2012年11月 

 
Popular ALBUM Review

「リリース・ミー/バーブラ・ストライサンド」(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル:SICP-3563)
 バーブラが未発表だった曲を集めて新作に。こんないい曲が今まで倉庫に眠っていたかと思うと感にたえない。作品がリリース・ミー(出してよ)と言っているのが分かる。トップの座にい続けて半世紀。初期の60年代の曲も2曲はいっているし、昨年録音の新作もある。それらがいずれも優雅に輝いているから嬉しくなってしまう。演劇的でユニークな個性の塊みたいだった曲は無く、統一感がある。ジョビンの「ロスト・イン・ワンダーランド」(68年録音)は難しい音程をびくともせずスムーズに歌っていく。一語一語丁寧な表現の「柳よ泣いておくれ」は67年録音。『フィニアンの虹』ほかのミュージカルからの曲の優雅で練れた歌唱もすばらしい。パンフレットも充実している。(鈴木道子

Popular ALBUM Review


「ミッシェル・ンデゲオチェロ/至高の魂のために〜ニーナ・シモンに捧ぐ」(JANレコード:VITO-115)
 ジャズに括られているが、ソウルはじめジャンルを超えた孤高の歌手ニーナ・シモン。彼女に影響されたシンガーは実に多い。その一人と言っていいヴェテラン、ミシェル・ンデゲオチェロがニーナに捧げたアルバムを作った。彼女もまたソウル、ジャズ、ロック、ファンクほかジャンルを大きく超えたシンガーだ。アニマルズでも知られる「朝日のあたる家」、レナード・コーエンの「スザンヌ」はじめ独自の表現で覆われているが、その黒く豊かで深い声は心にしみる。「フィーリング・グッド」は新しい門出の気持ちよさを歌ってはいるが、その奥深くにある哀しみが感じられる。シネイド・オコナーとの息の合ったデュオなどもあり、しみじみと聴きごたえのある歌声に感動する。(鈴木道子)


Popular ALBUM Review

「青い影〜ベスト・オブ・プロコル・ハルム」(ビクター:VICP-75090)
 11月〜12月にかけてビルボード・ライブでの公演(2003年11月以来の来日)に加えて彼らの大ファンという松任谷由実とも共演。ユーミンのベスト盤では彼女と共に「青い影」を新録音するなど思わぬ?ところから再びクローズ・アップされ出したプロコル・ハルム。もう20年ほど前に再結成して新譜も出している彼らだがこの'ブーム'に乗じてアルバム10枚が新たに紙ジャケ&で高音質盤で再発されるが同時に日本編集の新ベスト盤も登場。第2弾ヒットで個人的に名曲として愛聴し続けて来た「ホンバーグ」(シングル・ヴァージョン)や「征服者」のライヴ・ヴァージョンも含む全20曲(1967年〜1977年の音源)はまさに彼らの魅力がコンパクトに表現された内容でこのジャケットにもときめいてしまう♪(上柴とおる)

Popular ALBUM Review

「マイ・ハート・イズ・ホーム/ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ」(ビクター:VICP-75089)
 'ソフト・ロック'ファンを驚かせ感動させた約40年ぶりのアルバム「フル・サークル」(2007年)に続き'早くも'新作が日本先行でお目見え♪ロジャー・ニコルズ、マレイ・マクレオド、メリンダ・マクレオドのトリオが再びスタジオ入りしてくれるだけでファンは満足だろうが今回は独特の'ほわほわ感'を伴った特上のメロ&ハーモニーは言うまでもなく「愛のプレリュード」(ロジャ・ニコ&ポール・ウィリアムスの名作)やネス・カフェCM曲「ワン・ワールド・オブ・ユー・アンド・ミー」のセルフ・リメイクや新しい試みのジャジーな楽曲、さらには素敵なクリスマス・ソングを組み込むなどより幸せな気分を高めてくれる嬉しい要素も惜しみなく♪(上柴とおる)

Popular ALBUM Review

「オン・ザ・ライン/ビョルン・ヤーツビー」(プロダクション・デシネ:VSCD-9425)
 '北欧AOR'なるものがあったとは知らなんだ。あの時代、アメリカだけではなくスウェーデンでもこういうレコードが人気を呼んでいたということも。1954年生まれのビョルン・ヤーツビーが1980年にリリースされたアルバムの紙ジャケ復刻だが全編を通じてメロディー・メイカーとしての才能もかなりのものだと感じさせられた。ABBAを引き合いに出すまでもなく北欧ものは得てしてポップ感覚に優れており日本人には親しみやすい。シンセを生かしたポップ・ソウル・ディスコ風やライト・ファンク感覚などを交えるなど今となってはよくあるパターンの連続ながら懐かしさもあってつい聴き入ってしまう。当時欧州でヒットしたという「フライ・フライ・アウェイ」は日本のTVドラマ主題歌にもいけそう♪ ボーナス2曲追加で全13曲。(上柴とおる)

Popular CONCERT Review

「キャサリン・ジェンキンス」 9月20日 オーチャードホール
 実力・美貌共に世界を代表する歌姫キャサリン・ジェンキンスのライヴは、若手中心のオーケストラによる厳かな中に華やかさを醸した「カルーセル・ワルツ」で、幕を開けた。眩いほどに輝くドレスを身にまとったキャサリンは、美しい響きと声量に力強さを兼ね備えたメゾソプラノで「ティル・ゼアー・ワズ・ユー」から「ハレルヤ」、「アメイジング・グレイス」、「ゴッドファーザー」と観客を魅了した。確かに高域も良く伸びるのだが、何と言っても彼女の魅力は、力強い中低域の安定感だろう。英語だけでなくスペイン語の歌も難なくこなし、クラシックからスタンダードまで幅広く歌いこなすのも素晴らしい。唯、本当に彼女の代表曲又は、オリジナルのヒット曲がなければ、これから先が見えてこないのも確かだ。特に、アンコールの「タイム・ツー・セイ・グッバイ」は、どうしてもサラ・ブライトマンと比べてしまうので、流した感が拭えない。これからは、彼女にしかない唯一無二の歌を歌って欲しい。(上田 和秀)
撮影:Yuka Yamaji

Popular CONCERT Review

「クリス・デイヴ」 9月21日 ビルボードライブ東京
 ロバート・グラスパーやケニー・ギャレットのジャズメンにとどまらず、メアリー・J・ブライジ、アデル、サンダーキャットといった他ジャンルのミュージシャンのサポート・ワークでも注目される新世代ドラマーがクリス・デイヴ。5人編成と告知されていたのだが、お目当てのゲイリー・トーマス(sax)と鍵盤奏者は不在で、レギュラー・バンドを縮小したトリオによるステージとなった。ギタリストがスキャットをしながら、アンダーグラウンドなムードを延々と継続。メドレー風に進行すると、ハービー・ハンコックの70年代名曲「アクチャル・プルーフ」が飛び出して、期待が高まった。しかし鍵盤とサックスの不在を補うには至らず。デイヴは独特のセッティングとエフェクター使用で個性を表現したが、緊急事態をプラスに転化することはできなかった。次回のリヴェンジに期待したい。(杉田 宏樹)


Popular CONCERT Review

「ウエスト・サイド物語」 9月21日 東京国際フォーラム・ホールA
 レナード・バーンスタイン作曲、スティーブン・ソンドハイム作詞、1957年のブロードウェイ・ミュージカル「WEST SIDE STORY」は、1961年に映画化が完成し、日米同時公開された。映画で親しんだこの作品の舞台を観たのは、1968年に初めて行ったニューヨークのリンカーン・センターだった。映画公開50周年を記念して、昨年9月にリンカーン・センターでユニークなコンサートが開催された。映像をデジタル化して巨大なスクリーンに映し、サウンドトラックから音楽部分を消して、セリフ、歌、効果音をスピーカーから流す。音楽は画面に合わせてフル・オーケストラのナマ演奏を聞かせる。日本ではバーンスタインの最後の愛弟子、佐渡裕氏の指揮、舞台上での演奏は東京フィルハーモニー交響楽団。スクリーンやビデオ、テレビ等で何度も観ている「ウエスト・サイド物語」が珍しいコンサートとなって甦った。(川上博)


Popular CONCERT Review

「中川晃教コンサート2012 in HAKUJU HALL Vol.2」 9月22日 富ヶ谷Hakuju Hall
 中川晃教(なかがわ・あきのり)は2001年にデビューしたシンガー・ソングライター。俳優としても杉村春子賞 、文化庁芸術祭賞新人賞などの栄誉に輝き、ロック・ミュージカル「トミー」の日本初舞台化のときには主役を演じている。2009年からクラシック系のホールでのコンサートも開催しており、Hakuju Hallへの登場は約半年ぶり。「ポップ+クラシック」を目指す、POP CHICというコンセプトによるステージだ。チェロ、ピアノ、アコースティック・ギターをバックに、「happy day」、「終わりのない愛」、「No.5」などを熱唱したが、これらはそれぞれ「トルコ行進曲」、「白鳥の湖」、「運命」を土台に、日本語の詞をつけたもの。かつてドビュッシーの「夢想」をラリー・クリントンが「マイ・レヴェリー」というタイトルでポップ・ソング化したことと、根本的には同じアイディアだろう。とにかく中川の歌声には芯があり、高音がとてもよく伸びる。今後どんなレパートリーが、POP CHICに加わってゆくのか。楽しみだ。(原田和典)
撮影:杉本理


Popular CONCERT Review

「ウェイン・クランツ/キース・カーロック/ネイト・ウッド」 9月24日 ビルボードライブ東京
 自身のヴォーカルをフィーチャーした新作『HOWIE 61』を引っさげて、ウェイン・クランツが来日した。といっても僕は彼の歌にそれほど魅力を感じているわけではない。それよりも変幻自在、先が一歩も読めないギター・プレイに惹かれ続けている。この日は約半数のトラックで歌を歌っていたが、基本は熱い即興。間奏パートはCDよりも遥かに長く、「このギターあってこそのクランツ」との認識を新たにした。舞台中央に位置したドラムスのキース・カーロックも、先日ラリー・カールトンと来日したときとは別人の如く奔放なプレイを展開。古式ゆかしいフュージョンでは窮屈にならざるを得ないのだろう。ネイト・ウッドは注目のグループ“ニーバディ”のドラマーだが、ここではベースを中心に演奏。しかし時おり舞台上手に設置されたドラム・セットに座り、カーロックと分厚いツイン・プレイを聴かせた。(原田和典)
撮影:acane

Popular CONCERT Review

「エイジア」 9月24日 渋谷公会堂
 80年代を代表するスーパー・プログレッシブ・ロック・バンドASIA(エイジア)のライヴは、2年振りとなる最新アルバム『XXX〜ロマンへの回帰』を携えて気合の入ったものだ。バンド・マスターのスティーヴ・ハウ(g)は、いつもの如く華麗なフィンガリングでファンを魅了し、カール・パーマー(ds)は、全盛期と変わらぬパワフルでトリッキーなドラム・ソロを見せつけた。ジェフ・ダウンズ(key)をバックに従えて、独唱するジョン・ウェットン(vo,b)の姿は、「俺は、まだこんなに歌えるんだ!!!」と自信に充ち溢れていた。新作からの楽曲もファースト・アルバムに劣らず、ドラマティックでクオリティが高く、ファンの心を掴んでいた。ラストを飾った「ヒート・オブ・モーメント」で、誰もが完全燃焼し、ライヴの幕を閉じた。ASIAがいつまでもプログレの火を消さずに、頑張り続ける事を心から祈りたい。(上田 和秀)
撮影:吉浜弘之

Popular CONCERT Review

「リッキー・リー・ジョーンズ」 9月27日 ブルーノート東京 「ファースト・ステージ」
 つぶやくように、また時には叫ぶように歌い、ロック、ジャズ、ブルース、フォーク等、色々なサウンドを取り込んで他の誰にも追随できない個性を構築してきたリッキー・リー・ジョーンズ。この日もステージに登場するなり自分の世界に没入。ヒットの有無も新作のプロモーションも関係なく、まるでプログラム等ないかのように、1曲終わるとその場で次に歌いたい曲を決めていくといった感じで即興ライヴの趣さえ漂わせる。バックのメンバーも、ステージ上で彼女と簡単なやりとりをするだけで意気のあったサポートぶりを披露。観客も最初はややとまどいを見せていたが、2曲目からは会場全体が彼女のものとなり、最後まで聴衆を魅了し続けた。どんなに馴染みのない曲だろうと、リッキーの歌いっぷりは心に届くものを持っているが、聴いている内に歌詞を知りたいという衝動に駆られるのも事実。自分の言葉で発しているからこそ、更にその深遠なる部分に入り込みたくなるのだろう。ライヴならではの醍醐味を味わえる彼女のステージにはいつもワクワクさせられる。(滝上よう子)

Popular CONCERT Review

「ミシェル・ルグラン シンフォニック・スペシャル・ナイト」 10月2日 すみだトリフォニーホール
 映画音楽家としても、またジャズ・ピアニストとしてもお馴染みのフランス音楽界の巨匠、ミシェル・ルグランが生誕80周年を記念しての来日公演を行った。前半はベースとドラムスを従えてのトリオ編成で自由闊達なジャズ・パフォーマンスを繰り広げ、最後にはエロール・ガーナーやデューク・エリントン、カウント・ベイシー等、ジャズ界の巨匠達の演奏を模倣して見せる等、その軽やかな指さばきは全く衰えを知らない。後半は新日本フィルハーモニー交響楽団との共演による映画音楽中心のプログラムで、洗練された中にも情感を携えたルグランのサウンドは脳裏をよぎる映画のシーンと相まって、閉ざされた感情を解き放ち、心に潤いを与えてくれる。途中から加わったルグラン夫人でハープ奏者のキャサリン・ミシェルも華麗な音色を披露。ルグラン自らもスキャット風に歌う場面も多く、決して巧くはないが、そこにも作曲者ならではの味わいがあった。(滝上よう子)
撮影:三浦興一

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「ポール・ギルバート」
 2013年年明け早々、ビッグなミュージシャンの来日公演が決定した。MR.BIGのギタリスト/ポール・ギルバートだ。新世代のスーパー・ギタリストであり、コンポーザーとしても高い評価を受けている。新作『ヴィブラート』も好調で、ノリに乗ってるポール・ギルバートのライヴに要注目だ。加えて、来場者全員に『未公開映像収録お年玉DVD』をプレゼントという、ファンには嬉しいニュースだ。(UK)

* 1月15、16日 赤坂ブリッツ
* 1月18日 松下IMPホール
お問い合せ:ウドー音楽事務所 (03)3402-5999
http://udo.jp/

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「アダム・ランバート」
 何かとお騒がせな魅惑のヴォーカリスト/アダム・ランバートの3年振りとなる単独ジャパン・ツアーが決定した。最新アルバム『トレスパッシング』が、全米チャート初登場No.1という快挙を成し遂げ、「神の声域を持つ世紀のヴォーカリスト」という呼び名も伊達じゃないことを証明した。今度の来日公演でもどんな話題を振りまいてくれるか楽しみな実力派である。(UK)

* 2月19、20日 渋谷公会堂
* 2月23日 金沢市文化ホール
* 2月25日 クラブ ダイアモンドホール
* 2月26日 なんばHatch
お問い合せ:ウドー音楽事務所 (03)3402-5999
http://udo.jp/

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『ザ・ローリング・ストーンズ『クロスファイアー・ハリケーン』ジャパンプレミア」
 結成50周年を迎えたザ・ローリング・ストーンズの全てを写しだしたドキュメンタリー映画『クロスファイアー・ハリケーン』ジャパンプレミアが開催される。代表曲「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」の歌詞をタイトルに使用していることからも、その意気込みが伝わる。ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、チャーリー・ワッツ、ロニー・ウッド、ビル・ワイマン、ミック・テイラーといった歴代のメンバーが、初めてインタビューで語る真実も非常に興味深い。本作の製作総指揮は巨匠マーティン・スコセッシであり、監督はブレット・モーゲン、プロデューサーはヴィクトリア・ペアマンという最強の布陣による、未公開を含む数千時間の映像、数万枚の写真に加え、数十曲の未発表テイクを含む膨大な音源から選りすぐられた、ストーンズ・ファンのみならず全音楽ファン必見の作品である。(UK)

* 11月7日 Zepp DiverCity (TOKYO) 14時/19時
お問い合せ:ウドー音楽事務所 (03)3402-5999
http://udo.jp/

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