2013年2月 

 
Popular ALBUM Review

「ダウンタウン・ロッカーズ/トム・トム・クラブ」(ビクターエンタテインメント:VICP-65137)
 クリス・フランツとティナ・ウェイマスを中心とするトーキング・ヘッズの'別動隊'が2000年以来の新作を発表♪実際の作品数は6曲分だがミックスの異なるヴァージョンやインスト版を伴って日本盤は全15曲仕様になっており、米国発売のEP盤やiTunesからのアルバムや欧州盤CDに収録されていたトラックがぎっしり詰め込まれている。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやブロンディ、N.Y.ドールズ、ラモーンズ、デッド・ボーイズ、B-52'sやテレヴィジョン、パティ・スミスらの名前が次々登場するシンプルなエレクトロ・ダンス・サイケ・ポップ(?)なタイトル曲は聴いて即、トリコに。もう、これを聴くだけでも満足♪トム・トムの歴史に残る楽曲になりそう。(上柴とおる

Popular ALBUM Review


「ハード・アンド・ヘヴィー/サム・サムディオ」(BSMF:BSMF-7501)
 1970年代に中古の輸入盤を購入し「誰も注目なんぞしとらんやろな」と密かに悦に入っていたLPが何と初CD化!ちょっと悔しい(!?)。個人的にシングルやLPを集めていた1960年代のサム・ザ・シャム&ザ・ファラオス(「ウーリー・ブーリー」や「赤ずきんちゃん」等で有名)のリーダーが初ソロ名義で1971年にAtlanticから出したこのアルバムはトム・ダウドの制作(ジェリー・ウェクスラーも参加)。メンフィス・ホーンズやスウィート・インスピレーションズ、さらにはデュアン・オールマンもセッションに加わっており、その仕上がりはいわずもがな♪サムの自作曲もあるがレイ・チャールズ、オーティス・ラッシュ、ボズ・スキャッグス、ランディ・ニューマンなどカヴァーの選曲も渋い!当時シングルのみの「ミー・アンド・ボビー・マギー」がボーナス追加♪(上柴とおる)


Popular ALBUM Review

「BEST OF SHUN'S BLUES /菊田俊介」(キングレコード:KICP-1647~8)
 既に伝説と化したブルース・ギタリスト菊田俊介初の2枚組ベスト・アルバムが届いた。菊田ファンにとっては、キングレコード時代のベスト・テイクを思う存分味わえ、まだ菊田を経験していない方にとってもブルースの入門編として最高に聴き易くノリの良いアルバムに仕上がっている。さすがに20年以上に渡り、ブルースの本場シカゴで活躍を続ける菊田のベスト盤だけあって、天才的なギター・テクニックを余すことなく堪能出来、全く無駄のない選曲とゲストにブルース界の巨匠オーティス・ラッシュ、ジュニア・ウェルズ、ココ・テイラーに加え、シーナ&ロケッツの鮎川誠という豪華なラインナップで、充分過ぎる程の聴き応えとなっている。これは、紛れもなく菊田俊介が日本を飛び出し、世界を代表するブルース・ギタリストであることを証明する究極のベスト盤だ。今年は、Shun Kikuta & Legend of Rockersとして、国内ライヴ・ツアーも決定している。一段とブルース魂に磨きがかかった菊田俊介の演奏を多くのファンは待ち望んでいる。(上田 和秀)

Popular CONCERT Review

「マリア・シュナイダー・オーケストラ」12月19日 ブルーノート東京
 結成から約20年。現代ジャズ界で最も重要なビッグバンドとの高い評価を得ているマリア・シュナイダー・オーケストラが、遂に初来日を果たした。マイルス・デイヴィスとのコラボレーションでジャズ史に足跡を残したバンド・リーダー、ギル・エヴァンスの晩年のアシスタントを務めて奥義を吸収。これまでのアルバムはわずか6枚にとどまるが、自作曲が中心のポリシーはグラミー賞受賞に結実している。ぼくも初めて観たステージは、作・編曲家シュナイダーの意を汲んだメンバーが適材適所の好演で繋ぎ、リーダーの世界観の実現に貢献する姿勢が印象深かった。出色だったのが鳥にインスパイアされてシュナイダーが作曲した「セルリアン・スカイズ」。ダニー・マッカスリン(ts)が緩急をつけて鳥の動きを描写し、終盤にはバンド全体で美しいアンサンブルを現出。4日間8ステージすべてソールド・アウトの、2012年度屈指のライヴとなった。(杉田宏樹)
撮影: Jimmy and Dena Katz


Popular CONCERT Review

「ジョン・ピザレリ」 12月22日 ブルー・ノート東京(ファースト・ステージ)
 最近、ジョーク満載の自伝「World On A String」を出版したジョン・ピザレリ、陽気な彼は、ハレの舞台が似合う。「コットン・クラブ」でのヴァレンタイン・デイに続いて今年、2度目の来日でのクリスマス公演は、ラリー・フラー(p)、マーチン・ピザレリ(b)、アンソニー・テデスコ(ds)のこの所、不動のカルテットで、おしゃれで分かりやすいジャズで聴き手を楽しい気分にさせてくれるステージだった。先ずは、シナトラに捧げたアルバムから、続いてナット・キング・コールを歌うアルバムから、そしてスキャットやドラム・ソロ等も交えジャジーに展開する「Just You, Just Me」等と続く。そして、エルビス・コステロやニール・ヤングの作品をジャジーに料理した最近のアルバム「Double Exposure」から「Walk Between The Raindrops」等を歌う。メンバー其々のソロも交えギターの妙技を見せた後は、ピアノとベースをバックにギター無しで歌う「Let's Share Christmas」を始めクリスマス・ソング。何度も歌い演奏して来て身に染みついたといった歌をスインギ−に歌い演奏して、心地良く聴かせてくれた夕べだった。アンコールでは、一人でステージに戻り「I'm In The Mood For Love」をギターの弾き語りでしっとりと歌った。(高田敬三)
撮影:山路ゆか


Popular CONCERT Review

「Hello! Project 誕生15周年記念ライブ2013冬 〜ビバ!〜」 1月2日 中野サンプラザ
 モーニング娘。、Berryz工房、℃-ute、真野恵里菜、スマイレージ等を擁する「Hello!
Project」(ハロプロ)が、正月2日から誕生15周年記念ライヴをおこなった。最新曲と代表曲で攻めてくるのだろうな、と思いきや、そうではなかった。目下の最新曲に加え、2月から3月に発売予定の新曲もリリースに先駆けてガンガン楽しませてくれたのだ。Berryz工房「アジアンセレブレーション」、℃-ute「この街」、モーニング娘。「Help me!!」等、初聴きのナンバーはどれもサウンドに工夫がこらされていて、ライヴ映えする。とくに「Help me!!」では往年のパーラメント/ファンカデリックに通じる強烈なグルーヴ、尖った音響処理がいつまでも耳にこだました。今やアイドル界の老舗といっても過言ではないハロプロだが、姿勢はますますアグレッシヴ。ここまで攻めに攻めまくるコンサートは、音楽ジャンル多数あれども、決して多くないはずだ。しかも、メンバー全員、とんでもなく輝かしい笑顔でウルトラC級の歌やダンスをこなしていくのだから、感心するよりほかにない。開始時間きっかりに始まり、2時間でキチッと終わる巧みなショウ構成も見事!(原田和典)


Popular CONCERT Review

「ライアン・カイザー、アリ・ジャクソン、エルダー・ジャンギロフ&デズロン・ダグラス」 1月5日 コットン・クラブ
 ホレス・シルヴァーの最後期のグループに在籍したことでも知られるトランペット奏者がライアン・カイザーだ。アルバムで接する限り出来不出来の激しいタイプのようだが、『パワー・ソース』、『ライヴ・アット・スモールズ』は秀作だった。今回は4者連名によるステージだが、どうしても目立つのはフロント・ラインにひとりたつカイザーだ。彼はトランペットとコルネットを持ち替え、マイルス・デイヴィス風に「いつか王子様」を吹いたり、リー・モーガンの「カ・リー・ソ」をとりあげたり、いろいろ過去の巨匠を勉強した成果を発表した。しかし「ライアンならではの節回し」が、もう少しあってもいいのではないか。ソロはいずれも事前に練習してきたものを披露している感じで、バックの演奏に触発されて次々とアイデアが沸き起こる、というタイプではないようだ。ピアノのエルダーは天才少年と呼ばれて久しいテクニシャン。驚くほど多くの音を使い、粒の揃ったトーンを出す。これでスイング感、歌心が出れば鬼に金棒だ。そういうわけで僕にささやかでも「ジャズを聴く喜び」を与えてくれたのはダグラスの骨太なベース、ジャクソンの堅実なドラムスであるが、もうちょっと「熱い血潮」を持っている面々が管楽器やピアノを担当すれば、音楽は何倍も面白くなったはずだ。(原田和典)
写真提供/COTTON CLUB
撮影/米田泰久


Popular CONCERT Review

「ポール・ギルバート」 1月15日 赤坂ブリッツ
 ヘビメタ・ファンク・ハードロック・ブルースと何でもこなすオールラウンドなスーパー・ギタリスト ポール・ギルバートが、自身のバンドを引き連れて新年早々飛びっきりいかしたライヴを披露してくれた。昨年9月にリリースされたソロ・アルバム『ヴィブラート』からの選曲が中心だが、得意のベースとのツイン・タップや早弾き、ハードなリフをキメるなどスーパー・テクニックを惜しげもなく聴かせるあたりセンスが光る。また、時折ピート・タウンゼントやカルロス・サンタナといったフレーズをぶち込んだり、フルアコによるMR.BIGのメドレーを聴かせるなど観客を楽しませるだけでなく、自分自身やバンドも楽しみながら演奏をしていた。この日は、リスペクトしているブルース・ギタリスト パット・トレバースの「Go All Night」を始め、フェイセス、ポリス、AC/DCの曲もカバーしたが、ハイライトは何と言ってもゲイリー・ムーアーの「Still Got The Blues」だ。決して上手くないが味のあるヴォーカルとムーアーが舞い降りた様に力強く伸びのあるブルース・ギターを聴かせて会場を熱くした。正に、2013年の幕開けに相応しく、2時間に及ぶ中身の濃い楽しいライヴだった。(上田 和秀)

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