2008年6月 

 
Popular ALBUM Review

「ハード・キャンディ/マドンナ」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-12880)
 前作でジョルジオ・モロダーなど70年代ディスコへのシフトと未来系のダンス・ミュージックのミックスに成功していた彼女、今回はさらに新しいダンス・ミュージックへのシフトに意欲を込めて、ティンバランドやジャスティン・ティンバーレイク、カニエ・ウェスト、ファレルなど、誰もが興味を持っている現在のミュージック・シーンのカリスマを動員して、スケールの大きなニュー・マドンナの演出に成功している。かつての、「エロティカ」を彷彿させるエロチィックなヴィジュアルとイメージを打ち出しながら、同作品ほどの過度な表現にならず、全方位的表現に徹底しているしたたかさもさすがだ。(村岡 裕司)

Popular ALBUM Review

「ブリング・ヤー・トゥー・ザ・ブリング〜究極ガール/シンディ・ローパー」
(ソニー・ミュージック ジャパンインターナショナル/EICP-968)
 既にTVのCMで流れている収録曲「Set Your Heart」で、レトロでシンプルなダンス・ミュージックにベテランならではの表現力を発揮していたが、正直、彼女なら当然ともいうべき一曲でもあった。7年ぶりとなるこのフル・アルバムは、同曲はあくまでもシンディの一部であって、彼女がまだまだ進化の途中であることを実感させる。斬新なサウンドをバックにして、カラフルなヴォーカルが全開なのだ。80年代のヒット曲は数々のダンス・フロア向きに数々のリミックスが制作され、その後のインディ時代もダンス・フロアで絶大な支持を得てきた人だけに、クラブ・シーンと直接向き合う音楽表現を堅持している姿勢をリスペクトしたい。(村岡 裕司


Popular ALBUM Review

「グッド・トゥ・ビー・バッド/ホワイトスネイク」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-12846)
 新録音のスタジオ・テイク4曲を加えたライヴ盤を2006年に発表し、健在ぶりを示したホワイトスネイクから届けられた新作。オリジナル・アルバムとしては、11年ぶりのものとなるはずだ(ちなみにデイヴィッド・カヴァーデイルは今年9月に57回目の誕生日を迎える)。ダグ・アルドリッチとレブ・ビーチという二人の優れたギターを前面に押し立てる形で、きちんと現在の音に仕上げられていて、カヴァーデイルもこの新生ホワイトスネイクには絶対の自信を持っているようだ。お約束の「ぐっとくるバラード」も、もちろん用意されている。(大友 博)

Popular ALBUM Review

「ラスベガスをぶっつぶせ/オリジナル・サウンドトラック」
(ソニー・ミュージック/SICP1813)

 5月末から我が国でも公開されるジム・スタージェス主演の映画『ラスベガスをぶっつぶせ』のサントラ。オアシスやJETのプロデューサーで知られるデイヴ・サーディーが音楽監修。ピーター・ビヨーン・アンド・ジョン、ドミノ、MGMTほかのぐっと新しい感覚の作品が収められている。そんななかでローリング・ストーンズの代表作「無情の世界」が登場、60年代の名作をベルギーの兄弟DJ/ソウルワックス(David and Stephen Dewaele)が映画のために新たにリミックス。ディスクとしては初登場ヴァージョン、ストーンズ・ファンの注目の一枚だったりもする。(Mike M. Koshitani)

Popular ALBUM Review

「シナトラ、ザ・ベスト!/フランク・シナトラ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-12892)

 丁度10年前の5月、フランク・シナトラの葬儀に立ち会った。ビバリーヒルズの空には飛行機雲がハートマークを描いていった。シナトラは芸能界のドンといわれたが、彼の影響を受けた歌手は世界に。最近ではマイケル・ブーブレ、マット・ダスクに色濃く継承されている。この没後10周年に発売された「ザ・ベスト!」は、1961年に自身が設立したリプリーズ・レコードから22曲を収めたもの。『マイ・ウェイ』ほかヒット曲は勿論、『カム・フライ・ウィズ・ミー』はじめ円熟した力のこもったシナトラのスウィンガーぶりが堪能できる。又ジョビンとの粋な『イパネマの娘』、さすが年輪を重ねた『楽しかったあの頃』の、しみじみとした味わいの未発表曲『ボディ・アンド・ソウル』、娘ナンシーとの『恋のひとこと』では優しくパパの顔を覗かせている。DVD付きのスペシャル・エディションも同時発売(WPZR-30279〜80)。(鈴木 道子)

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「ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・メラニー」(BMG JAPAN/BVCM-35303)
 洋楽通を自認する人でも1970年代前期に異彩を放ったシンガー/ソングライター、メラニーの魅力を知る人は少ない。今回のベスト盤(海外編集)は日本では実に20年ぶりのCD発売。きちんと知らしめられる機会があまりに少なかったこともその要因かと。61歳になった今も現役で自らの子供たちと共に元気にツアーをこなす様子はネット上でも確認出来るが、いでたちも姿勢も以前と変わらずナチュラリストでヴェジタリアン。そんな彼女の21曲入りベスト盤には全米No.1曲「心の扉を開けよう」は言うまでもなく、ストーンズの「ルビー・チューズデイ」(ヒット曲)やディランの「ミスター・タンブリン・マン」「レイ・レディ・レイ」など個性的な味わいのカヴァー曲も収録。(上柴 とおる)

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「1910フルーツガム・カンパニー・ベスト」(BMG JAPAN/BVCM-35297)
 1998年に日本編集で出されたベスト盤が廉価盤になって10年ぶりに再発売♪(オハイオ・エクスプレスやレモン・パイパーズ、ラヴィン・スプーンフルらのベスト盤も同様に)。「サイモン・セッズ」(1968年)でバブルガム・ポップスの‘開祖’ともなった1910〜(実体はスタジオ・グループ)だが、アルバム曲の「ミスター・ミュージック・マン」や「A,B,C,アイ・ラヴ・ユー」などは伝統的なアメリカン・ポップスの魅力を堪能させてくれるし「サイモン〜」のB面曲「鏡の反射」(オリジナル・アルバム未収録)はまるで趣の異なるソフト・サイケ風でもあるなど多才な面を持ち、彼らが優れたスタッフによる集団であったことが実感出来る内容。嬉しいことに今回は「対訳」付きだ♪ (上柴とおる)

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「時空の覇者/アイアンメイデン」(EMIミュージック・ジャパン/TOCP-66795)
 間もなく日本でも放送される『LIVE FROM ABBEY ROADのVOL.12』(NHKハイビジョン)でアイアン・メイデンが「審判の日」の超ロング・ヴァージョンを披露している。各メンバーの表情やヘアスタイルはさすがに年輪を感じさせるものだが、パワーはほとんど衰えていない。ベース奏者が核になるという珍しい編成で確立した美学やフォーメイションもほとんど変わっていない。変わりようがないのかもしれないが、正直なところ、感動すら覚えてしまったほどだ。これは、その彼らの黄金期、80年代に残された代表曲をまとめたベスト盤。もちろん「審判の日」も収められている。(大友 博)

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「ザ・ブルー・ミュージシャン/デニー・レイン」
(Isol Discus Organization/GQCP-50011)
 デニー・レイン自作自演のインストルメンタル・ナンバーを集めた珍しいアルバム。タイトル曲をはじめ味わい深い曲が独特の淡い色彩の音色で奏でられ、都会の雑踏を抜け出しのどかな田園の日だまりのなかへと誘ってくれるかのようだ。デニー・レインと言えば、1960年代にムーディー・ブルースを結成し「ゴー・ナウ」を大ヒットさせ、70年代にはポール・マッカートニー&ウイングスの一員としてロック・シーンをリードする存在だったが、そういうキャリアをまったく感じさせることなく、ひとりで音楽そのものを楽しんでいるようすが伝わってくるすてきな作品だ。(広田 寛治)

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「ザ・ロック・サヴァイヴァー ス ペシャル・エディション/デニー・レイン」
(Isol Discus Organization/GQCP-50012〜13)
 ウイングス解散以降のデニー・レインの多彩なソロキャリアを集大成したアルバムで、大ヒット曲「ゴー・ナウ」の再演や、ウイングス時代の1973年のレコーディングテイクからの「アイ・ウッド・オンリー・スマイル」「センド・ミー・ザ・ハート」(1980年のソロ・アルバム『ジャパニーズ・ティアーズ』より)も収録。このスペシャル・エディションと銘打たれた日本盤には、ウイングス時代のポールとの共作曲「夢の旅人」「子どもに光を」や「やすらぎのとき」の再演、ビートルズの「ブラックバード」のカヴァーなど4曲がボーナス・ディスクとして加えられている。(広田 寛治)

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「ROCK'N ROLL MARCH/SAWADA KENJI」(CO-CoLO Corporation/COLOム0805)
 6月に還暦を迎えるジュリーこと沢田研二のニュー・レコーディング・アルバム。ロックンロールなグルーヴ感あふれた実にパワフルな仕上がりだ。アルバム・タイトル・ソング、ストーンズ・タッチな「神々たちよ譲れ」、加瀬邦彦・作曲「海にむけて」、森本太郎・作曲/岸部一徳 沢田研二・作詞のバラード「Long Good-by」、八島順一(元ハウンドドッグ)作曲でジュリーの作詞によるロックな「TOMO=DACHI」ほか、まさにジャパニーズ・ロック・シーンの重鎮ならではのナンバーが収録されている。6月から≪沢田研二 LIVE 2008 還暦だぞ!! ROCK'N ROLL MARCH≫と題した全国ツアーがスタート(秋まで続く)。そして12月には東京ドーム!(Mike M. Koshitani)


Popular ALBUM Review

初回盤

通常盤

「GAME/Perfume」
(徳間ジャパンコミュニケーションズ/TKCA-73320=初回盤 73325=通常盤)

 CDを予約して買ったのは何年ぶりだろう。そして1日に何度、このアルバムを再生しただろう。オリコン1位と聞いた。こういう音楽が売れてよかった。かしゆか、あ〜ちゃん、のっちの3人組。打ち込みのバック・トラックと、思いっきり電気処理された彼女たちの歌声が織り成すコンビネーションは、たまらなく肉感的で芳しい。とくに英語詞の「Take Me Take Me」にはクラクラさせられる。“幻惑されて”というサブタイトルを勝手につけたくなるほどだ。「マカロニ」も名旋律、名コード進行の宝庫。巷ではテクノ・ポップとかいわれているようだが、もはやこれは≪Perfume≫というひとつの世界である。ライヴが見たい!(原田 和典)


Popular ALBUM Review

「願い/Hitomi」(M&Iミュージック/MICJ30462)
 LAで活躍中の日本の若きテナー奏者の第2作。先日発売記念のライヴをTokyo TUCで行ったが、アルバム収録曲も含めてその演奏はたくまし、斬新なサウンドを聴かせた。他人の真似は絶対しないという決意のようなものがみなぎったプレイで、若手では男性を加えても最高のレベルといえる。「アローン・トゥゲザー」「コルコバード」「ソーラン節」のほか自作の「願い」などでしなやかな快演を展開する。ギターを加えたピアノ・トリオにゲストでトロンボーンも加わる。全員アメリカのミュージシャンである。今年の日本のジャズの注目作のひとつだ。(岩浪 洋三)


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「フィニアスに恋して/松本 茜」
(コロムビアミュージックエンタテインメント/COCB53713)

 まだ20歳で、現役の大学生ピアニストの登場である。鳥取県の出身で、数年前から注目して聴いていたが、ついにレコーディングが実現した。のりのいいピアノを弾くときはハンプトン・ホーズやフィニアス・ニューボーンを思わせるところがあり、彼女もフィニアスが好きなところから、アルバム・タイトルが生まれた。若いが芯はしっかりしており、バランスのいいプレイをみせるし、グルーヴ感やドライヴ感が素晴らしい。いっぽうリリカルなピアノも弾いてみせる。ワイド・レンジなセンスのいいピアニストだ。フィニアスの「シュガー・レイ」も弾いているが自作の「ストーリー」や「ハーフ・ブラッド」も印象的で、彼女のおっとりとしたナイーヴな性格が反映された佳曲だ。山下弘冶(b)と正清泉(ds)が共演している。(岩浪 洋三)


Popular ALBUM Review

「フットプリンツ/スーパー・ジャズ・ストリングス」(Skip Records/SKIP-3002)
 スーパー・ジャズ・ストリングス(SJS)のデビュー作。SJSは、平山織絵(cello:15歳からチェロを始める)、maiko(violin:3歳からバイオリンを始める)、クラッシャー木村(violin:4歳からバイオリンを始める)、田中詩織(viora:18歳からビオラを始める)という4人の女性弦楽器奏者が集結したユニークなバンドだ。圧倒的な実力と豊かな表現力が魅力である。収録曲は、ジョビンの「おいしい水」、ウェイン・ショーターの「フットプリンツ」、エリントンの「A列車で行こう」、ジャンゴの「マイナー・スイング」、ジャコの「チキン」など幅広い。アレンジもソロも上手い。特に「おいしい水」での平山織絵のチェロ、「すべてがあなたと同じなら」でゲスト参加したMiyaのフルートが絶品である。(高木 信哉)


Popular ALBUM Review

「The Look Of Love/ FUKUMI」(What’s New Records/WNCS 5109)
 愛知県出身のFUKUMIは、日本と米国を股に駆けて活躍するジャズ・シンガー。彼女の2作目は、デヴィッド・ヘイゼルタイン(p)ジム・ロトンディ(tp,fhn)のカルテットとのNY録音。鼻にかかった声は、ちょっぴりナンシー・ウイルソン風だ。そういえば、ナンシーのレパートリーも2曲歌っている。彼女は、歌詞を大切にしてその内容をしっかりと聞き手に伝える歌手で、3曲歌うバカラック・ナンバーが特に印象的だ。一曲歌っている自作曲も素晴らしい。歌作りの才能にもなかなかのものがある。(高田 敬三)


Popular BOOK Review

「エリック・クラプトン自伝/エリック・クラプトン著 中江昌彦・訳」(イースト・プレス)
 昨年の秋、英米では2枚組のオールタイム・ベストとタイミングをあわせる形で発売された初の自叙伝(実際には語り起こしという形でまとめられた)の翻訳版。リプリーで過ごした幼少時から07年春前後までがカバーされているが、驚くべきは、その誠実かつ詳細な語り口だ。とりわけ数多くの女性たちとの関わりや、ドラッグ/アルコールとの苦闘に関しては「懺悔」の息を超えている。「実際に苦しんでいる人たちの助けになれば」という想いで包み隠さず語ったということだが、それにしても凄い。そのうえで、たっぷりと年を重ねてから幸せな家庭を得た者として「もはや私に恥ずべき過去はない」と語りきってしまうところが、いかにも彼らしい。個人的には音楽との出会いから、ギターを習得し、ロンドンの音楽界に飛び込んでいったあたりまでのパートにぐいぐいと引き込まれた。中江昌彦氏の翻訳も丁寧で、好感が持てる。(大友 博)

Popular BOOK Review

「BEST DISC 500 1963-2007」(ロッキング・オン)
 ビートルズがデビューした1963年から始まり、レディオヘッドが当初はネットだけでダウンロード販売を試みた07年までの45年分のロックの名盤をピックアップしたディスク・ガイド。一応ロック・ディスクということなのだが、フォークもカントリーもヒップホップもあるし、基本的にメインストリームにありつつエッジとヤバさを持ったアルバムが紹介されている。執筆陣は渋谷陽一、松村雄策、伊藤政則、大貫憲章、山本智志のほか、ロッキング・オン社刊行物のレギュラーの面々などが熱くロックの過激さを語る。(高見 展)

Popular CONCERT Review

「CHEAP TRIC at 武道館 AGAIN」 4月24日 日本武道館
 4月24日に行われたチープ・トリックの武道館ライヴ。これは彼らを世界的にブレイクさせたライヴ・アルバム『at武道館』の30周年を記念してのものだ。ぼくは地方在住の中学生だったので30年前のライヴは経験していないが、ロックを聴き始めたころにあのライヴ盤から受けた衝撃は忘れられないし、それが30年の時を経て再現されていることに、そしてその場に自分がいることに、大きな興奮を覚えた。観客たちの弾けるような盛り上がりぶりと大歓声(ライヴ盤で聞ける黄色さは控えめになっていたが)は、それぞれの30年分のロックへの思いを、今この場でチープ・トリックと共有しているということの表れだったと思う。(細川 真平)
写真:YUKI KUROYANAGI


Popular CONCERT Review
「ジェイムス・ブラント公演」 4月21日 NHKホール
 若手シンガー/ソングライターの中でも一歩、抜きん出た存在のジェイムス・ブラント。その持ち味は親しみ易いメロディーと明確な意志を持ったメッセージで、日本では初のホール・ツアーとなる今回のステージでも4人編成のバンドを従え、力強い歌声を披露していく。絶叫にも近いファンの声援等、聴衆の反応も熱く、それに応えるように彼も客席に飛び込んでファンとハグすれば、会場はますますヒート・アップ。でもやはり一番の聴き所はギター、或いはピアノをメインとした弾き語りの美しいバラードで、その都度、会場から自然発生的に沸き起こる合唱に、彼のメロディーメイカーぶりをあらためて思い知らされた。(滝上 よう子)

Popular CONCERT Review
「マーク・マーフィー」 4月27日 COTTON CLUB
  2年ぶりにコットン・クラブ登場のマーク・マーフィー、自ら「ヒップ・ホップのゴッド・ファーザー」になったと笑いながら言っていたが、クラブ系のファンなのか会場は、若い人も多くほぼ満員。インストの演奏に続いて登場したマークは、今年76歳だが相変わらずファンキーでヒップないでたち。中央の椅子にどっかと座ってホーレス・シルバーの「セニオール・ブルース」を伴奏メンバーにソロを回し紹介しながら歌う。今や現役ジャズ・シンガーの最長老のひとり、若手伴奏陣に囲まれてその存在感は凄い。スローなテンポで話していることが、そのまま歌になってゆく「ビーイン・グリーン」、一転、アップテンポで自在にフェークして歌う「ユー・ゴー・トウ・マイ・ヘッド」、コールマン・ホーキンスのソロにエディー・ジェファーソンが付けた歌詞で歌う「ボディ・アンド・ソウル」は、ピアノだけの伴奏でソウルフルに歌う。続いてジョビンの「エヴォリューション」「サムワン・トゥ・ライト・アップ・マイ・ライフ」そして、イヴァン・リンスの「ボレロ・デ・サタ」「ヴェラス」とお得意のブラジルものを4曲、アンコールは、最新アルバムでも歌っている「トゥ・レイト・ナウ」を人生の悲哀をかみ締めるような説得力のある歌で締めた。演劇人でもあったマークの歌って、そして見せるという素晴らしいステージ運びは、「あれ、もう終わりなの」と時間を忘れさせるものだった。(高田 敬三)

Popular CONCERT Review
「上原ひろみ」4月21日 カナダ大使館  4月30日 日本武道館
 第20回ミュージック・ペンクラブ音楽賞2部門受賞のジャズ・ピアニスト上原ひろみは、先月短い帰国中にふたつのコンサートで見事な音楽を披露した。4月21日、カナダ出身の偉大なピアニスト、オスカー・ピータースンを偲ぶコンサートが、カナダ大使館の彼の名を冠したシアターで、縁のミュージシャンを集めて行われた。そのステージでは、小曽根真、ホリー・コール他と出演。小曽根は日英語による司会も巧みに、ソロも小気味よく、上原も緩急起伏に富んだソロを展開。ピアノ・デュオではピータースンの「カナダ組曲」を豊かな情感と弾けるテクニックで表現した。また4月30日の日本武道館で行われたチック・コリアとのピアノConcert≪デュエット≫では、和気に満ちながらもスリルもあり、卓越したテクニックによるダイナミズムを発揮して、各々の自作、エヴァンス、モンク、ビートルズ・ナンバーなどを楽しませた。(鈴木 道子)

Popular CONCERT Review


「Sheena & Rokkets 30th Anniversary 『JAPANIK』 tour2008/シーナ&ロケッツ 」 5月1日 恵比寿ガーデン・ホール
 5月1日、シーナ&ロケッツ30周年記念ライヴが、恵比寿ガーデン・ホールで行われた。7年ぶりの新作『JAPANIK』をひっさげての登場である。30周年ということで、これまでロケッツに縁のあった豪華ミュージシャンがゲストとして集結。まずは、かつて同じアルファ・レコードに所属していたYMOの細野晴臣、高橋幸宏。この2人は、新作にそれぞれ曲を提供している。続いて、花田裕之(元ルースターズ)、永井隆(元ウェスト・ロード・ブルース・バンド)が、鮎川誠と火に散るようなギター合戦を展開した。更に元サンハウスの同僚であり、多くの歌詞を提供している柴山俊之が「I LOVE YOU」を激唱。最後に登場したのが、御大・内田裕也。歌ったのは勿論「ジョニー・B・グッド」だが、さすがのショーマン・シップを見せつけた。この曲は、鮎川誠が≪日本TV55周年≫のスポットで歌い、新作にも収録されている。私は鮎川誠と出逢い、30年。長年の友情の証として、昨年「鮎川誠 60s ロック自伝」(音楽出版社)をプロデュースした。思い返せば、この30年。一体何百回ロケッツのライヴを見て来たことか。しかし、この夜のライヴが、これまでのBEST・3に入る興奮と盛り上がりを見せたことは間違いない。鮎川の朋友ウィルコ・ジョンソンから贈られた言葉は「30周年おめでとう。これからの30年も頑張れよ」。頑張れ、ロックンロール!(チャック・ベリー)。(伊丹 由宇)

Popular CONCERT Review
「エイジア 東京公演」5月12日 東京国際フォーラムAホール
 ASIAはジョン・ウェットン、カール・パーマーらプログレの歴戦のつわものが結成した、古豪のスーパー・グループ。結成25年目の昨年に引き続きオリジナルメンバーによる世界ツアーが始まった。しかし、今年は単なる古いヒット曲の焼き直しではなく、新作アルバム『フェニックス』発表後とあって、ファンにとってはより期待感が増すライヴとなった。今年も昨年同様、往年のヒット曲とキングクリムゾン、イエス、EL&Pなど各メンバーが過去に在籍したバンドの代表曲が中心の演奏であり、新作『フェニックス』からは2曲だけの選曲であったが、充分に彼らのポテンシャルを堪能出来た。何と言っても、相当リハーサルとトレーニングを積んで来たことが伺える程、ジョン・ウェットンのヴォーカルは伸びやかで、素晴らしく張りのある歌声がホール全体に響いた。セッティングがシンプルなだけに、ブーミーなベースが気になったが、バンド・マスターのスティーブ・ハウが目を光らせていて、無駄なミスもなく締まった演奏が続き、1度もだれることなく会場は大歓声に包まれた。ASIAの今後の活躍と往年のロック・ミュージシャン達の復活を予感させる、ロック・ファンにとっては何とも嬉しい一夜となった。ライヴ終了後、5月にしては夜風が冷たかったが、オーディエンス全員が心熱くして家路についた。(上田 和秀)
写真:YUKI KUROYANAGI

Popular INFORMATION
「NEW SHINJYUKU JAZZ SCRAMBLE」6月15日
 副都心線開通記念イベントとして東京/新宿でジャズ・スクランブル。追分交差点の特設のメインステージでは日野皓正クインテットをはじめルシア塩満、NORA from オルケスタ・デラ・ル・ス、そしてジャパニーズ・ジャズ・シーンを代表する若いアーティスト達が出演。また、新宿各地の百貨店のサテライトステージでもライヴが展開される。岩浪洋三氏による≪新宿ジャズ物語≫も解説として登場する。メインステージは午後2時からのスタート、観賞は無料。http://shinjuku-eisa.jp/f.o.event/

Classic ALBUM Review

「ブルックナー: 交響曲第7番 ホ長調 WAB107[ノーヴァク版]/パーヴォ・ヤルヴィ指揮、フランクフルト放送交響楽団」(BMG JAPAN/BVCC-34167)
 清新なブルックナー演奏で、明るい開放感、美しい旋律のうちに、自然な伸びやかさと豊かな抒情、瞑想的な魅力をたたえている。ノーヴァク版による演奏だが、過去の名演奏をよく咀嚼しながら、新世代ならではの斬新で生き生きした主張が息づいている。来日公演にもこの曲が組まれているが、このコンビによるブルックナー録音がこんなにも快調にスタートしたことで、新全集への期待も高まる。アルテ・オーパーの美しい響きを見事に捉えた好録音で、ハイブリッド仕様だがSACDマルチチャンネルの素晴らしさがよく活きている。(青澤 唯夫)

Classic ALBUM Review

「ヴィヴァルディ: 協奏曲集Op.3《調和の霊感》より/ターフェルムジーク・バロック・オーケストラ」(BMG JAPAN/BVCD-38234〜35)
 ドイツ・ハルモニア・ムンディ創立50周年記念リリースの1つ。1979年に設立されたカナダのピリオド楽器オーケストラが感動的な演奏を聴かせてくれる。何よりもこの躍動感に充ちた新鮮な音楽は他に類を見ない。特に作品3の12曲の中から2つのヴァイオリン・ソロを持つ4曲はゲスト・ソリストのエリザベス・ウォールフィッシュとこのアンサンブルを率いるジーン・ラモンの素晴らしく息のあった演奏を聴かせてくれる。またボーナスDVDに入っている「四季」は中国、インド、イヌイットの民族楽器を弾く名手たちとのコラボレーション、この民族楽器奏者達の達者なことに感心し、全く異質な楽器同士のアンサンブルに誰もが驚きを感じてしまうこと請け合い。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「シューベルト:ピアノ五重奏曲イ長調〈鱒〉、シューマン:ピアノ五重奏曲変ホ長調Op.44/田部京子(ピアノ)、カルミナ四重奏団、ペトル・イウガ(コントラバス)」(コロムビアミュージックエンタテインメント/COGQ-31)
 知り尽くした名曲を知り尽くした仲間たちと親密に演奏する喜びが伝わってくる、気持ちのよい4チャンネルSACD、ハイブリッド・ディスクだ。シューベルトのくつろいだ楽しげなアンサンブルの妙は、聴き手にも至福の時間を運んでくることだろう。華やかなのに外面的な効果を狙わない節度をもったピアノと、それをしなやかに包む弦の呼吸がいい。一方のシューマンは、作品に相応しくロマン的な情感と激しい情熱が横溢する雄弁な演奏で、しっとりした内省的な味わいにも不足しない。こうした意欲的な新録音で、レコード界を活性化してほしいものだ。(青澤 唯夫)

Classic ALBUM Review

「オブローのティル/オブロー・クラリネットアンサンブル」(佼成出版 KOCD-2522)
 オブローとはフランス語で「小さな鷹」と言う意味で、未来に発展させる高い意思を掲げるプロのクラリネット8重奏団である。この団体の第2弾のCDで、愉快なオブローがたった8人で「ティルオイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」(リヒャルト・シュトラウス)を見事にやってのけるといういたずらが面白い。このCDの発売を記念して第20回目の演奏会が4月18日川口リリア音楽ホールで開催された。「ティル」は完成度からするとこのCDにはかなわないが、ライブ演奏としては感動的ですばらしい盛り上がりを聴かせていた。有名なホルンのテーマはバセットホルンで演奏していた。E♭ソプラノクラが聴き応えがあった。アンサンブルとしては「ジョイフル・クラリネット」(真島俊夫)が良かった。なおこのCDには昨年の定期で名演だった「絵のない絵本」(樽屋雅徳)も収録されている。クラリネット・ファンにとっては必聴の一枚であろう。(齊藤 好司)

Classic ALBUM Review

「ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第7番、第9番《クロイツェル》/諏訪内晶子(Vn)、ニコラ・アンゲリッシュ(Pf)」(ユニバーサル ミュージック/UCCP-1130)
 諏訪内晶子が遂にベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲にアタックをかけた。これは大ヴァイオリニストになるための避けて通れない一里塚である。チャイコフスキー・コンクール制覇から既に18年、聖域に踏み込むには早すぎることはないだろう。このCDを聴いてみると全曲を通して美しい音楽を形作っているが、ベートーヴェンとしては部分的にやや緊張感が足りない部分もある。特にクロイツェルの冒頭のアダージョ・ソステヌートから主部の頭にかけてそれを感じる。しかし全般的には諏訪内の持つ美のベートーヴェン像を垣間見ることが出来る。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「ビゼー:歌劇《カルメン》/ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、レオンタイン・プライス(Sop)、フランコ・コレルリ(Ten)、ロバート・メリル(Bar)ミレルラ・フレーニ(Sop)、ウィーン国立歌劇場合唱団、ウィーン少年合唱団他、オリジナル・プロデューサー:ジョン・カルショー」(BMG JAPAN/BVCC-34150〜52)
 1963年11月に録音された当時話題を集めたソリア・シリーズのSACDによる全曲復刻盤。これはライヴではなく、このレコーディングのために、当時これだけの大物たちが10日間も時間をさいて集まったことだけでもすごい。そして今回はソリア・シリーズの豪華さを再現すべく、1964年に発売された折りに制作されていたスイス、スキラ社印刷のデラックス解説書が縮小されて添付されている。それにしても45年前のプライスを始めとするスターたちの豊かな声量と歌の上手さは眼前で繰り広げられる舞台を彷彿とさせてくれる。特にプライスの場面によって変化する素晴らしい声は当時の人気の高さを実証するに充分である。そしてカラヤンがウィーン・フィルと組んで作り出す雰囲気は歌手陣と一体となり、加えてオペラ録音に於けるカルショーの並はずれた音作りが聴く者の心に強く迫ってくる。 (廣兼 正明)

Classic DVD Review

「ロストロポーヴィチ/芸術と人生」(ユニバーサル ミュージック/UCBG-1253)
 昨年4月27日80歳と丁度1ヶ月で世を去った20世紀最高のチェリスト、ロストロポーヴィチの素晴らしい遺産と言えるDVD。バーンスタイン/フランス国立管とのシューマンのチェロ協奏曲とブロッホの「シェロモ」、カラヤン/ ベルリン・フィルとはR.シュトラウスの「ドン・キホーテ」と3曲が収録されているが、ロストロポーヴィチ、カラヤン、バーンスタイン共に32,3年前全盛期の映像で全てが歴史に残る名演と言って良いだろう。特にシューマンの協奏曲は美しい。又、余白に収録されているドキュメントでは、第二次世界大戦、戦後のロシア国家体制の中を生き抜いた苦難に満ちた人生を、彼に対するショスタコーヴィチ、ペンデレツキ、グートマン、ヴェンゲーロフ等のコメントもフューチャーしながら、彼がどのように生きてきたかをつぶさに知ることが出来る。(廣兼 正明)

Classic MOVIE Review

「オーケストラの向こう側〜フィラデルフィア管弦楽団の秘密」 配給:セテラ・インターナショナル
 フィラデルフィア管弦楽団といえば、アメリカの数あるオーケストラのなかでも5本の指に入る名門。そのオーケストラの団員たちの軌跡と日常、創造活動を描いたユニークなドキュメンタリーが誕生した。音楽との出会い、オーケストラに入ったきっかけ、音楽とともにある日常の風景・・・静謐で美しいカメラはひとりひとりの内面を追いながら、音楽家とは、音楽とは何かという個々の問いをあぶり出す。彼らはどこにいても、何をしていても、≪音楽≫を呼吸しているのだ。≪音楽≫のもたらす幸福を、さりげなく伝えてくれる貴重な一本。(加藤 浩子)

5/17(土)〜 6/13(金)渋谷ユーロスペースにて期間限定ロードショー!他全国順次公開
※平日はレイトショーのみ、土日はモーニング&レイトショー
※6/7(土)〜6/13(金)はモーニングショーのみ 
http://www.cetera.co.jp/library/orche.html
写真:(C)2004 Anker Productions, Inc. All rights reserved.

Classic CONCERT Review

「一柳慧の音楽」3月31日 渋谷/トーキョーワンダーサイト
 巨匠作曲家/ピアニストである一柳慧の音楽を、若手ミュージシャンが表現する一夜を聴いた。一柳みずからメとくに超絶技巧を要する作品を選んだモというだけあって、「タイム・シークエンス」、有名なセレナーデを変奏していく「パガニーニ・パーソナル」、アフリカ音楽への視点を感じさせる「源流」等、奏者の体や指の動きを見るだけでも「すごいなあ」と感心せずにはいられないナンバーが並ぶ。一柳自身もトーク部分で存分に語り、古典「ピアノ音楽IV、VI」ではついに演奏に参加、鍵盤をメッタ打ちにした(ほんの数分だったとはいえ)。巨匠と若手の贅沢なコラボレーションに心から拍手を送りたい。 (原田 和典)
〈写真提供:Tokyo Wonder Site、撮影:Riichi Yamaguchi〉

Classic CONCERT Review

「トランペットの日」4月5日 富ヶ谷/Hakuju Hall
 普段ジャズ系のトランペット奏者ばかり聴いているので、クラシック系のそれに接すると実に新鮮な気分になる。主役を務めた神代修は東京フィルハーモニー交響楽団出身の奏者。トランペット研究家としての顔も持っている。この日も、少年時代のヴェルディが書いたという幻の作品「トランペットとオーケストラのためのアダージョ」発見に至るエピソード等、数々の興味深いMCを挟みながら華麗な演奏を聴かせた。いわゆる通常のトランペットに加え、ナチュラル・トランペット(バルブがついていない)、長管トランペット、ロータリー型バルブ・トランペット、フリューゲルホーン等を持ち替えてのステージ。聴きごたえたっぷりだった。 (原田 和典)

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「ケント・ナガノ指揮モントリオール交響楽団」4月11日 フェスティバルホール
 カナダのオーケストラながら、フランス文化の影響を受けて育った。洗練されたサウンドから芳醇な香りが漂ってくる。ドイツ音楽を得意とするケント・ナガノを音楽監督に迎えても、そのスタイルは変わらず、響きは一段と冴え渡って、豊かさを加えている。名シェフ・ナガノはいたずらに自説を主張しないで、このオケのもつ卓越した潜在能力をフルに引き出すことに成功した。それを痛感させたのがR・シュトラウス「アルプス交響曲」で、金管の朗々とした響きに、フランス音楽とドイツ音楽のエッセンスを鮮やかにブレンドした。ドビュッシーの二つの作品「牧神の午後への前奏曲」「交響詩<海>」は描写的な性格があり、印象派音楽のもつ感覚を巧みに再現した。(50回記念大阪国際フェスティバル参加)(椨 泰幸)

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「ザルツブルク音楽祭制作オペラ《フィガロの結婚》大阪公演」4月20日 フェスティバルホール
 ザルツブルク音楽祭を統括するユルゲン・フリム総監督に率いられて日本公演が実現した。近年この音楽祭で腕を振るうクラウス・グートが演出を担当し、ピリオド(時代)楽器の演奏で定評のあるエイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団が出演、若手のロビン・ティチアーティが指揮をとった。
このオペラはもともと伯爵の浮気心に端を発して、ブッファの色彩が強い。これに対してグートはリアルな愛のドラマに仕立て直して、人間の苦悩を浮き彫りにした。舞台セットも時代がかったものを避けて、階段のある白い部屋をメインに、衣装も現代風にした。キューピッド的な存在の天使ケルビムを通して、主役たちの感情の揺れを象徴的に描いた。
この結果、伯爵(スティーヴン・ガッド)の比重がこれまでよりも増してきたが、よく期待に応えた。伯爵夫人(エイリン・ペレス)の陰翳に富んだ歌声とともに、ドラマに深さと厚みを加えた。ケルビーノ(ジュルジーダ・アダモナイト)の蓮っ葉な行動は、軽やかな歌声に包まれて、ブッファ的な面白みを充分に堪能させてくれた。(同フェスティバル参加)(椨 泰幸)
〈Photo:Monika Rittershaus〉

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「オペラ《アイーダ》」4月22日フェスティバルホール
 EU文化首都プロジェクトとして企画された。ドイツ生まれの気鋭の演出家ペーター・コンヴィチュニーが起用され、斬新な演出が話題になった。彼は「アイーダ」の持つ壮大なスペクタクル性を否定し、熱烈な純愛のドラマを核心に据えた。オペラの背景となっているエジプトの風景を極力抑えて、舞台中央に置かれた長椅子がドラマの進行に一役買っている。有名な凱旋行進曲は弱々しげで、勝者のパレードも足並みは重く、若き司令官ラダメス(ヤン・ヴァチック)は傷ついて帰還する。そこには戦争に対する批判を読み取ることができる。
新演出に隠れた形になったものの、ウォルフガング・ボージッジの手堅い指揮で、東京都交響楽団や合唱(東京オペラシンガーズ、栗友会)はヴェルディの色彩豊かな旋律を聴かせた。アイーダ(キャサリン・ネーグルスタッド)とその恋敵アムネリス(イルディコ・セーニ)は、緊迫した心の葛藤を柔軟な声に託した。従来の常識に果敢に挑戦する新演出は、オペラに永遠の生命感を与え、新鮮な効果をもたらす。どしどしやってもらいたい。肝要なことは、それが聴衆に深い感動を与えるか否かであるが、そこまでは至らなかった。かえって音楽が生気を与えたことは皮肉である。(同フェスティバル参加)(椨 泰幸)

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「ザルツブルク音楽祭制作オペラ《フィガロの結婚》東京公演」4月25日 東京文化会館
 2006年のザルツブルク音楽祭で話題を集めたクラウス・グート演出の『フィガロ』が日本にやって来た。原作には存在しない天使ケルビムを登場させたり、人びとの心理や欲望を深読みして前面に表出したり、数々の新機軸を打ち出している。傑出した歌い手はおらず、演技の巧みさや掛け合いで聴かせる演出だったが、いいオペラを観たなという充実感はある。それは注目の若手指揮者ロビン・ティチアーティが名手を揃えたエイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団とキビキビした好演を繰り広げたからだ。音楽が素晴らしければ、オペラは楽しい。演出が歌い手や音楽の邪魔をしなければ。(青澤 唯夫)
〈写真提供:朝日新聞文化財団、撮影:中江 求、写真は名古屋公演分〉

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「読売日本交響楽団東京芸術劇場名曲シリーズ」5月12日 東京芸術劇場
 読売日響の5月の名曲シリーズは、正指揮者として高い評価を得ている下野竜也の指揮で、ホルストの「フーガ風序曲」、エルガーのチェロ協奏曲(独奏:クレメンス・ハーゲン)、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」というプログラム。
 楽譜を読み込み、作品に肉迫しようとする下野の指揮はいたって明快で、曲がくっきり見通せる快感を味あわせてくれる。そのような取り組みがもっとも成功したのが「ペトルーシュカ」。難解なスコアを風通しよく響かせ、さまざまなものの同居するストラヴィンスキーの高度な「遊び」を堪能させてくれた。一方、エルガーの協奏曲では、ハーゲンの内省的な演奏もあいまって、深い湖のような奥行きのある音楽が生まれていた。絶妙な「間」の取り方と、その「間」のすみずみにまで音楽を感じさせる音楽性も、下野竜也の大きな魅力だと思う。これからがますます楽しみだ。(加藤 浩子)
〈写真提供:読売日本交響楽団〉

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「ウィーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団」7月17日いずみホール
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の著名なコンサートマスター、ライナー・キュッヒルによって1973年に設立された。設立当初からキュッヒル・カルテットと呼ばれているが、外国やCDでは表記の名前で親しまれている。ウィーン・フィルの首席奏者4人で結成され、本拠地の楽友協会ブラームスホールで1975年以来、定期演奏会を開く栄誉を担っている。いずみホール(06−6944−1188)ではベートーヴェンの弦楽四重奏の全曲演奏会を企画しており、この日は「第1番」「第12番」の他に、コダーイ「第2番」を取り上げる。一般6,000円、学生3,000円。(T)

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「東京室内歌劇場 第120回定期公演《夜長姫と耳男》(創立40周年記念)」7月26,27日 第一生命ホール
 「室内歌劇」を旗印に、ユニークな活動を展開してきた東京室内歌劇場が、今年創設40年を迎えた。記念公演の第一弾となる第120回定期公演では、坂口安吾の小説にもとづいた間宮芳生のオペラ《夜長姫と耳男》(写真:夜長姫=飯田みち代)を取り上げる。1990年に初演されて以来上演の機会がなく、久々の再演。太棹三味線の響きが印象的な、夢幻的な美しさに満ちたオペラである。大岡信の詩をベースに義太夫の要素を取り入れた間宮作品、《おいぼれ神様》も同時に上演される。問い合わせは東京室内歌劇場 03-5642-2267 (K)

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「ロッシーニ・オペラ・フェスティバル 日本公演」11月15〜23日 びわ湖ホール、Bunkamuraオーチャードホール
 ロッシーニの生地であるイタリア、ペーザロで1980年に創設され、昨今のロッシーニ・ルネッサンスの震源地ともなっている人気フェスティバルが初来日する。メインの出し物は、このフェスティバルでの上演を通じて真価が認められたといってもいいオペラ・セリアの2作品、《オテッロ》(=写真)と《マホメット2世》。ロッシーニ研究の権威で、現在ロッシーニ・オペラ・フェスティバルの芸術監督を務めるアルベルト・ゼッダと、日本でもおなじみの指揮者グスタフ・クーンの棒のもと、グレゴリー・クンデ、ロレンツォ・レガッツォら旬のロッシーニ歌手が集う。オペラ・セリアならではの壮大なストーリーが、ロッシーニの華麗な歌絵巻に彩られる快楽を、ぜひ味わいたい。問い合わせはBunkamura 03-3477-3244 http://www.bunkamura.co.jp/ (K)

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「第5回長久手国際オペラ声楽コンクール2008」 9月10〜15日 長久手町文化の家 森のホール
 名古屋近郊の長久手町で2000年から隔年に行われているオペラ声楽コンクールが今年第5回を迎える。今年から本格的な国際コンクールとして広く世界から参加者をつのることとなり、第一次予選(10〜12日)、第二次予選(13〜14日)を経て最終日の15日に本選会が行われる。審査委員長はフォルカー・レニッケで第一位100万円、第二位40万円、第三位10万円の賞金が贈られる。問い合わせは「長久手国際オペラ声楽コンクール事務局(0561-61-3411)」迄。http://www.town.nagakute.aichi.jp/bunka/bunka/salon/index.html (H)

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「オペラ!/ベルリン・フィル 8人のホルン奏者たち」(フォンテック/FOCD9320)
 独墺系の音楽でその音色の欠かせないホルン。ブルックナーやワーグナーの音楽においては、その響きは人間を広義の「自然」に引き戻す。ベルリン・フィルの女性を含む8人のホルン奏者がオペラの一部を編曲して演奏するのがこのディスク。ドイツ・オペラが3曲、イタリア・オペラとフランス・オペラが各一曲、アメリカのミュージカルから一曲(『ウェストサイド物語』)ずつ選ばれている。ドイツ・オペラの場合は、原譜がホルンのパートを含む場合が多く、それ以外は、オリジナルでは弦楽が感情の綾を主導的に表現しているものをホルンに置き換えた編曲で演奏している場合が多い。聴いていてどちらが面白いかといえば、やはり後者に引き込まれるむものが多い。音色の色彩感やリアリズムだけでなく、遠近感や定位のチェックに使えるディスク。(大橋 伸太郎)

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「ストラヴィンスキー:『春の祭典』『ミューズを率いるアポロ』ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン指揮、オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団」(オクタヴィアレコード/OVCL00312)
 オーディオ機器の試聴テスト盤としても使われ、マニアの間でも人気のある「春の祭典」に最強のアルバムが登場した。ワイドレンジで雄大に重低音を響かせるダイナミックなサウンドは、特に大型スピーカーを使うマニアにこの醍醐味はたまらない。最大の聴きどころとして知られる「選ばれしいけにえへの賛美」(11トラック)は豪快、鮮明、圧倒的なスケールが楽しめる。この難曲をこれほど鮮烈、ダイナミックに収録しているのは見事だ。録音は06年8月オランダ放送フィルの拠点、ヒルヴェルサムMCOスタジオにておこなわれた。EXTONのスタッフがこれまで以上にこだわり完成度の高い音質に仕上げている。限定ダイレクトカット盤も同時発売。(福田 雅光)

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「He never mentioned love/Clair Martin」(LINN/AKD 295)*輸入盤
 英国の香りが漂うリン・レコードのアルバムから Clair Martin の『He never mentioned love』 をご紹介したいと思う。イギリスのジャズ・ヴォーカルとして活躍する彼女の歌の魅力はもとより、リン・レコードのオーディオへの魅力度に要注目、音楽とオーディオの斬新なコラボレーションにも魅惑されるアルバムの一つだからである。コンパクト・ディスクのパッケージはSACDとCDレイヤーのハイブリッド、ダウンロード・サービスに対応のハイエンドのデジタル音源として 24bit/96kHz スタジオマスタークオリティのWMA/FLACやiPodなどへの音源としてMP3のオーディオ・ファイルなど、オーディオ・システムのグレードに最適の音源を入手することができる。(須藤 一郎)

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「J.S.バッハ マタイ受難曲/ジョン・バット指揮 ダンディンコンソート&プレイヤーズ」(LINN CKD313)*輸入盤
 スコットランドを本拠に活躍しているダンディンコンソートがヘンデルの「メサイア」に続いてバッハの「マタイ受難曲」に挑戦し、注目すべき成果を上げた。1パート一人の声楽と最小構成の管弦楽で構成し、今回も響きの見通しの良さは驚くばかり。おなじみの曲から新鮮なハーモニーを引き出すだけでなく、最後まで一気に聴かせる集中度の高さにも圧倒される。「メサイア」と同じ録音会場であるエディンバラのグレーフライアーズ教会の空気の存在を実感させる深い音場感は、SACDのマルチチャンネルエリアでの再生が圧巻。リン・レコードのサイト(http://www.linnrecords.com)ではマスタークオリティの高音質音源を入手できる。(山之内 正)