2008年11月 

 
Popular ALBUM Review

「テル・テイル・サインズ/ボブ・ディラン」
(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP1993〜4)

 ボブ・ディランの≪ブートレグ・シリーズ≫の発売は1991年にはじまった。このシリーズで、公式アルバムには収録されなかった貴重な音源が新たに発売されるたびに、ファンは驚喜した。最初に発売された『第1〜3集』を除くと、第4集以降は主に歴史的なコンサートのライヴが発売されてきたが、今回の第8集は1989年から2006年までの音源、『オー・マーシー』『タイム・アウト・オブ・マインド』『モダン・タイムズ』の未発表曲、別テイク、ライヴ録音など、現在も続行中のネヴァーエンディング・ツアー時代のディランの貴重な27曲が2枚組CDに収録されている。どうしてアルバムに収録されなかったのか疑わざるを得ないほど完成度の高い未発表傑作曲、まったく異なる曲と感じてしまうほどの別テイク、スタジオ盤とはまるでちがったアレンジによるライヴ録音など、この2枚組を聞くとディランが創造力にあふれる真の芸術家であることを再確認させられる。
必聴曲:「レッド・リヴァー・ショア」「ドリーミン・オブ・ユー」「マーチン・トゥ・ザ・シティ」「32-20ブルース」「キャント・エスケイプ・フロム・ユー」「ミス・ザ・ミシシッピ」。(菅野 ヘッケル)

Popular ALBUM Review

「ライヴ・アット・ウッドストック/フィービ・スノウ」
(ユニバーサル ミュージック/UCCV-1115)
 「サンフランシスコ・ベイ・ブルース」で衝撃的なデビューを果たし、70年代に大活躍したユニークなシンガー/ソングライター、フィービ・スノウ。彼女の久しぶりの新作はウッドストックのライヴ。30年前と遜色のない、あの個性的なダイナミズムは今も健在だ。ソウルフルに独自の世界を展開し、相変わらず会場を揺り動かしている。自分のレパートリーとスタンダード・ナンバーで構成し、起伏のあるステージ。「オール・イン・ザ・ゲーム」は自在に舞うようにドゥワップで歌い、新しい展開を見せる。自身の大ヒット曲「ポエトリー・マン」は暖かい。また「わが心に歌えば」など、しみじみとした表現には年輪を感じる。(鈴木 道子


Popular ALBUM Review

「カヴァーズ/ジェイムス・テイラー」(ユニバーサル ミュージック/UCCO-3007)
 シンガー/ソングライターの大御所、ヒア・ミュージック移籍第2弾は何とカヴァー・アルバム。これまで多くの曲をカヴァー、またヒットさせて来たJTではあるが、こうして正面切ったカヴァー集を出されるとちょっとびっくり。今年1月、個人スタジオに一流ミュージシャンを集めて生録音したという。内容はいつものJTらしい、温もりのある作品に仕上がった。収録曲はお得意の1950〜60年代のロックン・ロール、R&B、カントリーが中心だが、注目すべきはM-5(ディクシー・チックス)、M-6(ジョン・アンダーソン)といった90年代のカントリー・ヒットを採り上げたこと。決してひとつどころに留まらないその姿勢こそが、長年に渡って第一線で活躍し続けられる所以であろう。(森井 嘉浩)

Popular ALBUM Review

「リトル・ガーデン/エリン・ボーディー」(オーマガトキ/OMCZ-1029)
 エリン・ボーディーの歌声は、自然体のすんなりした爽やかさがある。米ミネソタ州出身のシンガー/ソングライター。クラシック、フォーク、ブルー・グラス、ポップなどに囲まれた音楽的環境で育った。大学ではジャズを学び、01年に自主製作盤を発表してレコード会社に認められ、アルバムをリリース。次の作品がこの本邦デビュー盤となった。大半がキーボードのアダム・マネスとの共作だが、唯一尊敬するポール・サイモンの「ボーン・アット・ザ・ライト・タイム」が入っている。簡素なシンセをバックに淡々と歌い詩情をにじませる。ハーモニーもいいアクースティック・ポップ「リトル・ガーデン」。夢見るような「グッド・ナイト」の優しさも心和む。気持ちのいい好盤だ。(鈴木 道子)

Popular ALBUM Review

「ヤング@ハート/オリジナル・サウンドトラック」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13211〜2)

 米マサチューセッツ州の小さな町を拠点に活動する平均年齢80歳のコーラス隊、ヤング@ハートを追ったドキュメント映画のサントラ盤。結成時(1982年:以降メンバーは高齢ゆえ順次交替)からグループを指揮するボブ・シルマン(筆者と同世代)の厳しい(But愛と尊敬に満ちた)指導のもとリハを繰り返し年に一度のコンサートに臨むのだがステージ場面で1曲ごとに思わず拍手しそうになったのはクラッシュやソニック・ユース、ジミ・ヘン、ジェームス・ブラウン等慣れないロックやR&Bを歌い切ったお年寄りの頑張りを称えるのではなくその前向きな姿勢にやがて来る自身の老後への一つの指針を示してもらえたことへの感謝の気持ちの表れといえようか。一見無茶な?選曲だがこれまで聴いたどんなカヴァー曲よりも‘パワフル’。(上柴 とおる)

Popular ALBUM Review

「ジージアの日記〜ゆううつでキラキラな毎日/オリジナル・サウンドトラック」
(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP2060)

 思わずジャケ買いしてしまいそうなこのキュートでキラキラなアルバム・ジャケットがこの映画とサントラ収録曲の楽しさとハジケっぷりをストレートに表現している。10代の‘ダサカワ’な女子学生を主人公に仲良し4人組がお目当ての男子学生たちを巡ってドタバタやら恋のさやあてもアリ〜のという日常を描いたもので、ピーター・ビヨーン&ジョン、ザ・ピペッツ、ザ・ティン・ティンズにリリー・アレンなどまさに10代の彼女たちが日頃ラジオ等で普通に耳にするような今どきのポップ・ミュージックが次々背景に流されることでより映画に現実感が出ている。年頃の娘をもつお父さん方(ウチにも小6の娘がおりますぅ)にも是非見てもらいたい映画。(上柴 とおる)

Popular ALBUM Review

「クローサー/ベスト・オブ・サラ・マクラクリン」(BMG JAPAN/BVCP-21838
 
音楽界だけでなく、社会的な尊敬も集めているサラ・マクラクリンだが、初のベスト盤が出た。サラは3度のグラミー賞に輝き、男性主体の中で女性だけのロック・フェスティヴァル、リリス・フェアを立ち上げ、全米各地を3年にわたり巡業してチャリティに貢献するなど多くの支持者を得ている。このベスト盤には2曲の新曲があり、むしろそれを聞かせるために過去の代表曲を集めたといっていい。デビュー盤からクロノロジカルに収録されている。雰囲気のあるサウンド。裏返る高音も含めて滑らかな歌声は説得力がって魅力的。悠々としたたおやかさの中に芯の強さを感じさせる。愛の交錯を中心に歌われるが、主体は自らであること。それもポジティヴなところに彼女らしさがある。(鈴木 道子)

Popular ALBUM Review

「スターダスト〜30周年記念盤/ウィリー・ネルソン」
(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP-1936〜7)

 カントリー界を代表するスーパースター、ウィリーがジャンルを超越し、世界的な人気者となるきっかけとなった78年の作品が最新デジタル・リマスター、ボーナス・ディスク付でリイシューされた。ブッカー・T・ジョーンズをプロデューサーに迎え、1926〜55年のポップ・スタンダードをカヴァーしたこのアルバムは、2年間以上に渡ってチャートに留まり、当時のカントリー・アーティストとしては異例の400万枚超のセールスを記録。ボーナス・ディスクにはその前後の作品で採り上げたポップ・スタンダードを16曲収録。唯一残念なのは、99年にリマスター再発(日本未発売)時に収録された未発表曲2曲が削られてしまったことか。秋の夜長、ウィリーの素朴な歌声でゆったりと過ごしてみてはいかが。(森井 嘉浩)

Popular ALBUM Review

「ジョニー・ティロットソンズ・ベスト+12/ジョニー・ティロットソン」(ビクターエンタテインメント/VICP-64556)
 1960年代、アメリカン・ポップスを聴きまくっていた時代に大好きだったジョニー・ティロットソン。最近も元気に活動している(六本木/スイート・ベイジルのライヴからもだいぶ経つ、また来日しないかナァー。来年1月には香港に行くらしい)。そんなジョニーの50年代から60年代のお馴染みのヒット・ソングが楽しめるのがこの作品集。日本で大きくブレイクした時代はUSシングルB面がJAPANシングルA面になったり、USファースト・ヒットがJAPANシングルB面になったり、いろいろ想い出す・・。本作には「ポエトリー・イン・モーション」「夢見る瞳」「キューティー・パイ」「アース・エンジェル」「トゥルー・トゥルー・ハピネス」など、代表作が収録。同時に『イット・キープス・ライト・オン・ハーティン+9』(VICP-64556)もリリース。久しぶりにジョニーのほかジュディ・オング、そして湯川れい子さんも出演なさっていた66年の映画『涙くんさよなら』のビデオを見ることにしよう・・・。(Mike M. Koshitani)

Popular ALBUM Review

「わが恋に歌えば/ケニー・ワーナー・トリオ」(ヴィーナスレコード/VHCD-1013)
 ヴィーナスレコードはピアノ・トリオの制作がうまい。本作は1951年11月生まれのピアニスト、ケニーをエディ・ヒギンスの後継者的な人に育てようとし、それをうまく実現したアルバムだ。ケニーはかつて前衛的なプレイもみせた人だが、ここでは、オーソドックスで、リリシズムにあふれたプレイで、スタンダードやジャズ・オリジナルを中心に、ピアノ・トリオの楽しさを満喫させてくれる。ベースとドラムスも控え目で、ケニーのピアノを盛り立てる。ケニーのスムーズに流れるピアノはじつに心地いい。「わが恋に歌えば」「枯葉」、マイルスの「ブルー・イン・グリーン」など9曲を演奏している。ピアノ・トリオ好きには欠かせない一枚だろう。(岩浪 洋三)

Popular ALBUM Review

「アメージング・グレース/ティファニー」(ヴィレッジミュージック/VRCL-18842)
 ティファニーは日本在住の黒人女性歌手。最初日本で英語の教師をしていたが、本作のプロデューサー、伊藤八十八に発見されてジャズ歌手になった。素質があったのか、一作毎にうまくなっていく。最近はインペリアル・ジャズ・コンプレックスなどにも出演し、脚光をあびている。フィーリングも豊かで、歌唱力もあり、美声の持主だが、あまりアクが強くなく、親しみやすく、誰の真似でもない個性も魅力だ。日本もトップ・ミュージシャン、小曽根真(2曲)、井上信平(2曲)、小沼ようすけ(2曲)、椎名豊(2曲)らが多数参加しており、サウンドも秀逸だ。得意の「アメージング・グレース」「バット・ノット・フォー・ミー」「テイク・ファイブ」「ムーン・リヴァー」など12曲、ヴァラエティに富んだ選曲が楽しめる。(岩浪 洋三)


Popular ALBUM Review


「MAYA + JAZZ/マヤ」(寺島レコード/TYR-1005)
 女性ジャズシンガーMAYAのdisk UNION/DIW移籍第一弾は、「MAYA+JAZZ」と銘打った大人のアルバムに仕上がった。何とも艶めかしいヴォーカルだ。「Take Me In Your Arms」「Black Coffee」と続く色気に男は悩殺され、女は嫉妬する。10月24日には初回プレス限定アナログ盤(レッド・カラー盤)と200枚限定ピクチャー・レコード(MAYA直筆シリアル・ナンバー入り)も発売される、アナログ・ファンにも嬉しい新作である。(上田 和秀)


Popular ALBUM Review


「スマイル/AIR(中西雅世&西高志)」(SSJ/XQAM 1705)
  男女のジャズ・ヴォーカル・デュオは、珍しい。AIRは、中西雅世がピアノを弾き、西高志がパーカッションを受け持ちながら歌うというユニークなデュオだ。有名歌手のバック・コーラスやTV・CMや歌番組でのコーラスを担当してきたベテラン、中西と魅力的なバリトン・ヴォイスの西のデュオによる本デビュー作は、ジャッキー・アンド・ロイ風の歌も含め、ロマンチックな心地よい歌を聞かせる。今後をおおいに注目したい二人組だ。(高田 敬三)


Popular ALBUM Review

「Sing ! RCA女性ヴォーカル・セレクション2/VA」(BMG JAPN/BVCJ-38177〜8)
 昨年発売されてベスト・セラーを記録した「Sing ! 」の続編、RCA系の豊富な原盤から女性のジャズやポップ歌手の歌を集めた2枚組のコンピレーションである。編集と監修はぼくが担当したが、前作には入っていない歌手のものも数多く収録した。ジーン・リー、マリリン・メイ、マリリン・モンロー、カーリー・サイモン、パット・スズキ、ジューン・ヴァリ、サリナ・ジョーンズ、トニー・ハーパー、ベティ・ハットン、スーザン・バレット、グエン・ヴァードン、ローズ・マーフィー、アーサ・キットらを新しく加えた。また、曲はスタンダード・ナンバーが中心で、名曲集としても楽しめる構成になっている。カーリー・サイモンの「ダニー・ボーイ」、パット・スズキの「スター・ダスト」、マリリン・メイの「ミスティ」、カマトト・スタイルの「ペニーズ・フロム・ヘヴン」、ベティ・ハットンの「オレンジ・カラード・スカイ」などは、ぼくの好みのナンバーでもある。(岩浪 洋三)


Popular ALBUM Review

(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

(6)
(7)
(8)

「ビクター・レコーディングス 1928-2008/VA (2枚組 8セット)」
(ビクターエンタテインメント/VICL-62903〜4/62905〜6/62907〜8/62909〜10/62911〜2/62913〜4/62915〜6/62917〜8)

 日本ビクター創立80周年を記念して、80年間のビクターの邦楽・流行歌のヒット曲、名曲を10年毎に8タイトルのCD (各2枚組) に収録した特別企画。(1)は1928-37 藤原義江の「出船の港」、二村定一「アラビアの唄」、佐藤千夜子「東京行進曲」、徳山_「ルンペン節」、四家文子「銀座の柳」、田谷力三「巴里の屋根の下」等42曲。(2)1938-47 灰田勝彦「燦めく星座」、灰田勝彦・晴彦「鈴懸の径」、平野愛子「港が見える丘」等42曲。(3)1948-57 平野愛子「君待てども」、高峰秀子「銀座カンカン娘」、山口淑子「夜来香」、渡辺はま子「桑港のチャイナ街」、暁テル子「ミネソタの卵売り」、淡谷のり子「白樺の小径」、鶴田浩二「ハワイの夜」、ナンシー梅木「アゲイン」、三浦洸一「落葉しぐれ」、雪村いづみ「青いカナリア」、フランク永井「有楽町で逢いましょう」等44曲。(4)松尾和子「誰よりも君を愛す」、橋幸夫/吉永小百合「いつでも夢を」、松尾和子/マヒナ・スターズ「お座敷小唄」、荒木一郎「空に星があるように」、佐良直美「世界は二人のために」、中尾ミエ「可愛いベイビー」、森進一「女のためいき」、ジャニーズ「太陽のあいつ」等41曲。(5)青江三奈「伊勢佐木町ブルース」、中山千夏「あなたの心に」、日吉ミミ「男と女のお話」、桜田淳子「わたしの青い鳥」、チェリッシュ「てんとう虫のサンバ」、岩崎宏美「ロマンス」、ピンク・レディー「ペッパ警部」、松崎しげる「愛のメモリー」等40曲。(6)平尾昌晃/畑中葉子「カナダからの手紙」、松本伊代「センチメンタル・ジャーニー」、高橋真梨子「桃色吐息」、荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー」、小泉今日子「なんてったってアイドル」、ビートたけし「浅草キッド」等36曲。(7)泉谷しげる「春夏秋冬」、アン・ルイス「WOMAN」、長山洋子「蜩」、酒井法子「碧いうさぎ」、河村隆一「Love is …」等28曲。(8)Cocco「Raining」、広瀬香美「ストロボ」、風味堂「イラヨイ月夜浜」、未映子「はつ恋」、ジェロ「君恋し」等28曲。各セット¥2800。(川上 博)


Popular ALBUM Review

「MY MEMORY ポピュラー音楽ベスト40/VA」
(ビクターエンタテインメント/VICP-64391〜2)

 日本ビクター創立80周年記念企画の洋楽ポビュラー版。「ライムライト」「第三の男」等のスクリーン・メロディ、「谷間に三つの鐘が鳴る」「愛の讃歌」等のシャンソン、「オー・ソレ・ミオ」「帰れソレントへ」等のナポリ民謡、「ベサメ・ムーチョ」「イパネマの娘」等のラテン、「真珠の首飾り」「ムーンライト・セレナーデ」等のスイング、「グリーンスリーブス」「アニー・ローリー」等のイングランド&スコットランド民謡、「夜空のトランペット」「渚のアデリーヌ」等のインストルメンタル・ヒット等々、全40曲をCD 2枚に収録して\2100 の特価品。アーティストは、マントヴァーニ、パーシー・フェイス、ピエール・ポルト、101ストリングス、アルフレッド・ハウゼ、グレン・ミラー、レイモン・ルフェーヴル、ベルト・ケンプフェルト、ビリー・ヴォーン、アッカー・ビルグ、クレバノフ・ストリングス、ジャック・ディメロの各楽団。ソロイストはニニ・ロッソ、リチャード・クレイダーマン、クロート・チアリ、ウニャラモスといった豪華顔ぶれ。(川上 博


Popular DVD Review




「レボルーション・ロック/ザ・クラッシュ」
(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/EIBP-108)

 やはりザ・クラッシュという希有な存在に真正面から取り組んだドキュメンタリー・フィルムによってグラミー賞も獲得しているドン・レッツ監督が、ふたたび彼らに取り組んだ最新のドキュメンタリー。今回は、徹底してライヴ中心の制作スタイルが貫かれていて、ナレーションやインタビュー映像は最小限にとどめ、クラッシュの歩みを約20曲のステージ映像によってほぼ順を追ってたどりながら、彼らの実像と音楽シーンに与えたインパクト、音楽史における位置などを描いている。まさに≪暴動≫という言葉を想起させる初期の粗削りなライヴ、レコーディング・スタジオでコーラスを重ねるシーン、鉢巻きをしてステージに立ったサンプラザ公演、82年のシェイ・スタジアムでの伝説的なライヴ(ザ・フーの前座を務めた時のもので、CD化も実現した/ライヴ・アット・シェイ・スタジアム=EICP1060))など、貴重な映像もたっぷり。ちなみに、ナレーションをカットして音だけを享受することもできるそうだ。(大友 博)

Popular BOOK Review

「ジョン・コルトレーン〜私は聖者になりたい/ベン・ラトリフ著 川嶋文丸・訳
(ブルース・インターアクションズ)

 ジョン・コルトレーンに関する本は内外でいくつか発売されているが、中でも本書はもっともすぐれた信頼に価する本だ。トレーンの功績を顕彰し、その影響にまで言及していて興味ぶかい。トレーンの影響は今日のジャズにも及んでおり、アンドリュー・ホワイト(sax)は「ジャイアント・ステップス」のアドリブを譜面化し、そのメカニズムや音譜の研究をしており、バークリーのジョージ・ガゾーンは第1巻で209種、今700種もトレーンのアドリブを譜面化しているそうだが、逆にそれが今のN.Y.ジャズの一部をつまらないものにしているのではなかろうか。以前、ある若手のジャズマンが、トレーンのアドリブを譜面に取り、これをもう一度吹いて欲しいと頼むと、トレーンは言下に「吹けるわけないだろう」と一笑にふしたそうだが、ジャズのアドリブはスポーツの記録に似ていて、同じ記録が出せるとは限らないのだ。モーツァルトの譜面を分析しても2人目のモーツァルトは現われない。トレーンのアドリブを譜面化することの無意味さを、今のジャズマンは知るべきだろう。そんなことも教えてくれる本だ。(岩浪 洋三)


Popular BOOK Review

「THE DIG PRESENTS JAZZ SAX」(シンコーミュージック・エンタテイメント)
 人気ロック雑誌「THE DIG」の別冊である“ディスク・ガイド・シリーズ”。これまでパンク・ロック(UK、US)、テクノ・ポップ、ロカビリー、ヒップ・ホップ、ハワイアンなどが出ているが、今回、その33弾目にして初めてジャズの深い森に分け入ることになった。チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーン等の超大物から、ラッセル・プロコープ、ハル・マキュージック等の「あまり有名ではないが、知らないとジャズ人生、確実に損」といいきれる名手まで、サックス奏者のリーダー作が550枚以上も紹介されている(監修は不肖わたくしが担当)。殆どのジャケット写真がカラーで掲載されているのも、いわゆる「ジャズ系のアルバム・ガイド」としては前代未聞のことだと思う。(原田 和典)


Popular CONCERT Review

「トム・ハレル」 9月16日 COTTON CLUB
 大学時代の自殺未遂の後遺症と今も闘っている。毎日、大量の投薬が欠かせないともきく。しかしプレイは本当に美しい。こんなに可憐で、心にしみるフレーズがどこから沸いてくるのかと思うほどだ。これまで何度か来日したことはあるものの、レギュラー・バンドを率いての登場はこれが初めて。よく来てくれた。楽器の“鳴り”は80年代がピークだったように思うが、それでも一音一音の暖かさは類をみない。トランペットも持ってきてはいたが、僕が見たセットは全曲フリューゲルホーンによる演奏。決して長時間のブロウをするわけではないけれど、たとえ8小節でも、ありあまるほどのストーリーを味わわせてくれるハレルに、真のMasteryを感じた。(原田和典)


Popular CONCERT Review

「オレゴン」 9月29日 Billboard Live TOKYO
 1970年以来、独自のオーガニックなサウンドを実践してきた老舗バンドがオレゴン。日本でも様々なレーベルの作品がリリースされていたにもかかわらず、何故か来日公演の機会がなかった。結成38年にして初来日が東京・六本木の新名所「東京ミッドタウン」内のクラブで実現。個人的には5月に取材したノルウェーのジャズ・フェスティヴァルに続くステージとなった。ギター&ピアノのラルフ・タウナー、金・木管楽器のポール・マッキャンドレス、ベースのグレン・ムーアが揃っただけで、感慨深いものがある。2つのデュオ・パートや新曲を盛り込んだプログラムによって、進化する現在のオレゴンを体感させてくれたのが嬉しい。バンド・サウンドの躍動感に貢献するドラムス&パーカッションのマイク・ウォーカーも存在感を光らせた。新旧両方のファンに魅力をアピールしてくれたのが最大の収穫であった。(杉田 宏樹)
写真:acane


Popular CONCERT Review

「マッツ・アイレットセン」 10月3日 恵比寿/天窓スイッチ
 昨年、ヤコブ・ヤング(ギター)率いるグループの一員として来日した精鋭ベーシストが、リーダーとして待望の初登場を果たした。メンバーには伝説のユニット“マスクアレーロ”でニルス・ペッター・モルヴェルと黄金のフロント・ラインを聴かせたトーレ・ブリュンボルグ(テナー・サックス)もいる。マッツのベースは、これみよがしな速弾きなどは一切しないし、長いソロをとることもない。基本的にはただただ、黙々とアンサンブルを支えていくのだが、この存在感が尋常ではない。多種多様なアンサンブルの中から、彼の太い音色がごく自然にうかびあがってくるのだ。あまりの充実したプレイに、休憩なし、約90分のセットが、あっという間に過ぎ去ってしまった。 (原田 和典)


Popular CONCERT Review


「P-Vine BLUES Festival」 10月5日 九段会館
 ブルースとR&Bの宝庫、P-Vineの主催によるフェスティバル。3組のアーティストが出演、いずれも素晴らしいパフォーマンスを飾った。オープニングは上田正樹と有山じゅんじ、33年ぶりのコンビが帰ってきた(アルバム『ぼちぼちいこか‘08』もリリース!)。そして、シカゴからのピストル・ピート、アグレッシヴでロックなブルースを展開。アルバム『エヴォルーション・ブルース』からの「Voodoo Chile」でスタート、そう、彼はジミ・ヘンドリックスをリスペクトしている。『エヴォルーション〜』からの「Big Leg Woman」「Tin Pan Alley」、アルバート・キング作品の「Born Under a Bad Sign」など、実にパワフルな元気の良いステージを楽しませてくれた。メイン・アクトはサザン・ソル・ファン注目のウィリー・ウォーカー、1960年代後半から活動している。アルバム『メンフィサポリス』から「Opposites Attract」「Thanks For Being There」、またゴール・ワックス時代のナンバーはもちろん、67年のデビュー作「There Goes My Used To Be」(O.V.ライトでも知られる)を交えながら究極のソウル・レビューをじっくりと堪能させてくれたのだった。(Mike M. Koshitani)
Photo by Toshiya Suzuki


Popular CONCERT Review

「フラワー・トラヴェリン・バンド」 10月5日 日比谷野外音楽堂
 なんと解散から35年ぶりの、フラワー・トラヴェリン・バンド再結成、ライヴ公演である。今回の再結成は、ポニー・キャニオンからのアルバム・リリースも含み、極めて本格的なもの。今後、1970年当時、チャート・インした、カナダと、アメリカ/ニューヨークでのツアーも予定すると、ヴォーカリスト、ジョーから報告された。フロント・アクトはジョニー・ルイス&チャー。こちらも長いインターバルをおいての公演だが、その長さはフラワーに及ぶべくもない。日比谷野外音楽堂は、やはりロックの殿堂だ。ゆるい空気の中、チャーのギターが響いたとき、一瞬で70年代にタイムスリップした。たくさんの懐かしい顔が後方を行き来する。休止をものともしない快調なJ,L&Cの演奏が終わると、伝説のフラワーが「メイク・アップ」で始まる。なにせ、筆者もTVでしか演奏を見たことがない。しかし、おそらくキーを変えていないジョーのヴォーカルをはじめ、70年代の雰囲気を残しながらも、新鮮極まりない豪放な演奏には驚いた。当時のロックが持つ独特のブルージーな勢いに加え、このバンドならではのオリエンタルな調べ、そしてアルバムタイトル曲「We are here」をはじめとする新譜曲からは、バッド・カンパニーのようなグルーヴィーなフットワークさえ伺える。バンドの記憶とは、体に確実に刻まれ、スイッチを入れるだけなのだ、と痛感させられた。「35年前、日大全共闘が、このステージに殴り込みをかけてきて、返り討ちにしてやったけど、今またきたとしたら、またすぐにそうしてやる。何も変わってない」というジョーのMCが痛快だった。(サエキ けんぞう)


Popular CONCERT Review

「オリヴィエ・アントゥネス対ヘンリック・グンデ ジャズ・ピアノ・コンサート」 10月8日 横浜/杉田劇場
 ホールでジャズを聴くのは久しぶりだ。ヨーロッパ・ジャズきっての注目株ピアニスト2人の競演など、彼らの拠点デンマークでもおいそれとは体験できないだろう。最初に登場したオリヴィエ・アントゥネスは華麗にして端正、うっとりするようなハーモニーとセンスの持ち主。続くヘンリック・グンデは格闘技選手のような体格で、絶えず足でリズムをとりながら、ときには唸り声をあげてプレイする。好対照のふたりをサポートしたのはイエスパー・ボディルセン(ベース)とモーテン・ルンド(ドラムス)。アンコールでは主役2人が一緒に登場、遊び心たっぷりの演奏を聴かせた。このコンサートの企画者に敬意を表したい。楽器の生音が伝わる音響、シンプルに徹した照明も素晴らしかった。(原田 和典)


Popular CONCERT Review

「敦賀明子トリオ」10月21日 JZ Brat
 ニューヨークから一時帰国中のオルガン奏者、敦賀明子のライヴはH・シルバーの「シスター・セイディ」で軽快に飛ばしながら始まった。リラックスし、楽しみながら演奏している雰囲気が伝わってくる。アルバムから受ける印象よりも、ダイナミックで力強くスピード感のあるプレイだ。渡米前から勝負曲として弾いていたという「今宵の君は」はさすがに安定感があるし、真髄でもあろう。「ルー・ドナルドソンのエンターテイメント精神には感服する」という彼女自身の関西弁によるトークには、ショーウーマンとしての魅力も見え隠れする。(三塚 博)


Classic ALBUM Review

第6番
第7番
第9番

「ブルックナー:交響曲第6番、第7番、第9番/デニス・ラッセル・デイヴィス指揮、リンツ・ブルックナー管弦楽団」(BMG JAPAN/BVCC-31018)
 D.R.デイヴィスのブルックナー交響曲全曲シリーズも0番以前の習作を除き、残りは第5番のみとなった。今回も節度のある濃密さ、そして優しさに溢れた演奏で聴かせてくれる。決して粘らず旋律線を淡い光でライトアップでもしているかのように、ブルックナーの耽美なメロディとハーモニーを聴く人の心に深く刻んでくれる。特に第7番第1楽章の壮大な美、そして「白鳥の歌」である第9番最終の第3楽章の2つの悲しみの部分に挟まれたひとときの天国的な美、このような演奏表現の素晴らしさはデイヴィスの得意とする所と言えよう。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「ヴィヴァルディ:2つのヴァイオリンのための協奏曲集/ヴィクトリア・ムローヴァ(Vn)&ジュリアーノ・カルミニョーラ(Vn)、アンドレーア・マルコン指揮、ヴェニス・バロック・オーケストラ」(ユニバーサル ミュージック/UCCG-1431〜2)
 バロック音楽で高度な演奏を聴かせてくれるヴェニス・バロック・オーケストラは1998年、インスブルックでオルガン、ボローニャでチェンバロの両コンクールを制覇した達人マルコンによって創設されたが、今回のCDでは1982年のチャイコフスキー・コンクール優勝のムーロヴァ、そしてこれもピリオドと現代ヴァイオリンの両刀遣いでイタリア屈指のヴァイオリニスト、カルミニョーラの2人がソロを受け持ち、目の覚めるようなヴィヴァルディを聴かせてくれる。ソリストを含む全員の一糸乱れぬアンサンブルには正に爽快という言葉がぴったり。収録曲はすべて「2つのヴァイオリンのための協奏曲」で以下の6曲である。協奏曲ト長調RV516、ニ長調RV511、ニ短調RV514、変ロ長調RV524、ハ短調RV509、イ短調RV523。尚、演奏ピッチはA=440Hzである。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「スカラムーシュ〜ミヨー:独奏楽器と管弦楽のための作品集/メイエほか」
(BMG JAPAN/BVCC-31102)
 当CDには、「スカラムーシュ」、「エクスの謝肉祭」をはじめ、ミヨーが1920年代か
ら40年代半ばにかけての時期に作曲した個性的な協奏的作品4曲と、ボーナス・トラック
として室内楽作品1曲が収められている。フランスの驚異的な巧さと豊かな音楽性を誇る
クラリネットの名手で、また指揮者としても活躍しているポール・メイエが、しなやかな
集中力をもって「クラリネット協奏曲」を吹き振りしているほか、ピアノのエリック・ル
・サージュ、サクソフォンのファブリス・モレッティ、リエージュ・フィルの打楽器奏者
ヘールト・フェアシュレーヘンなどの名手たちの腕の冴えが楽しめる1枚。リエージュ・
フィルも気力充実の好演を聴かせている。(横堀 朱美)

Classic ALBUM Review

「ベートーヴェン:弦楽四重奏曲ホ短調Op.59-2、弦楽四重奏曲ハ短調Op.18-4 /アルテミス四重奏団」(EMIミュージック・ジャパン/VC-3802682
 アルテミス・クァルテットの進歩は止まるところを知らない。1996年に第1位が空席のままになることが多いミュンヘン国際音楽コンクールで第1位を射止めた彼らは、教えを受けた錚々たるクァルテットのラサール、アルバン・ベルク、エマーソン、ジュリアードたちの域に到達したと思える程の完璧な音楽を創り出し、我々を愉しませてくれる。速いテンポと非の打ち所がない強靱なリズムのベートーヴェン、ここまで表現できるクァルテットは彼ら以外には殆ど見当たらない、と言っても過言ではないだろう。現在のメンバーは次の4人である。Vn1=Natalia Prischenko, Vn2=Gregor Sigl, Va=Rriedemann Weigle, ‘Cello=Eckart Runge. (廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「モーツァルト:クラリネット三重奏曲 変ホ長調「ケーゲルシュタット」K.498、ブラームス:クラリネット三重奏曲 イ短調Op.114 /ジュリアン・ミルキス(Cl)、アレクサンドル・クニャーゼフ(Vc)、ヴァレリー・アファナシエフ(Pf)」(ワーナーミュージック・ジャパン/ WPCS-3802682)
 モーツァルトの「ケーゲルシュタット・トリオ」でヴィオラの替わりにチェロが弾いたCDは珍しいが、以前ストルツマン、アックス、ヨーヨー・マのものがあった筈だ。特に今回のようにじっくり曲と取り組んだ場合、表現の幅広さからチェロが活躍の場を拡げているようにも思える。曲全体はかなり遅めのテンポで進行し、モーツァルトらしい軽やかさの不足をいささか感じてしまう。一方ブラームスでは3人がモーツァルトの時とは違った心のこもった音作りを聴かせてくれる。特に第2楽章のチェロの暗さの中に明るさを感じる音色の不思議さ、そして第3楽章アンダンティーノ・グラツィオーソでは3つの楽器による対比の絶妙さが特に印象に残る。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「アーウィン・シュロット デビュー盤/アーウィン・シュロットほか」(ユニバーサル ミュージック/UCCD-1217
 1972年南米ウルグアイ生まれのバス・バリトン、アーウィン・シュロットのソロ・デビ
ュー・アルバム。1998年にドミンゴが主催する「オペラアリア」国際コンクールに優勝し、
一躍脚光を浴びた。これを機に、世界中の劇場から主役のオファーがくるようになり、今
や引く手あまたの大活躍ぶり。その豊かな美声と官能を秘めた深みのある名唱で聴衆を魅
了している。当盤には、フリッツァ/バレンシア自治州管弦楽団の精妙な演奏をバックに、
ドン・ジョヴァンニやレポレッロ、フィガロなど、十八番のレパートリーが収められてい
る。なかでも心憎いのは、ベルリオーズやグノー、マイアベーアのオペラでの悪魔役。聴
けば聴くほどあふれ出す、彼の魅力は底なし!!(横堀 朱美)

Classic ALBUM Review

「クラシック・ホーム・コンサート/VA」(ビクターエンタテインメント/VICC-60667〜70)
 日本ビクター創立80周年記念企画の洋楽クラシック版。誰でも楽しめるクラシック名曲を4枚のCDに収録 \2000 という超特価盤。Disc-1と2はオーケストラ曲集で、「カルメン前奏曲、「ペール・ギュント」組曲、「マドンナの宝石」、「アルルの女」、「舞踏への勧誘」、「ウィリアム・テル」序曲、「剣の舞」等、23曲。演奏はロビン・ステープルトン指揮 ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団、他。Disc-3はピアノ曲で、「エリーゼのために」「乙女の祈り」「トロイメライ」「かっこうワルツ」「ロマンス」等、22曲。ピアノはコルネリア・ヘルマン、エヴァ・ポブウォツカ、仲道祐子。Disc-4はその他の器楽曲。「愛の喜び」「タイスの瞑想曲」「ツィゴイネルワイゼン」「G線上のアリア」「愛の悲しみ」「白鳥」「アルルの女」等16曲。演奏はクリスティアン・アルテンブルガー、カトリーン・ショルツ、長谷川陽子、福田進一、パトリック・ガロワ他。(川上 博)

Classic BOOK Review

「ビルギット・ニルソン オペラに捧げた生涯」ビルギット・ニルソン著/市原和子訳(春秋社)
 20世紀を代表するワーグナー歌手として名高い名ソプラノ、ビルギット・ニルソンの自伝。彼女が世界の檜舞台で活躍した黄金時代のオペラ界が生き生きと、愛情豊かに活写されている。ステージを観ただけではうかがい知れないオペラ演奏の裏面史ともなっていて、数々の名歌手、大指揮者、演出家たちの実像がシャープに描かれている。スウェーデンの片田舎から出てきた娘が世界のプリマに上りつめるまでの苦難の歩み、ヴィーラントやヴォルフガング・ワーグナーが活躍していたバイロイト、ベーム、カラヤン時代のヴィーン国立歌劇場、ルドルフ・ビング率いるMETなどその現場を体験した実力者しか語れないエピソードが興味深い。成功者の自伝にありがちな自慢話の羅列ではなく、音楽家の喜びや悲しみを真摯に、ユーモラスに描き出しているのが見事で、原著がスウェーデンの批評家たちによって〈ユーモア賞97〉に選ばれたのも頷ける。(青澤 唯夫)

Classic CONCERT Review

「小沢征爾指揮オペラ《利口な女狐の物語》」8月26日 まつもと市民芸術館
 今年で17回目を迎えたサイトウ・キネン・フェスティバル松本では、ヤナーチェクの代表作がマエストロのタクトで上演された。フィレンツェ歌劇場との共同制作で、その初日を観た。人間と対立しながら、たくましく生きる女狐を主人公にしたオペラで、自然への限りない賛歌がうたわれている。すばしっこく動き回る女狐をイザベル・ベイラクダリアン(ソプラノ)が熱演し、これを追い駆ける森番のクイン・ケルシーは、重厚なバリトンで舞台を引き締めた。森の生き物と人間が一人二役を務めるユニークな配役もあり、民俗的な色彩が濃厚である。物語は悲劇的な結末を迎えるが、生あるものは再び蘇るという輪廻の東洋思想もうかがえる。
小沢はオーケストラのもつエネルギーを巧みに発散させ、大自然のドラマを豊かにうたわせた。描写的な音楽でも、その奥にある核心を絶えず求めていたと思う。(椨 泰幸)
(写真提供:サイトウ・キネン・フェスティバル松本、撮影:大窪道治)

Classic CONCERT Review

「小沢征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ」9月8日 長野県松本文化会館
 最初に振ったモーツァルト「交響曲第32番」は、作曲家が23歳の時の作品で、外国旅行から帰ったばかりで、意気洋々とした気分にあふれている。屈託のない喜悦が、オーケストラの弾むような旋律から、鮮やかに浮き彫りにされている。武満徹「ヴィジョンズ」の響きには、畏友への敬虔なオマージュがある。それでいて明るさを失わない。生前の武満を彷彿とさせるような人間味と洒脱な印象を生み出している。最後に演奏したマーラー「巨人」は堂々たる造形美である。巨匠マーラーと同じポストのウィーン国立歌劇場指揮者となって、その作品にはひとかたならぬ思いがあるだろう。その感慨を音楽に昇華させて、自在に表現したところに真骨頂がある。(椨 泰幸)
(写真提供:サイトウ・キネン・フェスティバル松本)

Classic CONCERT Review

「トン・コープマン・オルガン・リサイタル」 9月24日 東京オペラシティコンサートホール
 トン・コープマンが来日し、東京ではチェンバロとオルガンのリサイタルを開催した。前半の大半を占めたのがブクステフーデ作品。前奏曲とシャコンヌBuxWV137、パッサカリアBuxWV161など、オルガンの作風が概観できるよう組まれた8曲。「北オルガン楽派」に属し、若きバッハに大きな影響をもたらした作品にじかに接する機会は意外と少ない。ブクステフーデ協会の代表をつとめ、全曲録音に着手しているコープマンは、その深い傾倒ぶりを明らかにする演奏を聴かせた。明晰かつ引き締まった音世界は大きな説得力を持つ。つづいて演奏されたクープランの2つの小曲はいわば間奏曲の役割をはたす。後半のバッハもファンタジー、コラール、フーガ、パッサカリアという構成。小気味よいテンポによる「小フーガ」のあと、大曲「パッサカリア」でスケールが大きく、かつ厳しい音楽表現によって円熟の深さを印象付けた。(岡本 稔)

Classic CONCERT Review

「古典音楽協会第139回定期演奏会《ドイツの協奏曲》」9月25日 東京文化会館小ホール
 秋風の吹く頃、古典の140回に近い演奏会があった。前回のイタリアに続き、ドイツの協奏曲ばかりの企画であった。メンバーの中の3人が古稀を迎えた祝賀を兼ねていた。曲はファッシュの「ヴァイオリン協奏曲」ニ長調Vn伊賀純子、ヘンデルの「オーボエ協奏曲」変ロ長調Ob石橋雅一、バッハの「ブランデンブルク協奏曲第4番」ト長調Vn山本操・Rec片岡雅美・松山真奈美などを演奏した。後半は古稀を記念して、バッハの「チェンバロ協奏曲」ニ短調Cem佐藤征子が演奏された。ことに2楽章の歌い方はすばらしかつた。伴奏の弦楽アンサンブルも音色が暖かく美しかった。カール・シュターミッツの「協奏交響曲」ニ長調Vn角道徹・Vla菅沼準ニは圧巻。二人の息の合った演奏には惚れ惚れするものがあった。(齊藤 好司)

Classic CONCERT Review

「ローザンヌ歌劇場《カルメン》」10月11日 フェスティバルホール
 スイス・レマン湖畔にあるオペラハウスで、フランスの国境に近く、小粋な持ち味を身上としている。スペインを舞台にしたジョルジュ・ビゼー「カルメン」には、フランス生まれのユリア=モンゾンが急遽主役に起用され、奔放な役柄に立ち向かった。大劇場で成功を収めた歌手らしく、演技には貫禄が備わっているが、声にややむらがあったのは惜しまれる。カルメンを熱愛するドン・ホセは、イタリア出身のルーベンス・ペリッツァーリが演じて、よく透る美声で大役を果たした。清純なミカエラ役のブリギッテ・フールも、地味ながら好演した。
演出のアルノー・ベルナールは、歌手たちの動作に気を配り、絶えず動き回るカルメンを通して、移ろいやすい性格を描写していた。シリル・ディーデリッヒ指揮のローザンヌ室内管弦楽団はスマートな響きで、もう少し野性味を滲ませたら、厚みが強まったと思う。(椨 泰幸)
((c)Finnish National Opera Stefan Bremer)

Classic INFORMATION

「チェチーリア・バルトリ リサイタル」11月7日、9日 オペラシティコンサートホール
 現代最高のメッゾ・ソプラノ、チェチーリア・バルトリ。完璧なテクニックと美しく深い声、精緻な表現力に加え、ベルカントやバロックの埋もれた作品を発掘、上演する意欲的な活動でも知られる知性派でもある。2006年には10数年ぶりに来日、センセーションを巻き起こした。それに次ぐ来日となる今回は、ロッシーニを初め、ガルシア、マリブランなどの珍しい歌曲を集めたプログラム(7日)と、モーツァルトなどのポピュラーなアリアも聴けるプログラム(9日)の2種類を用意。いずれもバルトリの真髄が聴ける、楽しみな内容である。
問い合わせ 東京オペラシティチケットセンター 03-5353-9999 
URL http://wwwoperacity.jp (K)


Classic INFORMATION

「BCJヘンデル・プロジェクト 《ユダス・マカベウス》」12月7日 東京オペラシティコンサートホール
 来2009年のヘンデル・イヤー(没後250年)に向け、埋もれたヘンデルの名作をBCJが3年がかりで演奏する「BCJヘンデル・プロジェクト」。昨年の《エジプトのイスラエル人》に続き、今年はオラトリオの大作《ユダス・マカベウス》が上演される。旧約聖書にもとづく戦いと勝利の物語だ。音楽では、表彰式に使われる合唱曲〈見よ、勇者は帰る〉が有名だが、合唱はどれも凝っており、BCJの本領が発揮されそうである。昨今のヘンデル・ルネッサンスの1ページを飾る公演になりそうだ。
問い合わせ 東京オペラシティチケットセンター 03-5353-9999
URL http://www.operacity.jp (K)
〈写真:Marco Borggreve、〉

Classic INFORMATION

「新国立劇場公演《ドン・ジョヴァンニ》」12月5日〜15日 新国立劇場オペラ劇場
 モーツァルトの傑作《ドン・ジョヴァンニ》が、久しぶりに新国立劇場にお目見えする。オペラ界注目の新制作となるプロダクションを演出するのは、チューリヒなどで活躍するベテラン、グリシャ・アサガロフ。新鮮さも取り入れながら格調のある舞台を創出するアサガロフの《ドン・ジョヴァンニ》に期待しよう。歌手陣も充実しており、タイトルロールには今が旬の世界的なバリトン、ルチオ・ガッロ、ドンナ・アンナに、6月に同劇場《椿姫》で絶賛を博したエレナ・モシュクと逸材が揃う。この秋、話題のプロダクションになりそうだ。問い合わせ 新国立劇場チケットセンター03-5353-9999
URL http://www.nntt.jac.go.jp/ (K)
〈写真:Ms Elena Mosuc Photo〉

Classic INFORMATION

「レニングラード国立歌劇場管弦楽団」12月25日午後7時 ザ・シンフォニーホール
 170年の伝統を誇るロシアの名門オーケストラが、新鋭カレン・ドゥルガリヤンの指揮で、名曲を聴かせる。曲目はグリンカ「ルスランとリュドミュラ」序曲、ベートーヴェンピアノ協奏曲第5番「皇帝」、ショスタコーヴィチ交響曲第5番「革命」。ドゥルガリアンはアルメニア出身で、アルメニア国立放送交響楽団の常任指揮者を務める。ピアニストは人気抜群のウラジミル・ミシュクで、ダイナミックな演奏が期待される。同歌劇場はミハイロフスキー劇場の名前で知られ、サンクト・ペテルブルク(旧レニングラード)の芸術活動の中心的存在。料金は4,000〜8,000円。お問い合わせは同ホール(06−6453−6000)へ。(T)
(写真提供:ザ・シンフォニーホール)

Classic INFORMATION

MET「ライブビューイング」、新年度スタート
 オペラをもっと身近に観て欲しいと、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場が昨シーズンから始めた「ライブビューイング」。そのシーズンの最新の演目を、映画館上映という形で全世界に配信するという試みだ。日本では松竹が配給元となり、全国の映画館で配信された。既存のDVDなどと違い、最新(1,2週間前に初日を迎えた演目)の公演が映画館の大画面で鑑賞でき、また幕間の時間には、バックステージや、出演者のインタビューなども盛り込まれ、歌手や指揮者の生の声を聞けるのが大きな魅力だ。今シーズンの配信は11月から始まり、第一弾は表現力抜群のドラマティック・ソプラノ、カリタ・マッティラがタイトルロールを歌う《サロメ》。以下9演目が配信されるが、人気コンビのネトレプコ&ヴィラソンによる《ランメルムーアのルチア》、ベルカント歌手の最高峰、フローレス&デセイが共演する《夢遊病の女》など、見逃せない演目がラインナップされている。世界最高のオペラが気軽に鑑賞できる、他に類を見ない試みだといえるだろう。
問い合わせ 03-5772-8653 URL http://www.shochiku.co.jp/met/ (K)
〈Photo:(C)Ken Howard/Metropolitan Opera〉