2007年11月 

Popular ALBUM Review

「フォエヴァー・クール/ディーン・マーティン」
(EMIミュージック・ジャパン/TOCP-70324)

 亡き名歌手ディーン・マーティンの歌にいろいろな歌手が歌を加えてデュエットした興味ぶかいアルバムだし、さらにビッグ・バンドも加えているので、スインギーで華やかなアルバムとなっている。アルバム・タイトルは、“永遠にイカした男”という意味である。ディーンの肩の力を抜いた歌はすばらしい。「あの娘の顔に慣れてきた」「ジャスト・イン・タイム」「外は寒いよ」などをクリス・ボッティ(tp)、デイヴ・コーズ、マルティナ・マクブライド、ケヴィン・スペイシーなどとの共演で楽しく聴かせてくれる。録音風景、秘蔵映像などを収録したDVD付だ。(岩浪 洋三)

ヨーロッパも含めて、スタンダード・ナンバーを歌う歌手がどっと出てきているが、元祖の一人であるクルーナーの真髄ともいうべきディノの歌声がリリースされた。彼をリアルタイムで見たり聴いたりした者にとっては懐かしくもあるが、新鮮にも聴けるところに、彼の実力と独自の甘さ、それにタイムレスな魅力がある。彼は95年に亡くなっているが、ナット・コール+ナタリー父娘同様、オリジナル・ヴォーカルのみデジタル処理し、それにオケと歌、楽器を新たに加えてデュエットを聴かせている。彼のヒット曲集でないところがいい。といいながら「誰かが誰かを恋してる」をヴィブラートがセクシーなアズナヴールがフォローしているのも面白い。(鈴木 道子)

Popular ALBUM Review

「ソングス・オブ・マス・ディストラクション/アニー・レノックス」
(BMG JAPAN/MVCP21558)
 マチュアな自作自演歌手はいいなあと思う。どの曲もしっくりと心に響いてくる。アニーはユーリズミックスからソロとなって10数年、一層自己が確立され充実したアーティストとなった。4年ぶりの新作は『大量破壊の歌』という題名だけに、今、世界の一員として生きていくこと、様々な感慨、主張する事の重要さなどが切実感を伴い、かつ余裕を持って歌われている。歌声も自由で伸びやか。80年代から培われたシンセ・ポップ/ロック感覚を充実させ、ダークな内容の曲でも重たくならずにしっかり聴かせるあたりはさすが。HIV予防のための「シング」は、マドンナはじめ多くのスターたちが参加し、切なる呼びかけは説得力がある。(鈴木 道子

 
Popular ALBUM Review

「Smile Again/ワークシャイ」(テイチクエンタテインメント/TECI-24448
 ロンドンの男女デュオが放つ5年ぶりの新作。今までこんなに間が空いたことはなく、そろそろワークシャイが恋しくなる?頃に届けられたこのアルバムは、クリスタ・ジョーンンズがママになってからの記念すべき第1弾。敬愛するトッド・ラングレン作の名曲「ハロー・イッツ・ミー」の優しげなカヴァーで始まり、1980年代前期あたりのAOR風なスタイルを持つ「スマイル」へと続くが今回はこの80年代風の趣が主軸になっている。特に40歳前後の世代にはかなりの懐かしさと共に歓迎されるに違いない。透明感のある楽曲と耳あたりの良さが心地良く、そしてシュッとしたスタイリッシュながらとりすましたところもなく人肌のぬくもりが感じられる。(上柴 とおる)

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「ガールズ・アンド・ウェザー/ザ・ランブル・ストリップス」
(ユニバーサルミュージック/UICI9022)

 ザ・フラテリスを発掘したフォールアウト・レーベルが、同じプロデューサー、トニー・ホッファー(ベック、エール等)を起用して送り出す、英南西部の街、コーンウォール出身の4人組のデビュー作。アコースティカルなバンド・アンサンブルが特徴で、メンバーによるホーンも入った華やかで元気いっぱいのサウンドは、明るく軽妙なデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズといった趣がある。中でもシン・リジィのヒット曲カヴァー「ボーイズ・アー・バック・イン・タウン」を聴けば、ランブル・ストリップスというバンドの持ち味や力量がよく分かる。(保科 好宏)

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「ネヴァー・ルック・バック/エボニー・アレイン」(KSR/KCCD-293)
 何10回も聞き続けたが(これホント)今だに飽きることがないので少々困って?いる。英国自作自演歌手の本邦初盤。すべての曲がどこかで耳にしたことがあるようなメロディーやサウンドの流れを持ち、もう全曲シングル・カットOK♪1980年代の英国のシャレたソウル風ポップスが好きなファンにはとりわけ◎だろう。スピナーズ、マーヴィン・ゲイ、バカラック。。。具体的な名前が思い浮かぶ曲もあり「あまりにも。。。」という声も出そうだが、安直さを感じさせることはなく、独立した魅力ある楽曲として輝いているからこそ繰り返し聞いてしまうのだ。ちょっとくぐもった感じの歌声もセクシー。26歳。唯一のカヴァー「ハロー・ストレンジャー」(バーバラ・ルイス:1963年)はあまりにもハマリ過ぎ♪(上柴 とおる)

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「ライヴ・フロム・キルバーン/ファースト・バーバリアンズ」(MSI/MSIG 0421〜2)
 フェイセズ時代のロニー・ウッドが1974年7月に行ったライヴの記録がCD+DVDとなってファンの前に登場。ロニー自身がオフィシャル化したのだ。キース・リチャーズ、イアン・マクレガン、ウィリー・ウィークス、アンディ・ニューマークらがロニーをサポート、そしてロッド・スチュワートもゲスト参加している。ロニーのファースト・ソロ・アルバム『I’ve Got My Own Album To DO/俺と仲間』リリース直前のコンサートからで、1作目からのナンバーが中心に披露される。実に価値ある音源/映像の発売に大拍手である。(Mike M. Koshitani)

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「ロールド・ゴールド〜ヴェリー・ベスト・オブ・ザ・ローリング・ストーンズ/ザ・ローリング・ストーンズ」 (ユニバーサルミュージック/ UICY-1397〜8)
 ストーンズの1975年11月15日にリリースされた2枚組ベスト・アルバム(LP)が初めてCD化。当時の28曲に12曲追加され全40曲収録。1960年代のストーンズの代表作を網羅したまさにヴェリー・ベスト。とはいえ、この作品集を聴いていても、現役グループとしての“汗”を感じるのは、まさにシーンのトップを転がり続ける彼らだからこそ。通常盤(国内生産)のほか『リミテッド・エディション』(輸入盤国内仕様/ジェイクボックス)」(UICY-90734〜5)も同時リリースだ。(Mike M. Koshitani)

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「ヴェリー・ベスト・オブ・サンタナ/サンタナ」(BMG JAPAN/BVCP-21561)
 7月に還暦を迎えたカルロス・サンタナが、その40年にわたる音楽的歩みを1枚のディスクに凝縮させたベスト盤を発表した。焦点が当てられているのはサンタナの評価と人気を確立した初期3枚と、近年の『スーパーナチュラル』3部作。さらに3部作関連の未発表トラックが4曲収められていて、ミッシェル・ブランチ版に先がけてティナ・ターナーと録音してあった「ゲーム・オブ・ラヴ」やジェニファー・ロペスとの新曲など、カルロスとクライヴ・デイヴィスの信頼関係や制作へのこだわりを強く感じさせる仕上がりとなっている。「ブラック・マジック・ウーマン」がラジオ版で収められていることや、『キャラバンサライ』系が完全に外されていることなど、若干不満もあるのだが。(大友 博)

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「フォトグラフ:ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・リンゴ・スター/リンゴ・スター」
(EMIミュージック・ジャパン/TOCP-65545)
 リンゴ・スター初のオールタイム・ベスト・アルバムが登場。1971年の「明日への願い」から2005年の「フェイディング・イン・アンド・アウト」まで、ビートルズのメンバーが参加した曲なども含め全20曲を収録。バック・オーエンスとの共演「アクト・ナチュラリー」が収録されているのもうれしい。同時にコレクターズ・エディションとして、ボーナスDVD付も発売(TOCP-7031)。CDは同内容で、DVDにはCD未収録の「センチメンタル・ジャーニー」など代表曲7曲のプロモーション・ビデオと、ジョン・レノンとリンゴがナレーションをつとめるアルバム『グッドナイト・ウィーン』のテレビCMが収録されている。(広田 寛治)

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「マザー・シップ〜レッド・ツェッペリン・ベスト/レッド・ツェッペリン」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-12779)

 時限的なものとはいえ、ついに正式な活動再開を決めたレッド・ツェッペリンが2ディスク=24曲入りのベスト盤をリリースする。1枚目には初期4作品から13曲、2枚目には後期作品から11曲という構成で、選曲は「これしかないだろう」といった感じ。「また?」という声も聞こえてきそうだが、最新リマスターということで、ファンの方はやはり買うしかあるまい。DVD付デラックス・エディションも同時発売(WPZR-30252〜4)。つづいて、やはりリマスターを施し、オリジナル版未収録の6曲を加えた『永遠の詩』も出る予定。ジミー・ペイジの熱心なアーカイヴィストぶりには頭が下がる。(大友 博

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「ザ・グレイテスト・ソングス・オブ・ザ・シックスティーズ/バリー・マニロウ」
(BMG JAPAN/BVCP-21520)
「ザ・グレイテスト・ソングス・オブ・ザ・セヴンティーズ/バリー・マニロウ」
(BMG JAPAN/BVCP-21556)

 2006年1月にリリース、29年ぶりに全米No.1に耀いた『ザ・グレイテスト・ソングス・オブ・ザ・フィフティーズ』に続くバリー・マニロウの新作は同じシリーズの「〜シックスティーズ」(アメリカでは昨年10月にリリース)と最新アルバムの「〜セブンティーズ」。もちろんこのアルバムの仕掛け人もクライヴ・デイヴィスです。カヴァーという手法でエスタブリッシュ・アーティストに新風を吹き込む方式は実はクライヴが60年代の終わりにアンディー・ウイリアムスなどのMOR歌手のマーケッティングに使った手法でした。つまり40年後の今も有効だったということです。さてこの手法でロッド・スチュワートに続いてクライヴが手がけたのがバリーの復活。バリーにカヴァーさせた曲は"大戦後のヒット曲"、ロッドのそれより1世代後の団塊マーケットを狙ったといえます。ちなみに一連のシリーズでクライヴが中心となって選曲された楽曲は一曲もダブっていません。ただ有名曲を並べたのではなくアーティストと企画に合わせ厳選された楽曲の魅力がアメリカの"ベビー・ブーマーズ"マーケット"に支えられて大ヒットに結びついたといえるでしょう。(北澤 孝)


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「ナンバー・ワンズ/スティーヴィー・ワンダー」
(ユニバーサルミュージック/UICT1036)

 スティーヴィー・ワンダーの1963年の初ヒット「フィンガーティップス」から、2005年の最新ナンバー・ワン・ヒット「ソー・ホワット・ザ・ファス」まで、全米のヒット・チャートでナンバー・ワンになった作品ばかり集めた編集盤。さすがに、40余年の歴史と、その間のナンバー・ワン・ヒットの集積はすごいものがある。どれも、メロディーも覚え易く、すでに他のシンガーがカヴァーしてスタンダード化した作品も多い。やはり、継続は力なりを改めて思わせられる一枚だ。(吉岡 正晴)

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「グレイテス・ヒッツ/スパイス・ガールズ」
(EMIミュージック・ジャパン/TOCP-66733)

  約10年ぶりとなるリユニオン・ツアーに合わせて企画されたベスト・アルバム。世界的な大ヒットになった「ワナ・ビー」から名曲「ママ」、後期の代表作「ホラァー」に至るおなじみのナンバーに加えて、2曲の新曲「永遠のヘッドライン」「ヴードゥー」で締めくくるコンセプトは、テイク・ザットの先例に倣った内容だ。ベッカム夫人ヴィクトリアの参加もさることながら、最初にグループから脱退したジェリも揃った5人全員が顔を合わせた点が大きな価値がある。個人的には、なつかしさというより、まだまだ現役のイメーもあるので、テイク・ザット同様次のプロダクツにリンクさせてほしい企画である。通常盤の他にDVD付きのデラックス・エディション(TOCP-667340)、さらにヴァージョン・アップさせた内容のギフト・ボックスも発売(TOCP-66735/輸入国内盤)(村岡 祐司)

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「IT'S NEVER TOO LATE/井上 堯之」(ソニー・ミュージック/MHCL1129)
  スパイダーズのメンバーとして活躍、ジャパニーズ・ミュージック・シーンを代表するギタリストの井上堯之が81年にリリースのアルバムが初CD化。この作品集は同年3月にイギリスでレコーディング。ロンドン在中のベーシスト、クマ原田が参加ということで、アルバム中4曲で元ローリング・ストーンズのミック・テイラーがスペシャル・ゲスト。井上ファンは勿論のことストーンズ・マニアからも注目を集めている。懐かしさというだけでなく、実に素晴らしい演奏ぶりに改めて感動させられるのだ。邦盤といえ貴重な作品集のCD化、しっかりとしたライナーノーツ、ミックのコメントなどを掲載して欲しかった。(Mike M. Koshitani)

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「ジャズ・フラーティン/リア・クライン」(Vivid Sound/VSCD 310)
  オランダで活躍するアメリカの歌手、リア・クラインの2作目。前作は、スタンダード・ナンバーを中心に歌うものだったが、今回は、彼女が歌詞を書きピアノのディアク・バルトハウスが曲を付け、彼女自身のクインテット、「ジャズ・フラーティン」でセッションを繰り返すうちに練り上げていったというオリジナルを歌う。ジャズ、フリー・ミュージック、ファンク、ポエトリー、ラテンなどの要素が入り混じったフュージョン・ミュージックで、遊び心もあり、聞くほどに奇妙な魅力に取り付かれる面白いアルバムだ。(高田 敬三)

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「バット・ビューティフル/アンナ・シセ」(スパイス・オブ・ライフ/PBCM-61026)
 スウェーデンは北欧でもっともモダンでジャズが盛んな国といわれる。いいシンガーがたくさんいるし、ジャズもスマートで趣味がいい。アンナ・シセは舞台女優、モデルとして活躍してきたが、歌手に専念してみようとアルバムを作った。歌がうまいというだけでなく、黒人らしいニュアンスにとんだチョコレート色の豊かな声の持主。そしてさすがに女優、歌にドラマがある。歌っているのは古くから名曲として知られている曲がほとんど。しゃれた「イッツ・オーライト・ウィズ・ミー」はドラマを見るような面白さがあるし、古めかしい「オール・ザ・シングズ・ユー・アー」も快いスウィング感を伴いながらつややかなジャズにしている。「バイ・バイ・ブラックバード」はじめ、スウェーデンで人気のピアニスト、ヤン・ラングレンやサックス・ソロなどをフィーチャーして、のびやかなジャズを楽しませる。繰り返し聴いてもあきない落ち着いた大人の味わいが満ちた好盤だ。(鈴木 道子)

Popular ALBUM Review

「アビス/山中千尋」(ユニバーサルミュージック/CCJ2060)
 桐朋学園大、バークリー音大を出て、ニューヨークで活躍中のピアニスト。今年の5月に録音されたばかりの新作。ビセンテ・アーチャー(b)、ケンドリック・スコット(ds)を従えてのトリオ演奏。山中は小柄できゃしゃだが、パワーがあり、バリバリと弾きまくってもみせる。「シング・シング・シング〜ギブ・ミー・ア・ブレイク」「ジャイアント・ステップス」などはパワフルだ。独創的アイディアにみちていて、スリル満点だ。テクニックもあり、ピアノを美しい音で鳴らせる術も心得ている。スタンダードとオリジナルで構成されている。会って話をすると、とても頭のいい女性で感心する。この10月には一時帰国する。各地でライヴを行う予定なら生も聴いてみたくさせる新作だ。(岩浪 洋三)

Popular ALBUM Review

「ワン・ノート・サンバ /谷口英治ミーツ・トリアングロ」
(アート・ユニオン/ARTCD-113)

 北村英治につぐ日本を代表するクラリネット奏者谷口英治のラテン・ジャズ・アルバム。ラテン・コンボ、トリアングロとの共演なので、躍動するラテン・リズムが快適である。谷口のクラリネットは表情が明るく、音はクリアーで美しく、少々モダンなところもあって、生き生きとしている。「ベサメ・ムーチョ」「ワン・ノート・サンバ」「サンバ・フォー・カーメン」「キャラバン」といったラテン曲から「ダニー・ボーイ」「鈴懸の径」までを演奏。サービス精神もあって大いに楽しめる。(岩浪 洋三)

Popular ALBUM Review

「Lonely with You/えり」(GFE/GECN-7008)
 歌の上手さに定評のあるミュージカル・スター伊東恵里。『ミス・サイゴン』『ひめゆり』『ルルドの奇跡』『天翔ける風に』ほか多数のミュージカル、『美女と野獣』『メリー・ポピンズ』ほか映画の日本語版主役の吹替え等に大活躍の モえりモ のニューCD。小椋佳のプロデュースで、アルバム・タイトルにもなっている「LONELY WITH YOU」は、えりの自作曲。それ以外は小椋佳の作品 (作詞・作曲6曲、他の作家との共作6曲)。「君が旅に出ると言った時には」「泣かせて」「忘れるために」「WHISPER」、梶浦由記作曲の「LOVING YOU」、スティーブン・シュラックス作曲の「美しい暮らし」など全13曲、静かな美しい曲揃いで、えりの歌唱力が断然光る。一聴をお奨めしたい1枚だ。 (川上 博)

Popular ALBUM Review

「Keeping You in Mind/エミリー・サックス」(PSクラシックス/PS-749)
  エミリー・サックスはクラシックとジャズのピアノを学んだが、方向転換してカレッジで法律を専攻し、1995年にタイに渡ってから再び音楽に目覚め、ジャズ・ポップスを歌って3枚のCDを発表、タイ、シンガポール、香港で成功を収めた異色のシンガー。アメリカに帰って初録音のこのCDは、ベーシストのデイビッド・ピッチと共同制作した最新盤。もの静かな雰囲気をたたえた唱法で、「レインボー・スリーブス」「ゲット・ハッピー」「ウォーク・オン・バイ」「テイキング・ア・チャンス・オン・ラブ」「グッドバイ・アゲイン」「ユー・メイク・ミー・アップ」等、12曲を歌っている。 (川上 博)

Popular DVD Review

「覇響/デヴィッド・ギルモア」(ソニー・ミュージック/SIBP-86〜7)
  また、やられてしまった。それが日本発売に際しては『覇響』という、立派なタイトルが用意されたデヴィッド・ギルモアのDVDボックスを観終えたときの溜息混じりの偽らざる印象だ。原題は『Remember That Night』。昨年3月に22年ぶり、通算3枚目のソロ・アルバムとしてギルモアが発表した『オン・アイ・アイランド』のタイトル曲の歌い出しの一節がそのまま使われているが、アルバムの発表に合わせてくれたツアーのロイヤル・アルバート・ホールでのライヴ映像は、観る者を不思議な安息感で満たし、幸福な気持ちにさせてくれる。パフォーマンスのレベルの高さは勿論のこと、ライティングを含むステージ・プロダクションから撮影・録音に至るまで最高のクオリティ。そしてロックの成熟した、ひとつの形がみてとれる。人間同士のコミュニケーションが音楽に以下に必要であるかということとともに・・・。(立川 直樹)

Popular DVD Review

「ポール・マッカートニー・アンソロジー1970-2005/ポール・マッカートニー」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPBR-90670〜2)

  ソロ&ウイングス時代のプロモーション・ビデオとライヴ映像を集大成したファン待望のDVD(3枚組)の登場。45曲分のプロモというのも圧巻だが、ライヴ映像も、ロック・ショー、MTVでのアンプラグド、ライヴ・エイド、グラストンベリーなど、ポールを知る上で欠かせないパフォーマンスを収録。映像、音声とも修復され、リマスターされている。副音声では、ポール自身のそれぞれの映像に関するコメントも副音声で楽しめる。ビートルズに匹敵する数々の記録をうちたてたビートルズ解散後のポール・マッカートニーの魅力と足跡を知るのに最適。(広田 寛治)

Popular CONCERT Review
「ラッド」9月8日 COTTON CLUB
  アルファベットでは“RAD.”と書く。この芸名は、本名ローズ・アン・ディマランタのイニシャルからつけたという。サンフランシスコ・ベイエリアを中心に活動するシンガー/ソングライター、キーボード奏者で、プリンスのツアーにも同行したことがある。華奢で小柄な女性だが、鍵盤の弾きまくりは70年代のハービー・ハンコックばりの迫力を持ち、ヴォーカルも声量たっぷり。ギターのレイ・オビエド(ハンコックやジョージ・デュークと共演)、サックスのエリック・リーズ(プリンスとの共演が有名)といった錚々たるメンバーを見事にリードしながら、一瞬も飽きさせないステージを披露した。現在まで日本で5枚のCDをリリースしているラッド。ぜひ聴いてほしいアーティストだ。 (原田 和典) 
写真提供:COTTON CLUB

Popular CONCERT Review
「チック・コリア ランデヴー・イン・トーキョー」9月24日〜10月3日
 BLUE NOTE TOKYO

  天下のチック・コリアが10日以上も≪BLUE NOTE TOKYO≫に連続出演、日替わりで多彩な魅力を伝えるという贅沢な企画“ランデヴー・イン・トーキョー”が大成功のうちに幕を閉じた。最初の3日間は上原ひろみとのピアノ・デュオ。チックの遊び心と果敢に攻める上原のやりとりに場内は沸きに湧いた。続く3日間はジョン・パティトゥッチ(ベース)、アントニオ・サンチェス(ドラムス)とのトリオ。現代最高のリズム隊のひとつであろう彼らを得て、チックのインスピレーションは留まるところを知らない。パティトゥッチはどこまでベースを上手くなれば気が済むのだろう。最後の3日間はバンジョー奏者ベラ・フレックとの共演。ときにフォーキーに、ときにクラシカルに、幻想的なデュオを繰り広げた。 (原田 和典) 
写真:山路ゆか

Popular CONCERT Review

「ヤコブ・ヤング・グループ」 9月18日 岩本町/TOKYO TUC
 ECMレーベルからアルバムを出しているノルウェーの若手ギタリスト、ヤコブ・ヤングがCDと同じメンバーで来日した。ナイロン弦のエレアコ・ギターとセミアコ・タイプのエレクトリック・ギターを持ち替えながらのプレイは実に真摯。ひたむきを絵に書いたような演奏家だ。だが会場につめかけた多くのファンの目当てはドラマーのヨン・クリステンセンだったのではなかろうか。60年代から北欧ジャズをリードする重鎮である彼は79年のキース・ジャレット・カルテット以来、約28年ぶりの来日。メトロノーム的なビートを一切拒否し、空間を彩るように音をばらまいていく。あまりにも美しいシンバルの音、ブラッシュの粒立ち。僕の耳はいつしかヨン様のドラムばかり追いかけていた。 (原田 和典)

Popular CONCERT Review
「ルシア塩満 アルパ・アコースティック・コンサート」10月7日 東京文化会館小ホール
  昨年度、第19回ミュージック・ペンクラブ音楽賞ポピュラー部門でコンサート・パフォーマンス賞を受賞したアルパ奏者、ルシア塩満のコンサートが今年も東京文化会館小ホールで開催された。他の追随を許さない彼女の演奏はさらに安定感を増したようだ。PAを一切使うことなく、ホール全体を包みこむ自然なサウンドは、弦のひとつひとつが見えるかのように聴衆に届く。名曲「カスカーダ」は繊細な旋律のなかに、大変スケール感のある音像が浮かび上がる。第2部の中盤にゲストとして登場した日下部由美とのアルパの共演は、ふたりが奏でる音と音とが綾をなしているような見事な響きだった。(三塚 博)
写真:綿貫 宏

Classic ALBUM Review

「シューマン:交響曲第1番《春》、第4番/スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮、ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団」(BMG JAPAN/BVCO-37445)
 オーソドックスな演奏形態を保持しており、その意味で最後の巨匠と言われている84歳になったスクロヴァチェフスキがブルックナー、ベートーヴェンに続いてシューマンの交響曲の録音に取りかかった。ベートーヴェン同様このシューマンの演奏でもさすが巨匠の風格を感じさせる。第1番、第1楽章の可成りゆっくりとした序奏から速めの主部〈アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ〉への盛り上がりながらの移行、そして小気味よい弦の16分音符でのスピッカート奏法や、多くのルバートを効果的に用いている。第4番をも含め、歳を感じさせない若々しさに溢れた透明で快適なシューマンを聴かせてくれる。
尚、オーケストラの名前がこれまでと異なるが、これはザールブリュッケン放送管弦楽団が今シーズンから日本でも有名になった06年ドイツ・ワールドカップ、日本対オーストラリア戦会場の街のオペラ主力のオーケストラ、カイザースラウテルン放送管弦楽団と合併し、このように長い名前のオーケストラに改称されたためである。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「ロマンティック・ヴァイオリン・リサイタル/ミリヤム・コンツェン(Vn)、ヘルベルト・シュッフ(Pf)」(BMG JAPAN/BVCO-37448)
 日本にも度々来ているドイツの俊英ヴァイオリニスト、ミリヤム・コンツェンはドイツ人の父と日本人の母を持つ1976年のミュンスター生まれ。ウィーンにゆかりのある作曲家3人の曲を集めたこのCDは実にウィーン的な、粋な演奏とも言える。このところ人気の出てきたツェムリンスキーの5楽章からなるセレナードをはじめとして、シューベルトの幻想曲、そして内容的にも密度が濃いブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番だが、どの曲も曲の持つ個性を美しく表現している。特にシューベルトの出来が良い。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「〈ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集11〉第30番ホ長調Op.109、第31番変イ長調Op.110、第32番ハ短調Op.111/仲道郁代(ピアノ)」(BMG JAPAN/BVCC34108)
 仲道郁代によるベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集の最終巻。曲の構造を明確に認識し、見事なテンポ設定で難曲の「ハンマークラヴィーア・ソナタ」を弾き上げた仲道が、このシリーズへの果敢な挑戦を通じて精神も表現力も厳しく鍛えてきたのを納得させる。ホ長調ソナタは、自由な幻想性を感じさせながら終楽章に向かって周到な歩みを進め、充実した変奏で締めくくる。変イ長調ソナタも若い女性の演奏とは思えない。老練ともいえるほどに、細部まで聴かせ方を心得ている。ハ短調ソナタは内省的で、崇高。理屈っぽい、念入りな演奏ではあるのだが、表現がよくこなれていて、これら極上の作品の真価を深々と味合わせてくれる。(青澤 唯夫)

Classic DVD Review

「プッチーニ:歌劇《トスカ》/キャサリン・マルフィターノ(Sop)、リチャード・マージソン(Ten)、ブリン・ターフェル(Bar)他、ネーデルランド・オペラ合唱団、ユトレヒト大聖堂少年聖歌隊、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、リッカルド・シャイー指揮、ニコラウス・レーンホフ演出」(ユニバーサル ミュージック/UCBD-1064)
 1998年アムステルダム、ネーデルランド・オペラ、音楽劇場制作によるビデオだが、この比較的新しい劇場は専属のオーケストラを持っていない。1998年に上演された「トスカ」はリッカルド・シャイーがこの時代にロイヤル・コンセルトヘボウの首席指揮者であったためピット入りが実現したプロダクションの貴重な映像である。このプロダクションの特徴は3つある。第1は演出にバイエルンの鬼才ニコラウス・レーンホフを充てたこと、第2にシャイー指揮のコンセルトヘボウによる伴奏、第3には主役級3人にイタリア人以外の実力派歌手を起用したことである。指揮者以外の主なポジションからイタリア色を排したことに斬新な切り口が目立ったのではなかろうか。イタリア・オペラらしくないレーンホフの演出がシリアスなイメージを際だたせ、歌手の隠された歌唱力と演技力を引きだし、そして何よりもシャイーによって紡ぎ出されたコンセルトヘボウの深みのある音が、悲劇「トスカ」の内容をさらに盛り上げる効果を上げることに成功している。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「パヴァロッティ・フォーエヴァー」(ユニバーサル ミュージック/UCCD-1201-2)
 9月6日に永眠したパヴァロッティの2枚組追悼盤が発売された。このCDは世界中のパヴァロッティ・ファンに対する形見分けとも言えよう。1枚目は今やクラシック・ファンでなくても知っているトゥーランドットからの「誰も寝てはならぬ」をはじめ、オペラのアリア21曲を網羅し、2枚目はイタリア民謡をメインにシナトラとのデュエット、「マイ・ウェイ」をも含む第二部とも言える肩のこらない20曲が入っている。そして録音も彼の全盛期だった68〜97年に収録されたもので、彼のメモリアルCDとしてこれ以上のものはないだろう。「キング・オブ・ハイC」なる称号を持つ美しく張りのある高音が十分に楽しめる。(廣兼 正明)

Classic CONCERT Review
「マティアス・ゲルネ シューベルト三大歌曲集」9月19、21、24日
東京オペラシティコンサートホール

 旧東独ヴァイマール出身のマティアス・ゲルネは、ドイツ・オペラからリートまで幅広い活躍を繰り広げている、ドイツ期待のバリトン歌手である。そのゲルネが、リートの代名詞シューベルトの三大歌曲集をとりあげる意欲的なコンサートを行った。
豊麗で彫の深い歌声はゲルネの強力な武器で、声の力だけでも飽かさず聴かせるだけのテクニックも備えたひとだが、今回は曲にあわせ、一夜ずつがらりとアプローチを変えて聴衆を引きつけた。《美しき水車小屋の娘》は、水車小屋の脇を流れる小川のようにとうとうと流れる自然でリリカルな筆致で物語の流れを浮き彫りにし、《冬の旅》では対照的に1曲1曲を屹立させ、各曲のドラマ性をきわだたせた。ベートーヴェンの《遥かなる恋人に》と組み合わせた《白鳥の歌》では、ベートーヴェンの骨太さと、シューベルトの前衛性がくっきりと対照された。アレクサンダー・シュマルツの包み込むようなピアノも好もしかった。(加藤 浩子)

Classic CONCERT Review
「レザミー・カルテット コンサート」9月25日 めぐろパーシモンホール・小ホール
 東京佼成ウインドオーケストラクラリネット奏者による四重奏の演奏会(提供・ムジカ・ダンネ)が開催された。今回で2回目だが新設されたばかりの名称「レザミー」とはフランス語で友人・仲間達の意味である。名の通り実に息のあった仲良しグループの暖かい演奏会であった。1Clの大浦綾子、2Clの林裕子、3Clとバセットホルンの松生知子、いつも佼成ではトップの関口仁が今回はバスクラで登場した。女性だけのトリオで、普通ファゴットで演奏されるパートをバセットホルンに持ち替えて、さすが佼成の高い技術を見せ、見事なモーツアルトの「ディヴェルティメント」K.Anh229 No4を聴かせた。ファルカシュの「ハンガリー古代舞曲集」はピアニッシモの美しい優雅な仕上がりであった。難曲のウールの「ディヴェルティメント」も難なくこなしていた。あとは「サウンド・オブ・ミュージック」や「スリー・ラテン・ダンス」など充分楽しめる演奏会であった。(斎藤 好司)

Classic CONCERT Review
「古典音楽協会 第137回定期演奏会」9月28日 東京文化会館小ホール
 古典音楽協会は長い歴史を誇る14人からなる弦楽アンサンブルだが、今回は特にコンサートマスターの角道徹のリードが冴えていた。プロは全て協奏曲で、「チェンバロ協奏曲イ長調」(Cバッハ)Cem佐藤征子、「リコーダー協奏曲第二番」(バストン)Rec片岡正美、「チェロ協奏曲イ短調」(ヴィヴァルデイ)Vc藤沢俊樹、「ヴィオラ協奏曲ニ長調」(シュターミッツ)Vla東義直、「オーボエ協奏曲ニ短調」(ヴィヴアルデイ)Ob石橋雅一、「ヴァイオリン協奏曲変ロ長調」(ペルゴレージ)Vn中藤節子、だった。最も印象深かったのはチェンバロ協でタッチが軽やかで歌うようであった。またヴァイオリン協はE線がめ立たず綺麗な色彩であった。ヴィオラ協は重音が豊かで荘重な響きがした。最後は全員の合奏「カノン」(パッへルベル)で盛り上がった。バランスのとれた暖かい響きのアンサンブルであった。(斎藤 好司)

Classic CONCERT Review
「相曽賢一朗ヴァイオリン・リサイタル 2007」 10月11日 
東京文化会館小ホール
 年に数度しか機会のないロンドンで活躍する相曽賢一朗の日本公演が、初秋の宵に開催された。曲は無伴奏を中心にして、「前奏曲 作品9」(エネスコ)、「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ハ長調」(バッハ)、「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」(バルトーク)であつた。バッハでは超絶技巧が披露されソリストとしては日本人によるヴァイオリンの技量もここまで達成してきたかの感を強くした。バルトークでは第一楽章で魂の雄叫びをさえ感じた。三楽章では東洋的な日本の子守唄を感じさせるような神秘さを感じた。唯一ヴィオラとの二重奏(Va松実健太)となった「ヴァイオリンとヴィオラの二重奏曲」(モーツアルト)はテクニック上のバランスも最適でみごとなできだった。アンコールの二重奏、相曽編曲「チャルダツシュ」(モンティ)は圧巻であった。(斎藤 好司)

Classic CONCERT Review
「サイトウ・キネン・フェスティバル/小沢征爾指揮、オペラ《スペードの女王》」8月31日 まつもと市民芸術舘
 ロシア帝政末期の爛熟した社会の退廃的な側面を鋭く描いた詩人プーシキン原作「スペードの女王」に、チャイコフスキーが作曲した。他人の婚約者を奪い、賭博に熱中して、挙句の果ては、有り金をすって転落する男の悲劇的な半生を、チャイコフスキーはドラマティックな旋律で描き切った。破滅的な行動に出るゲルマンにウラディーミル・ガルーシン(テノール)が起用され、物欲に憑かれた人物の姿を柔軟性に富んだ声で表現した。婚約者リーザを奪われるエレツキー公爵をスコット・ヘンドリックスが、控えめながらも好演し、渋いバリトンで舞台を引き締めた。リーザ役のオルガ・グリャーコワ(ソプラノ)は素質に恵まれた声の持ち主であるが、悲運に泣く劇的な表現に乏しかった。
デイヴィッド・ニースの演出は手堅く、簡素な装置と華やかな衣装のコントラストに意を用いて、時代相を見事に浮き彫りにした。小沢は悠揚迫らざる指揮で、歌手やオーケストラを存分に歌わせたのは流石である。(椨 泰幸)
〈写真:ほそがや博信〉

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「サイトウ・キネン・フェスティバル/小沢征爾指揮、サイトウ・キネン・オーケストラ」9月8日 長野県松本文化会館
 フランス音楽を特集した中で、ベルリオーズの「幻想交響曲」が光っていた。夢と情熱の交錯する第1楽章から、有名な「断頭台への行進曲」が胸をえぐる第4楽章を経て、魔女たちが不気味に踊るシーンの第5楽章まで、音楽は大きなうねりとなって押し寄せ、会場を包み込んだ。管弦楽は色彩感にあふれ、組み立ても確りして、さながら壮麗な西欧の近世建築を仰ぎ見るようであった。ロマン派音楽の醍醐味をたっぷり堪能させてくれた。
ソプラノ歌手ルネ・フレミングのために、小沢とフェスティバルではフランスのアンリ・デュティユーに作曲を共同委嘱した。出来上がった「ル・タン・ロルロージュ(時間 大時計)」は、オーケストラをバックに、フレミングによって歌われた。詩人2人のつくった3つの詩に曲がつけられている。フレミングは感情の起伏を細やかに歌い上げ、現代曲にありがちな晦渋な面も感じられなかった。ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」は古典様式を崩すことなく、小沢によって端正にまとめられた。(椨 泰幸)
〈写真:大窪道治〉

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「神尾真由子・NHK交響楽団演奏会」 8月28日 梅田芸術劇場
 神尾真由子がチャイコフスキー国際音楽コンクール・ヴァイオリン部門で優勝してすぐに、大阪でNHK交響楽団(ジェームズ・ジャッド指揮)との公演が実現した。余りにもタイミングが良いと思ったら、昨年からN響の四国・大阪ツアーが計画されて、神尾の出演が決まっていたそうだ。大阪出身の神尾にとっては、図らずも‘凱旋公演’となったわけで、会場は聴衆で埋まった。
 久し振りに見る神尾からは、かつての少女の面影は消えて、まだ21歳の若さなのに、すっかり大人びて見えた。賞の重みとはこのようなものかと感じ入った次第である。演奏も見違えるように進歩している。優勝を果たしたコンクールの課題曲、チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」がプログラムに組まれたのは、言うまでもない。情熱のうちにも哀愁をこめたこの名曲を、神尾は驚異的な集中力で弾き切った。天性のダイナミックなタッチは新人離れして、力みはいささかも感じられずに、心底にぐいぐい迫ってくる。同コンクールでは日本人として2人目の優勝者であり、さらなる飛躍が楽しみである。(椨 泰幸)

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「レニングラード国立歌劇場オペラ《イーゴリ公》、《カルメン》」 12月6日午後6時半(イーゴリ公)、7日午後6時半(カルメン) フェスティバルホール
 サンクトペテルブルク(旧レニングラード)で170年余の歴史を誇る同劇場が来日し、大阪ではアニハーノフの指揮で、ロシアとフランスの2つのオペラを上演する。ロシア国民楽派を代表するボロディンの作曲した「イーゴリ公」は祖国を守る英雄のドラマで、勇壮な音楽「だったん人の踊り」で知られる。ビゼーの作曲した「カルメン」はオペラ屈指の名作で、「ハバネラ」「闘牛士の歌」などは世界の名曲として知られている。演出のガウダシンスキーは同劇場芸術監督で、内外で数々の栄誉ある賞を受賞している。料金はいずれも4,000−20,000円。
お問い合わせはABCチケットセンター(06−6453−6000)へ。(T)

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「日本フィル次期首席指揮者にアレクサンドル・ラザレフ氏」
 日本フィルでは2008年9月から3年間の契約でロシアの指揮者、アレクサンドル・ラザレフを首席指揮者として招聘することを決定、それと共に今年からコンサートマスターとして江口有香とも契約、コンサートマスターを現在の2人(木野雅之、扇谷泰朋)から江口を加えた3人体制にすることとした。(H)