2016年6月 

  

Popular ALBUM Review


「NEW JOURNEY/Greg Fishman 」(Greg Fishman Studios CD 1024)
 グレッグ・フィッシュマンは、シカゴを中心に活躍するテナー、フルート・プレイヤー。 「スリー・フォー・ブラジル」の一員としての2004年の富士通ジャズ・エリート・コンサートをはじめ何度か来日もしている。ボサ・ノヴァもお得意だが、彼の神髄は、やはりスタン・ゲッツ直系のストレート・アヘッドなジャズだ。彼の新作の本アルバムでは、ピアノのデニス・ラックション、ベースのエリック・ホッチバーグ、ドラムスのフィル・グラトウという彼のレギュラー・カルテットで以前、日本、シンガポール、バンコックをツアーした時に書き貯めたオリジナルを中心に7曲の自作曲を快調に演奏する。一曲目の覚えやすいメロディのハ—ド・バップ・ナンバー「Champaigne Jane」そして続く「Dahlia」や、デニス・ラックションのピアノも素晴らしい「Boppertunity」等が特に印象に残る。ブルー・ノート、プレステッジ系のジャズが好きなファンには是非お薦めの作品だ。ついでながら彼は、ジャズ教育の面でも大活躍で20冊からの教則本を出している。スタン・ゲッツの誕生日に結婚したという奥さんは、ジャズ・シンガー、ピアニストのジュディ・ロバーツだ。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「songbook of the americas/Kat Parra」(JazzMa Records JMR1005)
 キャット・パーラは、西海岸中心に活躍するジャズ・シンガー。少女時代を南米チリで過ごした爲、英語の他、スペイン語、ポルトガル語、フランス語からスペイン系ユダヤ人の言葉、ラディノまで使えるシンガーだ。この新作は、彼女の5枚目のアルバム。ラテン・ジャズで活躍するウエイン・ウォーレス(tb)マーリー・ロウ(p)等彼女の盟友の他、ゲストにヴェネズエラの歌手、マリア・マルクェス、スキャットの上手いネート・プルーイット、そして、彼女の先生でもあるタック・アンド・パティ等が参加してラテン・リズムを多用した色彩豊かなワールド・ミュージック系のジャズを聞かせる。派手やかなマンボのリズムに乗って歌うジャズ・ナンバー「Four」から始まり、チャーリー・パーカーの「Au Privave」に彼女が詞を付けたジャジ—な「Wouldn't It Be Sweet」、日本の尺八によるイントロから意表を突く構成で歌われる「Besame Mucho」、チャチャ・リズムで歌われるべティ・カ—ターの歌で有名な「Please Do Something」, マリア・マルクェス、ネート・プルーイットも参加して歌うメレディス・ウィルソンの「Till There Was You」とヴァラエティに富んだ内容の文句なく楽しめる作品だ。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「ライブ・アット・シャトークア VOL. 1/エラ・フィッツジェラルド」(インパートメントAGATE AGIPI 3671)
 エラ・フィッツジェラルドは、再来年、生誕百周年を迎える。ジュディス・ティックによる詳細な伝記の出版が予定されているが、数多くのCDも発表されるだろう。本アルバムは、その先陣をきるような彼女の未発表録音だ。彼女が、1968年7月11日にNYで行ったコンサートのライヴで伴奏陣は、ティー・カーソン(p)キーター・べッツ(b)ジョー・ハリス(ds)のトリオが務めている。この時期は、ジャズ界がロックに押されて衰退気味の時で、彼女自身も永年住み慣れたヴァ—ブ・レーベルを離れ、キャピトル、リプリーズ、アトランティックなどのレーベルを転々として、第一級とは言えない作品を発表していた時期だった。レコードの面では、今一つ精彩のなかった時期のエラだが、お得意のライヴとなると断然輝いている。同じ年のカナダのヴァンク—バーでのライヴCD「Live From the Cave Supper Club」とセット・リストは、殆ど同じだが、多分、彼女が録音していなかった古い歌「The Object Of My Affection」を歌っているのが注目される。(高田敬三)


Popular CD Review


「フレンチ・カフェ・ミュージック/ダニエル・コラン&マティルド・フェブレール」(リスペクトレコード:RES-277)
 原題は「GUS vs TONY」。1930年代にミュゼット黄金時代を築いたアコーディオン奏者ギュス・ヴィズールとトニー・ミュレナの二人に捧げた作品。19世紀に大衆音楽として育ったミュゼットはジャンゴ・ラインハルトやその仲間たちがロマの音楽やアメリカのスイングを取り入れて30年代のパリを舞台にスイング・ミュゼットとして花開いた。その当時の第一人者がギュスとトニーの二人で、その名演はコンピレーションCD等で耳にすることができる。そして本作品の主役がアコーディオン奏者のダニエル・コランと女性ヴァイオリン奏者のマティルド・フェブレール。ダニエル・コランは日本でもCD作品が紹介されて長く根強い人気のあるジャズ・アコーディオン奏者。マティルド・フェブレールはフランスのトップ・アーティストたちと多くの共演歴を持っているが、ここではステファン・グラッペリを彷彿とさせる演奏を聴かせる。ドラムス、ギター、ベースなどのサポートを得て、二人のスインギーで技巧的、即興的なプレイが見事に絡み合い、パリ生まれの音楽の香りを放つ。軽快なスイング・ワルツがカフェ・ミュージックとして理屈抜きに楽しませてくれる。
(三塚 博)


Popular CD Review


「ウォンテッド/グレゴア・マレ」(GREGOIREMARET&SUNNYSIDE COMMUNICATIONS:SSC1417)(輸入盤)
 グレゴア・マレはそのヴァーサタイルな奏法が、多様なジャンルのアーティストたちの目に留まり、これまでに多くのライヴやレコーディングに招かれてきている。トゥーツ・シールマンスやスティヴィー・ワンダーとよく比較されるようだが、クロマチック・ハーモニカを自在に操る演奏力に加えて、奥深い表現力が数多くのミュージシャンとのコラボを実現させたのだろう。自己のリーダー作品としては2012年の「グレゴア・マレ」以来2作目。2016年の本作品はグレゴア本人とテリ・リン・キャリントンとの共同プロデュース。ジェラルド・クレイトン(p)、ジェイムス・ジナス(b)、リカルド・ヴォクト(g)、ミノ・シネル(perc)、テリ・リン・キャリントン(ds)をコア・メンバーにクリス・ポッター(sax)、ダイアン・リーヴス(vo)、ルチアーナ・スーザ(vo)イヴァン・リンス(vo)、故ジミー・スコット(vo)らが各トラックにフィーチャーされ、グレゴア・マレが描く音風景に溶け込むように登場する。アルバム全体を包むソフト&メローなサウンドは肩ひじ張ることなく素直に楽しめる。(三塚 博)


Popular CD Review


「Hello!/リクオ」(Hello Records:HR-01)
 1990年のデビューからすでに四半世紀を超えたシンガー・ソング・ライター&ピアノ・マン。'間口の広いポップス'を念頭に置いて制作したという新作は自身が影響を受けた音楽等へのオマージュを織り込んだ。全10曲それぞれが異なった輝きを放ち、なるほど世代やジャンルを選ばない。正直「こんなにも'ポップ'を自在に操れる人だったのか♪」と認識も新たに。スプリングスティーン、佐野元春、スペクター、ロイ・オービソンらの存在がベースにある2曲目「永遠のダウンタウン・ボーイ」(題名や歌詞にはシュガーベイブの影も!?)のような楽曲があるかと思えば6曲目の「大阪ビター・スイート」は上田正樹の「悲しい色やね」に自らの青春時代の原風景を重ね合わせて作ったような'望郷ソング'。出身は京都だが、大学時代(大阪府吹田市の関西大学)から11年間住み続けた大阪は第二の故郷。曲展開、メロディー、歌詞が見事に連携し合って生まれたこの曲は中でもより多くの人たちに'伝わる'ものがあると感じた。こういう曲、長らく聴いてなかったなぁ♪(上柴とおる)


Popular CONCERT Review


「トータス」(4月8日 東京・SHIBUYA TSUTAYA O-EAST)
 最新作『ザ・カタストロフィスト』を聴いてからというもの、この老舗グループがますます好きになった。ポスト・ロックという仕分けが今も有効なのかどうかは知らないが、僕にとってはゴーゴー・ペンギンやナチュラル・ボーン・キラー・バンドと並ぶ、いま最も刺激的なインストゥルメンタル・ユニットのひとつである。先日のキング・クリムゾンのライヴで舞台前方にドラムが3台横並びになっていたときにも驚いたが、トータスは舞台前方中央に2台のドラムを向かい合わせる。さらにその両脇にはマレット・シンセサイザーとヴィブラフォンを向かいあわせ、ギターやベースやシンセサイザー担当者は基本的にその後方に並んで観客に向けて演奏する。曲ごとに細かく変わる楽器フォーメーションの数々。誰もが複数の楽器をあやつり、マレット系楽器とギターの玄妙な音の重なりはジョージ・シアリング・クインテットや、ルース・アンダーウッドがいた頃のフランク・ザッパのサウンドづくりをも想起させた。(原田和典)

写真:西村廣起


Popular CONCERT Review


「ブライアン・ウィルソン/『ペット・サウンズ』50周年アニバーサリー・ジャパン・ツアー」(4月12日 東京国際フォーラム)
 この日の観客はやはりビーチ・ボーイズに慣れ親しんだと思われる中高年層が目に付く。ほぼ定刻にブライアンは気を持たせることなく、すたすたと登場、そのままピアノの前に座ると演奏を始めた。そのあっさり加減もいかにも彼らしい。73歳という年齢、これまでの歩みを考えると、想像以上に元気そうだし声も出ている。第一部はビーチ・ボーイズのヒット曲中心のグレーテスト・ヒット集、第二部が「ペット・サウンズ」を生で再現するという構成も良かったのかもしれない。仲間のアル・ジャーディンと彼の息子のマット・ジャーディンの好サポートも得て、まずはお馴染のノリのいいシンプルなサウンドを単純に楽しむ。休憩を経て後半になると繰り広げられるのは、どこかに既視感を漂わせながらも、40年以上たった今も浮遊感を伴った独特の音世界。ブライアンならではの複雑なアンサンブルだ。そしてアンコールでは再びお馴染のナンバーが披露され、ステージも客席もリラックス。ラストはソロの代表曲「ラヴ&マーシー」で締めくくって見事に存在感を示した。(滝上よう子)

撮影:Yoshika Horita


Popular CONCERT Review


「THE COLLECTORS 30th Anniversary Live "EPISODE I"」(4月16日 東京・日比谷野外大音楽堂)
 今年で結成30周年、来年でメジャー・デビュー30周年を迎える4人組ロック・バンドがアニヴァーサリー・ライヴを開催した。ヴォーカルの加藤ひさし、ギターの古市コータローは結成当初からのメンバー。ドラムスの阿部耕作(忌野清志郎が一時期率いていた謎の宇宙人バンド“LOVE JETS”にもいた)も加入から25年が経つ。2014年から正式メンバーになったベースの山森 JEFF 正之のプレイも見事にサウンドに溶け込んでいる。楽曲セレクションは30年間の濃縮というべきもので、とくに「世界を止めて」、「Tシャツレボリューション」、「CHEWING GUM」等ではイントロが鳴り響くなり大歓声、満員の客席のそこかしこからファンの歌声が聴こえてきた。来年3月1日には初めての日本武道館公演も開催。最近の武道館公演には“デビューしていかに早くそこにたどりつけるか”的な業界の空気があるように僕は感じているのだが、そんななか、30年の堅実な活動の末に遂にそこに立つ、というのは実にかっこいい。(原田和典)

写真:柴田恵理


Popular CONCERT Review


「新妻聖子 Music is Fantasy」(4月22日 渋谷区文化総合センター大和田さくらホール)
 ソールド・アウト続出の歌姫、新妻聖子が意欲的なコンサートを開いた。ミュージカル楽曲やジャズのスタンダード・ナンバー、映画音楽の名曲などを歌う試みだ。伴奏は気鋭のジャズ・ピアニストであるハクエイ・キムが担当、バック・バンドはストリングス(弦楽合奏)もつく豪華版で、スペシャル・ゲストの男性4人組ヴォーカル・グループ“ジャミン・ゼブ”もコーラスを披露するだけではなく、それぞれソロ歌手としての実力も発揮した。曲目は「ホール・ニュー・ワールド」、「レット・イット・ゴー」、「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」、「アイ・ガット・リズム」、「レ・ミゼラブル・メドレー」等。新妻の幅広い音域と豊かな声量を生かした絶唱がホールに響き渡った。(原田和典)

写真:Koji Ota


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