2013年7月 

 
Popular ALBUM Review

「ザ・ホワイト・ハウス・セッションズ・ライヴ1962/トニー・ベネット&デイヴ・ブルーベック」(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル:SICP-3842)
 1962年8月にホワイトハウスの主催で行われた「アメリカン・ジャズ・コンサート」の模様が半世紀経って初CD化された。マスター・テープの存在は知られていたが、保存リストへ記載漏れから、長らく不明とされてきたものだ。62年といえば「想い出のサンフランシスコ」のヒット年、その数年前に発表された「テイク・ファイヴ」は全米に知れわたっていた。デイヴ・ブルーベックもトニー・ベネットも乗りにのっていたことがライヴ盤を通して蘇ってくる。最初の5曲が「テイク・ファイヴ」に始まるデイヴ・ブルーベック・クアルテットの演奏、そして中盤にトニー・ベネット・グループが登場して「ジャスト・イン・タイム」から「想い出のサンフランシスコ」まで6曲を歌う。「ブロードウェイの子守唄」に始まる4曲がトニー・ベネット・ウィズ・デイヴ・ブルーベック・トリオという構成だ。二人の共演はリハーサルも行われることなく、偶然のセッションだったという。インナースリーブにはケネディ大統領の姿も配されて60年代前半にタイムスリップしそうな気分を味合わせてくれる。(三塚 博

Popular ALBUM Review


「ストロンガー/フランシス・ブラック」(BSMFレコーズ:BSMF-6033)
 アイルランドの国民的な歌手メアリー・ブラックの妹、フランシスの5年ぶり7枚目の新作。アコースティックなフォーク系ながらカヴァー曲の選定にはポップなセンスが生かされており、ポール・マッカートニー2007年の「ダンス・トゥナイト」(近年のヒット作)といった新しいところからリンダ・ロンシュタット1974年の「ハート・ライク・ア・ホイール」、さらに遡ってキャロル・キング1971年の「イッツ・トゥー・レイト」、その流れ?で同年のジェイムス・テイラー「遠い昔」までまるで彼女のオリジナル作品のように思えるような仕上がり。とりわけちょっとジャジーな趣もある「イッツ・トゥー・レイト」には酔いしれてしまいそう。今までヤマほど聴いたカヴァー盤の中でも最高に素敵♪(上柴とおる)


Popular ALBUM Review

「アット・ホーム/ジョージ・シアリング」(インパートメント:AGIP-3520)
 ジョージ・シアリングが1983年1月にニューヨークの「マイケルズ・パブ」へ6週間出演していた或る日、彼のアパートのグランド・ピアノの有るリヴィング・ルームでカナダのマルティ楽器奏者、彼のベーシスト、ドン・トンプソンと話している中、ここでデュオの録音をしてみようという事になり、プロデューサーも、エンジニアもそして聴衆もいない環境で二人だけで楽しみの爲に録音した4トラック・テープから作られたCDだ。お茶を飲んだりして、休みながら大変リラックス・ムードで演奏を楽しんだという。シアリング・サウンドとして有名なクインテットでの演奏は、枠組みがきっちり決まっているが、デュオでは、この時点で5年も一緒に演奏していた呼吸の合った二人は、アイディアを自由に発展させている。素顔のシアリングを鑑賞できる素晴らしい内容の貴重な作品だ。(高田敬三)

Popular ALBUM Review

「Power In My Arms /Shun Kikuta & Legend Of Rockers 」(キングレコード:KICS-1917
 今や世界を代表するブルース・ギタリストの菊田俊介が、日本を代表するロック・アーティスト達、篠原信彦(key)、和田ジョージ(ds)、清水興(b)とロック・バンドを結成した、それが、Shun Kikura & Legend Of Rockersだ。そして、作成されたアルバムが『Power In My Arms』である。これだけのメンバーが揃ったのだから、渾身の1枚に仕上がったと思いきや、洋楽ロックのスタンダード「青い影」等ヴォーカル曲が中心であり、ゲストのセルフ・カバーまで収録している。ファンは、菊田のギターを中心としたオリジナル曲を期待した筈だ。ライヴが好評なだけに、そのノリでライヴ盤をリリースするのであれば、これらの選曲も理解出来る。「アイシー・コールド」等菊田のオリジナルや「メイク・アップ」等メンバーのセルフ・カバーの演奏が良いだけに勿体ない。次回作は、Legend Of Rockersの名に相応しいオリジナル曲で勝負して欲しい。(上田 和秀)

Popular ALBUM Review

「LOVE SCORE/櫻倉レオン」(T&Kエンタテイメント:QACK-35032
 ヴォーカリスト櫻倉レオンの4年振りとなるセカンド・アルバム『LOVE SCORE』が届いた。実力派ミュージシャン達をバックに、「Fly Me To The Moon」のようなジャズ・スタンダードのみならず「Cinema Paradiso」等映画音楽を含むあらゆるジャンルの音楽を心地よいアレンジで歌いこなし、自身の世界を縦横無尽に繰り広げ、聴く者を魅了する。彼女の声は、唯一無二のセクシーなハスキー・ヴォイスであり、今後もあらゆるジャンルで輝きを放つだろう。また、コンポーザーとして作詞・作曲もこなし、「Midnight Drift」と言う粋なオリジナル曲を作り出す才能の持ち主だ。次回は、ファンが「あっ!!!」と驚くようなジャンルにも挑戦して欲しい。(上田 和秀)

Popular ALBUM Review

「Windy:A Ruthann Friedman Songbook/Ruthann Friedman」(輸入盤/Now Sounds:CRNOW-42
 2006年の「Hurried Life 〜Lost Recordings 1965-1971」に続く発掘音源が出された。今回は未完成に終わったアルバムやデモ等のレア音源をまとめたもので(全18曲:1966年〜1968 年が中心)ほとんどギター1本で歌われていた前作とは異なり時代の音(フォーク・ロック〜サイケデリック)も奏でながら有能なソング・ライターであったことを改めて知らしめる。アソシエイションの美曲「ウィンディ」(1967年:米No.1)の作者としてその筋では名を馳せたが(前作同様今回も彼女自身のデモ音源を収録)シンガー・ソング・ライターとしては世に出ることがなかったルーサン・フリードマン。ハル・ブレイン、ジョー・オズボーン、マイク・ディージー(アソシエイションのセッションと同じ♪)、それにロン・エリオット、ラス・タイトルマンにヴァン・ダイク・パークス、ランディ・ニューマン、カート・ベッチャーなど制作に加わった顔ぶれからも彼女を取り巻く当時の興味深い環境が伺える。(上柴とおる)

Popular CONCERT Review

「デオダート」 5月3日 ビルボードライヴ東京
 事前情報は4管を含むノネット。これは32年ぶりの来日が話題になった2006年のセプテットに比べて、トロンボーンとサックスの2名が増強された編成。デオダート・サウンドをライヴで再現するための理想に近づいたことが期待を高めた。オープニングに早くも70年代の出世曲「ツァラトゥストラはかく語りき」を演奏したので、ではこの後の選曲はどうなるのか、と思っていると、「ビーズと指輪」「ラプソディ・イン・ブルー」「摩天楼」と、70年代のCTI作品に特化したことが明らかに。そしてラスト・ナンバーで再び「ツァラトゥストラ」の再演に至り、デオダートがテンテットでの74年の初来日公演を意識していたことが、くっきりと浮き彫りになって、同公演を生体験したぼくに感動の波が押し寄せた。アンコールの「ドゥ・イット・アゲイン」まで、満足度100%のパフォーマンスだった。(杉田宏樹)


Popular CONCERT Review

「シーネ・エイ」 5月20日 コットン・クラブ(ファースト・ステージ)
 昨年の富士通コンコード・ジャズ・フェスティバルでフランク・キャップのザ・ジャガー・ノート・オーケストラのゲストとして来日したデンマークの歌姫、シ—ネ・エイの一年振りの公演。唯一日のステージの爲か、ほぼ満席、背広姿の男性客が多い。彼女のファン層なのだろうか。今回は、何時ものヤコブ・クリストファーセン(p)とモーテン・ランボル(b)モテーン・ルンド(ds)による自分のトリオとのステージ。ピアノとのデュオでヴァースから歌った「Someone To Watch Over Me」からバンド全員が参加して「The Sound Of Music」とメンバーそれぞれ熱演の「My Favorite Things」のメドレーへ続く、「Don't Be Blue」、「Love Is a Time Of Year」からアンコールの「Time To Go」まで彼女のオリジナルを6曲歌い歌作りの才能も披露するが、今一つ聴き手の胸に沁み込んでくるようなものが希薄だ。聴衆より一段高い所で歌うクール・ビューティのステージという感じを受けた。もっとふくよかな情感が出て来ると素晴らしいのだが。(高田敬三)
写真提供:COTTON CLUB
撮影:米田泰久


Popular CONCERT Review

「ホッド・オブライエン」 5月30日 コットン・クラブ
 僕は90年代初頭、『ライディン・ハイ』というCDを聴いて直ちにホッド・オブライエンのファンになった。こんなに覇気のあるビ・バップがこの時代に聴けるなんて、と小躍りした。そして彼が50年代から活動を続ける、知られざるベテランであることも知った。それから約20年が経ち、オブライエンは「遅咲き」という言葉を返上し、すっかり人気ピアニストの仲間入りを果たしている。そして今年も元気な姿を見せてくれた。最新CD『アイ・ヒア・ア・ラプソディ』の発表直後ということもあって、レパートリーはそこに収められていたスタンダード・ナンバーが中心。テーマ→ピアノ・ソロ→ベース・ソロ→ピアノとドラムスの4バース→テーマという展開がずいぶん多いのには飽きたが、オブライエンのピアノ自体には今なお古きよきニューヨーク・モダン・ジャズの香気が漂っている。ただ正直申し上げてサイドメンがリーダーの水準にたどりつけていない、とも感じた。『ライディン・ハイ』で絶妙な連携を繰り広げたケニー・ワシントン(ドラムス)との来日公演を望みたいところだ。(原田和典)
写真提供:COTTON CLUB
撮影:米田泰久


Popular CONCERT Review

「ERIMAJ」 6月3日 コットン・クラブ
 どちらかというと古式ゆかしきモダン・ジャズのグループで来日することの多いジェマイア・ウィリアムスだが、彼の目指しているサウンドは、このグループ“ERIMAJ”(名前は彼のファースト・ネームを逆にしたもの)にあるのだろう。MC中でも「このバンドで来日できて本当に嬉しい」と繰り返していた。CDがまだ日本発売されていないせいか(『Conflict Of A Man』は米国iTunesジャズ・チャートで1位だというのに)、場内は決して満員とはいえなかったが、“気鋭ミュージシャンの新しい表現”を渇望しているリスナーにとって、当公演は干天の慈雨に値するものであったろう。やはり気鋭のドラマーであるケンドリック・スコットの“オラクル”よりもロック色が濃く、ときに第2期トニー・ウィリアムス・ライフタイムの21世紀版展開、と呼びたくなる瞬間が飛び出すのもERIMAJの魅力。このグループならではのゆるぎない個性が固まるのはまだまだ先のことになりそうだが、とにかく先は長いのだから、今はやりたいことを思いっきりやってほしいと思うし、心ある音楽ファンはそれについていくはずだ。コーリー・キング(トロンボーン、キーボード、ヴォーカル)、マシュー・スティーヴンス(ギター)、ヴィセンテ・アーチャー(エレクトリック・ベース)も伸び伸びとプレイしていた。(原田和典)
写真提供:COTTON CLUB
撮影:米田泰久


Popular CONCERT Review

「富士通コンコード・ジャズ・フェスティバル2013」 6月10日 ブルーノート東京
 毎年恒例の長寿イベントが、前回のコンサートホールから会場を名門ジャズクラブに移して開催。今回はJATPの創始者でプロデューサーの「ノーマン・グランツに捧ぐ」をテーマに、2組のトリオが土台を務め、トランペット、テナーサックス、アルトサックスの各2名、計3組が共演するリレー形式で進行した。華のある著名ミュージシャンによるジャム・セッションの醍醐味は、次々と見せ場が訪れてたっぷりと味わえた。共にビバップに根差しながら音色の違いが個性だと明らかにしたチャールズ・マクファーソンと多田誠司、バラード対決を演じたテレル・スタッフォードとランディ・ブレッカー、白人ダブル・テナーの美点を表したハリー・アレンとグラント・スチュワート。ドラマーでリーダーのジェフ・ハミルトンとルイス・ナッシュが、スネアドラムだけでのデュオで妙技を競演したシーンが当夜のハイライトとなった。充実の120分。(杉田宏樹)
撮影:Takuo Sato


Popular CONCERT Review

「ヴァン・ヘイレン」 6月21日 東京ドーム
 爆音と共にヴァン・ヘイレンのメンバーがステージに登場し、「Unchained」でファン待望のライヴが幕開けした。エディは挨拶代わりに元祖ライト・ハンド奏法(タッピング)とハミングバード・ピッキングを披露し、若かりし頃と何ら変わらない躍動感でデビッドがステージを走り回りシャウトする。最初のハイライトは、バンドとして最も思い入れのある曲のひとつ「ユー・リガリーガット・ミー」で、エディがリフ・バッキング・ソロと全てに於いて卓越したテクニックを繰り出し、異常なほどに会場が盛り上がる。心配されていた体調や不仲と言ったネガティブな要因は完全に払拭され、親子・兄弟・仲間として何とも楽しそうに演奏している。サミー・ヘイガー在籍中の曲を演奏することが無かったので、ベストなセットリストとは言えないが、ヴァン・ヘイレンの完全復活をファンにアピールするには、充分なパフォーマンスだった。特に、エディのギター・ソロは、想像を超えたテクニックとフレーズで観客を完全にノックアウトした。これからもハード・ロックの王者として、君臨して欲しい。(上田 和秀)

MUSICAL Review

「HAIR」 5月30日 東急シアターオーブ
 従来のブロードウェイ・ミュージカルとは異なる次元の新しいミュージカルが60年代半ばに次々と登場したが、先陣を務めたのがオフから上がってきた『ヘアー』だった。その特徴は明確なプロットがない。主人公なしで集団を描いている。音楽はロック・ミュージックである、といったことが中心となっている。今回のナショナル・ツアー公演は、まずまずの楽しさだった。主な理由はギャルト・マクダーモット作曲の音楽のよさ。「アクエリアス/レット・ザ・サンシャイン・イン」「グッド・モーニング・スターシャイン」などのヒット曲はじめ、メロディアスで躍動感あふれる佳曲が多い。これで黒人のディオンヌ役が、スケールの大きい歌手であったら、もっと締まっただろうにとも思う。整然としたダンス・シーンはなく、ただヒッピーの若者集団の思い思いの単純なダンスがあるだけ。ベトナム戦争を背景に、メッセージも反戦、自由、ドラッグ、フリー・セックス等を謳いあげる。60年代を回顧しては見られるが、当時のような感動が湧かないのは仕方がない。『ヘアー』はあくまでも60年代の作品であることを痛感する。(鈴木道子)
撮影:SHINOBU IKAZAKI

Popular INFORMATION

「KISSジャパン・ツアー」
 ロック史上最高のエンターテインメントであり、最強のロック・モンスター“KISS”の7年振りとなるジャパン・ツアーが決定した。最新アルバム『モンスター』も全米チャートNo.3と絶好調で、人気の衰える事を知らない。メンバーは、この2人がいればKISSと言いたい不動のジーン・シモンズ(vo、b)とポール・スタンレー(vo、g)に、トミー・セイヤー(g)とエリック・シンガー(ds、vo)による4人だ。「Deuce」、「Detroit Rock City」、「Love Gun」、「I Want You」---、今年の秋は、KISSが湧き上がるハード・ロックという炎で、日本を熱くさせる。(UK)

* 10月19日 幕張メッセ国際展示場9・10・11ホール
* 10月21日 大阪城ホール
お問い合せ:ウドー音楽事務所 (03)3402-5999
http://udo.jp/

Popular INFORMATION

「ボズ・スキャッグス・メンフィス・ツアー」
 昨年、ドナルド・フェイゲン、マイケル・マクドナルドと共に「ザ・デュークス・オブ・セプテンバー・リズム・レヴュー」として来日公演を果たし、大歓声を浴びたことも記憶に新しいAORの帝王ボズ・スキャッグスの来日公演が決定した。「ロウ・ダウン」、「リド・シャッフル」、「ウィ・アー・オール・アローン」、「ハート・オブ・マイン」等多くのヒット曲を持ち、今年3月にリリースされた南部のR&Bに原点回帰した最新アルバム『メンフィス』も好調なボズが、ファンの為にどんなセットリストを用意するのか楽しみでならない。(UK)

* 11月18、19日 渋谷公会堂
* 11月20日 あましんアルカイックホール
* 11月22日 名古屋市公会堂
* 11月24日 広島上野学園ホール
お問い合せ:ウドー音楽事務所 (03)3402-5999
http://udo.jp/

このページのトップへ