2010年3月 

 
Classic ALBUM Review【協奏曲】

「J.S.バッハ:《ブランデンブルク協奏曲》全曲/リッカルド・シャイー指揮、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団」(ユニバーサル ミュージック、デッカ/UCCD-1258〜9)
 2005年にゲヴァントハウスのカペルマイスターとなったシャイーによるライヴ・レコーディングである。世界一古いこのオーケストラも第二次世界大戦後、シャイーとの関係が出来るまで、改革を旗印とする指揮者に恵まれなかったせいもあり、進歩の面では他の新参オケにも遅れをとったことも否めない。このCDはシャイー着任2年後の2007年に録音されたものだが、管には古楽器を使い、弦では古楽器奏法を取り入れてはいるものの、驚くほどの新鮮さと充実した内容を持った演奏を聴かせてくれた。それは筆者が1961年の初来日時に新宿厚生年金で聴いたくすんだ印象とは異なる、若さと完成度を兼ね備え完全に変身したゲヴァントハウスの姿である。ソロはすべて団員だが、その技術的水準は高い。特に第2番でのトランペット・ソロは絶品。 (廣兼 正明)

Classic ALBUM Review【協奏曲】

「ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調&第2番ヘ短調/小山実稚恵(Pf)、ヤツェク・カスプシク指揮、シンフォニア・ヴァルソヴィア」(ソニー・ミュージック・ジャパン、ソニー/SICC-10090)
 1985年のショパン国際ピアノ・コンクールで4位に入賞した小山実稚恵だが、演奏会では数多く取り上げているショパンのピアノ協奏曲を、ショパン生誕200年に初めて録音したとは信じられない。指揮者もオーケストラも場所もショパンの国ポーランド、そして使用楽譜も2005年にポーランドで刊行された新校訂版を使用した。小山はこの楽譜を彼女なりに念入りに咀嚼して一つ一つの音を大切に扱い、優しく爽やかな切れの良いタッチで新しいショパン像を表現た。指揮者のカスプシクの心を込めた棒も素晴らしく、優れたオーケストラのシンフォニア・ヴァルソヴィアとともに、ピアノを優しく包み込むようなサポートはショパンを知り尽くした指揮者とオーケストラなればこそであろう。 (廣兼 正明)

Classic ALBUM Review【室内楽】

「メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番&第2番/エマニュエル・アックス(Pf)、イツァーク・パールマン(Vn)、ヨーヨー・マ(Vc)」(ソニー・ミュージック・ジャパン、ソニー クラシカル/SICC-10090)
 メンデルスゾーン生誕200年を記念して録音されたこのCDは、メンデルスゾーンはこのように弾くものだと言わんばかりの綿々としたロマンティシズムに彩られた演奏である。それは第1番冒頭の多少遅めのテンポで歌うチェロによる主題をヴァイオリンがこの楽章のテンポを確定させるかのようにアッチェレランド気味に引き継ぐところから始まる。名手が集まっての室内楽は往々にして各々の主張がぶつかり合って名アンサンブルにならないことが多いが、この3人の名手たちは常日頃から合奏の機会が数多くある仲間同士であり、今回のレコーディングでも素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれる。そして美しい音が必須のメンデルスゾーンで、パールマンの存在価値は極めて大きい。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review【器楽曲】

「Chopianism/仲道郁代/ショパン:ワルツ第2番変イ長調Op.31、バラード第3番変イ長調Op.47、同第1番ト短調Op.23、練習曲第1番ハ長調Op.10-1、同第5番Op.10-5、同第9番ヘ短調Op.10-9、同第13番変イ長調Op.25-1、同第12番ハ短調Op.10-12、同第3番ホ長調Op.10-3、幻想ポロネーズ変イ長調Op.61、マズルカ第13番イ短調Op.17-4、ワルツ変イ長調Op.69-1 仲道郁代(Pf)」(ソニー・ミュージック・ジャパン、RCA/SICC-1326)
 ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集の大仕事を終えた仲道郁代が16年ぶりにショパンの作品を新録音。作品の読み込みの深さ、構成への配慮、ショパンとピアノとの相関関係への洞察など、彼女の着実な進化がうかがえる。ヤン・エキエル校訂の新しいナショナル・エディションが使われているが、納得できる演奏表現を貫いた彼女らしい選曲で、ショパンが大好きだった変イ長調の名曲が多く、曲・演奏ともに充実している。演奏の難しいショパンの最高傑作「幻想ポロネーズ」もよく手の内に収めた好演だ。(青澤 唯夫)

Classic ALBUM Review【クロスオーバー】

「ミスター・ベースマン」(佼成出版社/KOCD-2527)
 ユーフォニアム2本、チユーバ2本、パーカッションによる五重奏の管打室内楽のアンサンブルである。外囿祥一郎(航空自衛隊)、山岡潤(ジャズ・ユーフォニアム)、荻野晋(東京フィル)、次田心平(読売日響)に、宮嶋貴哉(航空自衛隊)によるクラシックの名曲からジャズ、ブルース、オールディーズまでの幅広い名演である。前田憲男による洒落たアレンジも生き生きとしていた。普通バスと言えば低音の合奏と見られがちだが、どうして高度のテクニックを駆使したメロデックな美しい演奏であとった。アイルランド民謡のダニー・ボーイやトルコ行進曲など、圧巻はシェエラザードの組曲であった。管楽合奏のファンのみならず、すべての音楽ファンの要望に応えるCDである。(斎藤 好司)

Classic CONCERT Review【オペラ】

「ベルガモ・ドニゼッティ歌劇場《椿姫》」1月3日 大阪厚生年金会館
 「椿姫」はプリマドンナの出来如何で評価が大きく左右される。オペラの中で最高の人気を誇りながら、一皮めくると主役にとっては重圧がひしひしと迫ってくる。それだけに大役を見事に果たした時の充実感は、他とは比較にならないものがあろう。ここに「プリマドンナ・オペラ」の妙味があり、頂点を目指す歌手はこの難関を見事にクリアして、スターの切符を手にしてきた。
マリエッラ・デヴィーアはこの日の熱演で、日本のファンに強烈なインパクトを与え、その地位を不動のものにした。コロラトゥーラのコントロールは絶妙で、ベルカントオペラの醍醐味をたっぷり堪能させてくれた。アントニオ・ガンディア(アルフレード)ら他の歌手たちの熱演もかすんだほどである。指揮者のブルーノ・チンクエグラーニはもちろん、演出のパオロ・パニッツァ、日本でもおなじみの舞台イタロ・グラッシも、このディーヴァ(女神)の引き立て役に徹したことが、成功の遠因にあると思う。(椨 泰幸)
(Photo:Corrado Maria Falsini)

Classic CONCERT Review【器楽】

「オペラシティ・リサイタルシリーズ B_C 横坂 源」1月19日 東京オペラシティリサイタルホール
 エネルギー豊かなチェロを聴いた。横坂源は2005年に出光音楽賞を受賞、ピエール・ブーレーズが芸術監督を務めるルツェルン・フェスティバル・アカデミーに参加。現在はドイツでジャン=ギアン・ケラスに師事している。「バッハから現代まで」をコンセプトとするリサイタルなので、J.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲第4番 変ホ長調BWV1010」からルトスワウスキ(ポーランドの作曲家)の「ザッハー・ヴァリエーション」、黛敏郎の「文楽」までが演奏されるという多彩なプログラム。ノベルティ臭い「文楽」は別の曲に差し替えられるべきではと思ったが(もちろんこれは演奏者の責任ではなく、譜面の問題だが)、チェロの豊かな響きは堪能させてくれた。たまに聴かせたピチカート(指弾き)も良かった。(原田 和典)
(写真提供:東京オペラシティ文化財団)

Classic CONCERT Review【室内楽】

「バイバ&ラウマ・スクリデ姉妹デュオ・リサイタル」1月24日ザ・フェニックスホール(大阪)
 ラトヴィア出身で姉のバイバはヴァイオリン奏者で、01年にエリザベート国際コンクールで優勝した。妹のラウマがピアノで支える。ヴァイオリンの響きには鮮烈な自己主張で貫かれて、ぐいぐいとバイバ・ワールドへ引きずり込んで行く。ちょっとやり過ぎではないかと思うほどだが、終わってみれば、胸のすくような心地よさだけが残る。コンクールで鍛え上げた腕は並でない。演奏された4つの作品の中では、バルトークの無伴奏ヴァイオリンソナタがひときわ光った。東欧の民俗的エネルギーをふんだん放射させ、異国の世界へ誘い込む。プロコフィエフ「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番」では、時折北方的なほの暗さが浮かんで、残像を刻み込んだ。ドビュッシー「版画」のピアノ・ソロはたゆたう揺れに乏しく、やや平板。(椨 泰幸)
(写真提供:ザ・フェニックスホール)

Classic CONCERT Review【室内楽】

「ロンドン交響楽団ブラスクインテット演奏会」 1月25日 東京文化会館小ホール
 新春痛快な管室内楽の演奏会があった。ロンドン交響楽団のメンバーによる金管五重奏団による演奏だった。ナイジェル・ゴム(トランペット)は昭和49年に初来日したことのあるフィリップジョーズ・アンサンブルに参加した超ベテラン。フィリップ、コブ(トランペット)は昨年ロンドン響に入団したはかりの若手。ディヴィッド、パイアット(ホルン)は超絶技巧派。ダドリー、ブライト(トロンボーン)は表情豊か。パトリック、ハリルド(チューバ)は色彩感豊か。によるイギリスの誇る伝統の響きである。ファーナビーによる組曲「空想・おもちゃ・夢」は日本でもよく演奏されるが、こんなにも典雅な曲とは気ずかなかった。アーノルドの「金管五重奏曲」はすばらしかった。音楽の「楽しさ」とは遊びの歌心を持った、高雅な技術に裏打ちされた、間の妙を示唆されたかのような演奏会であった。(斎藤 好司)

Classic CONCERT Review【オペラ】

「藤原歌劇団公演《カルメル会修道女の対話》」2月7日、東京文化会館
 ダブルキャスト2日目を観た。特筆は、指揮アラン・ギンガル以外すべて日本人の舞台で緻密なアンサンブルと、感動的なシーンに仕上げたこと。不安点が皆無ではないが、群愛子、三浦克次、本宮寛子ら歌劇団の中心メンバーの強力な牽引が舞台に味を出す。ドラスティックな展開を見せたのは第1幕終わり。死の床にある群の歌が真に迫った。一方、第2幕「アヴェ・マリア」は清らかな色合いに染め上げた。若手も健闘する。ブランシュ役・佐藤亜希子、コンスタンス役・大貫裕子、司祭役・所谷直生が輝いた。松本重孝の演出は終幕「サルヴェ・レジーナ」の音楽を盛り上げた。断頭台に一人一人消える背景に、ヒロシマまでの人類の蛮行を映し出す。物語の現代性をあぶり出し、プーランク音楽の批評性を示す卓見だ。藤原歌劇団合唱部、管弦楽は東京フィル。(宮沢 昭男)
〈写真提供:(財)オペラ振興会、撮影:池上直哉〉

Classic INFORMATION【講習会】

レッスン風景

「マルゲリータ・グリエルミ ベルカント唱法特別公開レッスン」
 オペラの殿堂、ミラノ・スカラ座に、ソリストとして20シーズン連続して登場したキャリアを持つイタリアの名ソプラノ、マルゲリータ・グリエルミ女史が、東京と名古屋で公開レッスンを行う。グリエルミ女史は、イタリア歌劇団やスカラ座の来日公演にも同行しており、日本のファンにもなじみが深い歌手。この公開レッスンは3年前から開催されており、呼吸法や口の開け方に始まるていねいで熱心な指導は、毎回たいへん好評を得ている。最終日には受講生による修了コンサートも予定されている。詳細はHPで。(K)
日程および会場
名古屋 3月7日 I・M・Yホール
東京 3月8日〜27日 イタリア文化会館
http://www.kosyukai.com/

Classic INFORMATION【コンサート配信】

スカラ座「椿姫」の舞台より

映画館でオペラやバレエを〜ソニー配信「ライブスパイア」
 最新のオペラ公演を日本全国の映画館で配信するメトロポリタン・オペラの「ライブビューイング」が人気を集めているが、またひとつ、映画館を使ったオペラ配信がスタートした。ソニーが配給している「ライブスパイア」がそれ。「ライブビューイング」で上映されるのはメトロポリタン歌劇場の公演だけだが、「ライブスパイア」は「オペラとバレエで楽しむ世界紀行」をテーマに、イギリスのロイヤル・オペラとグラインドボーン音楽祭、スペイン、バルセロナのリセウ歌劇場、イタリア、ミラノのスカラ座と、各国のステージがラインナップされている。また、映画館でのこの手の配信としては初めて、バレエを加えたのもポイント。ソニーのデジタルプロジェクターによる大画面は美しく、迫力満点だ。劇場より気軽に行け、クリアな大画面と良質な音響で臨場感が味わえる映画館オペラは、劇場とホームシアター間を埋める第3の鑑賞形式になりそうだ。もちろん全国で配信される。3月には、イタリア・オペラの総本山、スカラ座で収録された「椿姫」が上映されるが、このタイトルロールで世界的スターとなったソプラノ、アンジェラ・ゲオルギューが主演し、豪華な舞台も楽しめる贅沢なステージで、オペラ初心者から通まで幅広く楽しめる映像である。詳しい演目、上映館、上映期間、時間など詳細は以下のHPで。(K)
http://www.livespire.jp/
〈Photo: “La Traviata” Teatro alla Scala, 2007〉

Classic INFORMATION【オペラ】

ロッシーニ「ランスへの旅」
 いずみホールでは開館20周年記念として、ロッシーニのオペラ「ランスへの旅」を取り上げる。2年前に上演して、好評を得たところから再演に踏み切った。フランス国王の戴冠式が挙行されるランスへ向かう人たちが、温泉地の旅館に集まって繰り広げる人間模様で、主役クラスの歌手たちが相次いで登場し、クライマックスでは14声部の大アンサンブルを聴かせるところがハイライト。歌手には佐藤美枝子、尾崎比佐子、石橋栄実、井原秀人らが出演。指揮佐藤正浩、管弦楽ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団、演出並びにプロデュースは前回と同じ岩田達宗。(T)(写真提供:いずみホール)
日 時:4月17日午後4時
会 場:いずみホール
お問い合わせ先:いずみホール 06-6944-1188 http://www.izumihall.co.jp

Classic INFORMATION【オーケストラと合唱団】


「ダニエル・ハーディング 音楽監督/指揮、スウェーデン放送交響楽団&スウェーデン放送合唱団 来日公演」
 スウェーデン放送交響楽団は1936年創設の名門オーケストラ。62年にセルジュ・チェルビダッケが首席指揮者に就任し、アンサンブルは精緻に磨かれ、北欧オーケストラの雄と目されるようになる。次いでヘルベルト・ブロムシュテット、エサ=ペッカ・サロネン、マンフレート・ホーネックらの名匠がさらに磨きをかけ、2007年、今をときめくダニエル・ハーディングが音楽監督に就任。ハーディングは、世界の檜舞台で大活躍の俊英マエストロである。23年ぶりの来日となる今回、スウェーデン放送交響楽団が初めて帯同するのが、世界最高峰の合唱団と評されるスウェーデン放送合唱団である。

会 場:東京オペラシティ コンサートホール
日時・演目
6月15日(火) 午後7時 モーツァルト「交響曲第40番」「レクイエム」
6月16日(水) 午後7時 モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》序曲、R.シュトラウス《ドン・ファン》、マーラー「交響曲第1番《巨人》」
という魅力的な2つのプログラムを用意。とりわけマーラー《巨人》は、心待ちにしないではいられない。(AY)
お問い合わせ:パシフィック・コンサート・マネジメント 電話03-3552-3831