2008年12月 

 
Popular ALBUM Review

「雪と氷の旋律/エンヤ」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13203)
 エンヤには冬がよく似合う。彼女のピュアーなサウンドにはしんとした雪景色がよく似合う。3年ぶりのこの新作は、そんな彼女らしく冬をテーマにしたもの。一音一音にじっくり耳を傾け、時間をかけて必要と思われる音を重ね、試行錯誤を繰り返しながらサウンドを練り上げていく。今回もそういった方法で、クラシカルな雰囲気の中にも、可愛らしさ、楽しさ、力強さ等、様々な表情をたたえた曲を編み出している。中にはビートルズをテーマにしたポップな作品等、新しい要素も盛り込まれているが、彼女の立ち位置に揺るぎはない。まるで寒さの中で暖をとった時のように、じわーっと暖かさが心に届いてくるようなホッとする優しさに満ちた作品だ。(滝上 よう子)

Popular ALBUM Review

「ホワイト・チョコレート/アル・クーパー」(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP-2110)
 3年前に30年ぶりの新譜『ブラック・コーヒー』を出すやその後タテ続けに来日公演を行ったかと思えば、早くもまた新作を発表と業界歴50年にも及ぶロック界‘影の大御所’アル・クーパーの近年の創作意欲が全編にみなぎる会心の作♪タイトル通り白と黒の色合いを音楽に例えて‘ブルー・アイド・ソウル’な自作「スタックスアビリティ」(題名通りの仕上がりで最高!)やオーティスのヒット曲のカヴァーもインパクトがあるが、一方でまるで ‘ラウンジ歌謡’のような自作「ラヴ・タイム」や映画『バクダッド・カフェ』主題歌「コーリング・ユー」など天下一品のメロウな魅力もたっぷり。64歳にしてこれほどまでに柔軟なセンスでステキなアルバムを作ってしまえるクーパーには脱帽♪(上柴 とおる)

『ブラック・コーヒー』につづく3年ぶりの新作。追悼クレジットにはアイザック・ヘイズ、ボ・ディドリー、レイ・チャールズ、アル・ジャクソンJr.らの名があり、さらには、スティーヴ・クロッパーやドナルド・ダック・ダンをゲストに迎えて録音したスタックスへのオマージュ曲を収めるなど、全体的にソウル色の強い作品に仕上げられている。ある意味では証言者的な立場からロックの歴史に立ち会ってきたクーパーにしかつくり得ない作品、といった印象だ。ディランの「悲しみは果てしなく」、オーティスの「アイ・ラヴ・ユー・モア・ザン・ワーズ・キャン・セイ」、ボブ・テルソンの「コーリング・ユー」などカヴァーの出来も素晴らしく、とりわけ「コーリング〜」のブルージィなアプローチがぐっときた。(大友 博


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「プロミス/イル・ディーヴォ」
(BMG JAPAN/BVCP-21650 デラックス・エディション:BVCP-25168〜9)
 2年ぶりにリリースするオリジナル・アルバム第4作。年一枚のペースでレコーディングしていた彼らが充電期間を取ったことで、音楽表現でも成長を実感させる作品になった。クイズ&ラロシが提供した新曲もクラシカルな風格すら感じさせる。特筆すべきは、毎回話題になるカヴァー作品。フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「パワー・オブ・ラヴ[愛の救世主]」やアバの「ザ・ウィナー」、レナード・コーエンの「ハレルヤ」、シャルル・アズナヴールの「シー」など、意外性のある作品から定番まで絶妙なセンスで選曲しており、イル・ディーヴォ・スタイルで表現。特に内面的な表現が素晴らしい。(村岡 裕司)

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「ザ・プリースツ/ザ・プリースツ」(BMG JAPAN/BVCP-21652)
 Sony BMGと2億円で契約して話題になった北アイルランドの現役神父3人によるグループ。現在もそれぞれの教区で聖職に就きながら、コンサート活動を続けているユニークな存在で、ウエストライフの神父様版という評価もある。このデビュー作は彼らがこれまで歌ってきた賛美歌を中心にスパニッシュ・ソングを取り入れたコンセプトで、「アヴェ・マリア」や「天使の糧」などおなじみの名曲を、厳粛かつ清潔感のあるヴォーカルで歌っている。大学のグリークラブのようになつかしく、クラシカル・クロスオーヴァー的なポップ感覚もあって、季節的にもマストの一枚だ。(村岡 裕司)

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「ボッサ・ベレーザ/ガブリエラ・アンダース」
(ビクターエンタテインメント/VICP-64599)

 ユニット・チーム“ベレーザ”のヴォーカリストで、ソロとしてもボサノヴァ、ジャズ、ポップス、ソウル等、様々な素材を自己流に噛み砕き、洗練された大人の雰囲気を醸し出しているガブリエラ。その彼女が今回は自分のルーツに戻り、ボサノヴァ生誕50周年にふさわしいアルバムをリリースした。といっても歌っているのはボサノヴァの名曲だけにとどまらない。スタンダード作品から自作、更にはアース・ウィンド&ファイアーの「セプテンバー」やローリング・ストーンズの「サティスファクション」まで取り上げる幅広さで、彼女ならではのオリジナリティーに溢れた個性的なボサノヴァ・アルバムに仕上げている。(滝上 よう子)

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「リンゴ・スター&ヒズ・オールスターバンド・ライヴ2006」
(ビクターエンタテインメントVICP-64523)

 リンゴ・スターをメインとする第9期オールスターバンドによる2006年のアメリカでのライヴから全18曲を収録。リンゴのヴォーカル曲では、「ホワット・ゴーズ・オン(消えた恋)」がライヴ初登場。同年のオールスターのメンバーは、ヘイミッシュ・スチュアート(元アヴェレージ・ホワイト・バンド、ポール・マッカートニー・バンド)、ロッド・アージェント(元ゾンビーズ)、シーラ・E、リチャード・マークス、ビリー・スクワイア、 エドガー・ウインターで、それぞれの代表曲も楽しめる。(広田 寛治)

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「ライヴ・ベック3〜ライヴ・アット・ロニー・スコッツ・クラブ/ジェフ・ベック」
(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP-2111

 
07年11月、ロンドンの老舗ジャズ・クラブ、ロニー・スコッツで収録された最新ライヴが来日直前という抜群のタイミングで発表された。クラブ・サイズのオーデェンスを前に、リラックスした雰囲気で、しかもまったく力を抜かずに新旧の名曲を聞かせていく、貴重な作品だ。第2回クロスロード・ギター・フェスティバルで一躍注目の存在となったキュートな女性ベーシスト、タル・ウィルケンフェルド(ベックとの年齢差、42)の存在がいい刺激になっているらしく、どの音からもとてもポジティヴな印象を受けた。エリック・クラプトンがゲスト参加した「ユー・ニード・ラヴ」も収めたDVD版が2月の来日前後にはリリースされる予定となっている。(大友 博)

 ジェフ・ベックのニュー・ライヴ・アルバム。彼はここ2作、公式ブートレグの形でライヴ盤を発表してきた。それらが“記録”であるとすれば、これは“作品だ”。昨年、ロニー・スコッツ・ジャズ・クラブで行われた5日間の公演から選りすぐられた音源で構成されている。どの曲を取ってみても演奏の精度は高く、“何をどうやっているのか分からない”プレイが炸裂している。だが、単に技術的に素晴らしいだけではなく、熱さ、勢い、アグレッシヴさ、遊び心、いい意味でのいい加減さなどにこそ、ジェフ・ベックというギタリストの真髄はあると思う。本作にも、そういう魅力がしっかりと捉えられている。来年2月の来日ツアーのメンバーでもある、まだ20歳そこそこの女性ベーシスト、タル・ウィルケンフェルドの好演も聴きものだ。(細川 真平)

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「スウィンギン・クリスマス/トニー・ベネット」
(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP-2124)

 まさに正統派のスウィンギン・クリスマス。トニー・ベネットとカウント・ベイシー・バンドとの組み合わせは、ベイシーの最初の白人歌手がトニーというだけに歴史があるが、今回はプロデューサーのフィル・ラモンがベイシー・ビッグーバンドのホーン&サックス・セクションにモンティ・アレクザンダー(p)・クァルテットを配している。80歳を超えていよいよ絶好調のトニーのうまさ、パワーも十分。楽しんで歌っている「ウィンター・ワンダーランド」はじめ、陳腐な歌が多い「サンタが街にやってくる」も自在に歌って見事な1曲に。ほぼ全篇クリスマスの定番曲だが、力強く乗って歌う「マイ・フェイヴァリット・シングス」なども。ボーナスの「クリスマス蛍の光」もいい。トニーのクリスマス物は好盤『スノーフォール』があるが、本作も貫禄と楽しさに満ちた名盤だ。(鈴木 道子)

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「ザ・ローリング・ストーンズ in the 60’s コレクターズ・ボックス紙ジャケット/SHM-CD コレクション」(ユニバーサル ミュージック/UICY-91317)
 ストーンズの1960年代のデッカ/ロンドン時代の作品集、16タイトルに90年代になって陽の目をみた『ロックン・ロール・サーカス』のCD、それにDVDも加えてのセット。LPサイズのボックスで、CDは全てSHM-CD。『サタニック・マジェスティーズ』は各メンバーが動くオリジナルLPと同じ3Dカードを復刻したり、『アフターマス(UK)』がシャドウ・カバーになったりとコレクターが注目するポイントがいくつも。そのほか60年代当時にリリースされた16枚の日本オリジナル盤を帯付きで再現した“ボーナス紙ジャケ”はオールド・ファンにはたまらない。“まだまだ続くヨォー”ザ・ローリング・ストーンズ!(Mike M. Koshitani)

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「マライア・バラード/マライア・キャリー」
(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP-2100)
 かねてからファンのリクエストが多かった初のバラード・ベストが実現した。斬新なダンス・ナンバーも素晴らしいが、絶妙なる感情表現で歌い上げるバラードにおけるマライアの才能は特筆すべき点。オールタイムの人気を誇るスタンダードになっている「ヒーロー」から、初主演映画『グリッター』の「リフレクション」まで、輝かしいキャリアを代弁する名曲は、何度聴いても飽きるどころか新たな発見がある。「ウィズアウト・ユー」のようなカヴァーが多いのも特徴の一つだが、いつかカヴァーという括りの作品も実現するといいな。日本盤にはポップ・チューンの「恋人たちのクリスマス」を特別収録している。(村岡 裕司)

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「ステイン・アライヴ〜ビー・ジーズ・ナンバー・ワン・ヒッツ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13230)

 昨年来、レア音源も含む新編集のベスト盤や映画「サタデー・ナイト・フィーバー」のリマスターDVDが出されたり最近は「ステイン・アライヴ」がHonda(オデッセイ)のCMになり、さらには彼らの楽曲をモチーフにした仏映画「DISCO」が日本でも公開されるなどここに来て新たにまた‘キテる’ビー・ジーズ♪日本での発売権利がワーナーに移ったこともありこのタイミングで4年前に出されたNo.1楽曲集が再登場。英米加日のみならず豪州、仏伊蘭独、北欧、南米南ア。。。世界各国いずれかのチャートでトップを獲得した実績のある作品を集結させたものでいかに彼らが長期に渡りワールド・ワイドな人気と名声を獲得していたかを再認識。全20曲を収録。(上柴 とおる)

 テレビのCMに使われてリバイバル・ヒットしている「ステイン・アライヴ」をフィーチュアしたNo.1ヒットで構成したベスト盤。同曲を含む『サタデー・ナイト・フィーバー』関連の5曲を筆頭に、初期の「マサチューセッツ」「ワーズ」「獄中の手紙」から、「イモータリティ」など他のアーティストに提供した名曲まで、丁寧な内容になっている。ユニバーサル・ミュージック時代の「愛はきらめきの中に」と同じ内容だが、入門盤として必ず聴いておきたい一枚だ。(村岡 裕司)


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限定盤

通常盤

「キープス・ゲッティン・ベター〜グレイテスト・ヒッツ/クリスティーナ・アギレラ」
(BMG JAPAN/BVCP-21625限定盤:BVCP-25145〜6)

 アギレラ初のベスト。名曲「ビューティフル」や「カム・オン・オーバー(オール・アイ・ウォント・イズ・ユー)」から、リッキー・マーティンと共演した哀愁のラテン・ポップ「ノーバディ・ウォンツ・トゥ・ビー・ロンリー」、『ムーラン・ルージュ』のテーマ・ソング「レディ・マーマレード」まで、10年近くのキャリアを代表するナンバーを収録。さらに、テクノ調の新曲「キープス・ゲッティン・ベター」が加えられた。マライア・キャリーとリンクする熱唱型のヴォーカルは、何度聴いても素晴らしい。(村岡 裕司)


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「イエス・ウィー・キャン:ヴォイセズ・オブ・ア・グラスルーツ・ムーヴメント/VA」
(ビクターエンタテインメント/VICP-64641)

 バラク・オバマ氏の米国大統領当選により、カラーの呪縛から解き放されたと期待したい米国より、本作が届いた。このアルバムは、オバマ氏の思想に賛同し応援してきたライオネル・リッチー、スティービー・ワンダーをはじめとした有名ミュージシャン達によるコンピレーションであり、随所に力強いオバマ氏とマーティン・ルーサー・キング牧師の演説を取り入れた、感動のオフィシャル・サウンド・トラックに仕上がった。(上田 和秀)


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「シナトラ、ザ・ベスト〜ハッピー・フライト/フランク・シナトラ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13217)
「クリスマス・コレクション/フランク・シナトラ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13210

 「スイング・ガールズ」の矢口史靖監督による新作映画「ハッピー・ヒコーキ・ムービー!!」の主題歌にシナトラの歌う「カム・フライ・ウィズ・ミー」が使われたのを記念して今年5月に没後10年の記念で彼の起こしたリプリーズ・レーベルの数多くの作品から未発表録音も交えて彼のヒット・ナンバーを中心に22曲詰め込んだ『シナトラ・ザ・ベスト』が衣替えして登場。聞き慣れた極めつけのナンバーばかりだが、表現の素晴らしさに改めて感服。リマスターされたふくらみのある音も良い。もう一枚は、後期のリプリーズ時代のシナトラのクリスマス・アルバムから作られたCDだ。1957年のビング・クロスビート共演のTVショウから今回初めてCD化されたデュエットで歌うクリスマス・ソング、「ホワイト・クリスマス」「サンタが街へやってくる」「ザ・クリスマス・ソング」等もありクリスマス・ムード一杯で楽しい。そしてもう一つの聴きものは、シナトラの最後のスタジオ録音となった「サイレント・ナイト」。小児病院改善のチャリティー用のレコードに録音したものだが、体調万全ではなかったそうで、いつになく弱よわしさを感じさせる彼の歌だが、心がこもっていて感動的だ。オーケストラは、後になって付け加えられた。(高田 敬三)


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「寂光/日野皓正」(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP-10109)
 寂光というと京都の寺の木々の間から射し込む陽の光を想像させるが、日野皓正のジャズは日本的な音感とアメリカ的なジャズのひびきがぶつかりあった自由奔放なプレイとなっている。日野は目下絶好調だ。彼のトランペット・ソロは熱くてメロディックだが、今回はちょっとフリー・ジャズ的な自由自在さもあるが、刺戟的で、予想できない驚きの展開が興味ぶかい。今回は2曲に佐藤充彦(p)と復調なった山田穣(as)がゲスト出演し、「ザ・パ−スペクティブ・ツイステッド」と「サンタ・クリスティーナ」の2曲を菊地雅章が作曲している。日本の新作は未知の世界に入ってきた面白さがある。(岩浪 洋三)


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「ラヴ・アンド・インスピレーション/サリナ・ジョーンズ」
(ビクターエンタテインメント/VICJ-61579)

 日本ではおなじみのサリナ・ジョーンズによる5年ぶりの新作である。フィーリング豊かで、ソウルもあり、やはりうまい。先日発売記念のミニ・ライヴがあり、久しぶりに再会したが人なつっこさも変らない。選曲がバラエティに富んでおり、「ユア・マイ・エブリシング」のようなスタンダードもあれば、「ジス・ガール」などバカラックも3曲歌っているほか、ブレンダ・ラッセルの「ゲット・ヒア」も歌ったり、得意のカバー曲もこなす。また「レッツ・ダンス」など自作曲も歌う。ベテランらしいうまさに圧倒される。最近新進歌手の進出も多いジャズ界だが、彼女たちを押さえてのサリナの貫禄勝ちといったところだろう。(岩浪 洋三


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「ザット・ガール・フロム・イパネマ/ロヴィーサ」
(スパイスオブライフ/PBCM-61034)

 スウェーデンのジャズ・ヴォーカル界に『ザット・ガール』を持って昨年登場した若い女性歌手ロヴィーサ。彼女は同国屈指の名アレンジャー /ピアニスト、ベンクト・リンクヴィストを父に持つ。今回はジャズのスタンダードの代わりにジョビン、メンデス、カイミなどのボサ中心に、ガーシュインやマイルス、トニー・ハッチなどを加え、全編ボサ&ジャズのクール・タッチで楽しませる。プロデューサーは父親。スウェーデンの粋なミュージシャンに囲まれ、ゆったりと余裕ある歌声を披露する。ボサノヴァの美しさをムードで流すのではなく的確に表現し、クールな声もボサノヴァを歌うのにぴったり。「ジサフィナード」、スピード感のある「トゥ・カイト」や「3月の水」「コール・ミー」など聴き心地のいい1枚に仕上げている。(鈴木 道子)

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「GLOOMY SUNDAY/矢野沙織」
(コロムビアミュージックエンタテインメント/COCB-53752)

 矢野沙織の原点と出発点はチャーリー・パーカーとビリー・ホリデイである。ビリーの伝記を読んでジャズに興味をもったという。今年はビリーの没後50周年に当り、本作を録音した。ストリングス入りの演奏だが、矢野のアルト・サックスは進況著しいものがある。男性を含めてこんなに美しい音、艶っぽい音で吹くアルトはちょっと見当らない。タンギングもみごとだ。「ラバーマン」「サマータイム」「ナイト・アンド・デイ」といったパーカーと共通した曲もあり、「奇妙な果実」「レスト・アローン」も聴きものだ。(岩浪 洋三)

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「Rosebud/妹尾美里 」(JAZZ LAB. RECORDS/JLR-0804)
 驚異の新人ピアニスト妹尾美里のデビューアルバムは、「Rosebud」と銘打った全曲オリジナルナンバーの傑作である。曲が流れた瞬間、30年以上前にショックを受けたキース・エマーソンやリック・ウエックマンを思い出した。クラシックをベースに、ジャズ・ロックを融合した楽曲と演奏は、プログレ、またはカンタベリーとでも呼びたくなる。そんな彼女は、ジャンルを超越して活躍して欲しい逸材であり、だからこそこのアルバムは、全ての音楽ファンに聴いて欲しい。これから大輪の花を咲かせる妹尾美里から目が離せない。(上田 和秀)

Popular ALBUM Review

「Have Yourself A Merry Little Christmas/MAYA」(寺島レコード/TYR-1009)
 女性ジャズ・シンガーMAYAのdisk UNION/DIW第二弾は、クリスマス・アルバムでありながら楽しいクリスマスではなく、クリスマスを1人で過ごす「おひとりさま」のために作られたクリスマス・アルバムである。定番のクリスマス・ソングからスタンダード・ジャズまで、Akira Matsuo Trioの演奏がいたってシンプルなだけに、MAYAの歌声は妖しさを通り越えて・・・。(上田 和秀)

Popular ALBUM Review

「Hello,World!/Peppertones」(OLD HOUSE/OLD-1)
*山野楽器扱い(12月15日発売)

 韓国ポップスの新しい波♪ダンス・ポップやバラードなど韓国大衆音楽の定番的なイメージを刷新するかのようなアカ抜けた?センスで心地好く聴かせるペッパートーンズは日本のいわゆる‘シブヤ系’に憧れてコンビを組んだ男性二人(現役大学生)のユニット。本邦デビュー作となったこのアルバムは2004年以来の音源からセレクトされた日本独自のベスト盤的な内容でかつてのシブヤ系やカフェ/クラブ系を好むファンにも十分アピールしそう。曲によりゲストに迎えた複数の女性ヴォーカルと相まって醸し出すキュートさにふっと1990年代のスウェディッシュ・バンド、カーディガンズを思い浮かべたりも♪全9曲、何より楽曲がポップそのもの。ちなみに歌詞は韓国語と英語。(上柴 とおる)

Popular ALBUM Review

「君恋し/フランク永井、 ニニ・ ロッソと唄う」
(ビクターエンタテインメント/VICL-41189)

 1972年のNHK紅白歌合戦に特別出演したニニ・ロッソが、トランペットでフランク永井の応援演奏をした縁で出来上がったアルバム。全12曲のうちフランク自身の持ち歌は「君恋し」だけで、あとは当時のLPのA面に相当する5曲で他の歌手たちのヒット・ソングを取り上げている。松尾和子とマヒナ・スターズの「誰よりも君を愛す」、西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」、平野愛子の「君待てども」、井上ひろしの「雨に咲く花」、二葉あき子の「夜のプラットホーム」に「君恋し」の6曲は前田憲男のモダンな編曲が光る。後半のB面に相当する6曲はこの企画のためのオリジナル新曲で、吉田正 (編曲も)、平尾昌晃、筒美京平が2曲づつ作曲。全曲、イントロからニニのペットが活躍し、フランクのヴォーカルとの絶妙な掛け合いが実に楽しい。(川上 博)

Popular DVD Review

「at 武道館(レガシー・エディション)/チープ・トリック」(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/EIBP-110〜113)*1DVD+3CD)
 チープ・トリックの名を世界に知らしめたのは、日本制作の傑作ライヴ・アルバム『at 武道館』だった。本作は、発見されたそのときのライヴ映像をDVD化したもの。今年4月に行われた30周年記念ライヴの一部と、メンバーや当時のディレクターである野中規雄氏などへのインタビュー映像も収録されている。さらに、ボーナスCDとして『at 武道館』収録日のフル音源と、限定発売された『コンプリートat武道館』の最新リマスター・ヴァージョンの計3枚をカップリング。『at 武道館』という名の歴史の全貌が明らかになる。(細川 真平)


Popular DVD Review

「ギブソン・ギターと名ギタリストたち」
(コロムビアミュージックエンタテインメント/COBY-91533)

 どんなに大物でも、ギターの話になると、少年のような顔つきになる。ギターに抱いた憧れや、ギターとの出会い、秘蔵のコレクション、女性との共通点とか、話が止まらなくなったりする。そういったギターへの想いを、ギブソン社の作品をテーマに、スラッシュ、スティーヴ・ウィンウッド、ロン・ウッド、ドン・フェルダー、トム・ペティ、スティーヴ・ハウ、B.B.キング、ミック・ラルフス、チェット・アトキンス、エミルー・ハリス、スコッティ・ムーアなど、幅広い分野のトップ・アーティストたちがさまざまな側面から語っていくという内容の映像作品だ。歴史的な資料映像や名演奏のサワリなども効果的に紹介されている。10年ちょっと前に制作されたものだが、テーマがテーマだけに、けっこう引き込まれてしまった。(大友 博)


Popular DVD Review

「ジョン、ポール&リンゴ:ザ・トゥモロー・ショウ」
(コロムビアミュージックエンタテインメント/COBY-91536)

 アメリカのテレビ・トークショー『トゥモロー・ショウ』に別々に出演したジョン・レノン、ポール・マッカートニー、リンゴ・スターの3回分の映像を2枚組DVDにパッケージした作品。聞き手はいずれもトム・スナイダー。ジョンとのオリジナル・インタビューが放送されたのは1975年4月25日。結果的にこれが最後のテレビ・インタビューとなった歴史的な映像だ。今回収録されているのは、1980年12月8日にジョンがニューヨークの自宅前で射殺された翌日に再放送されたもの。ポールの映像は79年12月放送分でウイングスの「スピン・イット・オン」も収録。リンゴの映像は81年11月放送分で「ラック・マイ・ブレイン」も収録。3人3様の個性が
感じられて楽しめる。(広田 寛治)


Popular DVD Review

「スーパードラミングVol.3(PETE YORK'S SUPER DRUMMING VOL.3)」
(ジェネオン エンタテインメント/GNBP-5014)

 元スペンサー・デイヴィス・グループのドラマー、ピート・ヨークがプロデュースするドラム教則テレビ番組からベストパフォーマンスを収録。きわめてエンタテインメント性のあふれる番組で、さまざまなジャンルのドラマーを招き、番組のハウス・ハンドとドラマーとの共演が楽しめる。今回のVol.3は、過去の全放送分から選り抜きの名演奏を集めたもの。ロック、ジャズ、フュージョンとジャンルをこえた選曲だが、個人的には、オアシスやザ・フーで大活躍中のザック・スターキーが参加したパフォーマンス(『ルート66』など3曲を収録)やピート・ヨークとハウス・ハンドによる「レディ・マドンナ〜ノーウェジアン・ウッド」のメドレーなどが楽しめた。≪ディスク2≫には特典映像として、ピート・ヨークがドラマーを語るインタビュー映像などを収録。(広田寛治)


Popular BOOK Review

「ミック・ジャガーの成功哲学/アラン・クレイソン著 大田黒泰之・訳」
(ブルース・インターアクションズ)

 ローリング・ストーンズの映画として最高傑作のひとつに入る『シャイン・ア・ライト』と同じタイミングで発売されたミック・ジャガーの伝記。キース・リチャーズの伝記の翻訳も同時発売され、ふたりの人生を軸にストーンズの歩みも解き明かしていくもの。ミックはストーンズにおいてなにかとビジネスマン的な顔が強調されるが、ミックの音楽的なセンスのよさと資質こそがストーンズの運命を決めたという側面も浮かび上がらせるのがこの本なのだ。むしろそのセンスのよさがミックのビジネス・スキルなのだ。(高見 展)

 サブタイトルを「セックス、ビジネス&ロックンロール」と題したこの本は、言わずと知れた史上最高のロックンロール・バンド、ローリング・ストーンズのミック・ジャガーの素顔に迫った記念碑だ。マイクではなく何故ミックなのかというところから始まり、ストーンズ結成から現在に至るまでの彼の苦悩と努力、そして史上最高のバンドという栄光を勝ち取った道のりを数々のエピソードを細かく紹介し赤裸々に表現した、ロック・ファンのみならず全音楽ファンに贈る必読書だ。この本を読み終えた後、ロックンローラーの表紙の写真が知的に見えてきた。この1冊で、ストーンズにはまれ!!!(上田 和秀)


Popular BOOK Review

「キース・リチャーズの不良哲学/アラン・クレイソン著 西山友紀・訳」
(ブルース・インターアクションズ)

 ミック・ジャガーと同時発売される伝記のキース・リチャーズ編。ロンドンのワーキング・クラスの純朴なチャック・ベリー・ファンからロックンロールを体現する屈指のギタリストへというキースの歩みを辿っていく。もちろん、その歩みが描かれる場となるのはローリング・ストーンズという舞台で、これ以上に波乱万丈という形容にふさわしいステージはないだろう。かつての盟友ブライアン・ジョーンズとの愛憎入り乱れた関係、ロック界最強と言われたドラッグ癖など、ギターの野人のやさしき素顔に迫る。(高見 展)

 サブタイトルを「なぜローリング・ストーンズは解散しないのか」と題したこの本は、キース・リチャーズの生い立ちから現在に至るまでを、数多くのエピソードの中に潜む彼の精神状態を探り出しながら、ストーンズにおける彼の立ち位置を明確にし、今までになかった彼の全てをさらけ出した究極のバイオグラフィーである。永遠の不良としてのみ生き残ることが許されたキースの生き様がここにある。この1冊で、ストーンズに屈する!!!(上田 和秀)


Popular BOOK Review

「ジョン・レノン 失われた週末(ロスト・ウィークエンド)/メイ・パン 山川真理・訳」
(河出書房新社)

 ジョン・レノンがオノ・ヨーコと別居中の73年秋から75年初めにかけて、ジョンと一緒に過ごした中国系アメリカ人、メイ・パンの想い出の写真&エピソードを纏めた一冊。ジョンのこの時代の足跡がさまざまな角度から垣間見られる。プライベートチックな記録だけに、より大きな感動を覚える。特にアルバム・レコーディンに関して、身近にいた人間ならではの緊迫感あふれたショットとコメントがとてもドラマティック。本書に登場するアップルの総支配人だったトニー・キングは現在ミック・ジャガーの側近。また、サックス奏者のボビー・キーズはその当時から現在に至るまでローリング・ストーンズのサポート・メンバー。ということで、ビートルズ・ファンはもちろん、ストーンズ・フリークも注目の一冊だ。(Mike M. Koshitani)


Popular BOOK Review

「ゴールド・ラッシュのあとで/天辰保文」(音楽出版社)
 MPCJ会員の天辰保文さんが長年に書き綴られてきた膨大な原稿の中から、自らセレクションされたものが一冊に纏められている。彼の音楽を心から愛する優しさ、アーティストに対する愛情がダイレクトに伝わってくる。アルバムやライヴ評、ライナーノーツ、そして対談も収録。アメリカン・ミュージックに造詣が深く、アコースティックなサウンドが大好きな天辰さんらしくその選出ぶりに♪らしさ♪が噴出。音楽シーンが最もホットな時代の作品集やアーティストが登場するところに、同年代として共鳴。若い音楽ファンにも読んでいただきたい。(Mike M. Koshitani)


Popular CONCERT Review

「スカ・クバーノ」 9月24日 赤坂/BLITZ
 元トップ・キャッツのナッティ・ボウを中心として2004年に発足したグループがスカ・クバーノだ。キューバ、英国、ジャマイカ、日本で生まれたミュージシャンが集まり、スカをベースにした音楽を演奏する。キャブ・キャロウェイ風の衣装に身を包んだナッティは歌い、踊り、ジョークを連発し、とにかく休む間もない大活躍。もうひとりのリード・シンガーであるカルロス・ペーニャは彼とは対照的に、落ち着いた物腰で力強い歌声を響かせた。ホーン・セクションではミス・メグーのサックスが痛快なホンカーぶりで抜きん出ていた。伝説のトランペッター、エディ・タンタン・ソーントンの参加も嬉しかったが、彼のフィーチャリング・ナンバーがなかったのは残念。(原田 和典)


Popular CONCERT Review

「ニコ・ヴァルケアパー」 10月12日 南青山/月見ル君想フ
 マッツ・アイレットセン(先月の本欄で紹介)、スサンナ・ヴァルムルー、シャイニング、ザ・コアなどノルウェーの精鋭を紹介するエキサイティングなシリーズ“ミュージックfromノルウェー”。10月第2週はヴォーカリストのニコ・ヴァルケアパーが登場した。彼は北極圏の先住民族であるサーミのひとり。ヨイクと呼ばれる独特の歌唱とエレクトロニクスを融合したサウンド作りは耳なじみが薄いのに心安らぐ。ニコ本人は自分の音楽を「実験的ポップ」と呼んでいるそうだが、歌があり、メロディがあり、コードがあるという、本当にすがすがしいほど一直線な響きを味わった。ギターのヘルゲ・ハルシュタ、どこかチェット・ベイカーに似たトランペットのパール・ヴィリー・オーセリーも卓抜だった。(原田 和典)


Popular CONCERT Review

「第1回 国際口琴フェスティバルin東京」 10月12〜13日 渋谷/O-nest
 僕はアイヌ・コミュニティの近所で育ち、知り合いもいっぱいいたので口琴はとても近しい存在だ。なので日本だけではなくサハ共和国(ロシア連邦)、シチリア島からも口琴ミュージシャンが参加して(もちろんアイヌの奏者も)、一大口琴フェスティバルが開かれるとあっては黙っていられない。告知を見た僕は即座にチケットを予約購入、12日の公演に行ったが、予想以上に多彩な口琴音楽の数々に時を忘れた。針を落とす音さえ聴こえてきそうなほど静寂なアンサンブルから、さまざまなエフェクターを使った幻想的にしてファンキーな世界まで。個人的には倍音ケイイチの威勢の良さが印象に残った。ぜひ来年も開催してほしい。(原田 和典)


Popular CONCERT Review

「第20回カントリーゴールド」10月19日 ASPECTA(グリーンピア南阿蘇)
 爽やかな秋晴れの下、今年もカントリーゴールドが開催された。熊本在住のカントリー・シンガー:チャーリー永谷氏が主宰するこの国際フェスティバル、20周年となる記念すべき今回は、ナイス・ガイという表現がぴったりな若手人気スター:ダークス・ベントリーを筆頭に、才色兼備の新人女性シンガー/ソングライター:ダニエル・ペック、元ニュー・グラス・リヴァイヴァルのべテラン:ジョン・カウワンと彼のバンド、イーグルスの影響を強く感じさせる新人カントリー・ロック・バンド:ウィスキー・フォールズといった、魅力溢れる出演者が来日。また今回新たな試みとして、アマチュア・バンドのコンテストを行い、勝者2組にカントリーゴールド・アウォードを授与。彼らは前座として、開始前のステージで数曲ずつ披露した。昨年から始まった学生入場券といい、若い層にアピールしようとする意欲を評価したい。(森井 嘉浩)


Popular CONCERT Review

「ネヴィル・ブラザーズ〜Japan Blues & Soul Carnival '08 番外編〜」10月29日 JCBホール
 ニューオーリンズ・ファンクの大御所、ネヴィル・ブラザーズの12年ぶりの日本公演、素晴らしいコンサートだった。「Fiyo On The Bayou」で開幕、曲は進みアーロン・ネヴィルの歌いっぷりが見事な「Voodoo Woman」で会場は大いに湧き上がる。メイン・イングリディエントの72年の大ヒットからのカヴァー「Everybody Plays The Fool」でもアーロンのファルセットにうっとり。そして、アーロン+シリル・ネヴィルをフィーチャーしての「R&R Medley」(『Johnny B. Goode』『Bony Moronie』『Dizzy Miss Lizzy』『Slow Down』『Oh Boy』『Long Tall Sally』)はまさにダンス、ダンス、ダンス。後半のアーロンのソロでのヒット「Tell It Like It Is」(67年のベスト・セラー。当時、日本盤シングルを購入した)は定番だけど、何度聴いても感動!アンコールは「Amazing Grace」「One Love」。終演後の酒はとても美味かった。(Mike M. Koshitani)
写真:片岡一史@wacca http://www.wacca.com/lj/


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「第4回ギンザ・インターナショナル・ジャズ・フェスティバル2008」 
11月1日 2日 シャネルネクサスホール他

 秋の深まりと共にファッション感度の高い人々が集う街、銀座がジャズ一色に染まる。季節の風物詩として定着しているジャズ祭が、今年も2日間開催された。海外から15組、国内から11組のミュージシャンが参加した中、前者の3組を鑑賞。国内制作のリーダー作やマンハッタン・ジャズ・クインテットのメンバーとして人気が高まっているアンディ・スニッツアー(ts)は、チャック・ローブ(g)ら著名人を率いて、正統派サックス奏者の持ち味を発揮した。客演したアマンダ・ブレッカーのフレッシュな歌唱も嬉しい。アコーディオンのパリジ・ミュゼット・トリオは、パリの日常的な空気感を東京に運んでくれた趣。楽曲の由来を解説しながら(通訳つき)、パリ・ミュゼットの代表曲を演奏した構成は親切だった。本ジャズ祭のハイライトとなったのがファブリッツイオ・ボッソ&ジャヴィエル・ジロット・セクステット。ハイ・ファイブ・クインテットで話題のボッソは、ラテン・プロジェクトの音楽性を打ち出しながら、パンチの効いたトランペット音で観客を満足させてくれた。(杉田 宏樹)


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「マリア・ヒタ VIVA BRAZIL! IN JAPAN」 11月10日 中野サンプラザホール
 マリア・ヒタの初来日公演は、“成功”を強く印象付けた。「O Homem Falou」(邦題/男は言った)で幕が上がると、満員の聴衆は大きな拍手と歓声で応える。母国語、英語、そしてわずかながら日本語を交えての挨拶には少々の緊張感も感じられたが、サンバのリズムにのって軽快に歌い進むにつれて観客は酔いしれ、ステージに惹きつけられていく。中盤にインストルメンタル一曲挟んで全19曲を休むことなくエネルギッシュに歌い上げた。当日のレパートリーのうち10曲が最新アルバム「サンバ・メウ」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13201)からのナンバー、90分の熱唱はあっという間の出来事のようであった。(三塚 博)
写真:KAZUMICHI KOKEI


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「THE WHO MAXIMUM R&B」 11月14日  横浜アリーナ
 待ちに待ったザ・フー単独公演である。何はなくとも駆けつけた。「アイ・キャント・エクスプレイン」で始まり、「フー・アー・ユー」、「ババ・オライリィ」等もガッチリやり、「シスター・ディスコ」のようなちょっと驚きの選曲も交えつつ本編を疾走、アンコールには「トミー」関連曲が並ぶという、おなかいっぱいのプログラム。ロジャー・ダルトリーの声はかなり太くなったし、ピート・タウンゼントはギター・スマッシュもパワー・スライド(ひざすべり)もしない。ザック・スターキー、ピノ・パラディーノ、ジョン‘ラビット’バンドリックのサポートは職人芸。成熟したアーティストの姿だけがステージにある。が、大枚12000円を払った分をフルに楽しめたかというと僕は首を縦に振ることはできない。「ヒート・ウェイヴ」のようなカヴァーも聴きたかったし、「キッズ・アー・オールライト」をやってくれたら全身に鳥肌が立っただろう。個人的にはあの時代の、やんちゃ丸出しなザ・フーこそ“マキシマムLOVE”なので・・・・。(原田 和典)
写真:YUKI KUROYANAGI


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「高樹レイ・ウィズ・ローランド・バティック」 新宿/白龍館  11月17日
 2004年のオーストリアのウィーンでの録音もある高樹レイとローランド・バテイック(p)、ハインリッヒ・ヴェルクル(b)によるライヴは、ベイゼンドルファーのピアノがある大変音の響きの良いライヴ・スポットで行われた。「オール・ブルース」「ブルー・ボッサ」のインストゥルメンタルから始まる。綺麗な音で端正なローランド、堅実で力強いハインリッヒに魅了される。高樹は、クリスマス・ソングの他は、お馴染みのナンバーをいつになく丁寧に全編ノー・マイクで歌う。「レフト・アローン」からの調子が上がり、リラックスした二部が良かった。自宅の応接間で聞いているような、贅沢な感じにさせてくれたライヴだった。(高田 敬三)


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「ビリー・ジョエル」 東京ドーム 11月18日
 ビリー・ジョエルは人気沸騰のきっかけとなった『ストレンジャー』発売30周年ということもあり、だた1回の日本公演を実現させた。オープニングも「ストレンジャー」でファンを大喜びさせ、「マイ・ライフ」「素顔のままで」「オネスティ」など、日本人向けのプログラムに、「さくらさくら」「上を向いて歩こう」などをイントロに使うなど、2時間たっぷり、終始大いなるエンターテイナーぶりで楽しませた。「ザンジバル」ではカール・フィッシャーが巧みなトランペット・ソロを聞かせた。が、全体にヘヴィーなサウンドながら前回のようなキレがなく、またピリーの声も十分出てはいたが、高音を下げて歌うこともあり、ロング・ツアーを重ねて乗り込んできたといった気迫には欠けていた。それでもビリーのピアノ・マンとしての魅力は一層際立ち、アンコールの「ピアノ・マン」では見事な腕前を発揮しながら、会場満杯の聴衆に大合唱させて最後を飾るなど、さすがに大スターならではの貫禄を示した。(鈴木 道子)
PHOTO BY TOMO AKUTSU


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「ジャクソン・ブラウン」 11月24日  東京厚生年金会館
 ジャクソン・ブラウン4年ぶりの来日公演、ただし、前回のソロ・アコースティックと違って、今回は新作『時の征者』の発表にあわせて、バンドを従えての来日公演だ。もちろん、新作からの曲が圧倒的に多いが、ジャクソン・クラシックとも呼べる「青春の日々」や「レイト・フォー・ザ・スカイ」なども交えながらの二部構成。「悲しみの泉」の時にはJ.D.サウザーの新譜と来日の宣伝を交えたり、終始なごやかな雰囲気の中で行われた。殊に、今回から加わったシャボンヌとアリシアの若い女性シンガーふたりが素晴らしく、「サムシング・ファイン」や「ライヴズ・イン・ザ・バランス」などでは、見事に新しい命を吹き込んでいた。彼に対する日本のファンの熱狂的な歓迎ぶりをみていると、ひょっとすると、こういう歌がいま求められているのかもしれないと思ったりもした。(天辰保文)
写真:Yuki Kuroyanagi


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「エリック・クラプトンJapan Tour 2009
 初来日から35年目という記念すべき単独来日公演が、遂に決定した。ここ数年は毎年のように来日しているエリック・クラプトンだが、クロスロード・ライヴをはじめとする全世界でのコンサート活動には頭が下がる。歳をとるにしたがって衰えていくのではなく、円熟味を増すエリック・クラプトンのギターとヴォーカルから目が離せない。毎回最後のライヴと噂されるエリック・クラプトンだが、まだまだ我々ロック・ファンを十分に楽しませてくれそうだ。(U)写真:George Chin
2009年2月12日 13日 大阪城ホール(いずれも19:00開演)
2月15日 18日 19日 24日 25日 27日 日本武道館 
(15日は17:00開演 そのほかは19:00開演)
お問い合せ:ウドー音楽事務所 03(3402)5999 http://udo.jp/


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「ロッド・スチュワート ROD STEWART ROCKS HIS GREATEST HITS JAPAN TOUR 2009
 1996年の横浜アリーナでのステージには興奮した。あれから10年以上、久々のロッド・スチュワートの来日が決定した。ここ数年ロッドはスタンダード・ナンバーを数多くレコーディングしているが、来年のステージではどんなレパートリーを披露してくれるのだろうか。フェイセズ時代、ソロ、そのソロでの近年のスタンダード・・・、期待が膨らむ。60年代のナンバーもセットリストに加えてくれたりもしてくれたら、なんて贅沢だろうか。あのソウルフルでハスキーなヴォーカル、そのステージは多くのファンをエキサイトさせることだろう。(K)
2009年3月9日 大阪城ホール 19:00開演
     11日 日本武道館  19:00開演
     14日 さいたまスーパーアリーナ  16:00開演
お問い合せ:H.I.P. 03(3475)9999 http://www.hipjpn.co.jp/


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「ジョディ・ワトリー Billboard Live」
 15歳で「SOUL TRAIN」のダンサーに抜擢され、以後“シャラマー”のメイン・ヴォーカルからソロの現在に至るまでR&B1位に輝いた「ルッキン・フォー・ア・ニュー・ラヴ」、「リアル・ラヴ」等数々のヒット曲を出し、1988年にはグラミー賞最優秀新人賞を獲得した実力派ヴォーカリスト&ダンサーのジョディ・ワトリーの来日公演が決定した。1997年には、ベビー・フェイスのアルバムに“シャラマー”のメンバーとして参加するなど話題も豊富なジョディの華麗でスタイリシュなダンスと迫力あるヴォーカルは、観客を魅了することだろう。(U)
2009年1月29日    Billboard Live OSAKA
30日 31日 Billboard Live TOKYO
    2月2日 3日  Billboard Live FUKUOKA
 http://www.billboard-live.com  http://billboard-live.com/m/


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「エリック・クラプトン コンサート・ヒストリー展」
 2009年2月の来日公演が決定しているエリック・クラプトンのイベントが開催、題して≪エリック・クラプトン コンサート・ヒストリー展≫!今回を含めた全18回の来日公演ポスター、チラシ、ティケット、関係者・販促グッズ、ゴールド・ディスクほか約100点が展示される。注目のアイテムは招聘元のウドー音楽事務所がオークションで競り落とした本人使用のギター。

最終日には、クラプトンのアルバム・ライナー・ノーツの執筆などでもお馴染みの音楽評論家、大友 博さん(ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員)と、1974年の初来日から来日公演の際にツアー・マネージャーを務めている、ウドー音楽事務所のTACK高橋さんとのスペシャル・トーク・イベントも開催予定。

会場では非売品の来日公演ポスターやプレス・リリースなどが当たる抽選も行われる。(K)
*日時:2008年12月16日(火)〜12月19日(金) 10時30分〜20時30分
*会場:銀座山野楽器本店7階 イベント・スペース JAM SPOT
*入場無料(場内混雑時には入場をお断りさせていただく場合がございます)
http://udo.jp/News/index.html#081208b


Classic ALBUM Review

「ベルリオーズ:幻想交響曲、《クレオパトラの死》−叙情的情景−*/スーザン・グレアム(Ms)*、サイモン・ラトル指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団」(EMIミュージック・ジャパン/TOCE-90030)
 ラトルがベルリン・フィルの音楽監督になって6年、満を持しての「幻想」は、ラトルが得意としているだけあって、ラトルの考え抜いた曲の構図がベルリン・フィルの完璧な演奏と相俟って、この曲に新たな魅力を植え付けた。それは各パート毎のダイナミックス効果を最大限に利用して立体的な色彩感を印象づけたこと、そして現在では一部のオペラ以外には殆ど使われない楽器だが、ベルリオーズがこの曲を作曲した時点では指定していたとされるオフィクレードを第4、5楽章でテューバの代わりに使用し、明快な音色と歯切れの良さで他の金管群やファゴットとのバランスを整えたこと等である。今までに聴いた多くの「幻想」の中でも、このラトル/ベルリン・フィル盤には他にはない魅力が溢れている。余白に入っている「クレオパトラの死」では、スーザン・グレアムの幅広い表現力を見せた歌唱が光る。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲『四季』他/ジュリアーノ・カルミニョーラ(バロックVn)、ヴェニス・バロック・オーケストラ」(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICC1053)
 カルミニョーラの1999年収録ヴィヴァルディ「四季」が同社2008ベスト・クラシック100にラインアップされた。ヴィヴァルディ革命ともいえるアーノンクール1977年録音の系譜の中で、カルミニョーラの独自性は表現とアンサンブルの放つリズム感にある。驚異的なテクニックと古楽オーケストラが一体となって流れ出す音楽は彼らだからこそできる。まるで海辺に波が次々押し寄せ、生の海風が巻き起こるようだ。ヴェネチア色に染め上げる。アンサンブル全体に自然を映し出すリズムが刻印されている。(宮沢 昭男)

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「モーツァルト:フルート四重奏曲集/アンドレア・グリミネッリ(Fl.)、ケラー四重奏団員」(ユニバーサル ミュージック/UCCD-1221)
 今やイタリアを代表するフルーティストであるグリミネッリとハンガリーのケラー四重奏団との初共演CDである。このCDには4曲のフルート四重奏曲とオーボエ四重奏曲のフルート版も収録されている。グリミネッリの明るく暖かい音色には、さすが南国イタリアの色彩を感じる。有名な第1番ニ長調は第1楽章の出だしから明るく大らか、ピッツィカートの伴奏による美しい短調の第2楽章も速いテンポで決して翳らない。グリミネッリは自由奔放に振る舞い、弦の3人は楽しみながらフルートをしっかりと支えている。最後のオーボエ四重奏曲のフルート版はこの曲がフルートのために書かれたかのような錯覚に陥るほど実にうまく料理している。楽しいモーツァルトの典型的な1枚である。(廣兼 正明)

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「ショパン:ピアノとチェロのための作品集(序奏と華麗なるポロネーズ ハ長調Op.3、チェロ・ソナタ ト短調Op.65、グランド・デュオ・コンセルタント ホ長調〜マイヤベーアの「悪魔のロベール」の主題による、ツェルニー:ロンド・コンセルタント ハ長調 Op.136)/鈴木秀美(Vc)、平井千絵(Fp)」(BMG JAPAN/BVCD-31020
 鈴木秀美と平井千絵のコンビが前回のメンデルスゾーンに続いて、今回はショパンの3曲とツェルニー1曲のチェロのための4曲が収録されている。その中の「グランド・デュオ・コンセルタント」はピアノ部分がショパン、チェロ部分は友人フランコームが書いた完全合作ものである。さて前回と同様、鈴木・平井コンビのピリオド楽器によるものであり、今回も非常に音楽的な完成度が高い。当然現代楽器のような派手さはないが、当時の演奏スタイルに近づけるためと、曲と楽器の相性によって、ショパンにはパリのプレイエル、ツェルニーにはウィーンのベームという19世紀前半に製作された異なるフォルテピアノを使用している。ピアニストのショパンとチェリストのフランコームの合作曲はお互いの得意技の競演と言える。最後のツェルニーは1曲目の華麗なるポロネーズに似た感じの曲だが、チェロ・パートはチェリストのテクニックをひけらかすような大衆受けする作品で、ピアノの練習曲でしか知られていない、そしてあまり好きになれないイメージのツェルニー音楽の意外な楽しさに気付くのではないだろうか。それにしても平井の演奏は秀逸である。(廣兼 正明)

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「バッハ:ゴルトベルク変奏曲BWV988/イルマ・イッサカーゼ(ピアノ)」(BMG JAPAN/BVCO-38057〜8)
 近年、〈ゴルトベルク変奏曲ブーム〉というか、ステージ、録音媒体ともに各種の演奏が賑わっているが、グルジア出身の新星イルマ・イッサカーゼの新盤はとびきりユニークだ。冒頭のアリアの入念な弾き出しから斬新な魅力にあふれ、聴き進むうちにすっかり彼女のペースにはまってしまう。即興性にみちた独特の呼吸、自在なテンポ感覚、大胆な感情表現。奔放な変わった演奏ではあるのだが、グレン・グールドをはじめ先人たちの業績もよく研究され、自分のインスピレーションを失わずに、彼女にとっての自然な表現になっているのがいい。世の中にゴルトベルク変奏曲のCDがこれ1枚しかなければ困ってしまうが、聴き手の音楽体験を豊かにする楽しい演奏であるのは確かだろう。名前から想像がつくように名高い音楽一家の生まれで、大成が期待できそうだ。カワイのピアノ(SK7)が使われている。SACDハイブリッド盤。(青澤 唯夫)

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「シューマン:謝肉祭Op.9、アラベスクOp.18、パピヨンOp.2/田部京子(ピアノ)」(コロムビアミュージックエンタテインメント/COGQ-27)
 2007年12月5日にスタートした「シューマン・プラス」第1回の浜離宮朝日ホールでのライヴ録音だが、ライヴならではのスリリングな感興にみちた演奏が展開されている。新シリーズへの意気込みを物語るような気迫のこもった「謝肉祭」は、語り口の巧みさが光り、濃密な表現で、ファンタジーも豊か。猛スピードの「Pause」から一気に「ダヴィッド同盟の行進曲」(ノン・アレグロ)に駆け込むあたりはいくらなんでも速すぎる気もするが、シューマンらしい熱狂ぶりを感じさせて、ライヴ録音の面白さは充分。「アラベスク」は、繊細さとノスタルジックな味わいが出色。「パピヨン」は決然として思い切りのよいダイナミックな表現がいい。続編への期待を掻き立てるものがある。SACDハイブリッド盤。(青澤 唯夫)

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「サン=サーンス:クリスマス・オラトリオ、他〜近代フランスのクリスマス音楽/ラルフ・オットー指揮、マインツ・バッハ合唱団&ラルパ・フェスタント」(BMG JAPAN/BVCD-31021)
 耐えられない、そして多くの人に心のケアが必要ともいえる今の世相に、天からの贈り物とも言えるこのCD、クリスマスに合わせての発売だが、これほどまでに聴いて心が和む音楽はないだろう。フランスのメンデルスゾーンとも言われているサン=サーンスの極上の美しさに溢れた「クリスマス・オラトリオ」を始めとして、フランク、グノー、フォーレの神秘的な敬虔な美をクリスチャンでなくても是非味わって欲しい。この不景気な折、たまにはジングル・ベルではなく、ワイン・グラスでも傾けながら家族団らんのクリスマスは如何だろうか。有名どころの曲としてはバッハ/グノーの「アヴェ・マリア」が心にしみるアルトの歌声とハープの伴奏で和ませてくれる。演奏は創立53年の≪マインツ・バッハ合唱団≫と、25年の歴史を誇るドイツの古楽アンサンブル≪ラルパ・フェスタント≫、指揮は教会音楽に長けたラルフ・オットーであり、見事に調和した妙なるハーモニーは天上の音楽にふさわしい。(廣兼 正明)

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「R・シュトラウス:《サロメ》」10月12日 滋賀県びわ湖ホール
 義父のヘロデ王(高橋淳)に執拗に求愛される王女サロメ(大岩千穂)はこれを拒み、牢に閉じ込められた宗教者ヨカナーンを熱愛している。サロメの求愛を断わり続けたヨカナーン(井原秀人)は、サロメの所望により斬首の刑に処せられる。サロメは悪女としてファム・ファタル(宿命の女)の代表とされている。
ポルトガル国立サン・カルロス劇場とびわ湖ホールとの共同制作である。ドイツ人演出家ヘルマン・フォイヒターは、思春期のサロメのゆがんだ家族関係が根っこにあると理解して、ドラマの流れを再構成した。出演者は現代と同じ衣服で登場し、有名な全裸の「7色の踊り」もない。新鮮な視野から聴衆に訴える意欲的な姿勢は評価できる。オペラに深みを与え、感動をもたらすという点では、沼尻竜典指揮の音楽づくりが勝っていたと思う。大阪センチュリー交響楽団から部厚く時には官能的な旋律を引き出し、サロメとヨカナーンもこれにこたえて、熱唱した。(椨 泰幸)
〈撮影:西岡千春、写真提供:びわ湖ホール〉

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「B・ブリテン:《真夏の夜の夢》」10月13日 ザ・カレッジ・オペラハウス(大阪音楽大学)
 これはシェイクスピアの戯曲が原作で、メンデルスゾーンはドラマに合わせて伴奏の音楽をつけた。その中の「結婚行進曲」は余りにも有名である。ブリテンも同じ戯曲を短くしてオペラ化し、1960年に完成した。妖精が人間の世界に出向いて、媚薬を誤って他人に塗ったために持ち上がった喜劇で、ドタバタの挙句、3組がめでたく結婚にするというお話しである。出演者はシングル・キャストで、2回公演のうち13日を観た。
舞台では女声の活躍が目立ち、ハーミアを演じた児玉裕子が、歌も演技も好印象を与えた。オベロン(田中友輝子)、ヘレナ(石橋栄実)も実力者らしい存在感を発揮した。男声では、ロバ役も兼ねたボトム(西田昭広)が、渋い声を聴かせた。(椨 泰幸)
〈写真提供:大阪音楽大学〉

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「キエフ・オペラ ヴェルディ《椿姫》」10月17日 フェスティバルホール
 3年連続でウクライナ国立歌劇場(キエフ・オペラ)が日本に上陸した。“旋風”が吹き荒れた、といえば少し大げさかもしれない。しかし、10月から11月へかけて全国各地で40日間公演を断行したのは、壮挙といえるだろう。06年の初来日では2ヶ月半にわたり滞在、07年も大型公演をやったとなれば、並ではない。オペラファンの裾野をかなり広げたことと思う。
各地ではいかなる出来栄えであったろうか。筆者の観た「椿姫」は口当たりのいい仕上げになっていた。演出にはひねくれたところがなく、当時の風俗を鮮やかに再現している。ヴィオレッタのリリア・フレヴツォヴァか決めるべきアリアをぴたりと決め、ジェルモン(ドミトロ・ポポウ)との息もよく合っていた。バレエ、合唱もお手のものであるが、管弦楽に荒さが見られたのは惜しまれる。オペラ普及の尖兵として、今後も頑張ってもらいたい。(椨 泰幸)
〈写真提供:ザ・シンフォニーホール〉

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「新日本フィルハーモニー交響楽団/第437、438回定期演奏会、」 10月17日 23日
 ヴォルフ=ディータ・ハウシルト(写真=2008年1月定期より)がベートーヴェン、ブラームス他を指揮した。17日トリフォニーで秀逸のベートーヴェン交響曲第1番、第7番を聴く。弦の処理も巧みにホールの美しい残響に木管群を浮き立たせた見事な指揮。木管は気品にあふれ、ティンパニは細やかな心遣いの冴えた第1番、第7番では激しさの中に絶妙な弱音と美しさがこれぞ古典派の味わいだ。2日目サントリーも手堅くまとめる。管は初日に比べ幾分硬さが残るものの、メンデルスゾーンにR・プロセッダのソロを迎えたピアノ協奏曲の補筆完成版日本初演とブラームス2番が会場を熱く包んだ。(宮沢 昭男)
〈Photo:K.Miura〉

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「ウィーン国立歌劇場 ベートーヴェン:《フィデリオ》」10月29日 神奈川県民ホール
 同歌劇場音楽監督の退任が決まった小沢征爾は、最後の来日公演を迎えて、「フィデリオ」を取り上げた。緊迫した序曲。愛のすれ違う第1幕。ドラマティックな展開を遂げる第2幕。場面に応じてオーケストラを自在に響かせ、アリアを巧みに支える。オケ・ボックスから広がる小沢の音楽は、舞台と一体となり、寸分のスキもない。幕間に聴かせた「レオノーレ序曲第3番」には、ウィーンならではのコクと切れがあった。
無実の罪で獄舎につながれ、呻吟するフロレスタンをロバート・ディーン=スミスは、悲痛なテノールで歌い上げた。夫に寄せる愛をデボラ・ヴォイト(フィデリオ)は憂いのこもったソプラノに託した。邪悪な典獄ドン・ピツァロを演じたアルベルト・ドーメンのバスには迫力があり、監獄の番人ロッコ(ヴァルター・フィンク)は包み込むような温かみのあるバスの持ち主である。オットー・シェンクの演出はケレン味がなく、簡素な舞台づくりは夫婦愛と英雄的な行為を象徴しているようだ。(椨 泰幸)
〈Photo:Wiener Staatsoper GmbH Axel Zeininger〉

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「日生劇場・開場45周年記念公演/モーツァルト:《魔笛》」11月8日 日生劇場
 上岡俊之指揮、読売日本交響楽団が日本人ソリストとともにすばらしい音楽に仕上げた。快調なモーツァルトが流れ、抑揚たっぷりの愉快な音楽は大きな収穫だ。上岡は読響の弦を豊かに響かせ管を絡める手腕。ソリストもパミーナ役天羽明惠の潤い豊かな歌、やや緊張気味だったが見事なコロラトゥーラの安井陽子、流暢な原語のパパゲーノ役大山大輔、そしてしっとり歌う黒木純のザラストロと安定感あるタミーノ役吉田俊之らいずれも文句ない。だが高島勲の演出に冴えがうかがえない。モダン化するなら明解なコンセプトが必要だが、積極的にそれを展開せず曖昧模糊とした印象が残った。(宮沢 昭男)
〈写真:三枝 近志〉

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「トヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィーン・コンサート」 2009年4月3〜12日 札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・福岡(全8公演)
 トヨタ自動車が、社会貢献活動(芸術文化支援)の一環として、「ウィーン国立歌劇場」の特別協力を得、ウィーン・フィルの首席奏者やウィーン国立歌劇場の奏者等30名で特別に編成された「トヨタ・マスターズ・プレイヤーズ、ウィーン」によるコンサートが来年4月に全国6都市で行われる。2000年から始まったこのコンサートも今回で8回になる。名古屋では名古屋フィルとの合同演奏も別途行うことが決まっている。
 名古屋と東京で行われる名古屋フィルとの合同演奏会では尾高忠明が指揮をとるが、その他はすべて指揮者なしで行われるという。本公演に対する問い合わせは、トヨタ・マスターズ・プレイヤーズ事務局、TEL:03-5210-7555 まで。(H)


Audio ALBUM Review

「Hymne an die Nacht/Brigitte Engerer」(Mirare/MIR043)*輸入盤
 シューベルトの音楽には、死の不安が含まれている。ピアノ曲に時折神経症的に現れる低音の不気味な効果は、死の足音に聞こえる。シューベルトの晩年のピアノ曲の甘美で優しいメロディには、抑圧されていた暗い憧れと愛の苦しみがある。真っ白な大輪の花が夜更けに人知れず開いて馥郁とした香りを放っていくエロティックな詩情がある。フランスの女流ピアニスト、ブリジッド・エンゲラーの『夜の讃歌』と題されたCDは、リストの手でピアノ用に編曲された歌曲も含めて全6曲を演奏、シューベルトの音楽に潜むダークサイドに焦点を当て、生き生きと息づかせた素晴らしいディスクである。オン・マイクで近接録音すると、ドロドロした演奏に聴こえかねないので、小ホールで残響をたっぷりと取り、豊かな遠近感を付けた録音である。静かな晩秋の夜、再生システムを十分に暖機しこのディスクを再生するとフォーカスがピタリと合って、深い音場の中に水際立った澄明な打鍵が現れる。晩秋の夜、部屋の照明を最小限に絞って聴いてほしい。澄明で美しい響きの奥に、肌を粟立たせる底知れない深淵と甘美な戦慄が見えてくる。(大橋 伸太郎)

Audio DVD Review

「ライヴ・アット・モントルー2003/イエス」(ヤマハ・アトス・ミュージック・アンド・ビジュアルズ/VAXB1330)*ブルーレイディスク
 2003年のモントルー・ジャズ・フェスティバルでのライヴ映像で、『イエス・ソングス』期のラインナップが『イエスアルバム』『こわれもの』『危機』からのナンバーを中心に演奏。イエスというバンドは英国のプログレにしては珍しく、退廃的な曲想やペシミスティックな世界観と無縁の、名の通り肯定的で明晰な世界観が特徴だ。ミュージシャンシップも高い。そうした彼らだからこそ、30年後もこうしてレベルの高いアンサンブルを聞かせることができるのだ。HD DVDで既発売だが、ブルーレイディスク化で、収録音声はDTS-HDハイレゾ、ドルビーデジタル5.1、ドルデジステレオの三種類になった。ハイレゾは可変レートのマスターオーディオに対し、固定レートが特徴で、映画に比べ全編シーンによる変化が少ないコンサートライブでは合理的な形式である。DTS-HDは空間表現が大きく、モントルーの会場のスケールを広々と再現。音が太く前に出るが誇張感と細部が整理される印象のドルデジに比較すると、やや大人しく聴こえるかもしれない。イエスというバンドは、名称権を持つベーシストのクリス・スクワイアと英国きってのセッション・ドラマーだったアラン・ホワイトの縦のラインがバンド・サウンドの中核である。このディスクを5.1chで再生すると、スクワイヤのベース・ラインの硬質な響きとダイナミズムが明瞭で、リスニング・ルームの音場にこの縦のラインが躍動感と共に立体的に浮かび上がり、イエスの音楽を実在感豊かに解き放つ。(大橋 伸太郎)