2007年8月 

Popular ALBUM Review

「バーブラ・ストライサンド・ライヴ・イン・コンサート 2006/バーブラ・ストライサンド」(ソニー・ミュージック/STCP1478〜9)
 コンサート嫌いだったバーブラ・ストライサンドも、従来のように寸分の狂いなく構成されたステージではなく、イル・ディーヴォがゲストというだけの肩の力を抜いたライヴなら、もっと頻繁に行えるかもしれない。聴衆との距離も近い感じだ。といってもそこは実力No.1シンガー。充実した内容に間違いない。今回は「ファニー・ガール」はじめ初期の曲も多く、未発表曲やライヴでは初めての曲もある貴重盤。「マイ・マン」のドラマティックな力唱や、「ピープル」は細やかな心の陰影を浮き彫りにしている。イル・ディーヴォとはあまり効果的でない曲もあるが、オペラティックな「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」は美しい。2枚組31曲。(鈴木 道子)


Popular ALBUM Review



写真:Neal Preston

「トラヴェリング・ウィルベリーズ・コレクション/トラヴェリング・ウィルベリーズ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPZR-30237〜39)
 リマスター&未発表含むボーナス曲と共に1988年&1990年のスーパー・アルバム2枚がレアなクリップ映像等を収めたDVD付きの豪華セットで復活。ジョージ・ハリスン、ロイ・オービソン、ジェフ・リン、トム・ペティにボブ・ディラン。言うまでもなく今では考えられないような顔ぶれがそれぞれの個性的な歌声とルーツを持ち寄り、何のけれんみもなく全員納得づくで作り上げた極上のポップ・ミュージックの数々。誰か一人がメインになるということもなく、全員がウィルベリーズの一員としての自分を積極的に楽しんでいる風なのがいい。急死したオービソンに代わり途中参加したものの自ら命を絶ったデル・シャノンへの追悼ともいえる「ランナウェイ」(当時アルバム未収録)がしみる。(上柴 とおる)

 あまりにも寡作な晩年のジョージ・ハリスンだったのに、他界後は毎年のようにすばらしい作品が届けられるようになった。とても不思議な感じなのだが、そのいずれもが彼の名を汚すことのない愛情のこもった作品ばかりだ。そして、今年のジョージは、彼がかかわったさまざまな奇跡のなかでもとびっきり輝いているトラヴェリング・ウィルベリーズをプレゼントしてくれた。グループ結成から制作過程までを本人たちの語りと映像でまとめた作品は、5人の友人たちがほんとうに楽しそうに作品を仕上げていく様子を垣間見させてくれる。そこで語られるエピソードは、ときに見るものを感嘆させ、ときに笑いを誘い、そしていつしか涙腺を刺激する。ジョージ・フレイバーあふれる未発表曲を聴いていると、心のなかで生き続けるかぎりその人の生は終わらないことを実感させてくれる。(広田 寛治)

 長年入手困難だった2枚のオリジナルアルバム(第1集、第3集)に未発表曲(2曲)、ボーナストラック(2曲)、DVD(未発表映像、プロモビデオ)を 追加して発売されたこの3枚組ボックス・セットは、ロック・ファンが待ちわびた作品だ。ジョージ・ハリスン、ボブ・ディラン、ロイ・オービソン、トム・ペ ティ、ジェフ・リンの5人が1988年に結成したトラヴェリング・ウィルベリーズは、ロックの歴史にしばしば登場したような、意図的につくられた商業的 成功をめざした≪スーパーグ・ループ≫とは違う。ふとしたきっかけで1曲だけ録音するつもりだった5人が、意気投合し、音楽的興味だけでアルバムまでつ くってしまったのだ。そのため、レコード会社との契約上の規制をクリアするために、5人は変名を使っている。結果は純粋に楽しめる1枚のポップなロック・アルバムが完成し、発売と同時にアルバム・チャートの1位に輝いた。さらにツアーも予定されていたが、オービソンが急死する悲劇が起こり、残った4人で90年に『第3集』とタイトルされた2枚目を発表した。今回のボックス・セットを聴くと彼らがいかにすばらしいグループだったかを再確認させられる。また、DVDにおさめられた24分のヒストリーは見物だ。この映像だけでも購入する価値がある。(菅野 ヘッケル)

 
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「エッセンシャル・ロイ・オービソン/ロイ・オービソン」
(BMG JAPAN/BVCM-37710〜11)

 1988年12月6日、トラヴェリング・ウィルベリーズで話題となったロイ・オービソンの死をニューヨークで知った。FM局は連日、ロイの作品をかけ続けていた。この2枚組は50年代から活躍し60年代に「オンリー・ザ・ロンリー」「クライング」「オー・プリティ・ウーマン」ほか多くのヒットを放ったロックンロール史にその名を残したビッグー・オーことロイの44曲収録のベスト・アルバム。日本盤ボーナス・トラックにも注目。まず「カム・バック・トゥ・ミー」はジャパン・オンリーのヒット、当時LFから流れてきたこのナンバーを聴いていたひとりとしては嬉しさいっぱいだ。そして「オー・プリティ・ウーマン〜トリビュート・トゥ・ロイ」(w/ムッシュかまやつ、南佳孝&杉真理)。87年に再録した「オー〜」のマスターからのロイのヴォーカル・パートに日本人アーティストの歌をオーバーダブ。まさにロイの新曲なのだ!(Mike M. Koshitani)

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「ネヴァー・ターンバック/メイヴィス・ステイプルズ」
(ソニー・ミュージック/EICP824)

 ザ・ステイプル・シンガーズのメンバー、ソロ・シンガーとして50年ものキャリアを誇るメイヴィス・ステイプルズの新作はライ・クーダーがプロデュースを 担当した。結果、本年度前半のベスト・アルバムと評価したいほどの傑作が生まれた。1950年代末から60年代初期に盛んだった公民権運動の時代、自由を求める黒人たちの心を支えた歌の数々を、ステイプルズは魂を込めて現代に息づかせる。恐ろしいほどに迫ってくる彼女の歌の迫力に、聴き手は圧倒されるだろう。歌の持つ力をまじまじと見せつけられる。一瞬にして記憶から消し去ってもかまわないような、心地よいサウンドやリズムばかりの歌がはびこる現代だからこそ、彼女の本物の歌は重みを持って伝わってくる。それにしても、わずか50年前までアメリカという国が黒人たちを正当な人間として扱っていなかったという事実に、いまあらためて驚きを感じる。(菅野 ヘッケル)

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「コール・ミー・イレスポンシブル/マイケル・ブーブレ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR12627)

 デビュー当時から注目の新進スターだったマイケル・ブーブレは、1枚ごとに成長をうかがわせてきたが、この新作では格段の充実ぶりを示し、自信に満ちた男のアルバムに仕上げている。と同時に現在の心情を反映させて幸せな愛のムードがいっぱいだ。力強いスウィンガーぶりを聴かせるオープニングから、ボーイズ?メンをゲストにフルグ風の好唱を聴かせたり、イヴァン・リンスとポルトガル語と英語でのデュエットによるボサ・ノヴァも新鮮。シングルとなった自作の「エヴリシング」もロマンスたっぷり。思い切りスローで夢見るように歌われる「ドリーム」のよく練られた甘い歌声にも酔わされる。聴き応え十分の実によく出来た秀作だ。(鈴木 道子)

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「ゴー・インスト!/ビースティ・ボーイズ」(EMIミュージック・ジャパン/TOCP66697)
 ヒップホップ・アーティストとしての総決算ともなった前作『トゥ・ザ・5ボローズ』から3年ぶりのビースティ・ボーイズの新作となる本作。これがヒップホップから離れてバンド演奏によるスロー・ファンクばかりという内容。ビースティーズは90年代中盤にもバンド演奏をベースにしていた時期があるが、今回はさらにヴォーカルもラップもまったくなしという展開。おそらく非常にテンションの高かった前作のモードを払拭するためのアプローチなのだろう。実にリラックスした演奏が聴けるのだが、これがなかなかいい味を出していてはまってしまう。夏の思い出になりそうな、そんなアルバムだ。(高見 展)

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「メイク・サム・ノイズ:キャンペーン・トゥ・セイヴ・ダルフール/VA」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-12624〜5)

 スーダンのダルフール地方で続く虐殺や人権蹂躙による避難民救済のためのチャリティ・トリビュート・アルバム。国際人権団体アムネスティの呼びかけで28組のアーティストがジョン・レノンの曲をカバーしている。タイトルの「メイク・サム・ノイズ」とは「声を上げよう」という意味で、世界の人権侵害に対して声をあげようという呼びかけでもある。アヴリル・ラビーン、ブラック・アイド・ピーズ、スノー・パトロールらのほか、U2、グリーン・デイ、エアロスミス、レニー・クラヴィッツ、a-ha、デュラン・デュランら28組の豪華メンバーが参加。オリジナル・メンバーのREMによる「♯9ドリーム」、ジェイコブ・ディランがダニー・ハリスンとの共演でカバーした「真実が欲しい」など話題も多い。(広田 寛治)

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デラックス・
エディション

「ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ザ・ドアーズ〜40周年記念ミックス〜/ザ・ドアーズ」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-12676 WPZR-30220*デラックス・エディション)
 ハートに火をつけて」が全米No.1になったのは1967年の夏。以来すでに40年の歳月が流れたがこの楽曲を超える高揚感と完成度を合わせ持つ楽曲には今だ出会えないでいる。ドアーズのベストはこれまでに何度も何種類も出ているが今回は意味合いが違う。最新のスタジオ技術で当時実際にレコーディングされた音源そのものを(ミックス・ダウンで処理されたものが世に出されていた)甦らせたことで耳慣れたヒット曲の数々がことごとく新鮮な輝きを放っており、リアルタイムで経験したあの時代の熱さへの募る思いがより真実味を伴って再び高まる。20数秒も長い「ハロー・アイ・ラヴ・ユー」のエンディングには思わず身構えた。全20曲。(上柴 とおる) 

 ザ・ドアーズの音源の最新リマスタリングとミックスによるコンピレーション。当時の限られた機材で制作されていた音源を分解してリマスタリング、それを新たにミックするという発想で制作されたもので、かなり細部にわたって音源があらためられ、ところどころこれまでになかった音などが新たに加えられたりもしている。特に初回限定のデラックス・エディションではCD2枚組構成となっていて、ファーストからサードまでがCD1、サード以降がCD2で分けて聴ける。実は今回のリマスタリングでは前期よりも後期の音源の方が変更点は多い。それだけ前期の作品は完成度が高いということなのだろうが、その前期のものをひとまとめにして聴けるところがデラックス・エディションの嬉しいところ。全体的には時に「おお!」と思わせるところもありつつ、基本的にドアーズのイメージを壊さずにサウンドを今に蘇らせたものになっている。また、デラックス・エディションはドアーズとしてはキャリアのピークにあった68年のライヴ映像を収録したDVDもついてくる。(高見 展)

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「マイ・ジェネレーション/ザ・フー」(ユニバーサルミュージック/UICP-93001)
 不滅のモッズ・アンセムと言うだけでなく、パンク、ガレージ等、ロック/ポップの全てのエッセンスが凝縮された、ロック史上最も重要なデビュー作の一枚。ピートの鋭い感性と時代感覚が光るオリジナル曲の強烈なメッセージと、個性的かつ破格の演奏力に恵まれたザ・フーの剥き出しのエネルギーが幸福な邂逅を遂げた、永遠にに古びない奇跡的な名作。今回のリイシューは1967年にテイチクから日本で初リリースされた幻の日本オリジナル・ジャケット(通称ガールズ・ジャケット)を完全復刻し、曲順も日本盤オリジナルに準拠したモノラル・ミックスを使った拘りの一枚だ。(保科 好宏)

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「マジック・バス〜ザ・フー・オン・ツアー/ザ・フー」
(ユニバーサルミュージック/UICP-93003)

 LPも含めて日本盤では初登場となる1968年のアメリカ編集盤。このアルバムはもともとザ・フーの全米ツアーに併せてリリースされた企画盤で、タイトル・ヒット曲を含む11曲を纏めたもの。サイケデリック時代ならではのデザインによるオリジナル・ジャケットの完全復刻と、本作のみでアルバム化されている「ジキルとハイド」のUSヴァージョンが貴重だ。この他、今回リリースされる計5作品の紙ジャケCDは、サード・アルバム『ザ・フー・セル・アウト』を日本仕様のジャケットで復刻した『恋のマジックアイ』、世界初CD化となる1968年の英国編集盤『ダイレクト・ヒッツ』、初期のベスト盤で71年リリースの『ミーティ・ビーティ・ビッグ・アンド・バウンシィ』もオリジナル・ダブル・ジャケットで復刻とファンは要チェックだ。(保科 好宏

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「イッツ・ア・マザー/ジェームス・ブラウン」
(ユニバーサルミュージック/UICY-93288)

 ジェームス・ブラウンのポリドールにおける作品群から12枚が紙ジャケットになってリリースされた。そのうち10枚が世界初CD化ということで、世界的に注目されるリリースかもしれない。さて、この作品は1969年のもので、フレッド・ウェスリー、メイシオ・パーカーなどがそろっている強力なリズムセクションが聞かれる。「マザー・ポップコーン」「マッシュポテト・ポップコーン」など当時、大流行の≪ポップコーン≫系のダンス曲にむいた作品が中心。(吉岡 正晴)


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「スーパー・バッド/ジェームス・ブラウン」(ユニバーサルミュージック/UICY-93291)
 JB世界初CD化の中からもう1枚、1971年の作品。モノクロのブラウンの写真にピンクの文字というジャケットが印象的な傑作。ここには、ブッツィー&フェルプスの強力なベースとギターが「スーパー・バッド」で炸裂する。ライヴとジャケット裏には書かれているが、スタジオでの録音に効果音が加えられたもの。しかし、スタジオでのライヴ(生)録音であることにはかわらない。ジェームス・ブラウンの1970年代前後の作品にはまったくはずれがない。(吉岡 正晴)

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「ブルー・スカイ-ナイト・サンダー/マイケル・マーフィー」
(ソニー・ミュージック/EICP-792)

  テキサス州出身の男性シンガー/ソングライター、75年発表の代表作がリマスター/紙ジャケット/ボーナス・トラック付で日本初CD化。フォーク・ロック・デュオ:ルイス&クラーク・エクスペディションズ、そしてソングライターとしての活動を経て71年にソロ・デビュー。第4作目となるこのアルバムから「ワイルドファイアー」「キャロライナと松林で」が全米スマッシュ・ヒット、アルバムもゴールド・ディスクに輝く。大自然への畏敬を感じさせる彼の音楽が初めて多くの人々に認められた、記念すべき作品だ。80年代はポップ・カントリーのスター、90年代以降はカウボーイ・ソングの伝承者として活躍し続けているが、シンガー/ソングライターとしての才能を完全に開花させた今作こそが彼の最高傑作と呼べるだろう。(森井 嘉浩)

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「慕情/ローマ・トリオ」(VENUSレコード/TKCV-35401)
  ヨーロッパのジャズ・ミュージシャンの中でも、ぼくはイタリア系がいちばん好きだ。技術も高いが、フィーリングが豊かで、パワフルでもあるからだ。このトリオはルカ・マヌッツア(p)、ジャン・ルカ・レンツイ(b)、ニコラ・アンジェルッチ(ds)によるもので、スインギーに力強く、スタンダードやジャズ曲を演奏している。「慕情」や「グリーン・ドルフィン・ストリート」もいいし、「ウィスパー・ノット」や「エアジン」でもメロディアスにおおいに独自性を発揮して演奏しているのがいい。(岩浪 洋三)

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「ザ・ニュー・ボサ・ノヴァ/ルシアーナ・スーザ」
(ユニバーサルミュージック/UCCV1098)

  スーザはブラジル出身でニューヨークで歌っている。ダウンビート誌でジャズ歌手の新人で1位になったことがある。このヴァーヴ移籍第一作ではロック、ポップ、フォーク歌手らによる現代曲をジャズ・フィーリングにボサ・ノヴァ・タッチを加えて歌っており、とても新鮮だ。ちょっとセクシーな美声は聴いていて惚れ惚れする。ジョニ・ミッチェルの「ダウン・トゥ・ユー」、ジェイムス・テイラーの「ネバー・ダイ・ヤング」などどれも素敵だ。肩の力を抜いた、ちょっとレイジーな歌いっぷりは最高だ。クリス・ポッターのテナー・サックス・ソロも聴きもの。(岩浪 洋三)

Popular ALBUM Review
「ハワイアン・ハネムーン/ジョージ松下」(ハワイアン・プロデュース/ HWP-001)
 歌手生活60周年を迎えるジョージ松下の最新作。ハワイ音楽の第一人者として70歳を過ぎた今もステージにスタジオにと精力的に活動している。伸びやかなファルセット・ボイスを決め技に、若々しいエネルギーで瞬時に観客を惹きつけてしまう姿は“ベテラン”“第一人者”という形容だけで収まるものではない。今回のアルバムは彼の膨大なレパートリーの中から50曲ほどを選び納得の行くまでたっぷりと時間をかけながら完成させたという。その中からさらに厳選された22曲がCD化された。ジョージ松下の洗練されたハワイアン・ヨーデル、フラを知り尽くした3人の日本人ミュージシャンの卓越したリズム感。50年代60年代を漂わせつつも、若い世代のリスナーには新鮮に響く、旧くて新しいサウンドだ。(三塚 博)

Popular ALBUM Review

「ギャビー・パヒヌイ・ハワイアン・バンド Vol.1」(オーマガトキ/OMCX-1173)
 1975年のライ・クーダーの「チキン・スキン・ミュージック」といえば、同時代にロックを聴いた人間なら忘れられない名盤だ。そこに参加していたハワイのミュージッシャン、ギャビー・パヒヌイの名も、同時に刻み込まれたと思う。夢の中のような音楽、そんな音のカケラがそこにはあった。74年に「パラダイス&ランチ」を発表したばかりのライが、ハワイに飛び、ギャビーに出会い、そして、このアルバムに参加した。ここには「夢のような音楽」のご本尊がたっぷりつまっている。音のすき間を埋めるライのプレイも僕は大好きだ。今回、ハワイ音楽のPANINIから、ギャビーを始め8枚が紙ジャケ復刻されたが、中袋の形状までを再現した真摯な再現には好感を持つ。この盤など、70年代当時は知るよしも無かったが、トロっとしていて原始にも似た自然を描いた見開きジャケットの復刻はハワイ・センスの本質に触れるようで、嬉しい。(サエキ けんぞう)

Popular DVD Review



「ザ・ビッゲスト・バン/ザ・ローリング・ストーンズ」
(ユニバーサル ミュージック/UIBO9112〜5)

 一昨年8月にスタートした世界最強ロックンロール・バンドのア・ビガー・バン・ツアーは今年8月末まで続く。そんなストーンズが早くも同ツアーをフィーチャーした4枚組DVDを発表。世界中のファンから大きな注目を集めている。D1では06年10月のオースティン・ライヴ。「ボブ・ウィルス・イズ・スティル・ザ・キング」(ウェイロン・ジェニングス)「ラーニング・ザ・ゲーム」(バディ・ホリー)の初公式化作品が登場。D2は同年2月、100万人以上の観客が押し寄せたコパカバーナ・ビーチ・フリー・コンサート。そしてD3には、さいたまスーパーアリーナ・ライヴが収録されているのだ。また≪D4≫のボーナス・ソングスではカバー「ゲット・アップ、スタンド・アップ」(ボブ・マーリー)「ミスター・ピティフル」(オーティス・レディング)がこれまた初公式化作品として登場してくる。そのほか、とにかく数多くの見どころがいっぱいの映像作品だ。(Mike M. Koshitani)

ここのところ、ローリング・ストーンズのツアーの度に、ライヴ盤やライヴ映像がリリースされているが、『ザ・ビガー・バン』ツアーの置き土産となるのがこのDVD。前回のツアーはストーンズの40周年を記念するものだっただけに、DVDも多角的にストーンズの醍醐味や魅力に迫るものになっていたが、『ザ・ビガー・バン』はアルバムとしても近年では最高傑作の部類に入るものだっただけに、今現在のストーンズの凄さをあますところなく魅せるものになっている。そういうわけでまたしてもDVD4枚組という豪華満点の内容。DVD1はツアーを象徴するライヴとしてテキサス州オースティンのステージを観せる。DVD2はこれまた歴史的なライヴとして記憶されることになること間違いないリオデジャネイロで150万人を集めたフリー・コンサートの模様。DVD3は、各国でのライヴ映像。もちろん日本公演(さいたまスーパーアリーナ)もあって、日本人ストーンズ・ファンでよかったと思える1枚。DVD4は、ストーンズのこうしたDVDでは実はいつも一番おもしろいドキュメンタリー。スーパーボウル・ハーフタイム・ショーでの圧倒的なパフォーマンスも紹介されるので、中継を見逃したファンは必見だ。(高見 展)

Popular DVD Review

「アトランティック・レコード 60年の軌跡」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPBRー90654)

 アメリカン・ミュージックの発展に多大なる貢献をしたアーメット・アーティガンが1947年に設立したアトランティック・レコードの60年の軌跡を纏めた約2時間のドキュメンタリー作品。リズム&ブルース、ジャズ、ロックの大物達がアーメットとの交流の中で素晴らしい作品を発表し続け、その結果が今日の音楽界の屋台骨を築き上げたといっても過言ではない。その事実が多くの関係者、そして本人(昨年12月死去)の発言などで改めて知ることが出来る。レイ・チャールズ、アレサ・フランクリンからクリーム、ローリング・ストーンズ、フォリナー・・・、そしてキッド・ロックやパオロ・ヌティーニ。現場人間のレーベル責任者ならではのアーメットの音楽魂がひしひしと伝わってくる。ジャンルを超えてひとりでも多くのファンに味わって欲しい一作だ。(Mike M Koshitani)

Popular DVD Review

「ライヴ〜ア・ケース・フォー・ソング/エルヴィス・コステロ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPBR-90653)

 1996年6月にBBCスタジオで収録されたエルヴィス・コステロ初のライブ・ビデオが追加映像を加えて5.1サラウンド仕様でDVD化された。アトラクションズを従えての演奏をはじめ、ブロドスキー・カルテット(弦楽四重奏)との共演で聴かせるビーチ・ボーイズのカバー「神のみぞ知る」、さらには小編成のオーケストラを加えたセットなど、見どころ聴きどころは多い。個人的には、キーボードをバックにコステロがアコギを手に歌うポール・マッカートニーとの共作曲「ヴェロニカ」が印象に残る。全20曲中6曲はビデオ版には未収録だった追加映像で、そのなかには共作者のクライヴ・ランガーがキーボードで参加している「シップビルディング」(ロバート・ワイアットのシングル・ヒット曲)などの興味深いシーンも含まれる。(広田 寛治)

Popular BOOK Review

「Songs―70年代アメリカン・ロックの風景/小尾隆・著』(STUDIO CELLO)
 70年代ロックに魅せられた著書による音楽評論集。目次をみると音楽書というよりはエッセイ集のようだが、ページをめくるとアルバム・ジャケット(けっこう貴重なものも)がこれでもかと飛び込んでくるし、読み応えのあるインタビューも収録されている。ディスク・ガイドとも、評論集とも、概説書とも言えないが、そのすべてを兼ね備えていて、全体としてまさに70年代アメリカン・ロックの風景がみごとに描かれている。独自の視点で紹介されるアルバムガイドのひとつひとつにも啓発される。5本の書き下ろしを加えた増補改訂新版として10年の歳月を経て復刊された。(広田 寛治)

Popular CONCERT Review
「ダニーロ・レア」 5月11日 イタリア文化会館
 注目のジャズ・ピアノ・トリオ“DOCTOR 3”のピアニストを務めるダニーロ・レアが日本におけるイタリア年記念イベント≪中央アペニン・トリュフ街道プロモーションとウンブリア・ジャズ・コンサート≫のため来日した。ファツィオリ社製のピアノを駆使した45分ほどのソロ・パフォーマンスは、「オー・ソレ・ミオ」や「サンタ・ルチア」などよく知られたイタリアン・メロディのてんこ盛り。だがダニーロはこれらのハーモニーやリズムを自在に発展させて、即興の素材に作り変えていく。とくに「サンタ・ルチア」がセロニアス・モンク作「ウェル・ユー・ニードント」に“変容”したのには鮮やかな手品を見る思いがした。近いうちにぜひ再来日を望む。次は“DOCTOR 3”をジャズ・クラブで聴きたい。(原田 和典)

Popular CONCERT Review
「アカデミー・オブ・ハワイアン・アーツ」 6月5日 
Bunkamuraオーチャードホール

 映画『フラガール』のヒットにより一種のフラ・ブームが訪れているらしいが、『フラガール』のフラがグレン・ミラー風の軽快なビッグ・バンド・サウンドだとすれば、アカデミー・オブ・ハワイアン・アーツのそれはジョン・コルトレーンの音楽に通じる“のっぴきならなさ”を湛えている。“フラの革命児”ことマーク・ケアリイ・ホオマルが中心となった25人の舞台、3部構成のステージからはフラのアヴァンギャルド性、メッセージ性、スピリチュアリティがしたたかに伝わってきた。大型スクリーンと電光字幕をフルに使い、日本のファンとコミュニケーションをとる彼ら。ワン・コードで延々と続く歌と打楽器、乱舞するフラに僕はちょっとしたトランス状態を味わった。 (原田 和典)
写真:(C) Derik Poquiz

Popular Information
「LIVE ! RESPECT THE STONES ! ! VOL.2 〜ストーンズ・ナイト〜」
 ザ・ローリング・ストーンズ・トリビュート・アルバム「RESPECT THE STONES 2」を発売を記念してのスペシャル・イベント。もちろん、演奏曲目はストーンズ・ナンバー・オンリー
【出演】THE EASY WALKERS, サエキけんぞう(パール兄弟), SAMEJIMA Project, DIAMOND☆YUKAI&SHAKE, ドン・マツオ(the ZOOBOMBS), THE PRIVATES ほか*アイウエオ順
【公演日】2007年9月7日金曜日 【時間】開場18:00/開演19:00
【会場】東京・初台 ザ・ドアーズ(新国立劇場隣) TEL:03-5350-580
 http://www.livebar-the-doors.com
【料金】前売4500円/当日5000円(税込み)※ドリンク代別/ドリンクオール300円
ザ・ドアーズ店頭/チケットぴあ/ローソンチケットで発売中!
【主催】ローリング・ストーンズ・ファン・クラブ
【協賛】ジェネオンエンタテインメント株式会社
【後援】アートコレクションハウス株式会社
【協力】東京・初台 ザ・ドアーズ 株式会社 EMI ミュージック・ジャパン ユニバーサル ミュージック株式会社
【お問合せ】ザ・ドアーズ03-5350-5800
【豪華プレゼント】ロニー・ウッド版画作品(ただし抽選)

Popular Information
「エルトン・ジョン」
 1970年代初頭から多くのヒットを発表しているイギリスを代表するスーパースター、エルトン・ジョンの来日が決定した。エルトン、60歳メモリアル・コンサートで我が国では2回公演オンリー。
≪公演日≫
11月20日(火) 東京・日本武道館 19:00開演
   21日(水) 東京・日本武道館 19:00開演
≪ティケット発売日≫8月25日(土)
お問い合せ:ウドー音楽事務所 03(3402)5999 http://udo.jp/

Classic ALBUM Review

「モーツァルト:交響曲第40番&第41番《ジュピター》/ブルーノ・ヴァイル指揮、ターフェルムジーク・オーケストラ」(BMG JAPAN BVCD-34040)
 古楽器によるモーツァルトのシンフォニーも数多くリリースされているが、今回はカナダのトロントに本拠を置き30年近い歴史を持つターフェルムジーク・オーケストラとザルツブルク音楽祭でカラヤンの代役として名を上げたドイツ出身、古典派を得手とするブルーノ・ヴァイルの組み合わせによるものである。この演奏は一言で云って非常に軽やか、聴いた後の清涼感が何とも心地よい。これは弦パートが7,6,4,4,3という小編成であることに加え、このカナダのオーケストラが持つ素晴らしい技術の裏付けがあるからに他ならない。そして「ジュピター」の第4楽章でヴァイルがモーツァルトの記譜ミスを公言し、その通りに譜面を変更して演奏していることはその真偽の程を別にして面白い。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「ロドリーゴ:アランフェス協奏曲、ペルト:フラトレス、ヴィラ=ロボス:ギターと小管弦楽のための協奏曲/福田進一(G)、飯森範親指揮、ヴュルテンベルク・フィル」(DENON  COGQ-25)
 名高い「アランフェス協奏曲」は雄渾で、情緒に溺れることのない快演。精巧なリズムと一貫したテンポによる、無駄のない、引き締まった造型。旧来の演奏とは異なるタイプの新たな名盤の誕生だ。「フラトレス」はギターを中心としたヴァージョンによる演奏で、この作品の新たな魅力が楽しめる。ヴィラ=ロボスの協奏曲もまた清新な演奏で、とかく散漫になりがちなこの曲を、練達の表現で聴きごたえのあるものにしている。オーケストラも冴えたリズム感で、SACDサラウンドの特質もよく活きている。(青澤 唯夫)

Classic ALBUM Review


「パリのモーツァルト:6つのヴァイオリン・ソナタ Op.1(K.301,302,303,304,305,306)/ギル・シャハム(Vn.)、オルリ・シャハム(Pf.)」(アイヴィ CC01)
「プロコフィエフ:ヴァイオリンとピアノのための作品集(2曲のヴァイオリン・ソナタ他)/ ギル・シャハム(Vn.)、オルリ・シャハム(Pf.)」(アイヴィ CC02)
 ドイツ・グラモフォンなどでお馴染みのイスラエルのヴァイオリニスト、ギル・シャハムが設立したオウン・レーベル「カナリー・クラシックス」の初回発売として妹のオルリと協演した2枚。モーツァルト、プロコフィエフとも彼らが得意にしているレパートリーであり、生き生きとした新鮮さに溢れる演奏を聴かせてくれる。特にプロコフィエフは格調高い好演。このCDには2曲のヴァイオリン・ソナタ以外に「3つのオレンジへの恋」の行進曲などハイフェッツがアレンジした3曲が入っており、彼のテクニックの確かさを披瀝している。(廣兼 正明)

Classic DVD Review

「ケント・ナガノ指揮によるクラシック音楽の名作第3集−シューマン〉交響曲第3番《ライン》/ベルリン・ドイツ交響楽団」(アイヴィ 101 431)
 このDVDはケント・ナガノとベルリン・ドイツ交響楽団によるドイツの国際衛星放送、ドイチェ・ヴェレ(Deutsche Welle)のために制作された、モーツァルトの「ジュピター」、ベートーヴェンの「英雄」に続くコンサート・ドキュメンタリー・シリーズ第3弾である。このシリーズは単なるコンサート・ライヴではなく、初心者でも解りやすいアニメによる作曲家と演奏曲の説明を加えた教育ビデオとも言えよう。ケント・ナガノのシューマンは大らかでロマンティシズムに満ち溢れており、初心者がシューマンを聴く場合には打って付けの演奏と言えよう。ドキュメント部分の解説は英語だが、日本語の字幕が付いているので不便は感じないだろう。同シリーズのブラームス「第4」も同時発売。 (廣兼 正明)

Classic CONCERT Review

「オーボエの日」(5月18日 富ヶ谷/HAKUJU HALL)
 寝てもいい(当たり前だがイビキは不可)というユニークな企画がHAKUJU HALLのリクライニング・コンサート・シリーズだ。とはいえ睡眠OKといわれると逆に寝にくいもので、けっきょく最後まで目と耳は音楽家の一音一動にひきつけられてしまう。この日、登場した池田昭子は1997年に東京芸大を卒業し、東京交響楽団を経て2004年からNHK交響楽団のオーボエ奏者を務めている。途中、イングリッシュ・ホルンに持ち替えながら、ダブル・リード属特有のメ細長くて引き締まったモ音をホールいっぱいに響かせた。幅広い音域を一気呵成に吹ききるフィリップ・ゴーベール(フランスの作曲家)の「田園風間奏曲」が特に気持ちよかった。(原田 和典)

Classic CONCERT Review
「アンドレ・ワッツ・ピアノリサイタル」6月9日 ザ・シンフォニーホール
 シンデレラ・ボーイとして楽壇に彗星のように現れてから45年。ワッツは60歳を迎えて、今や大家の風格を備え、鍵盤の世界で自由自在の境地に遊んでいるようだ。バロック時代から古典派、ロマン派、印象派、現代に至るまで、巨匠たちの作品をずらりと並べて、大阪の演奏会に臨んだ。
バッハ「コラール前奏曲」<主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ>は、自ら編曲し、哀調が漂う。モーツァルト「ロンド」の「ニ長調」「イ短調」は、曲の裏まで読み尽した感じで、喜びや悲しみの表現が自在である。シューベルト「3つの小品」(遺作)は、感性豊かな作曲家の心の揺れを巧妙に描いた。ペリオ「水のクラヴィーア」は現代曲にありがちな晦渋さから脱却して、明晰である。ワッツはゆっくりとしたテンポで、印象派風に仕上げた。リスト「悲しみのゴンドラ」「夜想曲<眠れぬ夜、問いと答え>」の2曲は楽想を的確にとらえて、一転してショパンやドビュッシーではイマジネーションを開放して、旋律線も滑らかで、闊達にうたいあげた、(椨 泰幸)
〈写真提供:ザ・シンフォニーホール〉

Classic CONCERT Review
「ロシア・ナショナル管弦楽団」6月10日 ザ・シンフォニーホール
 新生ロシアのシンボルとして発足したロシア・ナショナル管は、溌剌とした楽音で聴衆を圧倒した。低迷を伝えられた時期から脱却して、17年前に結成された当時を思わせる圧倒的なエネルギーを放射していた。ミハイル・プレトニョフの指揮は精気にあふれている。チャイコフスキー「交響曲第5番」では、押し寄せる情感の高まりを一気に開放し、一転して繊細な響きでは哀愁を漂わせている。同じ作曲家の幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」は、テーマとなった主人公の感情の起伏を精緻に描写した。
2005年のショパン国際コンクールで優勝したラファウ・ブレハッチは得意のショパン「ピアノ協奏曲第1番」を弾いた。中でも第2楽章ロマンス、ラルゲットは出色の出来栄えで、甘美な主題を柔らかく歌い上げ、並みの才能でないことを如実に示した。(椨 泰幸)
〈Photo: Roman Goncharov〉

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「ドニゼッティ《ルチア》」6月16日 いずみホール
 ソプラノの佐藤美枝子は「ランメルモールのルチア」の舞台では、強烈なエネルギーを発散する。それは単にルチアをうたってチャイコフスキー国際コンクール声楽部門を制覇したという自負からだけではない。愛を裂かれたルチアの悲しみに限りなく共感を覚え、それを魂の叫びとして全身を投入しているところから、生まれてくるのだ。ルチアは典型的なプリマドンナ・オペラであり、アリアではコロラトゥーラの超絶技巧が待ち受けている。それを見事に歌い切った時の満足そうな表情に、自信があふれていた。
ルチアを悲劇に追いやるエンリーコ(井原秀人)や恋人のアロトゥーロ(二塚直紀)の好演も見落とすことができない。ホールは音楽専用で舞台には幕がなく、客席の数も少ない。大ホールと異なって、制約の多い空間に向かって岩田達宗は演出にチャレンジした。背景のセットを省略し、衣装を黒と白のシンプルな色調でまとめて、様式美を前面に打ち出した。岩田プロデュースによるオペラは成功とみたい。(椨 泰幸)
〈撮影:植田昌幸〉

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「シチリア、マッシモ劇場来日公演 ヴェルディ《シチリアの夕べの祈り》」(7月2日、文化村オーチャードホール)
 シチリア島のパレルモにあるマッシモ劇場は、イタリアでも高い水準を誇る歌劇場だ。そのマッシモ劇場が、シチリアに縁の深い演目を携えて初来日を果たし、とくにシチリア史上の大事件に題材を得たヴェルディのオペラ《シチリア島の夕べの祈り》で、その実力を見せつけた。凛とした声に表情も豊かなアマリリ・ニッツァ、安定感のある深々とした声で愛国者を熱唱したオリン・アナスタソフ、恵まれた美声を前面に出したカルロ・ヴェントレらソリストも充実していたが、成功の最大の立役者は指揮のステファノ・ランザーニ。情熱的でいながら統率力のある棒で、歌手を生かしつつ一体感のある公演を達成した。合唱の噴出力も特筆に価する。ニコラ・ジョエルの演出は、幕切れなどに一工夫が望まれた。なお、本公演のプログラムは以下のURLを通じて販売されている。(加藤 浩子)
〈撮影:竹原伸治、提供:朝日新聞社〉
http://shop.asahi.com/shop/goods_group?goods_group_id=376&${session

Classic CONCERT Review
「ニューヨーク・フィル・ブラス・クインテット(金管五重奏)演奏会」7月4日 浜離宮朝日ホール
 アメリカのオーケストラの金管セクションは概して良く鳴るのだが、さすがニューヨークフィルのトップ・プレイヤーたちによる演奏(提供プロ アルテムジケ) は予想をはるかに超えてすばらしかった。Tpフィリップス・スミス、Tp2マシュー・マッキー、Hrフィリップ・マイヤーズ、Tbジョセフ・アレッジ、Tuアラン・ベイアーの5人のアンサンブルである。前半は現代アメリカの作品で超絶技巧が披露された。やはりアメリカンノスタルジーで「ウェスト・サイド・ストーリー」組曲(バーンスタイン)が懐かしかった。「エアー・オブ・マンハッタン」(ニコラ・フェッロ)のTbソロやHrの技法が優れていた。ことにHrはコーンかレイノルズの倍音が良くなるアメリカ製の楽器で、朗々と響いて迫力があった。「ダンス組曲」ろ(バーンスタイン)などTpはなによりも上手かった。全体に楽曲の持つ和音もばら色で美しかった。アンサンブルの魅力が充分に楽しめたコンサートであった。(斎藤 好司)

Classic BOOK Review

「作曲家がゆく 西村朗対話集」西村朗編・春秋社刊
 国際的に目覚ましい活躍をみせる作曲家西村朗(本会会員)が、70年代以降に本格的な創作を開始した作曲界の精鋭12人と音楽評論家・音楽学者の石田一志、ピアニストの高橋アキをゲストに迎え、それぞれの志、創造への思い、創作意図、作曲の要諦などを真摯に語り合っている。対話する作曲家は池辺晋一郎、佐藤聡明、三輪眞弘、中川俊郎、近藤譲、三枝成彰、新実徳英、吉松隆、北爪道夫、川島素晴、野平一郎、細川俊夫。現役第一線の作曲家たちの内面や足どり、内外作曲界の動向を切実な生の言葉で知ることができる。巻末に各作曲家の主要作品リスト、ディスコグラフィーが付いている。(青澤 唯夫)

Classic INFORMATION
「マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団」11月22日 フェステイバルホール
 齢64歳を数え、円熟期を迎えたマリス・ヤンソンスは、人気、実力ともにトップクラスのロシア人指揮者である。03年からバイエルン放送響の首席指揮者に就任し、両者は一層密接な関係になった。同交響楽団は1954年にヨッフムによって設立され、その後クーベリック、コリン・ディヴィス、マゼールら当代一流の指揮者を首席に迎えて、鍛え抜かれてきた。ヤンソンスはその栄光の系譜に連なることになる。交響楽団の_落としには巨匠リヒャルト・シュトラウスが出演して自作を指揮し、これが生前最後の指揮となった。
ゆかりのシュトラウスが作曲した「ツァラトゥストラはこう語った」とブラームス「交響曲第1番」を演奏する。料金は5,000〜20,000円。お問い合わせは大阪国際フェスティバル協会(06−6227−1061)へ。(T)
〈Photo: Bayerischer Rundfunk/Georg Thum〉


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「マティアス・ゲルネ シューベルト三大歌曲集」9月19,21,24日 東京オペラシティ・コンサートホール
 旧東独ヴァイマール生まれのマティアス・ゲルネは、まだ40歳そこそこの若さながら(1967年生まれ)、ドイツ声楽界を代表するバリトン歌手として活躍している。名歌手、フィッシャー・ディスカウの薫陶を受けたゲルネは、とりわけリートを得意としており、この分野におけるドイツの期待を一身に担っているといっても過言ではない。この秋、そのゲルネが、シューベルトの三大歌曲集をオペラシティで披露する。2003年の初来日では《冬の旅》を歌っており、満を持しての三大歌曲集といえようか。声楽ファンのみならず、すべてのクラシックファンに聴いてほしい公演である。問い合わせ 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 URL http://www.operacity.jp (K)
〈写真:(C)Decca/Sasha Gusov〉


Classic INFORMATION
「ミラノ・アンサンブル・クラシカ」初来日公演
 ミラノ・スカラ座管弦楽団の名手たちによって構成される、「ミラノ・アンサンブル・クラシカ」。フルート、クラシック・ギター、マンドリン&クラリネット奏者の3名を中心に、時に応じて弦楽器やピアノを加えた編成で、オペラの名曲やカンツォーネを主なレパートリーとし、歌心あふれる演奏で国際的に好評を博している。そのミラノ・アンサンブル・クラシカが、この8月、いよいよ初来日を果たすことになった。今注目を浴びている日本人若手歌手、ソプラノの砂川涼子とテノールの高野二郎をソリストに迎え、「誰も寝てはならぬ」「清らかな女神」などの有名オペラ・アリアから、カンツォ−ネや歌曲まで、イタリアの魅力満載のプログラム。猛暑を忘れさせてくれる一夜になりそうだ。公演は8月19日 諏訪文化センター、同23日、トッパンホール。問い合わせは株式会社ラテーザ03-3539-5355 http://www.lattesa.co.jp まで。(K)

Audio WHAT'S NEW
    
「マランツ VP13S1」(SACD/CDプレーヤー)
http://www.marantz.jp/
 大手レコードレーベルが手を引いてしまったことで、SACDの先行きはやや不透明な状況だが、高音質に熱心なマイナーレーベルが積極的かつ継続的にDSD録音/制作を実施し、ハイブリッドCDというフォーマットにて新譜をリリースしている。そうしたコンテンツをこのマランツSA-13S1で聴くと、SACDならではのニュアンスや質感再現の生々しさがはっきりと実感できる。マランツの近年の開発ポリシーは、電気的/物理的なS/Nを抑えることで、微かな音のニュアンスやローレベルでの声や楽器の実在感を高めることができるというもの。それを徹底して推し進めたのが本機だ。回路基板の仕様のみならず、筐体(シャーシ)の構造は耐ノイズ性能において重要な役割を担う。ディスクドライブメカニズムも然り。マランツのアプローチは、いわば基本に忠実にノイズ抑止対策を施したのである。使用パーツは上級機顔負けのハイクォリティーなもの。そうした要素がヴィヴィッドで濃密なサウンドに現れている。SACDに詰め込まれた情報を余さず聴きたいと思ったら、やはりこのくらいのクラスのプレーヤーは使いたい。(小原 由夫)