2007年2月 

Popular ALBUM Review

「イントゥ・ホワイト/カーリー・サイモン」(ソニーミュージック/SICP-1184)
 フォスターからジュディ・ガーランド、ベラフォンテ、ビートルズ、エヴァリー・ブラザーズ、ジェームス・テイラー(かつての夫)...自作曲の再演&新曲も含めて15曲。自らライナーノーツで曲解説をしているが「これは私のような大人がちょっとホロっとする音楽だと思えてきた。でも最初の2、3曲で眠りの世界へ誘うように作られているから、枕に涙が流れてもきっと気がつかないわ」って何とステキなコメントを...このアルバムの魅力をひとことで言い表している。カーリーより7つ年下の当方もホロっとさせられ、目尻に何やら滲んできた。これはたまらん。S&Gよりも優雅なケルト民謡「スカボロー・フェア」を聞きながら眠りにつきたい(上柴 とおる

Popular ALBUM Review

「マイ・フレンズ・アンド・ミー〜バート・バカラックへの想い/ディオンヌ・ワーウィック」
(ユニバーサルミュージック/UCCM-2003)
 我が国でも何度となく素晴らしいステージを披露しているベテラン、ディオンヌ・ワーウィックの最新作。今作ではバート・バカラックの作品を中心に、もちろんディオンヌ自身のヒット作もというわけでセルフ・カヴァー集とも言える選曲。そして、この新たなる録音ではグラディス・ナイト、オリビア・ニュートン・ジョン、シンディー・ローパー、グロリア・エステファン、リバ・マッキンタイアーほかジャンルを超越して新旧アーティストの競演が楽しめるのだ。「ウォーク・オン・バイ」 「メッセージ・トゥ・マイケル」「サンホセへの道」ほかの名作が収録されている。(Mike M. Koshitani)

 最近またバカラックを歌う歌手がふえているが、バカラック歌いの本命ディオンヌ・ワーウィックが再登場した。ユ85年にラスベガスで聴いて以来、久しくライヴは聴いていないが、本作で健在ぶりを示している。最近流行の豪華な顔ぶれとのデュエット盤となっている。これは自分の歌の多少の衰えをカバーするのにも役立っている。「ウォーク・オン・バイ」でのグロリア・エステファン、「メッセージ・トゥ・マイケル」でのシンディ・ローパー、「雨にぬれても」でのケリス、「サンホセへの道」での亡きセリア・クルースとのラテン調のデュオなど興味ぶかいナンバーが並んでいる。(岩浪 洋三)

 
Popular ALBUM Review

「愛・至上主義/キース・アーバン」(東芝EMI/TOCP-66657)
 全米で発売された過去3作のアルバム・セールスがトータルで800万枚を超える、大人気のカントリー・ロッカーの新作。日本ではこれが実質的なデビュー作となる。親しみやすいポップなメロディ、けれん味の無いヴォーカルは変わらずだが、世界進出を見据えてか、前作よりさらにロック色を強く打ち出したアルバムに仕上がった。スロウ・ナンバーでもパワー・バラードと呼べるほどの力強さがある。従来からのファンにはやや好みの分かれるところかもしれないが、作品の質は極めて高い。カントリーになじみのない日本の音楽ファン、特に≪最近のロックはどうも…≫と言う人にこそお勧めしたい、ストレートなサウンドが魅力的。(森井 嘉浩)

Popular ALBUM Review

「スタンド・スティル〜ルック・プリティ/ザ・レッカーズ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-12534)

 人気シンガー/ソングライター、ミシェル・ブランチが、親友でありツアーのバックアップ・シンガーも務めたジェシカ・ハープと組んだ新進女性デュオのデビュー作が、全米発売から8ヶ月を経てようやく日本でもお目見え。アコースティックなフォーク・カントリーに程よくロック色がブレンドされたサウンド、そして息のぴったり合ったヴォーカル・ハーモニーは、実に心地良くまた清々しい。全米ではカントリー・デュオとして受け入れられているが、もっと幅広い層にアピールできる作品だ。ミシェル・ファンはもちろんのこと、より多くの人にぜひ聞いてもらいたい。(森井 嘉浩)

Popular ALBUM Review

「Chameleon/Tiny Tim」(Zero Communications/TTCH-12061)
 ウクレレを抱え独特のビブラートを効かせたファルセットで歌う「ティップ・トゥ・チューリップ」(1968年:米17位)でも知られる超個性的なシンガー、タイニー・ティム(11年前に66歳で逝去)が残した貴重な音源が親交のあったポップ・アーティスト、Mr.Martin Sharpのプロデュースで3枚が世界初CD化!この「Chameleon」と「Wonderful World Of Romance For Tiny Tim Fans Only」「Stardust」で(発売は大阪市に事務所を置くゼロ・コミュニケーションズ)スタンダード、ブルース、プラターズ、ストーンズ、ビートルズ、モータウン、ハワイアン、メリー・ホプキン、ビー・ジーズ、AC/DC...鬼気迫る?ユニークさで歌いまくる♪(上柴 とおる)

Popular ALBUM Review

「デヴィッド・T.ウォーカー」(ビデオアーツ・ミュージック/VACM-1297)
 1960年代後半から活躍し、現在も世界中から尊敬を集めるギタリストがデヴィッド・T.ウォーカーである。そんなウォーカーの代表作として忘れられないのが、Ode Recordsに吹き込んだ『デヴィッド・T.ウォーカー』(1971年)、『プレス・オン』(73年)、『オン・ラヴ』(76年)の3枚だが、どういうかわけか一度もCD化されたことがなく、“幻の名盤”になっていたが、この度ビデオアーツによって遂にCD化された!本作には、ジャクソン5の「ネヴァー・キャン・セイ・グッバイ」、マーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイング・オン」に代表される名演奏が残されている。シンプルなメロディのこれらの曲は、ウォーカーの歌うギターにピッタリで実に心地好い!(高木 信哉)

Popular ALBUM Review

「ザ・バンド・オブ・ジプシーズ・リターン/ビリー・コックス&バディ・マイルス」
(オクテットレコード/YZOC-7)

 ジミ・ヘンドリックスがバディ・マイルス、ビリー・コックスと結成したバンド・オブ・ジプシーズの名演ぶりは今でも多くのロック・ファンに語り継がれている。そんなジミの魂が甦るがごとく、バディとビリーはこの一作でBOGのロック・スピリットを再び堪能させる。ゲストとしてエリック・ゲイルやケニー・オルセンシェルダン・レイノルズ(元アース・ウィンド&ファイファー)ほかが参加。ライヴ・ヴァージョンの「Foxey Lady」のダイナミックな演奏は涙ものだ。ライヴ・シーンをしっかり味わえるボーナスDVDも見逃せない。(Mike M. Koshitani)

Popular ALBUM Review

「ア・トリビュート・アース・ウィンド・アンド・ファイアー/デヴォーテッド・スピリット」
(オクテットレコード/YZOC-8)

 ブラック・ミュージックの流れを大きく変えたグループとして音楽史に足跡を残したアース・ウィンド・アンド・ファイアーのギタリストとして10年以上活躍したシェルダン・レイノルズを中心にこれまたEW&F出身のラリー・ダン、モーリス・プレジャーの3人がデヴォーテッド・スピリットを結成。「September」「Mighty Mighty」「Fantasy」「Rock That」「That’s The World Of The World」など、EW&Fの名作をニュー・レコーディング。まさに自身によるトリビュートだ。時代を超えてEW&Fの素晴らしさを改めて教えてくれる快作である。(高見 展

Popular ALBUM Review

「ソー・ゼア/スティーヴ・スワロウ」(ユニバーサルミュージック/UCCE-7001)
 『ソー・ゼア』は、スティーヴ・スワロウ(66歳)が、敬愛する詩人ロバート・クリーリー(1926-2005、アメリカを代表する偉大な詩人)と共作した珠玉の一枚。クリーリーの詩は、スワロウに常に刺激を与えてきた。初リーダー作『ホーム』にもクリーリーの詩が使われていた。それから何年も二人は数多くのプロジェクトを企画し、コンサートで共演してきた。クリーリーはジャズに対するシンパシーを深く感じていて、彼はまるで即興演奏家のようである。本作からは、スワロウの抜群のベース、スティーヴ・キューンの美しいピアノ、クリーリーの肉声、スワロウとクリーリーの二人が不要なものをすべて削ぎ落とし研ぎ澄まされた「凛とした世界」が聴ける。(高木 信哉)


Popular ALBUM Review

「EASE/本田竹曠」(BMG JAPAN/BVCJ-37538)
 本田竹広(享年60歳)が亡くなってから、一年が経つ。本田を悼み、レコード会社8社が合同で、彼の作品(旧譜33作、発掘音源3作)を一気にリリースした。かつてこんな企画が実現したことはなく、実に気合の入った企画だ。実現に尽力された人々に敬意を表したい。本田は生涯において、名前を3回変えている。本田竹広(最後の芸名)の本名は、昂といい、1945年(昭和20年)8月21日、岩手県宮古市で生まれた。1957年、12歳になった昴はクラシックのピアニストを志し、母・陽子と共に上京した。やがて国立音楽大学に入学するが、友人に薦められたキャノンボール・アダレイの奏する「枯葉」を聞き、衝撃を受け、大学を辞め、プロのジャズメンになった。渡辺貞夫のカルテットで名声を獲得し、渡辺の妹(チコ本田)と結婚した。息子は、ドラマーの本田珠也だ。さて『EASE』は、1992年、本田が47歳のときに結成した3管編成によるセクステット“EASE”が残した唯一の音源である。全曲から全員のパワーがほとばしり出ており、火傷しそうなぐらい熱い熱いアルバムである。「EASE」「ソクエ・へイリアン」「サヴァニ」「シー・ドリーム」の4曲は、本田のオリジナル。「EASE 」は、文字通りバンドのテーマ曲である。激しいリズムの乗り、全員の出るようなプレイが続くが、特に本田のピアノ・ソロが素晴らしい!(高木 信哉)

Popular ALBUM Review

「イン・ア・センチメンタル・ムード」(アップ・ストリーム/JZCJ 1502)
  星乃けいの昨年のファースト・アルバム「二アネス・オブ・ユー」に続く二作目。前作と同じ岩谷泰行の編曲で、彼のピアノ・トリオに曲によって大友義雄とかわ島崇文のサックスの入る伴奏で良く知られたスタンダード曲を中心に落ち着きのある低めのアルト・ヴォイスで歌う。彼女は、ポップ歌手からジャズに転向したというが、彼女の歌は、昔からジャズを歌っていた人の歌ようだ。バラードが特に素晴らしい。岩谷の曲に彼女が歌詞をつけた「ザ・ムーン・アンド・スター」が特に印象的だ。(高田 敬三)

Popular ALBUM Review

「ネオクラシカル・ベスト100 / ヴェアリアス」
(ユニバーサルミュージック/ UICY4310-14)

  マントヴァーニ、フランク・チャックスフィールドなどムード音楽の担い手たち17オーケストラの定番曲、名演曲100曲を収めた5枚組CD。モーツァルト、ドビュッシー、ヨハン・シュトラウスからコール・ポーター、リチャード・ロジャース、チャールズ・チャップリン、ポール・サイモン、レノン=マッカートニーにいたる歴史に名を刻む作曲家たちの人気曲が厳選され、ちりばめられている。レコード会社の合併統合によって、一昔前では考えられないレーベル間を超えたコンピレーションが容易なった。3,980円という価格もありがたい。(三塚 博)

Popular ALBUM Review

「レベッカ / オリジナル・ウィーン・キャスト盤」
(ヒット・スクァッド 668263) *輸入盤

  日本でも人気抜群のウィーン・ミュージカル「エリザベート」「モーツァルト!」のヒット・メーカー、シルヴェスター・リーヴァイ(曲)とミハエル・クンツェ(詞)による新作ミュージカルの初演キャスト盤。ウィーンのライムント劇場で昨年9月28日にオープン、目下ロングラン中。出演はドイツ語圏最高の売れっ子スター、ウーヴェ・クレーガーにウーツク・ヴァン・トンゲレン、カリン・フィリプシク、他。第一幕12曲、第二幕10曲、全22曲。前2作に劣らぬ佳曲揃いで楽しめる。銀座山野楽器本店B1ビジュアル・フロア、宝塚アン日比谷店等で販売されている。(川上 博)

Popular ALBUM Review

「サマー・ソング / オリジナル・ロンドン・キャスト盤」
(セピア・レコード/SEPIA 1086) *輸入盤

  チェコの作曲家アントン・ドヴォルザークの生涯を、米国で音楽を教え、指揮をしていた頃のエピソードを中心に描いたミュージカル。ミュージカル・ナンバーはドヴォルザークの名曲に、エリック・マシュヴィッツが英語の詞を付けている。1956年2月にロンドンのプリンセス・シアターで初演された時の幻の録音を初CD化。出演はデイヴィッド・ヒューズ、サリー・アン・ハウズ、エドリック・コナー等。キャストによる劇中の19曲の他に、ボーナス・トラックとしてメラクリーノ楽団演奏の「サマー・ソング・セレクション」、出演者たちのソロで「慕情」「懐かしのヴァージニア」等を加えた、楽しい全25トラック。(川上 博)

Popular DVD Review

「カウントダウン・コンサート〜クリフ、時代の名曲を歌う/クリフ・リチャード」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPBR90627)

 2月に4年ぶりの来日を果たすクリフ・リチャード、50年代からビートルズ時代、そして70〜80年代から21世紀に至る今日まで確実に活動を続けている英国を代表するアーティスト。この作品は1999年にバーミンガムで行われたカウントダウン・コンサート。ファースト・ヒット「ムーヴ・イット」から「リヴィング・ドール」「ヤング・ワン」など往年のファンにはたまらない傑作から、エルヴィス、ビートルズのカヴァーなど30曲位以上を楽しませてくれる。「アパッチ」「泣かないでアンジェンティーナ」「ライダーズ・イン・ザ・スカイ」ではハンク・マーヴィンのギターもしっかりと味わえる、ギター・マニアも注目のDVDなのだ。(Mike M. Koshitani)
http://www.kyodoyokohama.com/s_note.asp?RID=512&MODE=1

Popular DVD Review

「ワイト島のザ・フー1970/ザ・フー」(ビデオアーツ・ミュージック/VABG-1222)
 一度10年前にリリースされ、ザ・フー全盛期のステージの模様をほぼ丸ごと捉えた唯一の高品質&音質のライヴ映画として絶賛された作品のリニューアル・リイシュー版。今回はピート・タウンゼント監修による初の5.1ch版というのが売りで、一段と臨場感が増した音像で楽しめるほか、注目は初出映像の「サブスティチュート」を含む2曲のアウトテイクとピートのインタビューがボーナス収録でされているのが嬉しい。故キース・ムーンと故ジョン・エントウィッスルの超人的なリズム隊を始めとする神懸かり的な彼らのライヴの素晴らしさは、永久に語り継がれるべき最重要ロック遺産だ。(保科 好宏)

Popular DVD Review

「エリザベート/ウィーン・キャスト」 (ヒット・スクァッド 6682527) *輸入盤
 本場ウィーンの「エリザベート」が、3月に来日する。大阪公演は3/28から4/30まで、梅田芸術劇場で全2幕が上演される。 東京は5/7から5/20までコンサート版が上演される。このDVDは、2005年10月30-31日に、ウィーンのテアター・アニ・デア・ウィーンで収録された。出演はマヤ・ハクヴォート(エリザベート)、マーテ・カマラス(トート)、サーカン・カヤ(ルキーニ)、アンドレ・バウア(皇帝フランツ)、フリッツ・シュミット(ルドルフ)、他。来日キャストとかなりの部分、重なりそう。PAL方式、ドイツ語、日本語字幕無し。PALに対応していない日本のDVDプレイヤーでは使えないが、パソコンでは見られる。宝塚アンのお店とサイトで取扱中。(川上 博)

Popular CONCERT Review
「ザ・グレイト・ディーヴァ・グレイ・ショウ」
1月9日/目黒BLLUES ALLEY JAPAN

 日本でディーヴァ・グレイのライヴが実現するなんて、正直、≪Thank God!≫の気持ちである。今回は当MPCJのメンバーでもある吉岡正晴氏によるソウル・サーチンのプレゼンツという形で実現した。昨年ソウル・サーチンによるルーサー・ヴァンドロスのトリビュート・コンサートに彼女が出演したのが縁で具現化した企画だ。吉岡氏によると、現在ディーヴァは日本を根拠地にしているとか。まさか、自分のアイドルが身近で活動していたとは。おまけに、彼女のライヴ・パフォーマンスが実現するとは。本当に嬉しい!もっとも、ディーヴァ・グレイといっても、ソロ・アーティストとしてはあまりなじみがないかも知れない。ソロというよりは、バックアップ・シンガーとして輝かしいキャリアを積んでいる人で、ディスコ華やかりし頃を代表するシックやチェンジなどNY派のユニットで素晴らしいヴォーカルを聴かせていた。他にもスティーリー・ダンやスパイロ・ジャイラ、ジョージ・ベンソン、ナタリー・コール、セリーヌ・ディオンなど数多くのビッグ・ネームのレコーディングに参加。自らのリーダー・アルバム『Hotel Paradise』(80年)も制作している。ルーサーとキャリアがオーヴァーラップするので彼の女性版と考えてもいいが、むしろ、同じようなバックグラウンドを持つジョセリン・ブラウンに近い。ただ、ジョセリンがハウスの到来に順応してクラブ界のカリスマになったのに対して、ディーヴァはメインストリームのアーティストの裏方の道を歩んだ点に違いがある。当夜、2部に渡って行なわれたパフォーマンスは、これまで彼女が参加した名曲のオンパレードという趣。珍しい「サン・トロペ」のようにソロ名義で出した曲にはさすがにオーディエンスの戸惑いを感じたものの、他のナンバーは今でもラジオやクラブで流れている曲ばかりなので受けもよかった。ベンソンやスティーリー・ダンらの名曲も楽しかったが、実質的に彼女がリード・ヴォーカルを務めたシックやチェンジのナンバーは、レコーディング・ヴァージョンが蘇えったような臨場感たっぷりの内容。ルーサー同様、ディーヴァがNYサウンドに果たした役割の大きさを実感させた。もちろん、ヴォーカルそのものも少しも衰えを感じさせなかったが、唯一気になったのはゴスペルをバックグラウンドにするシンガー(ジョセリンやロリータ・ハロウェイ、最近でいえばバーバラ・タッカーなど)特有の低音部の迫力が弱かったことだ。その点について、吉岡氏と話したのだが、実はディーヴァは10代の頃オペラを学んでいて、ゴスペルだけが彼女のルーツではないということだった。ディスコ・エラに様々なセッションに参加した彼女に求められていたのは、高音部のスタイリッシュでエモーショナルな独特の歌唱。それが、ソフィスティケイトさせたニューヨーク・サウンドにぴったりだったのだろう。今回のライヴ・パフォーマンスの大きな収穫の一つは、ジョセリンやロリータとは違う彼女のスタイルを確認出来たことだ。僕のお気に入り、ロビー・ダンジーが参加するなど、バックのミュージシャンやシンガーも実力派が揃っていた。特筆すべき点は、オリジナルのサウンドを再現しながら、巧みにライヴのグルーヴを加えていたこと。吉岡氏によると、かつての音源から採譜した楽譜は膨大な量になったそうだが、そんな目に見えない努力まで感じさせるステージだった。ちなみに、ディーヴァはヨーロッパでライヴを行なった以外、アメリカでもこの手のソロ公演を行なっていないそうだ。まさに、彼女にとって初のライヴであった。ルーサーのようにディスコ・サウンドのセッションからソロにシフトして成功したシンガーは例外的なケースで、多くは不遇のまま現在に至っている。また、アメリカや日本ではディスコ・エラから彼らを正当に評価するジャーナリズムが少なかったものである。皮肉なことに、最近は当時のNYサウンドやイタロ・ディスコ(ユーロビート以前)は、最近新しいジェネレーションに支持されていて、当時のアナログ盤にプレミアが付くような現象まで起きている。それだけに、ディーヴァ・グレイを過去のシンガーとして葬り去るのではなく、同時代的な評価を続けていきたいと思った。ディーヴァにはこれからもステージに立ってほしい。また、ソウル・サーチンの意欲的な活動についても敬意を表したい。(村岡 裕司)

Popular CONCERT Review
「ICPオーケストラ」11月1日 六本木スーパー・デラックス
 ピアニストのミシャ・メンゲルベルク、ドラマーのハン・ベニンクを中心とするオランダの凄腕集団が約24年ぶりに来日した。マイクは一本も使わず、あくまでも生音勝負。サックス隊のまろやかな音色が、フワッと立ち上がり、コンクリートむき出しの店内のすみずみに浸透する。ミシャはガタピシのアップライト・ピアノを弾き、ハンはスネア・ドラム一台で森羅万象を表現。まさに弘法、筆を選ばず。デューク・エリントンの「ムード・インディゴ」、セロニアス・モンクの「クリス・クロス」といったカヴァー曲もはさんだ、約150分のフルコース。溢れるユーモア、スイング、エロチックなアンサンブルに、ゾクゾクと体が震えた。(原田 和典)

Popular CONCERT Review
「響鳴する宇宙 近藤等則ソロ “地球を吹く”」 12月21日 富ヶ谷Hakuju Hall
 1993年から始まった“地球を吹く”プロジェクトは近藤等則のライフワークのひとつである。これまでペルー、沖縄、ヒマラヤ、アラスカ、富士山六合目などで自然と対峙し、己の音を叩きつけてきた近藤が、その試みを都内のホールに持ち込んだ。新井淳一の幻想的なテキスタイル、秋田道夫の無限に広がっていく空間デザインが、ただひとりステージ上でブロウする近藤のシルエットを浮き立たせる。いつもはクラシック系の生楽器が響き渡るHakuju Hallが、プログラミング音とエレクトリック・トランペットの雄大なサウンドで埋め尽くされていく。あまりにも鮮烈な音世界に浸っているうちに、どこかの荒野でひとり風に吹かれているような錯覚をおぼえてしまった。(原田 和典)

Popular CONCERT Review
「日本ルイ・アームストロング協会特別例会 第41回 サッチモの黄金時代(2)」
 1月11日 アテネフランセ文化センター4 Fホール

 日本が誇るジャズ・アンバサダーである外山喜雄(トランペット、ヴォーカル)・恵子(ピアノ、バンジョー、レゾネイター・ギター)夫妻が案内役となり、サッチモことルイ・アームストロングの足跡を追う好評シリーズの第3回。1929年から34年頃までのサッチモの音楽を本人出演の貴重なフィルムや、デキシー・セインツを核とするオールスター・バンドによるライヴ(歌とベース以外は生音)でたどりながら、同時期のデューク・エリントンのサウンドや、昭和初期の日本ジャズ・ソングも再現。80年も前に活躍した先人たちの作り出した音の先進性に、蒙を啓かれた気分を味わった。演奏最高、MC爆笑、聴いて楽しくタメになる、笑顔のたえないコンサート。今年は年頭から縁起がいい!(原田 和典)

Classic ALBUM Review

「モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番、パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番、ノヴァーチェク:無窮動、ショーソン:詩曲/ユーディ・メニューイン(Vn)、ジョルジュ・エネスコ指揮(モーツァルト)、ピエール・モントゥ指揮(パガニーニ&ノヴァーチェク)、パリ交響楽団、エィドリアン・ボールト指揮(ショーソン)、ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団」(ナクソス/8.111135)
 まだ10代のメニューインの瑞々しい演奏である。モーツァルトは1935年19歳、そしてパガニーニとノヴァーチェクはその1年半前18歳時代の録音。特にパガニーニの第3楽章に見せる躍動感溢れる演奏は爽快そのものであり、若き日のメニューインの完璧な迄のテクニックが冴え渡る。最後に収録されているショーソンは第二次世界大戦後の1952年36歳のまさに円熟味溢れる音楽を聴かせてくれる。そして各指揮者のサポートの見事さも特筆に値する。(廣兼 正明)

Classic CONCERT Review
「ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場〈魔笛〉」12月15日 フェスティバルホール
 モーツァルト・イヤーを締めくくるにふさわしく、ちょっといいオペラを観た。アンサンブル・オペラに徹して、上質の舞台を築いている。これもシェフであるステファン・ストコフスキの識見と指導力の結果であろう。モーツァルト「魔笛」は近年、新演出の実験場になった感があるが、演出家のリシャルト・ペリットはこれに背を向けて手堅くまとめて、ケレンがない。セットは簡素な構成ながら配色と照明にセンスが光り、日本人好みの渋さもある。歌手たちの動きにも無駄がない。そのせいか、音楽に集中できて、オペラのメッセージを素直に受け止めることができた。
歌手ではバスのスワボミール・ユルチャック(ザラストロ)、テノールのレシェック・シフィジンスキ(タミーノ)、バリトンのアンジェイ・クリムチャック(パパゲーノ)の男声陣が持ち味を発揮。女声はやや低調ながら、タミーノを誘惑する侍女たち3人の合唱は、ダンサーの象徴的な舞踏とうまくかみあって、生気をもたらした。(椨 泰幸)
(写真提供:ザ・シンフォニーホール〉

Classic CONCERT Review
「60周年記念 米シカゴ〈ミッドウエスト・クリニック〉」レイ・クレーマー指揮、武蔵野音大ウインド・アンサンブル、他」12月18〜23日 シカゴ・ヒルトンホテル・国際ボールルーム
 60年経った米シカゴでのミッドウエスト・クリニックの大会は、32の吹奏楽・オーケストラの団体と、1万人を超える聴衆を集め、エキジビションには1200ブース以上の楽器・出版・団体が集まり、演奏・講習・情報交換などがなされる最大の大会が行われた。米エアーフォース軍楽隊が素晴らしい色彩豊かな演奏を聞かせ、日本からは武蔵野音大・埼玉栄高校の2つの吹奏楽団が出演し優れた音楽を披露した。とくに武蔵野は指揮レイ・クレーマーによる、米好みのスーザ「白い薔薇」・ウエーバーのクラリネットによる「ファンタジアとロンド」を演奏し、スタンディングオーベィションの大喝采を受けていた。(斎藤好司)

Classic CONCERT Review

「ベルガモ・ドニゼッティ劇場〈ランメルモールのルチア〉」1月3日 フェスティバルホール
 ドニゼッティ「ルチア」はいわゆる狂乱オペラで、異常な精神状態に陥って歌うタイトル・ロールの出来が、全体の成否を大きく左右する。歌手にとって過酷な超絶技巧の高音域をいかにクリアするか。ドラマの最後の最後に、この見せ場が待っている。それまでに声帯を散々酷使して、一山も二山も乗り越えた後で、最高峰にぶつかる。ソロは残る力を振り絞ってブレイク・スルーしなければならない。
この難しい大役を新進のデジレ・ランカトーレが見事に果たし、会場から割れるような拍手を浴びた。デュナミークは滑らかで、意のままに変化する。高音は突き抜けるようで、低音は地を這って、消えて行く。よほど強靭な声の持ち主なのであろう。ランカトーレはイタリア・シシリー島のパレルモで1977年に生まれた。ムーティの抜擢に応えてスカラ座で頭角を表し、スターの道を歩み始めている。作曲者の故郷ベルガモの歌劇場とともに来日し、並々ならぬ才能の一端を披瀝した。容姿に恵まれ、演技力もなかなかである。4月にはまた日本を訪れ、大阪国際フェスティバルに出演する。一段と成長した姿を見たいものである。共演者のルーカ・グラッシは(バリトン)は腹黒い城主を厚ぼったい声でうたい、アントニオ・ガンディア(テノール)も悲恋の主人公をリリコ・スピントで力強く表現した。(椨 泰幸)

Classic CONCERT Review
「ベルガモ・ドニゼッティ劇場〈アンナ・ボレーナ〉」1月6日 びわ湖ホール
 劇場はミラノの近くのベルガモにあり、1791年に設立された。郷土の生んだ大作曲家ドニゼッティの生誕100周年を記念して、1897年に劇場の名前を改めた。1830年に作曲された「アンナ・ボレーナ」は、英国王妃の悲劇をドラマティックに描いたもので、ドニゼッティの出世作となった。
ディミトラ・テオドッシュウはギリシャ出身のソプラノで、2001年に初来日して以来華やかさと艶を帯びた声で人気急上昇、多くのファンを獲得している。タイトル・ロールのボレーナに起用されて、波乱の半生に体当たりした。宮廷に張り巡らされた陰謀に対して強固な意志で反発する一方で、生命の危機に揺らぐ不安な心境を、絶妙にコントロールされた声で歌い切った。柔軟性に富む声は高音域で輝きを増し、加えて気品のある演技で圧倒的な存在感を示した。王妃に疑いの目を向けるエンリーコ8世(リッカルド・ザネッラート)は、翳りを帯びたバスに託して邪な心をうたい、王に誘惑される女官のセイモー(ニディア・パラチオス)も、揺れ動く気持ちをメゾ・ソプラノで巧みに表現した。舞台美術は「ルチア」とともに、イタロ・グラッシが担当した。たびたび来日して数多くの作品を手掛けている。時代背景の把握は的確で、色彩感覚にも優れて、日本にファンを広げている。(椨 泰幸)

Classic CONCERT Review
「ハンガリー国立ブダペスト・オペレッタ劇場〈こうもり〉」1月8〜10日 新宿文化センターホール
 11回目の来日となる今回は、初のJ.シュトラウス「こうもり」である。世界中のオペレッタ劇場の中で最も客を楽しませる術を心得ているのが、このブダペスト・オペレッタ劇場であろう。このところ何年かは東京オペラシティホールに於けるガラ・コンサートのみの公演だったが、今回はガラに加えて久しぶりに本格的なオペレッタを楽しむことが出来た。人気のプリマ、ジュジャやお転婆娘マリカは残念ながら今回参加しなかったが、この劇場独特の親しめる演出と元気溢れる舞台は二人の穴を埋めたばかりか、観客を魅了しつくし、なお余りあるオペレッタの楽しさを十二分に満喫させてくれた。(廣兼 正明)

Classic CONCERT Review
「トッパンホール ニューイヤーコンサート」鈴木秀美指揮チェンバー・オーケストラ(1月11日 トッパンホール)
 意欲的な企画で知られるトッパンホール、2007年の主催公演の幕開けは、指揮者としても活躍の著しい鈴木秀美を迎えてのモーツァルト。初めて振るというモダン楽器のオーケストラ、「チェンバー・オーケストラ」と挑んだのは、オペラ《コジ・ファン・トウッテ》の抜粋と、交響曲第41番《ジュピター》という聴き応えのあるプログラムだった。疾走するオーケストラは十二分すぎるほど劇的で、終始音楽的な主役を担った。とくに《ジュピター》ではめまぐるしいまでの熱演が展開された。《コジ・・・》では才人ダリオ・ポニッスイの巧みなナビゲートのもと、林美智子、宮本益光らの独唱陣が存分に力を発揮。新春らしい華のある舞台となった。(加藤 浩子)

Classic INFORMATION

日本フィル創立50周年記念「渡邉暁雄と日本フィル」CD全集
 日本フィルの創立指揮者、渡邉暁雄が日本フィルと残した音源による26枚組のCD全集が日本フィルの創立50周年を記念して発売された。全62曲入り25,000円。曲目その他の詳細については日本フィル・サービスセンター(03-5378-5911平日10〜18時)まで。(H)

Classic INFORMATION
「大阪国際フェスティバル」4月9日〜5月14日 フェスティバルホール
 今年で49回を迎える大阪国際フェスティバルの主な演目は次の通り。人気上昇中のデジレ・ランカトーレが4月17日午後7時スロヴェニア国立マリボール歌劇場管弦楽団に出演し、「ホフマン物語」のアリアをうたう。また4月18日午後6時半から同歌劇場とともにオペラ「ラクメ」に出演。4月9日午後7時ディヴィッド・ギャレット&大阪センチュリー交響楽団(ガラ・プルミエール)ではベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」など。4月26日午後7時大植英次指揮大阪フィルハーモニー交響楽団がブルックナー「交響曲第番」、5月10日午後7時からチョン・ミュンフン指揮フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団が「春の祭典」など。お問い合わせは大阪国際フェスティバル協会(06−6227−1061)へ。(T)

Classic INFORMATION
「パレルモ・マッシモ劇場」(2007年6〜7月来日)
 イタリアはシチリア島最大の歌劇場、パレルモのマッシモ劇場が、この夏初来日を果たす。演目は、シチリア島を舞台にしたヴェルディのグランド・オペラ《シチリア島の夕べの祈り》と、これもシチリア島で展開するマスカーニの《カヴァレリア・ルスティカーナ》に、レオンカヴァッロの《道化師》と、いわばご当地もののオンパレードで、イタリア・オペラファンには本望だろう。メンバーも充実していて、アマリリ・ニッツァ、アルベルト・マストロマリーノなど、今のイタリア・オペラを代表する歌手が聴けるのに加え、イタリア・オペラを得意とする新旧両世代の指揮者、マウリツィオ・アレーナとステファノ・ランザーニが激突するのも楽しみだ。シチリア名物の美しいモザイクなどが登場する、正統的で美しい舞台も必見。(K)