2018年4月 

  

ミュージカル「マディソン郡の橋」日本初演・・・・・本田浩子
 あのベストセラー小説「マディソン郡の橋」が出版されたのが、1992 年、クリント・イーストウッドとメリル・ストリープ主演で映画化され、大成功を収めたのが1995 年。そして映画化からほぼ20年後の、2014年ブロードウェイ・ミユージカルとなって、再び大きな脚光を浴びる。今回は東宝ミュージカルの日本初演で、3月8日、シアタークリエでの観劇となった。

 イタリアのナポリから戦争花嫁として、アメリカ人のバド(石川禅)に嫁いだフランチェスカ(涼風真世)は、アイオワ州マディソン郡の平凡な農家の主婦となり、マイケル(石川新太)とキャロライン(島田彩)の母として、精一杯尽くしながらも、どこか孤独な日々を送っていた。このフランチェスカの十数年のつつましい結婚生活は、ジェイソン・ロバート・ブラウン作曲のメロディ“To Build a Home”にのって、涼風フランチェスカの美しい歌声で紡がれ、一気に観客を舞台に引き込んでいく。

 そんなある日、バドは子供たちを連れて、泊りがけで子牛の品評会に出かけていく。家族を慌ただしく送り出し、ひと息ついていると、屋根のある珍しいマディソン郡の橋の撮影にきたカメラマン、ロバート (山口祐一郎) が道を尋ねに立ち寄る。わかりにくい道なので、フランチェスカは、屋根付き橋への道案内を買って出る。

 初対面の二人だが、何気ない会話をするうちに、車中の二人は少しずつ打ち解けていく。ナポリに仕事で行ったことがあるというロバートに、故郷懐かしさに、フランチェスカは心を開き、思い出を語り始める。ロバートは自制しながらも、美しく無邪気なフランチェスカに惹かれ、フランチェスカも又、今までの平凡な日常とは真逆な生活に憧れる。他愛ないそんな会話から、互いに惹かれあうのが、観る者に違和感を抱かせないのが、二人の演技と楽曲の良さといえる。

 翌日、橋の写真を撮る為に再会する二人は、次第に強く惹かれあい、二日目の再会の折には、自然の流れのように、一線を越えてしまう。いってみれば、不倫の恋だが、そんな感じは持たせず、数日間の二人の純愛に仕上げたのは、台本(マーシャ・ノーマン)と演出(荻田浩一) の手腕によるところかが大きい上に、主役の二人は勿論、隣家の夫婦を演じた戸井勝海と伊東弘美の自然体の演技が光る。二人の恋が進行中にも、夫の石川バドからひっきりなしに電話がかかり、時にフランチェスカへの愛を歌うのが、微笑ましく見逃せない。そんな日常的な流れが、反動のような非日常的な二人の純愛を際立たせる。

 この甘美なラブ・ロマンスを紡ぐ楽曲は、ブロードウェイ・デビュー作「パレード」(1998)でトニー賞を受賞した、ジェイソン・ロバート・ブラウン。この作品で再びトニー賞の栄誉に輝いているだけに、ポップス、バラードあり、又、カントリー調と多彩で、いずれの曲も心に響く佳曲揃いだが、何といっても、フランチェスカが冒頭で故郷ナポリを想って歌う“To Build a Home”と、別れがたい二人の愛のデュエット“Before and After You”/“One Second And A Million Miles”が心に残る。

舞台写真提供: 東宝演劇部

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