2009年2月 

 
Popular ALBUM Review

「ワーキング・オン・ア・ドリーム/ブルース・スプリングスティーン」(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP-2136 限定盤CD+DVD/SICP-2161〜2162)
 発売時期でいうと前作『マジック』からわずか1年3ヶ月の間隔を置いただけで発売されることになった、注目の新作。『マジック』でEストリート・バンドと取り組んだサウンドや方向性から強い手応えを得たことが、そのまま彼を新作制作に向かわせたのだという(プロデュースは、これが4作目となるブレンダン・オブライエン)。ある意味では、シーガー・プロジェクトがいい形で反作用したということなのかもしれない。8分の大作「アウトロー・ピート」で幕を開け、ポップなものからブルージィなものまで、さまざまなスタイルで還暦直前のスプリングスティーンを出しきったこの『ワーキング・オン・ア・ドリーム』は、厳しく困難な時代だということを受け止めたうえで、あらためて希望や夢を歌ったアルバムといっていいと思う。米での発売日がオバマ就任式のちょうど1週間後というタイミングも、もちろん、充分に検討されたうえでのことなのだろう。なおこの作品には、昨年4月に他界したEストリート・バンドのキーボード奏者ダニー・フェデリチの演奏も収められている。(大友 博)

 前作からわずか1年、今回もEストリート・バンドと最強タッグを組んでのボスの新譜。ストリングスを巧みに使ったドラマティックな1曲目からもうノックアウトされてしまう。前作と同じくポップな要素を取り入れ、それがメロディー・メーカーとしての彼の才能を鮮やかに引き立てているのが印象的。全体を包む絶妙なエコー感は、プロデューサー、ブレンダン・オブライエンの手柄だ。ボスの中に宿ったとてつもなく大きなエネルギーに圧倒されそうになる作品。(細川 真平)

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「1000マイル・オブ・ライフ/ジョン・オーツ」
(ビクターエンタテインメント/VICP64646)
 ホール&オーツのジョン・オーツの久々のソロ・アルバム、2枚目になる。ジェフ・ベックとのコラボでも知られるジェッド・リーバーといえばもちろんジェリー・リーバーの息子。ジョンとジェッドのプロデュースで実に気骨あふれたアメリカン・ミュージックをじっくりと堪能させてくれる。このところ毎日のように楽しんでいる。スティーヴ・クロッパー、ボニー&ベッカ・ブラムレット、ザ・ブラインド・ボーイズ・アラバマ、サム・ブッシュ、ジェリー・ダグラスらが参加。ナッシュヴィル録音。特にオープニングのタイトル曲&レベッカとのデュオがたまらない「カーヴド・イン・ストーン」、このパワフル・ロック・チューンは大推薦なのだ。2月の初ソロ日本公演でもぜひセットリストに加えて欲しい。(Mike M. Koshitani)
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=6735&shop=1
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=6736&shop=2


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「イフ・ザ・ワールド・ウォズ・ユー/J.D.サウザー」
(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP-2130
 最近の若者は外国へ行かない傾向があるという。もう情報なら一杯あるから行く必要がないと思っているらしい。ところが、旅行に行ったために、音楽性を大きく変えた人がいる。J.D.サウザーだ。旅行だけが決め手ではないだろうが、25年ぶりに出された新作からは往年のウエスト・コーストの匂いの替わりに、1998年に訪れたキューバの影響が濃く現れている。彼は80年代半ばからナッシュヴィルで曲を書いていたが、今回自分のための曲を歌いたくてシンガー/ソングライターに復帰した。ブエナ・ヴィスタ・ソーシャル・クラブ風のジャズが聞こえ、土着の音楽の影響も。そんな中で愛の歌「今宵この胸の中」には往年の哀愁が漂う。(鈴木 道子)

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「オールレディ・フリー/デレク・トラックス・バンド」
(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP-2160)

 エリック・クラプトンのワールド・ツアーや、サンタナの全米ツアーへの参加をへてさらに大きな存在となったデレク・トラックスと彼のバンドの新作。評価を決定的なものとした『ソングラインズ』からはちょうど3年ぶりの作品ということになる。オープニングはディランの「ダウン・イン・ザ・フラッド」。その重厚かつオーガニックでアーシーな仕上がりにぐっと引き込まれ、そのまま全編を、文字どおり堪能した。自宅脇につくったスタジオで、時間も予算も気にせず、仲間や家族たち(奥様やドイル・ブラムホールIIも参加)と、完全に満足できるまで取り組んだという自信がその音のひとつひとつから伝わってくる。もはや≪天才的スライド・プレイヤー≫という言葉だけで彼の魅力を表現することはできなくなってしまったようだ。(大友 博)

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「実りゆく季節/レベッカ・マーティン」(ビデオアーツ・ミュージック/VACK-1403)
 1990年代半ば、ジェシー・ハリスと組んでいたデュオ、ワンス・ブルーのアルバムは日本でも紹介され、ひそかに注目もされたが、その後ソロになって活動するようになってからのレベッカ・マーティンのアルバムが我が国で紹介されるのは、この4作目が初めて。かつての相棒のジェシーばかりが、ノラ・ジョーンズに曲を提供したりして話題を集める中、一方のレベッカは、地道ながらも着実に、独自の世界を築きあげていた。そのひとつの到達点とも言えるのが本作。夫のラリー・グレナディアーをはじめするバックのトリオがジヤズ系のミュージシャンということで、レベッカの音楽もついそのジャンルに入れられてしまいそうだが、彼女の歌はそうしたジャンルの壁を軽やかに、しなやかに乗り越える大きくて奥深いもの。1曲目のタイトル「The Space In A Song To Think」が象徴しているように、必要最小限の鋭い言葉と贅沢で豊潤な音の隙き間とが、聴き手の想像力と思考力を大いにかき立てる。2月末にはCOTTON CLUBでのライヴが決定した。(中川 五郎)
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/schedule/?yr=2009&mn=2

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「夢に誘われて/ウー・ハー・ハー」
(インペリアル=テイチクエンタテインメント/TECI-24541)

 1980年代のエレクトロ・ポップ+ニュー・ロマンティック+ニュー・ウェイヴ。。。陰影を帯びたゴー・ゴーズ、みたいな印象も。本人たちは‘インディー・エレクトロ・ポップ’と称しているようだが曲作りのポップさなどはメジャー感覚でオン・エア向きでもあるし広くファンを獲得出来そうな魅力ある楽曲が多い。歌唱もしなやかで気品があり官能的。一部で熱く支持された1990年代の女性デュオ、ザ・マー・マーズ(これ好きでした♪)の一員でその後女優として成功を収めたレイシャ・ヘイレー(レズビアン・ドラマ『Lの世界』で大人気)がバークレイ音楽院出身のカミラ・グレイと組んで音楽活動を再開したこの新しい女性デュオが誘う世界にハマリまくりたい♪(上柴 とおる)

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「El Malo Vol.II- Prisioneros Del Mambo/Willie Colon」
(Lone Wolf Records/LW0804)*輸入盤)

 NYサルサ界の大物、ウィリー・コロンの10年ぶりの新作。黄金時代から常に先頭を担ってきたベテランならではの手ごたえある、期待通りの作品だ。13分半に及ぶエクトル・ラヴォー・メドレーは「」El Malo Vol.II』と名づけたこのアルバムのへそだ。ファニア・レーベルの歴史を飾る『El Malo』(1966)から40年、「Vol.IIとしたのは今がその時期だと考えるからだ」と本人はいう。「Narcomura」のような意味深長な曲から、ネット時代の遠距離恋愛をユーモアたっぷりに描いた「Amor De Internet」、痛烈な皮肉をこめた「Cuando Me Muera」と、商業的な成功を意識した耳あたりの良い曲ばかりが並んでいるわけではない。リズムはレゲエやメレンゲも交えて迫力に富み70分を超える収録時間はたちまちにして過ぎていく。60〜70年代の荒削りなサウンドをLPで楽しんできたリスナーには、デジタル加工技術を用いたバランスに、多少迫力不足を感じるかもしれないが、それも聞きこむうちにどこかに吹っ飛んでしまう。(三塚 博)

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「スーパースター・ストーリー〜ザ・ベスト・オブ・ロッド・スチュワート」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13304 限定盤CD+DVD/WPZR-30326

  紙ジャケ盤のリリース(2月)や13年ぶりの来日公演(3月)で再び機運が盛り上がる大御所の新たなベスト盤(2枚組:全32曲)。1971年の大出世作「マギー・メイ」から1990年代に至るまでのヒット曲の数々を振り返りロッドの懐の深さを改めて実感していただきたい。日本の業界?では渋さを漂わせた1970年代の楽曲だけで語られてしまいがちだが身が軽くなったような、時にキュートな魅力をも感じさせる1980年代以降の作品を好むファンも実は多い(リアルタイムな‘アラフォー’世代かな)。1998年録音の未発表曲でボロディン作「ダッタン人の踊り」のメロディーを配した「トゥー・シェイズ・オブ・ブルー」は個人的にも今回のハイライト♪(上柴 とおる)

 3月に13年振りの来日公演が決定した、ロック史上最高にセクシーなスーパースター、ロッド・ステュワートの究極と言っていいベスト・アルバムが届いた。聞き込むほどにロッドのヴォーカリストとしての実力とカリスマ性を再確認させてくれる。ロッドと言うと「アイム・セクシー」など派手で煌びやかな曲のイメージだが、出世作「マギー・メイ」、名曲中の名曲「セイリング」「胸につのる想い」などのアコースティック・ナンバーが彼の本当の魅力を引き出してくれる。時代を超えて輝き続けるスーパースターのヒストリック・ベストがここにある。懐かしい映像が見たい方のために、DVD付きデラックス・エディションもリリース。(上田 和秀)

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「ファンタジー〜パーフェクト・ベスト/アース・ウインド&ファイアー」(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP-2153 限定盤CD+DVD/SICP-2151〜2)
 最近、アース・ウインド&ファイアーの70年代ヒット曲「宇宙のファンタジー」が「FANTASY」として若者の間で注目を集めています。大きな理由は今年TBS系ドラマ「ラブ?シャッフル」の主題歌に抜擢、さらに昨年夏、アメリカのHIPHOPグループであるザ・デイによってカヴァーされヒットしたことです。また彼等のヒット曲「セプテンバー」を99年に4打ちリミックスしたヴァージョンは現在もクラブ・シーンで大人気。今回発売される彼等のベスト・アルバムは、そんな「FANTASY」「セプテンバー」を初めて聴いてアース・ウインド&ファイヤーに惹かれた若者達を対象にした商品です。時代と世代を越えて≪名曲は永遠に!≫。(松本 みつぐ)

Popular ALBUM Review

「40 Years〜The Complete Singles Collection(1966-2006)/Tommy James & The Shondells 」(AURA/OPCD-8310)*輸入盤
 アナログでシングルやLP、そしてCD時代以降のベストや新作、ライヴ盤とほとんど集めてるけどやっぱり。。。買ってしまったのがこの新編集の2枚組ベスト盤。1966年のNo.1ヒット「ハンキー・パンキー」から2000年代の楽曲(実に素敵なオリジナルのクリスマス・ソングも含む)までシングル・リリースされた48曲が収められているが1970年代初期までのCD1の方は大半がシングル・ヴァージョン(モノラル)で、さらにCD2のラストに幻の音源ともいわれていた無名時代1962年の録音曲「ロング・ポニー・テイル」が収録されているとなればパスなんて出来るはずがない。まさに全キャリアがコンパクトにまとめ上げられた嬉しい編集盤♪(上柴 とおる)

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「グラミー・ノミニーズ 2009/VA」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13306)
 2月8日に発表される第51回グラミー賞、関係者のみならず世界中の多くのファンが注目している。同賞にノミネートされている楽曲がこのところコンピレーション・アルバムとしてリリースされているが、もちろん今回も登場。コールドプレイ、レディオヘッド、P!NK、マルーン5、レオナ・ルイスからベテランのイーグルスまで、20曲が網羅されている。果たしてこの中から受賞ナンバーは何曲・・・。(上田 和秀)

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「セダクション:シナトラ、シングス・オブ・ラヴ/フランク・シナトラ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13316)

 ≪シナトラ 婦女誘拐≫、なんとも刺激的なタイトルだ。囚人番号42799の札を首から下げた彼の写真までブックレットに載っている。婦女の心を惑わせた彼の歌でロマンチックなラヴ・ソングをネルソン・リドル、ドン・コスタ、ビリー・メイなどの名編曲で聴かせたリプリーズ時代の録音から22曲を編集したもの。貫禄充分のシナトラの歌だ。このタイトルは、ボビー・ソクサーという熱狂的ファンに追いかけ回された、若いコロンビアの時代の方がもっと当てはまるかもしれない。珍しく2番の歌詞までしっかり歌う「今夜教えて」も選曲されている。この企画にはぴったりの歌かもしれない。(高田 敬三)


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「1939〜MONSIEUR(サンキュー ムッシュ)/ムッシュかまやつ」
(エイベックス・エンタテインメント/IOCD-20261)

 日本を代表するミュージシャン、ムッシュかまやつさんが70歳を迎えた。元気あふれる活動で多くのファンを感動させている。そんなムッシュの70歳記念アルバムが登場する。ロック・スピリットをダイレクトに感じさせる力作だ。40人以上のゲスト・ミュージシャンを迎え、「ノー・ノー・ボーイ」「あの時君は若かった」「サマー・ガール」「どうにかなるさ」「バン バン バン」「エレクトリックおばあちゃん」などスパイダース時代、ソロ作品の代表的ナンバーをフィーチャーしてのセルフ・カヴァー。改めてムッシュの音楽的才能をひしひしと味わうことが出来る。松任谷由実、森山直太朗&森山良子、TAROかまやつの書き下ろしによる新作3曲にも注目だ。(Mike M. Koshitani)


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「和楽器でジブリ/AUN Jクラシック・オーケストラ」(olio music/olio 100003)
 鬼太鼓座出身の井上兄弟によるデュオ・ユニットのAUNが、和楽器の仲間たちを募ってスタートさせたニュー・プロジェクトの第一作。ポイントは『崖の上のポニョ』など一連のスタジオ・ジブリの音楽を取り上げていること。同映画のテーマ曲とか『となりのトトロ』『平成狸合戦ぽんぽこ』からのナンバーなど、AUNの音楽表現ともリンクするイメージの音楽を楽しそうに演奏している。もっとも、アルバムはAUN=太鼓のイメージを全面的に打ち出すだけでなく、笛や尺八など、親しみやすい和楽器とのアンサンブルを意識した内容になっている。このオーケストラがどのように発展していくか期待を抱かせる第一作だ。(村岡 裕司)


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「いきなりサンシャイン/The Beggars」(F. J. O. Records/NASTY TRICK NAT-001)
 日本を代表するローリング・ストーンズ・トリビュート・バンドとして有名なザ・ベガーズの4曲入り新作EPが、7曲入りライヴDVDとのカップリング(DVD付きは初回限定生産)でリリースされた。ベガーズといえば、長いストーンズ史の中でも主にミック・テイラー在籍時の70年代前半の雰囲気を色濃く漂わせた演奏に定評があるが、オリジナル曲も同様に『山羊の頭のスープ』の頃のダークさやある種のいかがわしさ、グラマラスなイメージを身に纏ったエモーショナルなロックンロールに仕上がっているのが聴きどころだ。注目はプロデューサーに山口富士夫を迎えていることで、富士夫が提供したタイトル曲は、彼が最もストーンズに接近していた村八分時代を連想させる部分もある。更に富士夫はギターとコーラスでも参加しているのでファンは要チェックだろう。またライヴDVDは、昨年8月、ルイードのステージを収録したものだが、ライヴ・バンドとしての確かな実力が分かる安定感溢れる演奏は、オリジナル曲ばかりとはいえ、どの曲も(衣装も含め)ストーンズに対する深い愛情が感じられて見応え充分だ。(保科 好宏)


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「ハンドフル・オブ・スターズ/エディ・ヒギンズ&スコット・ハミルトン&ケン・ペプロフスキー」(ヴィーナス・レコード/VHCD-1020)
 これはベテランたちによるオールスター・セッションだ。スコット・ハミルトン(テナー)、ケン・ペプロフスキー(テナー、クラリネット)がゆったりと歌い上げ、味わいぶかいピアノのエディ・ヒギンズがこれにからむ。ジェイ・レオンハート(ベース)とジョー・アシオーネ(ドラムス)がよき助演ぶりをみせる。選曲がまた親しみやすい佳曲ぞろいであり、「降っても晴れても」「フラミンゴ」「朝日のようにさわやかに」「ポートレイト・オブ・ジェニー」のようなよく知られた曲もいいが、ヒギンズのボサによるオリジナル「エイプリル・イン・トリノ」は彼が教えているトリノの大学からの帰り道、飛行機の中で書いた曲だという。印象的な佳曲だ。スコットもケンもジャズの本道をゆくプレイであり、ジャズの醍醐味を満喫することができる。(岩浪 洋三)


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「ニュー・ジャズテット/ベニー・ゴルソン」(ユニバーサル ミュージック/UCCO-1067)
 なつかしい3本管編成ジャズテットの再編成だが、リーダーのベニー・ゴルソン以外は新メンバーで、エディ・ヘンダーソン(トランペット)、スティーヴ・デイビス(テナー)、マイク・ルドン(ピアノ)、バスター・ウイリアムス(ベース)、カール・アレン(ドラムス)が参加している。これを手はじめにレギュラー・グループ化してくれるとうれしいのだが。最近ファン・ファイブ・ブルーノート7といったコンボが誕生し、彼らがレギュラー・グループとして活動することによって、ジャズが活性化しているだけに、ニュー・ジャズテットの出現は大きな刺戟になるだろう。ゴルソンの作・編曲能力は健在であり、ファンキーな「グルーヴス・グルーブ」は佳曲だし、ゴルソンの旧「ウィスパー・ノット」はアル・ジャロウが歌っている。ゴルソンの新作も聴き応えがあるし、ゴルソンのテナーも新味を出しているし、エディのトランペットも好調だし、スティーヴのトロンボーン・ソロも魅力がある。以前のジャズテット以上の演奏であり、聴き逃せないアルバムだ。(岩浪 洋三)


Popular ALBUM Review

「I’m Here Now/Dee Cassella」(Dal Coure Records/DCR3448)*輸入盤
 最近新人歌手でも素晴らしいな、と思う人に時々めぐり合う。ディー・カッセッラは現役の精神科の医師。彼女の歌手デビュー作は、歌手のキャロル・フレディットの制作で、これも歌手でピアニストのデナ・デローズのクインテットと共演でスタンダードを中心にジャズ・ナンバーの「レディ・バード」や師匠のマーク・マーフィーが彼女に贈った「ドント・アスク・ホワイ」等12曲を優しく滑らかな声で歌うもの。しっかりとしたディクションとニュアンスで歌詞のストーリーを伝える彼女の説得力ある歌唱は、とても新人とは思えない。次作が待ち遠しい感じの注目したいシンガーだ。(高田 敬三)


Popular DVD Review

「アクロス・ザ・ユニバース」(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント/TSDD-42645)
 ベトナム戦争に揺れる60年代のアメリカを舞台に青春群像を描いたミュージカル映画。ビートルズ・ナンバー33曲を使ってストーリーを組み立てたことで話題となった。監督はブロードウェイ・ミュージカル『ライオン・キング』の演出家ジュリー・ティモア、撮影はブリュノ・デルボネル。ラヴ・ストーリーとしてのみ宣伝されているが、大人の鑑賞にも堪えうるきわめてメッセージ性の強い作品だ。2枚組で、監督と音楽プロデューサーによる音声解説、メイキング・ドキュメンタリー集、ミュージック・シーン集、未公開シーン「アンド・アイ・ラヴ・ハー」などの特典付。(広田 寛治)*ブルーレイ・ディスク=BRS42645
ジャケット写真:(C) 2007 Revolution Studios Distribution Company, LLC. All Rights Reserved


Popular DVD Review

「Ao Vivo Celso Fonseca」(EMI Brazil/AA0005000)*輸入盤
 サノヴァに新たな魅力を加えながら21世紀に継承する正統派アーティスト、セレソ・フォンセカの単独ステージを収録した初DVD。なめらかで温かみのあるサンバ・ボサノヴァ・フレイバーをピュアーに聞かせるシンガー/ソングライターとして日本でも静かな人気を呼んでいる。メロディー・メーカーとしての卓越したセンスは世界中で衆目の一致するところ。昨年(2008年)8月にリオデジャネイロでのライヴの模様を収録した作品で、ジルベルト・ジルやホベルタ・サー、アナ・カロリーナらがゲストに登場する。「Slow Motion Bossa Nova」に始まりジルベルト・ジルをゲストに迎えての「Is This Love」「Palco」、ホベルタ・サーとのデュオでしっとり歌い上げる「A voz do corcao」など淡々としたパフォーマンスの中に魅惑的で包容力のある時が流れているようだ。(三塚 博)

Popular DVD Review

「君こそすべて〜デイヴィッド・フォスター&フレンズ ライヴ/デイヴィッド・フォスター・アンド・フレンズ」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPZR-30302〜3)*CD+DVD
 同作品については先月すでに紹介されていたが、すごいのはむしろ2時間のライヴDVDの方。CDは豪華スターたちの名前と曲目で酔えてしまうようなものだ。映像を見れば、当代きってのプロデューサーであるデイヴィッド・フォスターのスマートなエンターテイナーぶりもうかがえ、華美なラスヴェガスにあって、あえて音楽の素晴らしさで勝負しようという意図も彼らしく正論といっていい。ビデオ出演のバーブラ・ストライサンド、セリーヌ・ディオンはじめ、登場する人々がデイヴィッドへの感謝と友情を述べながら、素晴らしい声とパフォーマンスをみせて観るものを魅了する。ボズ、ピーター・セテラもいいし、キャサリン・マクフィーの「サムホエア」もスケールが大きく見事。デイヴィッドの周りはすごい才能が取り囲む中、この夜の主役は彼であることが明らかとなる。(鈴木 道子)

Popular CONCERT Review
「コージー大内」 12月13日 阿佐ヶ谷/チェッカーボード
 08年春、デビューCD『角打(かくち)ブルース』を発表したコージー大内。ボブ・ディランやライトニン・ホプキンスに影響を受けて音楽性を育み、80年代後半に上京。後に妻となる女性と共にとんかつ屋で働きながらライヴ・ハウスに出没し、地元である大分県日田市の方言を生かしたオリジナル・ブルースの創作を始めた。この日は、『角打(かくち)ブルース』からの自作はもちろん、ライトニンやミシシッピ・ジョン・ハートのカヴァーも披露。アルバム未収録の曲「大鶴村のサイレン」も聴かせてくれた。声もギター・プレイも実に渋いのだけど、そこはかとないユーモアがある。かっこいいなあ、と思った。それに彼は、プレイしているときの表情が本当に楽しそうだ。音楽することの喜びをからだ全身で知るブルースマン、コージーに、すっかりいい気分にさせられた。(原田 和典)

Popular CONCERT Review
「梅津和時 演歌を吹く」 12月19日 渋谷/Bar Isshee
 ダウトミュージックから発売された同名ニュー・アルバムの発売記念ライヴが渋谷のバーで行なわれた。『演歌』といっても、別に狭義のそれにこだわるるのではなく、「リンゴの唄」あり、「唐獅子牡丹」あり、韓国のトラディショナル「ペンノレ」ありと、とにかくメロディーの強烈にエモーショナルな曲を、全身全霊をこめて演奏する。もちろんマイクなし、完全な生音によるソロ・パフォーマンスだ。アルト・サックス、ソプラノ・サックス、バス・クラリネット、クラリネット、どれも至高の響き。豊かで大きな楽器の鳴りには思いっきりしびれた。ノンブレス奏法によるブロウの中からメロディーが点描的に浮かび上がる「夢は夜ひらく」に、恐怖さえ感じるほどのスリルを覚えたのは僕だけではないだろう。CDには収められていない「越冬つばめ」、「終着駅」が聴けたのもうれしかった。(原田 和典)

Popular CONCERT Review


「ぷりぷりの直感 第四夜」 12月25日 六本木/スーパーデラックス
 DJぷりぷりがオーガナイズしたイベントの第4夜に行ってきた。出演者は、とうじ魔とうじ+坂本弘道デュオ、今井和雄トリオ、SOUNDWORM等。自作楽器のとうじ魔と、チェロの坂本が繰り出す火花散るパフォーマンスも見ものだったが、圧巻は今井トリオだった。左から順に鈴木學(ハンドメイド・エレクトロニクス:乱暴に言えば手製電気ノイズ楽器)、今井(ギター)、伊東篤宏(オプトロン:乱暴にいえば大型の蛍光灯でさまざまなノイズを生み出す)が並ぶ。演目はダウトミュージック盤『Blood』に収められているスタンダード・ナンバーが主体。端麗なピッキングでメロディーをつむぐ今井に絡むノイズノイズノイズ。そのコントラストが実にエレガントに響いて、興奮した心を鎮めてくれる。現代のジャズ界で最も叙情的な響きがここにある、と僕は世界のド真ん中で叫びたくなった。(原田 和典)

Popular BOOK Review

「ヒットこそすべて オール・アバウト・ミュージック・ビジネス/朝妻 一郎」(白夜書房)
 本会員でもいらっしゃる朝妻一郎さんの40年以上にもわたる音楽界での活動を様々な角度から纏め上げた、実に素晴らしい一冊。我が国の音楽業界が大きく躍進していく動向を、アメリカン・ポピュラー・ミュージックの歴史をもしっかりと教えてもらいながら、朝妻さんご自身の経験をふんだんに交えて展開。氏の音楽へ対する大きな愛情をひしひしと感じながら、ミュージック・ビジネスについてとても分かりやすく語られている。木崎義二さん、亀渕昭信さんとの対談も掲載。そして、1960年代から何度も読ませていただいた≪ライナーノーツ・セレクション≫に再び出会えたことはとても嬉しい。(Mike M. Koshitani)


Popular BOOK Review

「ローリング・ストーン インタビュー選集/ヤン・S・ウェナー ジョー・レヴィ編 大田黒泰之 富原まさ江 友田葉子・訳」(TOブックス)
 1960年代後半に発刊されたアメリカのローリング・ストーン誌(発刊当時は“紙”)のインタビューは、40年前から実に読ませる。一般的な媒体のインタビューとはひと味もふた味も違い、アーティストの本音、本質がダイレクトに伝わってくる。メジャー誌となった現在でもその姿勢は変わっていない。本書はそんな同誌に掲載されたミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ピート・タウンゼント、ジム・モリソン、エリック・クラプトン、ボノ、エミネム、そしてビル・クリントン、スパイク・リーほか多くの著名人の発言を纏め上げている。特に、多くの若い音楽ファンに読んで欲しい。(Mike M. Koshitani)


Popular BOOK Review




「ピンク・フロイドの狂気/マーク・ブレイク 著 中谷ななみ・訳」(ブルース・インターアクションズ)
「ピンク・フロイドの神秘/マーク・ブレイク 著 西沢友里・訳」(ブルース・インターアクションズ)

 昨年キーボード奏者のリック・ライトが亡くなり、メンバー4人による演奏が完全に閉ざされ多くのファンを絶望させた、ピンク・フロイドの歴史がここに刻まれた。前者の本文はいきなり2005年のチャリティ・コンサート≪ライヴ8≫における、ピンク・フロイド再結成ライヴの舞台裏から始まり、バンド結成前からシド・バレットの人格崩壊、デイヴ・ギルモアの加入、サイケデリックの新星からプログレッシブの雄へ、そして『原子心母』等の名作を経て大ヒット・アルバム『狂気』に至るまでの、まさに狂気に満ちていた若き日の彼らの活動を赤裸々に綴ったバイオグラフィー。これまで公にされなかった彼らの光と影を知ることとなる。
『狂気』の成功がもたらしたバンド存続の危機、「クレイジー・ダイアモンド」から始まった『炎』、バンド内におけるウォーターズとメンバーとの力関係、ウォーターズのアイディアとイマジネーションによる『アニマルズ』『ザ・ウォール』『ファイナル・カット』とバンド崩壊。ギルモア、ライト、メイスン対ウォーターズ、3人のピンク・フロイドによる『鬱』『対』の制作と成功、シド・バレットの死、そして再度2005年の再結成ライヴ。時代の流れがプログレの巨人を飲み込んでいったが、彼らが残した名作の数々はいつまでも色あせることはない。「ピンク・フロイドの神秘」は後期のピンク・フロイドを凝縮させている。(上田 和秀)


Popular INFORMATION

「ミック・テイラー Billboard Live TOKYO & OSAKA 公演」
 1969〜74年までローリング・ストーンズのギタリストとして注目され、その後はソロとして着実に活動を続けるミック・テイラーの10年ぶりの日本公演が決定した。昨年11〜12月のイギリス/イタリアでのライヴも好評だったと伝えられる。同じメンバーでの来日で、パーソネルは、ミック・テイラー=ギター、マックス・ミドルトン=ピアノ、デニー・ニューマン=ギター ヴォーカル、クマ・ハラダ=ベース、ジェフ・アレン=ドラムス。「Love In Vain」「You Gotta Move」「No Expectations」「Cant' You Hear Me Knocking」といったストーンズでお馴染みの楽曲も登場するという。久々にテイラーのスライドを堪能したい!(K)
*4月18日  Billboard Live OSAKA
ファースト・ステージ 17時開場 18時開演
セカンド・ステージ  20時開演 21時開場
お問い合わせ:06-6342-7722
*4月20日 21日  Billboard Live TOKYO
ファースト・ステージ 17時30分開場 19時開演
セカンド・ステージ  20時45開演  21時30分開場
お問い合わせ:03-3405-1133 http://www.billboard-live.com/


Popular INFORMATION


「デープ・パープル/イングヴェイ・マルムスティーン公演」
 メンバー交代を繰り返しながらも現存するハードロックの王者デープ・パープルと元祖クラシカル・フィーリングの早弾きギタリスト イングヴェイ・マルムスティーンの2大ロック・スターによるプレミアム・ライヴが日本公演のみ決定した。元々デープ・パープル在籍中のリッチー・ブラックモアの影響を受け、完全コピーしたイングヴェイだけに、デープ・パープルとのスペシャル・ライヴでは、ぶっ飛んだ「ハイウェイ・スター」「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を聞かせてくれるだろう。(U)
*4月8日 15日 東京フォーラムホールA 
*4月9日 Zepp Nagoya 
*4月10日  広島厚生年金会館
*4月12日  金沢歌劇座 
*4月13日  大阪厚生年金会館
お問い合わせ:ウドー音楽事務所03-3402-5999 http://udo.jp/


Popular INFORMATION

「ジャーニー来日公演」
 昨年、新たにアーネル・ピネダ(ヴォーカル)を迎え、ニュー・アルバム『REVELATION』を発表した1980年代を代表するアメリカン・プログレッシブ・ハード・ロックの雄ジャーニーの来日が決定した。天才ギタリスト、ニール・ショーンを中心に結成されたジャーニーは、81年発表の『ESCAPE』と83年発表の『FRONTIERS』の2大ヒット・アルバムにでその地位を不動のものとし、大ヒットシングル「Who’s Crying Now」「Open Arms」「Faithfully」によりロッカ・バラードなる現象も巻き起こした。アーネル・ピネダ加入による新生ジャーニーの実力を多くのファンは期待している。(U)
*3月9日 東京フォーラムホールA 
*3月10日 名古屋/中京大学文化市民会館 
*3月11日 大阪厚生年金会館
お問い合わせ:ウドー音楽事務所03-3402-5999  http://udo.jp/


Classic ALBUM Review

「メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調、ピアノ三重奏曲第1番、ヴァイオリン・ソナタ ヘ長調/アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)、クルト・マズア指揮、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、リン・ハレル(チェロ)、アンドレ・プレヴィン(ピアノ)」(ユニバーサル ミュージック/UCCG-1451〈CD+DVD〉)
 メンデルスゾーン生誕200年記念の今年、ムターが28年振りにメンコンに挑戦した。気心の知れたマズア、そしてこの曲の初演をしたゲヴァントハウスと組んだ今回の録音は、ムターにとっては、記念碑的な意味を持つだろう。一音一音、そしてフレージングのそこかしこに大人の女性の情熱と色気がふんだんに散りばめられている。また二曲目に収録されている有名な美しいトリオはプレヴィン、ハレルとの相性も抜群、特にプレヴィンのピアノがこの演奏の素晴らしさに大きく寄与している。最後のソナタではムターの実に明るく楽しげな演奏が印象的。そしてこの3曲がCD、DVDの2枚に収録されている贅沢アルバム企画である。(廣兼正明)

Classic ALBUM Review

「モーツァルト:ピアノ・ソナタ・ハ長調K.279、グラスハーモニカのためのアダージョ・ハ長調K.356、ピアノ・ソナタ・ヘ長調K.332、ジーグ・ト長調K.574、ロンド・ニ長調K.485、ピアノ・ソナタ変ロ長調K.570/菊池洋子(ピアノ)」(エイベックス/AVCL-25396)
 モーツァルトの初期、中期、後期から1曲ずつソナタを選び、それにユニークな小曲を添えて、それぞれの曲の書法の違いまで鮮やかに聴き分けている。菊池洋子のピアノは勝ち気で明快、すべての音がしっかりした意図を持ち、生き生きと躍動して力強い。ずいぶんタイプの異なる作品を、よく弾き込んで自分のものとしている。鋭敏な直感力に頼って思い切りよく弾く一方で、作品自体がよく研究され、細部まで神経が通っている。K.332のアダージョのしっとりした味わい、作品の魅力に彼女の感性を同化させたようなK.570が特に聴きものだ。(青澤 唯夫)

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「ダウランド:暗闇に住まわせておくれ〜メランコリーの7つの陰/ヒレ・パール他」
(BMG JAPAN/BVCD-31022)
 1984年以来、多様な活動を続けているガンバの名手ヒレ・パールとリュート奏者リー・サンタナのコンビが、ソプラノのD.ミールズをゲストに迎え、パールのガンバのアンサンブル、ザ・シリウス・ヴァイオルズらとともに録音した最新アルバムである。「涙のパヴァーヌ」の作者として有名な英国のリュート奏者で作曲家ジョン・ダウランドの世俗歌曲や器楽合奏曲、リュート曲から、『メランコリー』をテーマに15曲選んで収録。パールらの古雅な響きもミールズのまっすぐな歌いぶりも出色。それぞれに腕を凝らし、1曲1曲に深い思いをこめ、ダウランド時代の人々が抱いていた“暗闇への憧れ”と、最上のダウランドをしみじみと聴かせてくれる名演である。(横堀 朱美)

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「ヘンデル:オペラ・アリア集/ヴェッセリーナ・カサロヴァ(Ms)、アラン・カーティス指揮、イル・コンプレッソ・バロッコ」(BMG JAPAN/BVCC-31112)
 今年はヘンデルの没後250年でかなり多くの作品がリリースされるだろうが、その中でもこの1枚は話題を呼ぶだろう。ヘンデルは当時カストラートの名歌手だった、カレスティーニのために数多くのオペラ・アリアを書いた。このカレスティーニが歌ったアリアを、現代メッツォ・ソプラノの女王と言われるカサロヴァが、驚くべきテクニックと豊かな声量による密度の高さで現代に再現した。ここには「ゲルマニア王オットネー」、「アリオダンテ」、「アルチーナ」などからのアリアが収録されているが、どの曲もカサロヴァならではの声に圧倒される。そしてヘンデル・スペシャリスト、アラン・カーティスと彼が創った古楽器アンサンブル「イル・コンプレッソ・バロッコ」のサポートも実に見事。(廣兼正明)

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「ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場オペラ《フィガロの結婚》」11月19日 フェスティバルホール
 この作品は、モーツァルトの代表作であるばかりか、全てのオペラの中でも3本の指に入る傑作である。それだけに上演される機会も多く、ユニークな演出も飛び出している。ところがこの室内歌劇場には、創立者で今も芸術監督を務めるステファン・ストコフスキの理念に貫かれて、リアルな精神が生き生きと脈動している。リシャルト・ペリットの演出も実に堅実で、この作品に託したモーツァルトの意図を的確に描き出した。
出演者の中では、好色なアルマヴィーヴァ伯爵役のマリウシュ・ゴドレフスキが、印象に残った、欲望を果たせない不満を、巧みな表現で歌い上げた。女好きの夫から愛情を何とか取り戻したいという伯爵夫人のアンナ・ヴェイエルツビカのリリック・ソプラノも秀逸である。「モーツァルト・オペラ」を旗印に掲げたカンパニーの情熱と自信のほどがうかがえた。(椨 泰幸)
〈写真提供:ザ・シンフォニーホール〉

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「エディタ・グルベローヴァ・オペラ・アリア」11月23日 ザ・シンフォニーホール
 「歌の心」をうたい上げることは、言うに易く、行うにはこれほど難しいことはない。それを見事にやってのけるソプラノこそ真のディーヴァといえるだろう。グルベローヴァの豊かな情感と滑らかな声量から生み出される妙味をたっぷり堪能するとともに、「歌の心」の一端に触れたような思いがした。同じアリアを他の歌手で聴いたことはあが、これほど精彩を放った舞台に接したことは稀である。
モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」「イドメネオ」から選ばれたアリアから、ドニゼッティ、ベッリーニへと喉に負担のかかる難曲へと進むにつれて、名ソプラノは次第に煌いてきた。選曲にあたって決して無理をしない。そして、日ごろのトレーニングを忘れない。その成果が舞台で結晶となって輝き、今まさに円熟の極みにあることを感じさせた。「イドメネオ」のアリア<オレステとアイアスの苦しみ>やベッリーニ「海賊」のアリア<その汚れない微笑を>などが好演であった。ラルフ・ヴァイケルト指揮、東京交響楽団も伸び伸びとした演奏で、ディーヴァをサポートした。(椨 泰幸)
〈写真提供:ザ・シンフォニーホール〉

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「ゲルギエフ指揮ロンドン交響楽団」11月28日 京都コンサートホール
 ロシア出身の若手ピアニスト、アレクセイ・ヴォロディンが登場し、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」を溌剌としたタッチで弾いた。難曲を難曲と思わせないところにこの人の優れた素質の片鱗をみる思いで、カデンツァのセンスも抜群である。第2楽章は詩情豊かにうたい、柔らかくそしてきめ細かに音を紡いでいく。一転して第3楽章は奔放に響かせ、フィナーレへ息もつかせず、ぐいぐいと突き進んでいく。ここにロシア・ピアニズムの正統性が連綿と受け継がれている。
 新進を引き立てたワレリー・ゲルギエフの手腕も冴えている。プロコフィエフのバレエ音楽「ロメオとジュリエット」の第1組曲と第2組曲から10曲を選んで演奏した。オーケストラのコントロールはほぼ完璧で、彫りの深い造形がこの曲のもつ悲劇的な性格を的確にとらえた。シェイクスピアの悲劇を再現したこの音楽は、あたかも眼前で人体の躍動美を見るような生命感にあふれている。オペラで鍛えた抜かれた名指揮者のバトンは、バレエ音楽でも間然とする所がない。(椨 泰幸)
〈Photo:Alberto Venzago〉

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「日本フィルハーモニー交響楽団 第607回東京定期演奏会《アレクサンドル・ラザレフ首席指揮者就任披露演奏会〔プロコフィエフ交響曲全曲プロジェクトVol.1〕プロコフィエフ:交響曲第1番「古典」、モーツァルト:協奏交響曲(ヴァイオリン/漆原朝子、ヴィオラ/今井信子)、プロコフィエフ:交響曲第7番「青春」》」 1月16・17日 サントリーホール
 ロシアの代表的指揮者、アレクサンドル・ラザレフを首席指揮者に迎えて初めての定期演奏会。ラザレフは今回を皮切りに自分の最も得意とするプロコフィエフの交響曲全曲ツィクルスを2年後の2011年春にかけて行う。実はこのコンビ、8日間に何と3プログラム、4回の演奏会を行ったのである。筆者は3プログラムすべてを聴いたのだが、8日前の名曲コンサート(チャイコフスキー:戴冠式祝典行進曲、ヴァイオリン協奏曲/ヴァイオリン・山田晃子、ドヴォルザーク:新世界交響曲)の時はソリストの調子も良くなくオケの出来も今ひとつで、指揮者とオケの間に多少のギャップを感じた。しかし翌日のサンデーコンサート(リスト:交響詩「前奏曲」、ピアノ協奏曲第1番/ピアノ・小山実稚恵、チャイコフスキー:交響曲第4番)ではソリストの良さもさることながら、オーケストラも前日とは見違えるような充実した音を響かせた。さてそれから1週間後の定期演奏会に向けて、今までにない密度のリハーサルをこなしたことは事実だろう。このオーケストラとしては近来聴いたことがないような、まさに生まれ変わったような見事な音を満員に近い聴衆の前に披露したのである。このままで行けば見た目オーバーアクションな振り方をする指揮者のタフなエネルギーと強靱な音楽性が、このオーケストラの評価を確実に高めるに違いない。そして今回のモーツァルトでの2人のソリスト、漆原と今井はこの日のオーケストラの出来に花を添えたような見事な演奏を聴かせてくれた。(廣兼 正明)
〈写真撮影:三浦興一〉

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「ヴァレンティーナ・リシッツァ ピアノ・リサイタル」1月19日 トッパンホール
 驚異のピアニストだ。ラフマニノフ「前奏曲」、ベートーヴェン「熱情」など強烈なメッセージをストレートに繰り出したかと思えば、シューマン「子供の情景」ではロマンティシズムたっぷりに詩情を歌う。直球、変化球ともに縦横無尽だ。リスト「死の舞踏」は彼女のすべてを集約する真骨頂。弾丸飛び散る様は死に突き進む凄みがあり、矢継ぎ早のグリッサンドに聴き手は翻弄されるほかない。叙情的な表現には、死に惑溺する境地を覚えた。(宮沢 昭男)

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「東京室内歌劇場創立40周年記念公演 リゲティ《グラン・マカーブル》」日本初演 2月7〜8日 新国立劇場中劇場
 意欲的な活動で知られる東京室内歌劇場が、ハンガリー20世紀を代表する作曲家ジェルジ・リゲティの「グラン・マカーブル」(1977)を日本初演する。海外ではかなりさかんに上演され、作曲家自身による改訂もたびたびあり、演出面でも常に話題をさらってきた作品だが、音楽、演劇的な難度の高さから、日本では上演の機会に恵まれずにきた。リゲティはこの作品を「アンチ・アンチ・オペラ」と位置づけ、当時のオペラ界の状況を反映させ、また過去の作品のパロディをちりばめながら、あらゆる時代の音楽の要素を駆使して、独自の世界観を打ち立てている。従来のオペラとは異なる肌触りをもつ「ル・グラン・マカーブル」が、日本の聴衆にどう受け入れられるか、興味は尽きない。指揮はベテランのウリ・セガル(写真)、演出はこれがオペラ初演出ながら、リゲティをはじめ現代音楽に造詣の深い藤田康城。問い合わせ 東京室内歌劇場 03-5642-2267 http://www.chamber-opera.jp
(K)〈写真提供:東京室内歌劇場〉

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「ハンブルク・バレエ」2月26日〜3月1日兵庫県立芸術文化センター
 バレエ界の鬼才ジョン・ノイマイヤー(芸術監督)に率いられて4年ぶり6度目の来日で、「椿姫」「人魚姫」を上演する。「椿姫」はオペラ版よりも原作のヂュマ・フィスの小説に近く、愛をテーマにショパンの音楽でプロローグ付き3幕を踊る。2月26日午後6時半開演。テープ演奏。「人魚姫」(写真)はアンデルセンの生誕200年を記念してつくられた新作で、物語を題材にして王子と人魚姫の愛を描く。音楽はアウエルバッハ。海中の場面では歌舞伎や文楽の手法を取り入れ、人間の世界では伝統的なヨーロピアン調でまとめ、東洋と西洋の融合を目指す意欲的な舞台づくり。2月28日午後1時半、3月1日午後2時開演。指揮はサイモン・ヒューウェット、音楽はザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団。
お問い合わせはMIN‐ON(06−6762−6130)へ。(T)
(c)Holger Bodekow

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「錦織健プロデュース・オペラ《愛の妙薬》」3月20,22日 東京文化会館ほか
 人気テノール錦織健を座長に、日本のトップクラスのオペラ歌手を集め、有名作品を取り上げて全国を巡演する「錦織健 プロデュース・オペラ」。「初心者にはブッフォ」というコンセプトのもと、「コジ・ファン・トゥッテ」「セビリヤの理髪師」などを取り上げてきた。4作目となる今回は、ドニゼッティのちょっとおセンチなラブコメ「愛の妙薬」。錦織の相手役に人気ソプラノの森麻季を配したのをはじめ、重要な脇役はベテランと若手のダブルキャスト(ベルコーレ役の大島幾雄と成田博之など)にするなど工夫もしつつ、今を盛りの歌手たちを揃えた。ベテラン十川稔のチャーミングな演出、現田茂夫の活気あふれる指揮にも期待したい。
問い合わせ ジャパンアーツぴあhttp://www.japanarts.co.jp/  03-5237-7711(K)
〈写真:三浦興一〉

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「スティーヴン・イッサーリス・チェロ・リサイタル」4月30日午後7時 いずみホール
 今年生誕・没後の記念を迎える作曲家の作品を集めて、チェロの名手が演奏する。使用する楽器は日本音楽財団から貸与された1730年製フォイアマン・ストラディヴァリウスで、羊の腸でつくられたガット弦を使用している。ピアニストは若手のコニー・シーで、カナダ生まれの女性。主な曲目は次の通り。ヘンデル没後250年を迎えて、ベートーヴェン<ヘンデル「マカベウスのユダ」の主題による12の変奏曲>▽没後60年を迎えたR.シュトラウス「ロマンス」▽生誕200年のメンデルスゾーン「チェロ・ソナタ第2番」。
お問い合わせはいずみホール(06−6944−1188)へ。(T)
〈Photo:Tom Miller〉

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「佐渡裕プロデュース・オペラ《カルメン》」6月25日−7月5日 兵庫県立芸術文化センター、7月17−20日 東京文化会館、25−26日 愛知県芸術劇場大ホール
 西宮にある兵庫県立芸術文化センターでは、芸術監督の佐渡裕がプロデュース、指揮するオペラ公演が盛況だが、その注目プロダクションが、東京二期会との共同制作という新しいステージに乗り出すことになり、このたび東京で記者会見が行われた。演目はビゼーの傑作「カルメン」。複数の劇場による共同制作は海外では一般的だが、公共のオペラ劇場の歴史がごく浅く、またわずかしかない日本では、初めての試みである。兵庫と東京のほか、名古屋の愛知県芸術劇場でも2公演が予定されており、全15回というかつてない回数で展開するという。主役3人は、外国人、日本人のダブルキャストで、日本人組では林美智子、佐野成宏という日本を代表する歌手が、それぞれカルメンとホセに初挑戦するのが注目される。演出にはパリを本拠に活躍するベテランのジャン=ルイ・マルティノーティを迎えるなど、スタッフも国際的。日本のオペラ界を変える試みとなるか。
問い合わせ (西宮公演)芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255
(東京公演)二期会チケットセンター 03-3796-1831
(名古屋公演)052-972-0430 (K)

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「東京・春・音楽祭」(3月9日〜4月16日)記者会見
 昨年まで「東京のオペラの森」の名称で行われていた音楽祭が、今年より内容を大幅に変更、それに伴い名称も「東京・春・音楽祭」と変えて、実行委員長の鈴木幸一、アドヴァイザーのイオアン・ホレンダー氏らが、記者会見を行った(1月23日)=写真。
 春の時期に上野周辺で開催されることはこれまでと同じだが、メインが小澤征爾が指揮するオペラから、N響による大規模声楽作品へとチェンジ。今年は没後200年にあたるハイドン「天地創造」が上演される(3月27日)。来年以降は、コンサート形式によるワーグナー・オペラの上演も予定されている。
 ウィーンやパリの劇場と共同制作を行い、世界を向いていたこれまでとは違い、上野ならではの美術館や博物館を多く会場として使用し、より地元に密着した音楽祭をめざす方針という。音楽祭のこれからに注目したい。URL http://www.tokyo-harusai.com/ (K)
〈写真撮影:堀田力丸〉