2013年3月 

 
Popular ALBUM Review

「ドリームチェイサー(夢追人)/サラ・ブライトマン」(EMIミュージック・ジャパン: TOCP-71500)
 「私は“夢見る人”ではなくて“夢追人”なの」、彼女の公式Web Siteは本人のこんなメッセージで始まる。昨年モスクワでの記者会見の席上、宇宙飛行士になる計画を発表、ニュースとして報道され、音楽ファンばかりでなく、多くの人に驚きを持って迎えられた。そのことをあらためて印象付けるかのようなパッケージ・デザインは<夢追人>としての彼女の力強いメッセージでもあるかのようだ。通算11作目のスタジオ・レコーディングとなる本作品では、16年に亘ってプロデューサーを務めたフランク・ピーターソンから、マイク・ヘッジスへとバトンタッチ、音のつくりに選曲に、サラの意気込みが詰め込まれた作品だ。あらためて声の美しさに魅了される。(三塚 博

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「マイ・トゥルー・ストーリー/アーロン・ネヴィル」(EMIミュージック・ジャパン:TOCP-71478)
 アーロン・ネヴィルのブルーノート移籍第一弾アルバムは、なつかしいドゥー・ワップ集だ。彼が幼い頃から耳にしてきたいわばフェイバリット・ソング、およそ100曲の中から厳選した12曲を最終的に収録したものだという。「ビー・マイ・ベイビー」(ロネッツ)、「渚のボードウォーク」(ドリフターズ)、「ジプシー・ウーマン」(カーティス・メイフィールド)など50年代から60年代前半のヒット曲で構成されたちょっとした<アメリカン・ソングブック>だ。「自分なりの抑揚は多少つけたけれど、一曲一曲、原曲の持ち味を大切にし、尊重するように心がけた」と語っている。プロデューサーはキース・リチャーズ(ローリング・ストーンズ)、そして共同プロデューサーにドン・ワズ(BlueNoteオーナー)。ヴェルベット・ヴォイスがなんとも耳に心地よい。(三塚 博)


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「オン・ザ・ヴァージ/ファビュラス・サンダーバーズ」(BSMFレコーズ:BSMF-2328)
 テキサス州オースティン出身の5人組による8年ぶりの新作登場♪ セールス的にはブレイクした1980年代が全盛期だが今も地道に活動を続けており、大向こうを唸らせるような派手なところはなくてもわかる人にはわかるというベテランの味わいでこの新作でも落ち着いた渋さ、とりわけサザン・ソウル・フィーリングを醸し出すナンバーが心地好くて印象に残る。4曲目なんぞは「マイ・ガール」を南部風に味付けしたようなあれで、このグループってこんなに'ええ気持ち'にさせてくれるんかと久々の新作を聴いてちょっと認識も新たに。各楽器の演奏それぞれもなんか愛しく思えて来るのだ。(上柴とおる)

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「ピュア・マッカートニー/ティム・クリステンセン」(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル:SICP-3777)
 20年近く前、日本でも人気を呼んだDIZZY MIZZ LIZZYというロック・トリオでデビューしたあとソロで活動するデンマーク出身のティム・クリステンセン(昨年10月にはソロとして初来日公演も)がビートルズ好きが高じて昨年、ポール・マッカートニー70歳の誕生日を祝して挙行したスペシャル・イベントのライヴ盤。ポールのソロ2作目「ラム」からの11曲を順にそっくり再現、さらにおなじみの楽曲を6曲追加収録。「アンクル・アルバート」も「ヴィーナス・アンド・マース〜ロック・ショー」「バンド・オン・ザ・ラン」、そして「カミング・アップ」までも'本気の遊び'で一所懸命に観客と共に'ポール命!'を目いっぱい楽しむ。ジャケットがすべてを物語っているような♪(上柴とおる)

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「そよ風の二人/バタースコッチ」(エアメールレコーディングス:AIRAC-1691)
 1971年に文化放送のAll Japan Pop20でNo.9をマークした「そよ風の二人」(本国では1970年にNo.17)で当時の洋楽ファンの間では結構知られたイギリスのグループ、バタースコッチ唯一のアルバムにボーナス7曲追加で20曲。'ソフト・ロック'が好きなあと追い世代のファンの間で持て囃されるようになり近年も各社から何度か復刻されているが今回はオリジナル英国盤を元にした紙ジャケット盤で2013年24ビット・リマスタリングという装いで新たに登場。実はアーノルド、マーティン&モロウという実績のある有能なソング・ライター・チームがバタースコッチの正体なのだがそれだけに半端じゃない楽曲揃い。'由緒正しき'英国ポップスの魅力が弾ける。(上柴とおる)

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「サンディ/サンディ・サリスベリー」(クリンク:CRCD-3529)
 こちらも後年、ソフト・ロック系のファンが熱い思いを抱くアルバムの再登場。1968年に日本でも発売されたグループ、ミレニウムの美麗なるシングル「霧のファイブ・エイエム」の作者でリード・ヴォーカルを取っていたのがサンディ。今回のアルバムは1969年に発売が予定されながら当時はオクラ入りになっていたソロ・アルバムの再復刻(2000年に日本のドリームスヴィルが世界初CD化)。やわらかで優しく明るい'サンシャイン・ポップ'のお手本みたいな仕上がりで、ハワイ育ちのサンディが憧れたフリートウッズやビーチ・ボーイズのカヴァーも含んで12曲。キュートな歌唱と共に今聴いても新鮮そのもの。(上柴とおる)

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「SONG TRAVELS/松岡ゆかり」(What's New Records:WNCS-5133)
 松岡ゆかりは、香川県さぬき市出身のヴォーカリストで地元のビッグ・バンドで歌っていたが、上京してからはピアノ・トリオをバックにクラブで活躍している。これは、彼女のファースト・アルバムで、過去3年間一緒にやって来たメンバー、元岡一英(p)吉田豊(b)横山和明(ds)と「Never Will I Marry」や「Load Of Love」や2曲歌う彼女の好きなアビー・リンカーンの歌などあまり日本の歌手が取り上げない歌を歌っている。良い歌で彼女が永く歌い継がれて欲しいと思う歌を10曲選んだという。まだまだ歌詞の表現等勉強の余地が多いが、メンバーと共に歌を良く研究していて其々の歌に対する思い入れと情熱が伝わってくるような作品だ。彼女の歌に取り組む真摯な姿勢を評価したい。(高田敬三)

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「ホリー・コール」 1月30日 コットン・クラブ
 1月30日のコットンクラブは、カナダのシンガー、ホリー・コールの円熟したステージだった。各種楽器を吹くJJジョンソンがバリトンサックスをブロウしながら客席から先導する「ウォーク・アウェイ」に始まり、最新盤『夜』からの曲を中心に、映画『007は二度死ぬ』のテーマ曲や、滝本尚史(trb.)、川崎太一郎(trp.)のホーンセクションも加わって、手の込んだ編曲で「シャレード」、「グッド・タイム・チャーリー」、華やかな「ヴィヴァ・ラスヴェガス」などを好唱。容姿同様、熟成したジャズ・シンガーに変貌していた。彼女の代表曲「コーリング・ユー」はすんなり歌って欲しかったが、これもテクを加えて時の流れを演出した。(鈴木道子)
写真提供:COTTON CLUB
撮影:米田泰久


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「ケンドリック・スコット」 2月2日 南青山ボディ&ソウル
 ケンドリック・スコットは1980年生まれのドラマー。クルセイダーズの再始動ツアーに抜擢されて頭角を現し、トランペット奏者テレンス・ブランチャードのバンドでも才能を発揮している。現在は“オラクル”という5人組バンドのリーダーとしても目覚しい成果をあげているが、この日はその縮小版というべき3人でのステージ。テイラー・アイグスティ(ピアノ)、ヴィセンテ・アーチャー(ベース)との共演で、演目はオリジナル曲が主体であったものの、中にディジー・ガレスピー作「ウディン・ユー」、ハービー・ハンコック作「ドリフティン」といった歴史的ジャズ・ナンバーのカヴァーも交えるなど、いわゆるモダン・ジャズのファンにも訴えるであろう内容だった。しかしプレイ自体は新鮮そのもの。スネア・ドラムを裏返して響線をこすってターンテーブル的な音を出したり、右手で指パッチンしながら左指でタムをこすったり引っかいたり、タムの上に皮をかぶせてミュートしたり、もうとんでもなく目まぐるしい動きなのだが、ノリが大きいので聴いていて全然あわただしい印象を受けない。そして肝心なのは、彼が取り組んでいるのが別に奇をてらったものではなく今のど真ん中のジャズ(それはもちろんヒップホップやオルタナ・ロックを通過しているもの)だということ。ドラム・ファン、およびドラム志望者(経験者)は一度、彼のライヴに行って両手両足を凝視することをお勧めする。(原田和典)


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「2 Cellos」 2月15日 オーチャードホール
 イケメン二人のチェリストによるライヴと言う事で、女性ファンが大半を占めている。彼らが現れて驚いたのは、生楽器ではなくエレクトリック・チェロを抱えて登場し、アンプに腰を降ろし、エフェクターにシールドをつなげる作業からライヴが始まることだ。彼らの演奏曲で世界的に話題になったのは、マイケル・ジャクソンの「スムーズ・クリミナル」だが、彼らの凄さはそれに止まらずグリーン・デイ、ジミヘン、U2、AC/DC、レッチリ、ガンズ&ローゼス、コールドプレイ、スティングとハードロックからパンクを中心に演奏し、ハードなビートが欲しい時はドラムを起用すると言う大胆な試みだ。従って、彼らの本当の凄さは、演奏のテクニックもさることながら、その選曲とアレンジによる所が大きい。演奏テクニックとしては、基本となるクラシック的要素からギター・テクニック、パーカッション的アプローチまで、サイケでアバンギャルドにエレクトリック・チェロを変幻自在に操るという高度なテクニックを要する。願わくは、2Cellosのファンの方々が、彼らが演奏した楽曲のオリジナルをこのライヴを機に聞いて欲しいものだ。そうすると如何にオリジナルが素晴らしく、彼らの選曲のセンスの良さとアレンジの巧さを再確認出来るだろう。(上田 和秀)


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「カーラ・ボノフ&ジミー・ウェッブ」 2月16日 ビルボードライヴ東京
 ジミー・ウェッブはグレン・キャンベルの「恋はフェニックス」を始め、'60年代後半から様々なアーティストに沢山のヒット曲を提供してきたアメリカの大御所ソングライター。ただシンガーとしてはカーラ・ボノフに比べると、少なくとも日本では知名度は低いかもしれないが、この日の彼のパフォーマンスは何物にも代え難い説得力に溢れたものだった。まずカーラが登場してギターとピアノの弾き語りで「Home」等、新旧曲を披露、次にジミーを招き入れての共演タイム。そしてジミーのピアノの弾き語りという構成で、ここまでくると彼の独壇場。その指は自由自在にメロディーをあやつり、がっしりとした野太い声で「ビートでジャンプ」等、次々に自作のお馴染みのナンバーを歌い継いでいく。途中でやり直したり、客席からのリクエストに応じてちょっとピアノを弾いたりと、気取らない雰囲気も客席との距離を縮めていた。個人的にも、作者によって見事に蘇ったメロディーの数々に涙腺がゆるみかけたが、そんな思い入れを差し引いたとしても、その演奏は皆の心に届いていたはずだ。最後には再びカーラを迎えての共演で締めくくりとなったが、それぞれの弾き語りという最少編成でもこれだけ大きなインパクトを与えられる、そんなことを見事に証明してくれた公演だった。(滝上よう子)
撮影:Masanori Naruse


Popular CONCERT Review

「ベン・フォールズ・ファイヴ」 2月18日 渋谷公会堂
 2012年に再結成し、アルバム『サウンド・オブ・ザ・ライフ・オブ・マインド』を発表したオリジナル・メンバーによるライヴとあって、気合の入り方も並ではない事が伝わって来た。ベン・フォールズのヴォーカルとピアノを弾く力強さは、そのテンションの高さを物語っている。ロバート・スレッジのディストーションを効かせたベースは、ギターレスを補う以上にリード・プレイを披露し、ダレル・ジェシーは、シンプルだが効果的且つ味わいのあるドラミングを聴かせる。バンドは、1+1+1が3ではなく10にも100にもなる可能性を秘めていることをこのピアノ・トリオは教えてくれる。この日のベン・フォールズ・ファイヴは、正に水を得た魚の如く、自由に自分達の音楽を奏でていた。ファンであれば誰もが知っているベスト選曲で、旋風の様に駆け抜けたベン・フォールズ・ファイヴに、今後の活躍を期待したい。(上田 和秀)
撮影:森リョータ

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「アダム・ランバート」 2月20日 渋谷公会堂
 煌びやかなハイトーン・ヴォイスが、女性の何処かを刺激し化学反応を起こし、会場全体を熱くする。ライヴが始まるや否や、興奮の坩堝と化した会場は、さながらクラブの様な熱気に包まれ、殆どの観客(勿論女性)達が限られた範囲でダンスを踊る。アダム・ランバートのバック・バンドは、イケメン・ギタリスト、女性ベーシスト、力強いドラマー、大迫力の二人のコーラス、二人のダンサーと至ってシンプルだ。基本ハード・ロックがベースの演奏に、アダムの妖艶なヴォーカルが加わり、新しいテイストのミュージックとなる。ビートの効いたロックロールから甘いバラードまで、何を歌ってもアダム・ランバートそのものなのだ。現在最高に怪しいヒーローは、これからもその唯一無二の魅力で、世界中のファンを魅了し続けるだろう。(上田 和秀)

Popular INFORMATION

「クラフトワーク」
 40年以上に渡り、テクノ・ポップの頂点に君臨するクラフトワークの9年振りとなる単独公演が決定した。今回は、ニューヨーク MoMA、デュッセルドルフ、ロンドンで行われ大絶賛を浴びた8夜日替わりによる全アルバムの3Dライヴの再演である。YMOを始め、80年代以降のテクノ・ポップ、ハウス、テクノ等のバンドに絶大な影響を与えたクラフトワークによる、正に体感すべきファン待望のライヴだ。(UK)
PHOTO + WORLDWIDE 2012(c) by PETER BOETTCHER

* 5月 8,9,10,11,13,14,15,16日 赤坂BLITZ
* 5月18日 なんばHatch
お問い合せ:ウドー音楽事務所 (03)3402-5999
http://udo.jp/

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