2009年4月 

 
Popular ALBUM Review

「クワイエット・ナイツ/ダイアナ・クラール」
(ユニバーサル ミュージック/UCCV-1123)

 こんなにエレガントで洒落た作品はなかなかお耳にかかれない。ジャズ・ピアニスト&ヴォーカリストのダイアナ・クラールの最新盤はソフトなボサノヴァを中心としたバラード集。円熟した大人の芳香がたちこめる。Prod.はトミー・リピューマ、Arr.& Orch.はラテンものに独自の世界を持つクラウス・オガーマン、Eng.はアル・シュミットというグラミー受賞コンビ。彼女は密やかで囁くような軽さのヴォーカルに重点を置き、タイトル通りの静かな夜を現出していく。「サマー・サンバ」はじめダイアナらしさの出たピアノも勿論美しい。しっとりとした「いつかどこかで」の浮遊感のあるマジカルな世界。「傷心の日々」にゴスペル・タッチが覗くのも珍しい。(鈴木 道子)

Popular ALBUM Review

「イージー・カム・イージー・ゴー/マリアンヌ・フェイスフル」
(Pヴァイン・レコード/PCD-17264)
 一時は体調を崩していたマリアンヌ・フェイスフルもすっかり復調し、3月末にはニューヨークでライヴを行い夏にはヨーロッパ・ツアーが企画されている。そのステージでの中心曲となると思われるのが昨年フランスでリリースされ本作。マリアンヌのしっとりと歌い上げる円熟味を増したヴォーカリストとしての魅力が噴出しているのだ。ハル・ウィナーのプロデュースで、45年のつきあいになるキース・リチャーズはじめショーン・レノン、アントニー(&ザ・ジョンソンズ)、ジャーヴィス・コッカー、ルーファス・ウェインライト、ニック・ケイヴ、キャット・パワーらがゲスト参加している。マリアンヌといえば60年代のミック・ジャガーの恋人としてもよく知られているが、その波乱万丈な彼女の自伝映画制作が現在進行中でもある。(Mike M. Koshitani)


Popular ALBUM Review

「スターティング・オール・オーヴァー・アゲイン/ポール・ジョーンズ」
(BSMF RECORDS/BSMF-2116)
 1960年代の英国人気バンド、マンフレッドマンの初代ヴォーカリストとしてブルー・アイド・ソウルな持ち味を発揮していたポール・ジョーンズ。旧仲間たちと再び組んで発表したマンフレッズ名義のCDを購入したのは11年前だったがソロ作って一体何年ぶり!?たっぷり歌い込んで聴かせるこの新作は若い世代なら単に‘シブイ’の一言で済ませてしまうかも知れないがとてもそんなあれではない。表題曲はR&Bデュオ、メル&ティムのヒット作(1972年)。近年復活したパーシー・スレッジとの掛け合いを聴かせたり、盟友エリック・クラプトンが2曲ギターで参加したりで原点帰りのR&B〜ブルースの色合いに満ちた内容なれどメリハリのついた構成で何ともポップでカッコいい。これって昔から変わらぬポールの魅力かも♪(上柴 とおる)

Popular ALBUM Review

「イエス/ペット・ショップ・ボーイズ」(EMIミュージック・ジャパン/TOCP-66875 *スペシャル・エディション『イエス・エトセトラ』TOCP-66876)
 リミックス・アルバムなどの企画作品を含めて精力的に活動するニール・テナントとクリス・ロウのコンビが完成させた最新オリジナル。今回のポイントはブライアン・ヒギンズ率いる音楽チーム、Xenomaniaを起用してポップに徹した作品を収めていることだ。チャイコフスキーのメロディを取り入れるなど音楽的な冒険を謳歌しながら、一方ではブレアやオバマの言葉を引用したり、物質主義を皮肉ったりして、二人ならではのテーマが表現している。意識しているわけではないと思うが、テロや戦争、恐慌などで閉塞感が蔓延する社会にふさわしい、まさに開放感がポイントのポップ・アルバムだ。(村岡 裕司)

Popular ALBUM Review

「オール・ザ・プランズ/スターセイラー」
(EMIミュージック・ジャパン/TOCP-66861)

 ティム・バックリィのアルバムからグループ名を命名したイギリスはウィガン出身の4人組、スターセイラーの4作目。アコースティックなサウンドを実に気持ちよく楽しませてくれる、その展開は長くロックを楽しんでいる者にとってはとてもノスタルジックだったりもする。彼ら自身ニール・ヤングやヴァン・モリソンの影響を認めている。でも、それがぐっと新鮮なグループのオリジナリティとなってアルバムを完成させている。彼らは2006年夏のローリング・ストーンズのドイツ・ツアーで前座を務め、メンバーのロニー・ウッドと親交を深めた。本作タイトル・ソングにはロニーがギターで参加している。(Mike M. Koshitani)

Popular ALBUM Review

「ニュー・オーダー/カーリー・ジラフ」(BURGER INN RECORDS/BUCA-1027)
 何の予備知識も持たずに聴いてこれを‘邦楽’と思える人がどれほどいるだろうか、と。全編英語で歌われているし、楽曲や音も時代を超えた‘洋楽テイスト’に包まれており、当方のような年寄りの肌にもすんなり馴染むというか、湯船にとっぷり浸かって一日の疲れを癒しているような心地好さも感じさせてくれる。今どきのいわゆる‘サーフ・ロック’系のファンにもアピールしそう。カーリー・ジラフというのは元ロッテン・ハッツ(このバンド好感持ってました♪)〜GREAT 3の高桑圭(タカクワキヨシ)のソロ・プロジェクト名で曲作り、歌と演奏、録音からアートワークまですべて一人で手掛けておりこの新作はすでに3枚目。まるで木漏れ日のようなサウンド♪(上柴 とおる)

Popular ALBUM Review

「ライヴ・フォー・ファン/ハイ・ファイヴ」
(EMIミュージック・ジャパン/TOCJ-66496)

 昨年末話題を呼んだイタリアのニュー・ハード・バップ・グループ、ハイ・ファイヴの第二作でライヴ盤。トランペットのファブリッチィオ・ボッソとテナーのダニエル・スカナビエコのソロはフレッシュで、ホットで迫力がある。このグループはかつてのモーダルな新主流派の曲を素材にしたときに、とくに魅力があり、今回もウェイン・ショーターの「アダムス・アップル」、マッコイ・タイナーの「インセプション」などはとくに聴きものだ。このグループは今後世界のジャズをリードするだろう。アメリカのジャズメンもうかうかしていられない時代がやってきた。(岩浪 洋三)

Popular ALBUM Review

「エコー/アリッサ・グラハム」(オーマガトキ/OMCZ-1031
  アリッサはニュージャージー州出身の新人歌手。ビリー・ホリデイはじめエラ、ナンシー、ガレスピーやディラン、ニール・ヤングなどにも親しんで育った。ピアノ、サックス、ギター等も弾き、学校ではジャズ・ヴォーカルを学んだ。人間の温もりが伝わってくる歌声は、他人の作品ながら自作のような親しみがあり、音楽も含めて丁寧に作られている。冒頭のポール・サイモンの「アメリカ」の暖かいジャズ感覚と味わいは秀逸。ホリデイのために書かれて初めて世に出た「インヴォルヴド・アゲイン」は、自ら封印した恋への複雑な想いがしみじみと歌われる。ボサ調も快調だし、実力者を揃えたバックも好演で、爽やかな聴き応えがある。(鈴木 道子)

 ジャズ歌手でシンガーソング・ライターのアリッサ・グラハムの本邦初アルバム。彼女にとっては「What Love Is」に続く2作目だ。ジャズやフォーク、ブラジリアン・リズムなどがブレンドされたアダルト・コンテンポラリー作品に仕上がっている。ほどよくコントロールされた、やさしい歌声は「アメリカ」(P.Simon)「アイ・バーン・フォー・ユー」(Sting)に実に良くマッチする。「インヴォルヴド・アゲイン」ではピアノをバックにジャージーに語りかけ、「イザウラ」ではブラジリアン・リズムにのってさらりと聴かせる。ギターやピアノ、チェロやヴァイオリン、ハーモニカやドラムス、パーカッションなど楽器の持つ生音を大切にした録音、アコースティックな響きがライヴ感を誘う。いまにも観客の拍手が聞こえてくるようだ。米国では各方面から高い評価を受け、セールス面でも着実に成功への階段を昇り始めている。(三塚 博)

Popular ALBUM Review

「ソル!/ファブリッツィオ・ボッソ」(EMIミュージック・ジャパン/TOCJ66500)
 イタリアのトランペット奏者ファブリッツィオ・ボッソの新作は、アルゼンチン出身のサックス奏者ジャヴィエル・ジロットとの双頭コンボによる作品。≪ラテンムード≫の副題どおりジャズとラテンの融合の中に大人のコンテンポラリー感をあわせ持ったおしゃれでスムースな仕上がりだ。淀みのないフレーズがスピード感を醸しだすかと思えば、淡々としたプレイが、リスナーをゆったり感で包み込んでくれる。ゲストのラウル・ミドンが歌う「キサス・キサス・キサス」は、トリオ・ロス・パンチョスやナット・キング・コールでこの曲に慣れ親しんできた者に新鮮だ。淡々と刻まれるコンガのリズムにのって演奏される「いそしぎ」にはイタリアン・ワインを合わせたくなるようだ。日本盤のボーナス・トラック2曲「ブルース」「カミナンド」にフィーチュアされるラウル・ミドンの歌唱も聞き逃せない。(三塚 博)

Popular ALBUM Review

「alma de poeta/tite curet alonso」(FANIA/773-130-425-2)*輸入盤
 プエルトリコのソングライター、ティーテイ・クレ・アロンソの人気ナンバー31曲を2CDに収めたコンピレーション。30年以上に亘って母国で郵便局員として働きながら創作活動を続けてきた超地味な人物だが、サルサ界においてはセリア・クルス、エクトル・ラヴォー、ウィリー・コロン等に作品を提供して来た超大物で、トロピカル・ミュージックの巨匠(New York Times)と讃えられる。本作品にはほかにアンディ・ハーロウ、ラ・ルーペ、ジョニー・パチェーコ、チェオ・フェリシアーノらの演奏が収録されている。ティーテイはピアノが弾けたわけでもなく、ギターもわずかなコードしか知らなかったといわれる。5年ほど前に他界したが、生涯に手がけた作品は2000曲を超える。(三塚 博)

Popular ALBUM Review

「ワイド・アングル/早間美紀トリオ」(アート・ユニオン/ARTCD-114)
 ニューヨークで活躍中の早間美紀が今回は北川潔(b)、ヴィクター・ルイス(ds)を迎えてのトリオ・アルバムなので、彼女のリズミックで華麗な元気のいいピアノを堪能することができる。トミー・フラナガンの「フライト・トレイン」やガーシュインの「フー・ケアーズ?」も演奏しているが、10曲中7曲は彼女のオリジナル。自作の「ホワッツ・ネクスト」はダイナミックだが、「フライング・ホース」は一転して詩的な味わいをみせており、「アップ&ダウン」ではグルーヴィーでのりのいいプレイをみせる。変幻自在で多彩な表現が彼女の魅力だ。(岩浪 洋三)

Popular DVD Review

「ライヴ・アット・ロニー・スコッツ・クラブ/ジェフ・ベック」
(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SIBP-12)

 2007年11〜12月、ジェフ・ベックはロンドンのロニー・スコッツ・ジャズ・クラブに5日間連続出演した。これはそのときの模様を収めた映像作品だ。そして、驚くべきことに、彼の長いキャリアの中で、初の本人名義の映像作品でもある。バックのメンバーはヴィニー・カリウタ(dr)、ジェイソン・リベロ(key)、タル・ウィルケンフェルド(b)。彼らと一丸となってのベックのプレイは、もう異次元の領域に入っている。キャパ200人程度の小さなクラブなので、多彩なカメラ・ワークが不可能なことが怪我の巧妙となり、ベックの手元(右手も左手も)のクローズアップが多いのもうれしい。それでもやっぱり何をやっているのか分からないことも多いのだが、あの指弾きやアーミングやハーモニクスの妙技を、大きくクリアな映像で観られるだけでワクワクする。また、本作の目玉のひとつは、現在、注目度が高まっているウィルケンフェルドのプレイ。彼女の場合、サウンドやテクニックも見事なのだが、楽しそうな演奏ぶりが一番の魅力だ。それに乗って(乗せられて?)ベックのプレイがより生き生きとしたものになっているように思える。また、ゲストのエリック・クラプトンと共演したブルース・カヴァー2曲も必見。60歳を越えたロック・レジェンドたちの演奏なのに、まるでギター小僧2人のセッションのように見えてしまう瞬間もある。さいたまスーパーアリーナでの奇跡の共演を思い返しながら、じっくりと味わっていただきたい。ボーナス映像として、ベックのインタビューが収録されているのも貴重。(細川 真平)


Popular DVD Review

「アンプラグド コレクターズ・エディション/ロッド・スチュワート」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPZR-30338)*CD+DVD
 ロッド・スチュワートが1993年にロサンゼルス/ユニバーサル・スタジオでファンを招いて行ったらアンプラグド・スペシャルの模様はその年すぐにCDとしてリリースされた。その作品集がCDに2曲のボーナス・トラック追加、そしてそのライヴの映像が1枚のDVD にパックされて登場したのだ。実にリラックスしたロッドのとても楽しそうなステージが味わえる。映像の方にはお馴染みのナンバー13曲収録されているが、そのうち「カット・アクロス・ショーティー」「リーズン・トゥ・ビリーヴ」「エヴリ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー」「 マギー・メイ」「ピープル・ゲット・レディ」「マンドリン・ウィンド」「ステイ・ウィズ・ミー」にはロニー・ウッドがジョインしている。フェイセズ再結成、早く実現して欲しい!(Mike M. Koshitani)


Popular CONCERT Review

「フォー・サウンズ」 1月21日 COTTON CLUB
 1989年に峰厚介(テナー・サックス)、板橋文夫(ピアノ)、井野信義(ベース)、村上寛(ドラムス)が集まって結成されたグループが“フォー・サウンズ”だ。まさか20年も続くことになろうとはメンバーの誰も、思いすらしなかったのではないだろうか。峰と村上は70年代後半、フュージョン・グループ“ネイティヴ・サン”でアイドル並みの人気を集めたことがあるが、フォー・サウンズでは愚直なまでにストレート・アヘッドなアコースティック・ジャズを貫き通す。決して小器用にはなれない男たちが、これだけは譲れないとばかりに、ひたすら熱くスイングし、アドリブを繰り広げる。この意気、迫力に僕は惚れてしまうのだ。板橋の名曲「渡良瀬」、「グッドバイ」、井野がソロで演奏したチャーリー・ヘイデン作「ソング・フォー・チェ」が心に沁みた。(原田 和典)


Popular CONCERT Review

「アカデミー・オブ・ハワイアン・アーツ」 2月14日 Bunkamuraオーチャードホール
 ≪フラの革命児≫ことマーク・ケアリイ・ホオマル率いるパフォーマンス集団が再来日した。前回、日本を訪れたときにはテレビ番組『徹子の部屋』にも出たそうだが、その効果か、2月だというのに会場はハワイアンやフラのファンで埋め尽くされ、熱気すら漂う。第1部では、新作「ワイキキ」が披露された。シンプルだがやけに奥の深い打楽器の伴奏に乗って、マークのナレーションと団員のダンスが続く。カメハメハ大王がいかにハワイ諸島の統一のために戦ったか、とてもわかりやすく説明してくれた。第2部は、よりリラックスした雰囲気。生バンドとダンスを前面に出しながらハワイアンの定番を次々と演じ、観客に振り付けを教えるパートもあった。フラは決して季節商品ではない。それを改めて痛感した。(原田 和典)
Photographs by Derik Poquiz of the Academy of Hawaiian Arts(c)


Popular CONCERT Review

「コーネル・デュプリー with ジェームス・ギャドソン」 2月24日 Billboard Live TOKYO
 昨年4月以来となるデュプリーのBBLT出演。前回とはメンバーを一新して、ギャドソンをフィーチャーした5人編成だ。1970〜80年代のスタッフで一世を風靡したギタリストのデュプリーと、70年代のモータウン・サウンドを支えたドラマーのギャドソンは、活動歴がほとんど重なっていないが、ソウルフルな歌心を持つ職人肌の黒人ミュージシャンという共通点がある。当夜はそんな両者の本邦初となる共演ステージを楽しんだ。ビル・ウィザースで知られるヒット曲「ユーズ・ミー」等を一人二役で叩きながら歌うギャドソンは、この世界で長年活躍してきた者ならではの存在感を輝かせた。デュプリーがスタッフ時代の盟友に捧げた「ティー」は思いがけないプレゼント。紅一点のメリー・ディーンが、アニタ・ベイカー曲を熱唱し、無名ながら実力を示したのも収穫だった。(杉田 宏樹)
写真:Gousuke Kitayama


Popular CONCERT Review

「きめてやる今夜 内田裕也 VS 沢田研二」 2月25日 渋谷C.C.Lemonホール
 滅多に見られるもんじゃない。内田裕也のまとまったライヴ。そして、もう一生見られないかもしれない。沢田研二とのジョイント・ライヴ。さらに、事前発表ではこのステージをワイルドワンズの加瀬邦彦がプロデュースにあたるということ。加瀬邦彦といえば、内田裕也が在籍したブルージーンズからの縁である。つまり、これはロカビリーからグループ・サウンズ、そして内田裕也が主催にかかわり、ジュリーも参戦した1970年代のロック・フェス時代までをも視野に含んだ壮大な交友パノラマが背後にあるライヴというのが感慨である。しかして、その予感はあたった。エルヴィス・プレスリーに始まり、ローリング・ストーンズの「ブラウン・シュガー」まで、感動のカヴァー大会だ。その中で、光っていたのは、圧倒的な内田裕也の存在感。ステージ後方に作られたバーカウンターに座って悠然とグラスを傾ける様は、時代を超えて≪ロックンロール≫の視点を持ち続ける男の、かくしゃくたる影絵を描き続けたのだ。(サエキ けんぞう)


Popular CONCERT Review

「守屋純子オーケストラ Groovin' Forward 2009」 2月27日 ヤクルト・ホール
 1月にリリースされた新作『Groovin' Forward』を記念してのコンサートが開催された、ほぼ満員の盛況だった。新作からの曲を中心に、すべて彼女のアレンジによるものが演奏されたが、リッチなサウンド、カラフルなアンサンブル、魅力的なソロの配置が彼女のビッグ・バンドのよさと特色である。新作「ラスト・サマー」「ウェルカム・ホーム」「グルーヴィン・フォアード」、高橋達也に捧げた「フェアウェル」などが演奏された。16人編成で彼女自身がピアノを弾き、エリック・ミヤシロ、岡崎好朗、高瀬龍一(tp)、片岡雄三(tb)、近藤和彦(as、ss、fl)、小池修(ts、fl)、納浩一(b)、大坂昌彦(ds)といったスター・プレイヤーが揃っていた。ホットなアドリブを生かした編曲だけにこだわらない奔放なジャム・セッション的な演奏も2曲ほどは欲しいところだった。(岩浪 洋三)


Popular CONCERT Review
「シーナ・イーストン」 3月4日 Billboard Live TOKYO
 素敵に歳を重ねたシーナ・イーストンがステージに現れると、その姿に往年のファンは大盛り上がりになる。普段からの鍛錬なのか、それとも相当リハーサルを重ねてきたのか、決してヴォーカルの邪魔をしないベースレス・バンドとの息もピッタリと合い、肩の凝らないライヴとなった。そして何よりも、昔ながらにチャーミングな歌声は、会場全体に気持ち良く伸び良く響いた。「Stop To Love」から始まったヒット曲のオン・パレードは、時代の流れを充分に感じさせてくれるものとなり、多くのファンは、自身の青春時代を蘇らせたことだろう。「For Your Eyes Only」で007の映像を思い浮かべ盛り上がりは最高潮となり、アンコールの「Modern Girl」ではシーナ・イーストンが永遠のアイドルであることを再確認させてくれた。(上田 和秀) 
写真:acane


Popular CONCERT Review
「ジャーニー」 3月9日 東京フォーラム ホールA
 ヴォーカルにアーネル・ピネダを迎え、最新アルバム『レヴェレイション』発表後の初来日の新ジャーニーによる記念すべきライヴである。その新作のオープニング・ナンバー「Never Walk Away」から始まったヒット曲満載のライヴは、ノリノリのアーネル・ピネダに引っ張られるように、ニール・ショーンもギター弾きまくりで飛ばしすぎという感じで進んでいく。唯ここで気になったのが、アーネル・ピネダの体調を気遣ってのことかドラムのディーン・カストロノヴォとヴォーカルを分け、ツイン・ヴォーカルになっていたことだ。せっかくアーネル・ピネダのお披露目なのだから、とことんアーネル・ピネダでいくべきではなかっただろうか。とは言えジャーニー・ファンにとっては、「Open Arms」「Separate Ways」「Any Way You Want It」ほか2時間を超える演奏に、大満足な一夜であった。(上田 和秀) 
写真:Yuki Kuroyanagi

Popular CONCERT Review

「ロッド・スチュワート」 3月11日 日本武道館
 ロッドの13年ぶりの日本公演を楽しんだ。2部構成からなる円熟味を増したエンタテインメントをフィーチャーした展開のステージング。ヒット作、サム・クックやジ・イムプレッションズのカヴァーなど彼のフェイヴァリット・ナンバー、フェイセズ時代の楽曲などが次々に飛び出してくる。途中、娘のルビーやコーラス隊を全面に出してのソウル・レビュー・タッチのパートも加える、いかにもロッドらしい。もちろん、サッカー・ボールを観客に向けてキックしてくれたのだ。「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ」で始まった74年2月の武道館ライヴを思い出した。「マギー・メイ」での山内テツの特別参加がなかったのが残念・・。(Mike M. Koshitani)
Photo(C)Eiji Tanaka

Popular CONCERT Review
「OFF THE WALL〜PINK FLOYD SPIRIT〜 光と映像とサウンドが織り成すパフォーミングアートの世界!」3月16日 すみだトリフォニー ホール
 このパターンもありだなと思わせる、実に楽しいライヴだった。今流行の親父バンドと学園祭のノリを足した様な上手いコピー・バンドのライヴは、何ともリラックス出来る時間を与えてくれた。本家のピンク・フロイドに比べるとチープな機材であるが、基本テクニックがしっかりしているので、間合いとエフェクトを間違えさえしなければ、充分に満足のいく演奏だ。裏を返すとピンク・フロイドの楽曲が如何に優れているかが分かる。「One Of These Days」からアンコールの「Comfortably Numb」まで、ピンク・フロイドのファンならずともロック・ファンであれば、誰もが知っているベスト選曲に大興奮の夜を過ごした。(上田 和秀)

Popular CONCERT Review


「Nishinaka Misaki meets STONES」 3月20日 江古田マーキー
 ミュージック・ペンクラブ・ジャパン後援のライヴ。西仲美咲はいまもっとも注目されている沖縄出身の新進フルート奏者。クラシックからジャズに転じた、大のローリング・ストーンズ・ファンでもある。そんな中で企画されたステージ。第一部は西仲カルテット、彼女のフルートに竹内大輔のピアノ、村田博志のベース、佐々木俊之のドラムを加えてのジャズ、「カントリー」「てぃんさぐの花」「枯葉」「マンボ・イン」などを演奏。ストーンズ・ファンも多く会場につめかけているのか、通常のジャズ・ライヴとは違った歓声と盛り上がりだ。第二部はこの日のフィーチャリング・パート、ストーンズ・ナンバーの登場で満席の場内は一段と熱気に包まれた。「サティスファクション」「ホンキー・トンク・ウィメン」「悲しみのアンジー」と次々にロック調の演奏が展開。カルテットはみな若いので、ジャズからロックへの切り替えもみごとだ。「ブラウン・シュガー」と「無情の世界」には我が国のストーンズ・トリビュート・バンドとして名高いザ・ベガーズのギター、ロニー・テイラー・ジョーンズが参加。前者では同じくベガーズのヴォーカル、ミック・ジャガリコも飛び入りした。ロニーのブルージーなギターはさすがだ、彼のジョイントで黒っぽさが加わり、熱気は頂点に達した。僕も70年代に来日したロック・グループを聴きまくった頃の興奮を久々に味わった。アンコールの「スインギン・シェパード・ブルース」はフルート奏者作曲で西仲の得意曲。会場がひとつになってライヴは終了した。(岩浪 洋三) 
写真:Takenori Goto

Popular BOOK Review

「なぜ牛丼屋でジャズがかかっているの?/守屋純子」(かもがわ出版)
 コンサートにあわせて守屋純子、初の本であり、エッセイ集。本のタイトルも面白いが、さまざまなジャズへの初歩的な質問や疑問に答えながら、ピアニスト、作編曲、バンド・リーダーとしての体感やプロ・ミュージシャンとしての音楽観も述べており、異色の≪ジャズ入門書≫としても大いに楽しめる。文章はわかりやすく、ジャズ・ミュージシャンとしての喜びと苦労も良く理解できる。作曲家やアレンジャーは文章がうまいという説もあるが、この本もそれを実証している。ともあれ、世界をかけめぐっての体験談からは、ジャズをめざす人にとっても、貴重といえるだろう。(岩浪 洋三)

Popular BOOK Review

「黒く踊れ!/江守 藹」(銀河出版)
 70年代ディスコ・ヒット「バンプ」「愛がすべて」などのシングル・レコードのイラストレターとして有名なエモリAI氏。本作は彼が黒人音楽、ダンス、踊り場に惹かれた10代の頃から現在までの生き様を江守藹の名で記した自伝書。懐かしい業界人、お馴染みのダンサー&有名人の名前が続々と紙面を賑す。ソウル・イラストレター、ディスコ・プロデュサー、ダンサーとして活躍した彼の独特の視点は、とても興味深く面白い。特に60年代から73年頃までの彼の実体験録は公民権法制定、ベトナム戦争など日米の社会的背景も絡み、とても生々しく熱い。人生のベテランが懐かしく読むのもいい。しかし、若いダンサー、黒人音楽愛好者にもお薦めなのだ。読後、必ず魂が黒くなる!(松本 みつぐ)


Popular INFORMATION


「ブルース・ブラザーズ ミュージカル・ライブ・オン・ステージ ジャパン・ツアー2009」
 映画『ブルース・ブラザーズ』が英国発のミュージカルとなって帰ってくる、夏に我が国に上陸。リズム&ブルースやブルースの名曲が次々に登場する≪ブルース・ブラザーズの世界≫は音楽ファンには特にたまらない。1960年代後半のR&Bの名作をフィーチャーしているのだ。そしてファンキー・ダンス・ファンはじめ、映画ファン、ミュージカル・ファンももちろん注目なのだ。音楽愛好者がストレートに楽しめるミュージカルがどんどん上演されるようになった、いい時代だ。(M)
*6月6日 ティアラこうとう 14:00
*7日 松戸/森のホール21 17:00
*9日 アミューたちかわ 19:00
*10日 川口総合文化センター リリア 19:00
*11日 市川市文化会館 19:00
*12日 大田区民ホール アプリコ 19:00
*13日 千葉市民会館 19:00
*16日 すみだトリフォニーホール 19:00
*17日 グリーンホール相模大野 19:00
*18日 渋谷C.C.Lemonホール 14:00/19:00
*19日 府中の森芸術劇場 19:00
*20日 よこすか芸術劇場 18:00
*22日 練馬文化センター 19:00
*24日 仙台サンプラザ 19:00
*25日 栃木県総合文化センター 19:00
*27日 愛知県芸術劇場 19:00
お問い合わせ:テイト・コーポレーション 03-3402-9977  
http://www.tate.jp/bb/index.html


Popular INFORMATION

「レオン・ラッセル」
 1970年初頭、僕らオールド・ロック・ファンはどっぷりとスワンプ・ロックの世界を楽しんでいた。ストーンズだってそのサウンドをいち早く取り入れていた。そんなアメリカ南部のサウンドの世界では重鎮としてその名を知られているのが、レオン・ラッセルだ。ソングライターとしても実力者。彼のその圧倒されるステージは何度味わってもまた足を運ばせる。ダウン・トゥ・アースなナンバーが次々に登場、楽しみだ。(K)
*6月10日 Billboard Live OSAKA 2回公演
お問い合わせ:06-6342-7722 http://www.billboard-live.com/
*6月12日 Billboard Live TOKYO 2回公演
*6月13日 Billboard Live TOKYO 2回公演
お問い合わせ:03-3405-1133 http://www.billboard-live.com/


Popular INFORMATION

「Over The Rainbow来日公演」
 1970年代中期から80年代前半にかけ、音楽界に君臨した伝説のハード・ロック・バンド≪レインボー≫、その三代目ヴォーカリストのジョー・リン・タナーが、歴代のレインボー在籍メンバーを召集しツアーを開始する、≪Over The Rainbow≫だ。今回最高のサプライズは、ギタリストにあのリッチー・ブラックモアの息子ユルゲン・ブラックモアを起用したことだ。ハード・ロックの遺伝子は脈々と引き継がれている。「Long Live Rock'n Roll」「Kill The King」「Gates Of Babylon」などの大ヒット曲をどう料理するか、楽しみだ。(U)
*4月27日 大阪/なんばHatch 
*4月29日 名古屋/ダイヤモンドホール
*5月 1日 東京/新宿厚生年金会館
お問合わせ:ザックコーポレーション03-5474-5999 
http://www.zak-tokyo.co.jp/


Classic ALBUM Review

「ハイドン:交響曲《ザロモン・セット》全曲(第93~104番)/ゲオルグ・ショルティ指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団」(ユニバーサル ミュージック/UCCD-4051~4)
 ハイドン没後200年を記念して再リリースされた名盤ショルティの「ザロモン・セット」である。何と言ってもこの優雅な演奏はまさに宮廷音楽家ハイドンの真髄である。全曲を通してスピッカートとテヌートを実に効果的に用いており、序奏付きの第1楽章を持つ曲のごく真面目ともいえる出だしと緩徐楽章の美しさ、メヌエットの落ち着いた表現、そして絶妙の安定感を持つ終楽章はショルティの真骨頂と言えよう。このところの速い演奏に慣れてきた耳には昔を回顧する懐かしさ、と言うか不思議な心の安らぎが身体中を満たしてくれる。現代病とも言えるイライラなどをお持ちの方には、素晴らしい特効薬となること請け合いである。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「ハイドン:弦楽四重奏曲集 作品76《エルデーディ》全曲/タカーチ弦楽四重奏団」(ユニバーサル ミュージック/UCCD-4062~3)
 上記同様ハイドン没後200年記念として、クァルテットの名門ハンガリーのタカーチ弦楽四重奏団によるハイドンの代表曲、副題がついた有名曲「五度」、「皇帝」、「日の出」、「ラルゴ」を含むOp.76の6曲が久しぶりに纏めてリリースされた。エヴィアンをはじめ、多くの国際コンクールを総なめしただけあって、ある程度個性の強い演奏なのだが、その密度の濃いアンサンブルは他の優れたクァルテットのどれにも決して引けを取らない。
 彼らは今年全員が50代後半の年代に入ったわけだが、このCDを録音したときは10年余り前であり、活躍の最盛期のものである。この6曲を聴く限り、速い楽章はより速くきっちりと、遅い楽章はじっくりと歌うというスタイルで、隣国のウィーンやプラハのクァルテットとはスタイルが異なるが、実に上手い演奏である。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「カサロヴァ、カルメンを歌う〜情熱のオペラ・アリア集/ヴェッセリーナ・カサロヴァ(Ms)、ジュリアーノ・カレッラ指揮、ミュンヘン放送管弦楽団」(BMG JAPAN/BVCC-31113)
 現在バルトリとともに世界最高のメゾ・ソプラノと言われているカサロヴァの来日に合わせて、日本公演での出し物「カルメン」からの聴かせどころをはじめ、ヴェルディ、チャイコフスキー、サン=サーンスなどの「情熱のアリア集」が発売された。カサロヴァ・ファンの多くは、コロラテューラな彼女に妖艶な「カルメン」が歌いきれるのだろうか、と疑問に思っていたのではないだろうか。しかしその憂いは見事に消し飛んでしまった、と言って良い。このCDで聴く限り、カサロヴァは見事なばかりの妖艶さで「カルメン」像を具象化し、そして驚くべき役柄の広さと奥深さを我々の前に披露したのである。またカルメン以外のアリアすべてで、カサロヴァ音楽の真髄に触れることができよう。(廣兼 正明)

Classic CONCERT Review

「フィルハーモニア管弦楽団」 12月10日 フェステイバルホール
 ロマン派的な気質と古典派的な形式美。いわば、あふれるような情感をがっちりとした枠の中にはめ込む。ブラームスはこの相反する世界の体現者である。「交響曲第1番」には、がんじがらめの葛藤から悪戦苦闘して脱出しようとする姿が滲んでいる。第1楽章の異様なまでの圧迫された響きは、その心理的投影であろう。そして最終楽章の輝かしい楽音には、超克から光明への愉悦に満ちあふれている。ウラディーミル・アシュケナージのタクトは、楽曲に込められた意図を直裁に抉り出し、成功に導いた。
メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」には青春の甘美な感傷が漂っている。諏訪内晶子はインテンポ気味に、憂いを含んだ旋律を奏でた。そこには、屈指の名曲にどこかほろ苦さが隠されて、甘っちょろいケーキでないことを示している。それは感性豊かな女性ヴァイオリニストのさらなる進化を物語っているようだ。(椨 泰幸)
〈Photo:Olive Barda〉

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「レニングラード国立歌劇場管弦楽団」 12月25日 ザ・シンフォニーホール
 母国の作曲家に立ち向かう演奏家は、一様にヴォルテージを上げて、楽曲に没頭しているようにみえる。「民族の魂」を心底から歌い上げる、ということであろう。とりわけロシア人にはその傾向が強いように感じられる。ショスタコーヴィチの交響曲第5番「革命」はロシア人にとって十八番であり、部厚い響きを豪壮に鳴らして、周囲を屈服させる。指揮者のドゥルガリアンもまたこの名曲にがっぷり取り組んで、オケを心行くまでに歌わせた。時には行き過ぎるほどであったが、終わってみると、本場の魅力をたっぷり味あわせてくれた。
幕開けに演奏したグリンカ「ルスランとリュドミュラ」序曲は小気味がいい。人気ピアニスト、ミシュクもベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」をダイナミックに弾きこなした。不景気を吹き飛ばすような溌剌とした響きが、この日ホールを満たしていた。(椨 泰幸)
(写真提供:ザ・シンフォニーホール)

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「ヴィオラの日」1月27日 渋谷/Hakuju Hall
 僕はひねくれ者なのか、それとも単にセンスと経験が不足しているのか、ヴァイオリンの音にあまり心を突き動かされた覚えがない。弦楽四重奏を聴いても、いつしか耳はチェロやヴィオラに吸い寄せられてしまう。この日の主役は、N響ソロ首席ヴィオラ奏者で、ヴィルトゥオーゾ・カルテットの活動でも知られる店村眞積。少年時代にはヴァイオリンを弾いていたが、やがてヴィオラの奥深さにハマり、現在に至っているそうだ。小山京子のピアノだけを従えた店村は、ホールいっぱいにヴィオラを響かせる。ふくよかで力強い、じつに頼もしい音だ。ブラームスの「ヴィオラ・ソナタ第2番 変ホ長調 op.120」等を重厚に演じた本編、「オンブラ・マイ・フ」等を軽妙に聴かせたアンコールと、プログラミングも緩急に満ちていた。(原田 和典)

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「ニュー・オペラシアター神戸、ニコライ:《ウィンザーの陽気な女房たち》」2月8日 アルカイックホール
 シェイクスピアの同じ原作によるオペラが2つある。イタリアの作曲家ヴェルディ(1813〜1901)の「ファルスタッフ」(1893)がつとに有名であるが、ドイツ出身のオット・ニコライ(1810〜1849)による「ウィンザーの陽気な女房たち」(1849)も捨て難い魅力がある。オペラ・カンパニーは2夜にわたって上演し、8日を観た。主役の好色なファルスタッフを藤村匡人はよく通るバリトンで熱演し、どこかお人よしの素顔もちょっぴりのぞかせた。ファルスタッフから同じ恋文を送られた夫人たちに、やきもちをやく夫たちが絡んで、舞台はひと騒動。その隙に娘のハートを射止めたフェントン(松本晃)のテノールも光った。男声陣が女声陣をしっかり支えて、ユーモラスな味を醸し出した。
 宝塚歌劇に在籍する中村暁を演出に起用したのは図に当たったと思う。しゃれた衣装、舞台装置など宝塚調で、軽快な印象を与え、色恋沙汰にもつれる人生模様を巧みに表現した。禁欲的な演出がもてはやされる昨今、貴重な存在と思う。指揮斉田好男、管弦楽ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団。(椨 泰幸)
(写真提供:ニュー・オペラシアター神戸)

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「現代の音楽展2009-2 サクソフォーン・フェスタ」 3月1日 洗足学園前田ホール
 一つの楽器に絞って、その楽器の可能性にチャレンジするコンサートは比較的に少ない。日本現代音楽協会は「フェスタ・シリーズ」を行い、今回は15曲のサクソフォーンの作品が演奏された。4時間に及ぶコンサートであったが、後半のサクソフォーン・オーケストラの作品が印象に残った。山内雅弘作品は3楽章からなり、明快な曲調が特徴で聴きやすかったが、楽想を徹底的に仕上げるという点で甘さがみられた。二宮玲子の〈影像〉娘道成寺による サックスオーケストラ、和太鼓アンサンブルのための、は日本の5音音階と12音技法のコントラストが面白く、間の取り方や、和太鼓とサックスオーケストラとの掛け合いに迫力があり、フェスタ・シリーズのフィナーレにふさわしいものであった。指揮は松元宏康。見事な造形で豊かな音楽観によってこの作品を入念に仕上げていたように思う。テンポの変化の妙味に特筆すべき物が感じられ、期待したい指揮者である。企画・構成、松尾祐考。(藤村 貴彦)

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「東京交響楽団 第565回定期演奏会:シューベルト・ツィクルス最終回」 3月21日 サントリーホール
 第21回ミュージック・ペンクラブ音楽賞の最優秀コンサート・パフォーマンス賞を獲得した「2008年度サントリー定期演奏会/シューベルト・ツィクルス(ユベール・スーダン指揮)」の最終回を聴いた。曲は「未完成」と「キプロスの女王ロザムンデ」全曲である。
スダーンが音楽監督に就任して以来、東響は確実に進化している。特に昨年4月に始まったシューベルト・ツィクルスに於いて顕著であるし、このツィクルス最後のプログラムでも素晴らしい演奏に終始した。
先ず「未完成」だが、スダーンを画家に例えるならば、彼はオーケストラという筆を使い、何色かの淡い色の絵の具を幾重にも塗り重ね、微妙な濃淡を描き出した水彩画のような美しい音作りで聴衆を酔わせた。それに加えて、古楽器ティンパニの乾いた音とヴァイオリンのノン・ヴィブラート奏法が絶妙な効果をもたらした。特に第2楽章の終わり間際にある第1ヴァイオリンの意外な難所、裸になる付点四分音符フレーズのノン・ヴィブラートは細く美しく光っていた。第1ヴァイオリンという細筆の穂先が完全に一つになっていたのである。
後半の「ロザムンデ」、この美しい曲は演奏会で全曲を聴く機会が甚だ少ない。今回はスダーンが一つ一つの曲の魅力を落ち着いたテンポでアピールさせ、ツィクルス最後の曲を立派に飾って見せた。そしてメゾ・ソプラノ・谷口睦美の将来性を感じる歌唱力と、東響コーラスのアンサンブルの良さが目立っていた。(廣兼 正明)

Classic BOOK Review

「コンサートが退屈な私って変?」クリスティアーネ・テヴィンケル著/小山田 豊訳 春秋社
 「音楽は好きだけど、コンサートには行かない」という人のために書かれた本と思われるが、コンサートに行き過ぎだなと思う私などが読んでも面白い。「どうしてコンサートはこんなに高いんですか?」とか、「音楽家はどのくらい稼いでいるんですか?」、とか「オペラ歌手はもっと演技ができないんですか」とか、興味深い質問に適切かつユーモラスに答えてくれる。「ソナタ主要楽節形式が聴きとれないとダメですか?」なんて設問もある。コンサートのあり方のこと、音楽の理論や実践、作曲、クラシック音楽の状況についての話が次々に出てくる。原著はドイツやオーストリアで評判になって、グングン売れているらしいが、楽しい語り口が魅力で、こういう本をプレゼントされたら、クラシック音楽の醍醐味に大きく目を拓かれるかもしれない。(青澤 唯夫)

Classic INFORMATION

映画「マリア・カラスの真実」(3月28日よりユーロスペースほかで公開)
 没後30年以上が過ぎても、マリア・カラスへのオマージュは後を絶たない。毎年のように本が出版され、映画が作られている。
 フランスの映画監督フィリップ・コーリーによるドキュメンタリー映画「マリア・カラスの真実」は、なるべく事実に忠実にという精神が感じられる、すぐれたドキュメンタリーである。画面のなかで発言するのは、カラス本人以外は彼女の才能を知る恩師や劇場関係者だけで、私情を交えそうな人物は排除され、それゆえ説得力がある。オペラ歌手としてのカラスの偉大さと、女性としてのカラスのもろさが等しく扱われ、この類稀なる女性芸術家の両面が、淡々としかし切実に迫ってくる。
 「社交界」そのものだった当時の劇場の様子も頻出し、カラスが「時代の申し子」だったという監督の主張もよく伝わってきた。詳細は以下のURLで。(K)
http://www.cetera.co.jp/callas/
写真:(c) Publifoto - OLYCOM


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「シュトイデ弦楽四重奏団と日本の仲間たち」 4月19日(日) 14:30 東京オペラシティコンサートホール
 ウィーン・フィルの最も若いコンサートマスター、フォルクハルト・シュトイデ率いるウィーン・フィル若手メンバーによるシュトイデ弦楽四重奏団唯一の東京公演。曲目はハイドン:弦楽四重奏曲 変ロ長調 Op.76,No.4 「日の出」、モーツァルト:弦楽四重奏曲 第14番 ト長調 K.387 「春」、シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 Op.44、演奏はフォルクハルト・シュトイデ(Vn1)、キリル・コバンチェンコ(Vn2)、エルマール・ランデラー(Va)、ヴォルフガング・ヘルテル(Vc)、三輪 郁(Pf)、入場料:5,000円(全席指定)。チケット問い合わせ:東京オペラシティ チケットセンター 電話03-5353-9999
 この他に逗子公演(4/18)あり。
問い合わせ:逗子国際交流イベント実行委員会(a day) 電話046-871-8171。(H)
〈Photo:Wilfried K.Hedenborg〉

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「オペラ《カーリュウ・リヴァー》/能「隅田川」同時上演」 5月16日午後6時 いずみホール
 作曲家ベンジャミン・ブリテンは1956年に来日し、能「隅田川」を鑑賞して触発され、64年にオペラ「カーリュウ・リヴァー」を作曲した。能は我が子を失った母親の悲しみを謡っており、オペラはこれを翻案して、修道院を舞台にしている。舞台は2部に分かれ、前半が能で観世銕之丞ら能楽者が出演、後半はオペラで経種廉彦ら歌手が登場する。物語の底流には「祈り」があり、和と洋の融合をねらっている。指揮は高関健、管弦楽はいずみシンフォニエッタの選抜メンバーで、岩田達宗の演出。
お問い合わせはいずみホール(06−6944−1188)へ。(T)
〈Photo:Masahide Sato〉

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「バッハ:《マタイ受難曲》」6月18日 いずみホール
 バッハの研究家で知られる米国出身ジョシュアン・リフキンの指揮で、日米2つの演奏グループが合同出演する。米国側はリフキンのアドヴァイスで設立された「ケンブリッジ・コンチェントゥス」で、ソリスト5人の他奏者など約20名で構成。日本側は「くにたちiBACHコレギウム」で、国立音楽大学音楽研究所主宰の下に結成され、ソリスト4人、奏者2人が参加する。室内楽的な小編成ながら、音楽監督の礒山雅同大学教授によると、バッハの時代のイメージを可能な限り再現して大作に挑む。福音書記者はジェイソン・マクストゥーツ。
お問い合わせはいずみホール(06−6944−1188)へ。(T)