カート・エリングが、90年代に「Four Brothers」というタイトルで一緒にツアーをした先輩のジョン・ヘンドリックス、マーク・マーフィーは、すでになく、同輩のケヴィン・マホガニーも昨年暮れに亡くなってしまった。彼は、名実ともに現代男性ジャズ・ヴォーカルの第一人者だろう。今回は、2016年3月以来の出演。カルテットのメンバーとステージに上がった彼は、前回よりすこし恰幅が良くなって貫禄十分だ、いきなり、アカペラでボブ・ディランの「A Hard Rain's Gonna Fall」を現代のアメリカの状況に抗議するかのごとく力強い声と巧みな語りで歌い、聴衆を彼の手の中の引っ張り込んでしまう。スチュアート・ミンデルマンのオルガン、ジョン・グリーンのギターが入り盛り上げて行き余韻をもたせたエンディングも素晴らしかった。続いて4月に発売の新譜「Questions」からピアノをフィーチャーしたバラード「Happy Thought」を軽快に歌う。ミュージカル「王様と私」からの愛のバラード「I Have Dreamed」も新譜からのナンバー、奇麗なギター・ソロを挟んでヴァースからしっとりと歌った。「The Gate」で歌っていた彼が書いた「Samurai Cowboy」では、クリスチャン・ユーマンのドラムスとのスキャットでの掛け合いからクラーク・サマーズのベース・ソロも挟んで、マーク・マーフィーばりのヒップな歌を披露する。ベン・ウエブスターで有名な「Did You Call Her Today」は、ピアノがフィーチャーされてウオ―キング・テンポで語るように歌う、そして「Night Moves」の中で歌っていたレトキの詩をベースにした哲学的な「The Waking」をベースとドラムをバックにスローなテンポで歌い上げる。中間部のワードレスで歌う時のマイクのコントロールの上手さは見事なものだった。スライド・ギターの前奏から入ったロマンチックな「Skylark」は、ピアノ・ソロをはさんでしっとりとしたムードで聞かせる。ここでもマイクの使い方の上手さが光っていた。ラストの「Nature Boy」は、ギター、オルガンそして長いドラムのソロも入り、自身もタンバリンをもち独自のスキャットを交えて早いテンポで歌って満場の喝采を浴びる。メンバー紹介の後、アンコールは、シナトラの名唱で有名な「All The Way」だ。前半は、アカペラで後半に静かに伴奏が入ってくる構成で歌いあげて会場を再び沸かせた。4月発売の新譜「Questions」から4曲を歌って、発売時には、再び来たいと云っていたが、実現することを望みたい。