯夫)

Classic BOOK Review

「フランス歌曲の珠玉 深い理解と演奏のために」フランソワ・ルルー、ロマン・レイナルディ著、美山節子 山田兼士訳(春秋社)
 ベルリオーズに始まり現代作曲家にいたる25人の作曲家の名歌52曲を詳述。「聴く、知る、演奏する」、「理解と演奏」の2部からなり、言葉と音楽の関係、原詩と訳詩、譜例を混じえての作品紹介、分析・解釈が丁寧になされている。「フランス歌曲発音法」が付録となっていて、フランス詩や歌曲を知り、歌い、深く味わう上で大いに役立つと思われる。実際に歌ってみようという方にはこの上ない手助けとなるにちがいない。原著、翻訳ともに最適任者を得た労作で、400ページちかい大著だが、今後すえ長く演奏解釈の貴重な指針となることだろう。読みものとしても面白く、フランス歌曲の多彩で奥深い魅力への格好のガイドブックでもある。フランス語やフランス音楽に詳しくない人がCDを購入した時にも、この本が手もとにあれば味わいが倍増すると思われる。(青澤 唯夫)

Classic INFORMATION

「《ブラジル風バッハ》全曲演奏会」
 今年は、ブラジルを代表する作曲家、ヴィラ・ロボスの没後5年にあたる。それを記念し、彼の代表作である「ブラジル風バッハ」全9曲を一挙に上演する試みが企画された。「ブラジル風バッハ」は、ヴィラ・ロボスのバッハへのオマージュとでもいうべき意欲的な作品で、ピアノ独奏からオーケストラ、無伴奏合唱曲までさまざまな編成で書かれ、ブラジルのリズムや民俗音楽がバッハと溶け合う、エキサイティングな音楽となっている。ロベルト・ミンチュク指揮の東京フィルに、ソプラノの中嶋彰子、ピアノの白石光隆ら、出演者も一流。休憩時間にはロビーコンサートも予定されている。真夏の1日、格好の暑気払いになりそうだ。(K)(写真提供:日本ヴィラ=ロボス協会)
*8月22日14時 東京オペラシティコンサートホール
お問い合わせ:東京オペラシティチケットセンター 03-5353-9999
http://www.operacity.jp

Classic INFORMATION

「アンドレア・ルケシーニ・ピアノ・リサイタル」
 イタリア出身のピアニストで、アバド、シノーポリらの指揮で認められ、ベルリン・フィル、ウィーン・フィルなど次々に共演し、若手実力派として注目を集めている。フィレンツェとトリノの室内楽音楽祭で芸術監督を務め、日本へも07年、08年と相次いで訪れ、話題を呼んだ。曲目はスカルラッティのソナタから4曲、シューベルト「即興曲」、ショパン「24の前奏曲」。(T)(写真提供:同ホール)
*9月23日 15時 フェニックス・ホール
お問い合わせ:ザ・フェニックスホール06−6363−7999


Classic INFORMATION

「音楽になったエドガー・アラン・ポー〜ドビュッシー『アッシャー家の崩壊』をめぐって〜」
 本会員の青柳いづみこの企画・構成・制作。ドビュッシーが、若き日から死の前年まで心にかけていた『アッシャー家の崩壊』。ポーにもとづく未完のオペラと、主題を共有する『弦楽四重奏曲』、カブレなど周辺の作曲家のポーにもとづく作品をとおして、「音楽における苦悩への前進」のあとをたどる。もちろんピアノは青柳いづみこ。
*9月24日 19時 浜離宮朝日ホール
お問い合わせ:03-3501-5638 http://www.millionconcert.co.jp/monthly2.html#_9

Audio What’s New


「掌の宝石のようなプレイバックリファレンス オーディオスマイルのkensai(賢才)
 「スピーカー性能が確保されていれば、小さいに越したことはない」、このコンセプトから生まれた驚くほどコンパクトで本格的なプレイバックリファレンス・スピーカーが、イギリスの新興工房、Audiosmile“オーディオスマイル”の“Kensai”(賢才)である。
BBCの小型モニタースピーカー規格グレード2に準拠し、1970年代後半に、ロジャース、ハーベス、スペンドールら各社が競作した小形モニタースピーカーがLS3/5A。Kensaiは、若き俊才、サイモン・アシュトンがLS3/5Aのコンセプトを、現代的に発展させた新しいスピーカーシステムだ。
 システムの全高はわずか25cm。質量は4kg(1本)。トゥイーターにリボン型を採用し、優れたダイナミックスと位相特性を狙っている。拡散特性を向上させるためにアコースティックレンズを組み合わせることもできる。ウーファーは、軽量、高剛性のマグネシウム振動板による12cmドライバーを採用、ポールピースに銅キャップを配置、逆起電力の発生による歪みの発生を抑える。また、剛性の高いソリッドカッパーのフェイスプラグを装着、歪みのないクリーンなサウンドを実現した。
 特筆すべきは、キャビネットのサイドパネルに、ビーチ、あるいはウォールナットの無垢材を使用するが、この仕上げは何とオーディオスマイルのオーナー、サイモン・アシュトン自身の手でハンドメイドされるのだそうだ。バッフル、天板、底板は高品質なレザー仕上げである。(大橋 伸太郎)
 日本での輸入販売元は、?ステラヴォックスジャパン。価格は、¥480,000(ペア・税別)である。
■再生周波数帯域:48Hz~20kHz(-3dB)
■能率:83dB(1W/1m)
■インピーダンス:8Ω〜6Ω(minimum)
■高調波歪み率:0.2%以下
■寸法・質量:15cm(W)×25cm(H)×20cm(D)、4kg(1本)
■外装仕上げ:ビーチ、ウォールナット
問合せ先:?ステラヴォックスジャパン 電話03-3958-9333
http://www.stellavox-japan.co.jp/news/news/?no=185