ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review 2018年5月号

ALBUM Review

「ジョイア/シルビア・ペレス・クルス」

ユニバーサルミュージック:UCCM-1245/6

 日本とスペインの外交関係樹立150周年を記念して、本年5月に来日するスペインの歌姫、シルビア・ペレス・クルスの2枚組ベスト盤(全30曲収録)。シルビアは、シンガーソングライター、女優でもある。彼女は、1983年カタルーニャ生まれで、両親が歌手という音楽一家で生まれた。物心がつく頃から、ピアノと歌を始めた。バルセロナの名門カタルーニャ高等音楽院で、ジャズ・ボーカルの学位を取得。2012年に、ソロ・デビューした。映画『Cerca de tu casa』への主演女優も務めたという才媛である。彼女の歌声は、爽やかな風のようであるが、随所に情熱的に歌う。ジャンルに拘らないところが魅力で、スペインの音楽がベースにあるが、ボサノバ、キューバのフィーリン、ジャズなどに親和性が深い。「1976年」は、まるでボサノバ。ささやくように繊細に歌う。「泣くべきだった」は、まさにジャズ。「私の最高の歌」は、キューバのフィーリン。情熱的な声に魅了される。オリジナルの「教会」では、「ムーンリバー」が挿入されており楽しい。とても素敵なシンガーである。(高木信哉)

ALBUM Review

「レット・ユア・マインド・アローン/山口真文」

スパイスオブライフ:SOL JP-0015

アーティスト写真

 人気サックス奏者、山口真文の6年ぶりの最新作。全8曲は、山口のオリジナル。全編で、気合の入った山口真文の美しいサックスが聴ける。メンバーは、有望な若手を起用しガラリと変わった。小松伸之(ds,1977年生まれ)だけが前作と同じ。他は、奥村美里(p,1981年生まれ)、東海林由孝(g,1960年生まれ)、小牧牧平(b,1981年生まれ)。全員が優れた才能の持ち主。山口は、1974年ジョージ大塚5で頭角を現し、1979年ザ・プレイヤーズで名声を確立した。さて、「シークエル・トゥー・ア・ドリーム」は、山口のソプラノが良い感じだ。ウェイン・ショーターを思い出す。「リトル・ソロウ」は、切ないサンバ。タイトル曲は、ピアノとのデュオ。奥村の綺麗なピアノに乗って、山口が情感を込めて歌い上げる。「ザ・プロットⅡ」は、リズムセクションとの激しい応酬。「カルメン」は、8thリズムに乗った楽しい演奏。山口のテナーの後、東海林の斬新なギター・ソロも聴きどころ。「アーム・オブ・ザ・シィー」はバラード。優しいテナーと美しいギターが胸に沁みてくる。(高木信哉)

ALBUM Review

「Joanne Tatham/The Rings Of Saturn」

Cafe Pacific Records CPCD14060

アーティスト写真

 ジョアン・タータムは、ニュージャージー出身、テレビ作家のチャック・タータムと結婚して、今はロスアンゼルスへ移って当地で活躍するシンガー。本アルバムは、彼女の4作目の作品で、前作の「Out Of My Dream」は、ラジオで良く流れて可成り評判になった。本アルバムは、人気のヴォーカリストでソングライターでもあるマーク・ウインクラーが前作に続いてプロデユ—サーを務め、タイトル曲も提供している。「Love Me Or Leave Me」、「It Could Happen To You」等のスタンダード・ナンバーの他に、マイケル・フランクス、フィービー・スノウ、トッド・ラングレン、スティーブン・ソンドハイム、ポール・ウイリアムスなどのコンテンポラリーなナンバーを加え、マックス・ヘイマーのピアノ・トリオに曲によりサックス、トランペットが加わるジャズ・アレンジによる伴奏で快調な歌を聞かせる。ブラジルのギタリスト、マルセル・カマーゴが「So Danco Samba」等3曲に共演して彩を添える。彼女は、華やかでライヴで聞いたらより楽しめる感じのアーティストだ。 (高田敬三)

CONCERT Review

「セシル・マクロリン・サルヴァント」

ブルー・ノート 2018年3月26日 ファースト・ステージ

アーティスト写真

 昨年6月以来、約一年ぶりの来日、2015年に続いて今年もグラミー賞のべスト・ジャズ・ヴォーカル賞に輝いたセシル・マクロリン・サルヴァントの3日間の公演の最終日。白いワンピースに素足にサンダルというくだけた格好でステージに上がっった彼女、マイクに顔を近づけて優しく歌うブロッサム・ディアリーの「They Say It's Spring」から入る、カーメン・マクレエをちょこっと思い出させる歌唱だ。今回は、ボブ・ドローのナンバーも「Devil May Care」,[Nothing Like You]、「Just About Everything」と3曲も彼女自身の解釈で歌っていた。気ごころの知れたいつものアーロン・ディールのピアノにポール・シキヴィ(b)カイル・プール(ds)のトリオのサポートも素晴らしい。自作のバラード「Fog」は、しっとりとした感じで入り、次第に盛り上げて行く、広い声域を巧にに使って歌う彼女は、往時のサラ・ヴォーンを彷彿させるが、彼女ほど重さはなく軽やかで可愛らしい。べースとのデユオで歌ったビリー・ホリデイの「Fine And Mellow」ではベーシストに寄り添い顔をじっと見つめながら気分を出して歌っていた。あんなに見つめられたらベーシストも照れてしまわないか、という可愛らしい個性溢れる歌唱だった。アカペラで語るように歌った18世紀の殺人事件を歌う古いバラード「Omie Wise」は、この日のハイライトだった。28歳だというが、歌の巾は、広く完成度の高い素晴らしい歌手だということを再認識させられたステージだった。(高田敬三)