私のベスト… 2011年1月 

The John Hartford String Band
MEMORIES OF JOHN(Red Clay/Compass Records RC 7-4539 2)・・・島田耕

 快挙である。なんと、日本制作のブルーグラス、オールド・タイム・ミュージック、それもメジャー・レーベルとは縁もゆかりもない関西は宝塚のマイナー・レーベルの自主制作アルバム『THE JOHN HARTFORD STRINGBAND MEMORIES OF JOHN』が2010年第53回グラミー賞ノミ二ー、ベスト・トラディショナル・アルバム部門のトップ5の1枚に選ばれたのである。

 参加メンバーが全員ナッシュビル・ミュージシャンで、日本人ミュージシャンの参加はないけれど、日本の一個人会社制作のアルバムがグラミー賞の俎上にのるということはいまだかつてなかったことだ。渡辺敏雄、三郎兄弟がブルーグラスとオールドタイム・レコードの通販会社「B.O.Mサービス」(ブルーグラス、オールドタイム・ミュージック・サービス)を立ちあげて約40年、これまでにレッド・クレイ・レーベルのもとに日米ブルーグラスの良心といわれたアルバムを根気よく作り続け、紹介、ブルーグラスの発展、普及に努めてきた、その労がようやく認められたと感じられた今回のグラミー賞ノミネート、渡辺兄弟とスタッフの喜びは察してあまりあるものがある。まずは「おめでとう」。いまは本選での朗報を待つばかりだ。

 ジョンハートフォードが亡くなって10年。1967年に「ジェントル・オン・マイ・マインド」で登場して以来34年間光り続けた灯が消えたのは2001年6月のことであった。

 「ジェントル・オン・マイ・マインド」がジョンの名を世に知らしめる契機になった作品であることは、ことさら言うまでもないだろう。グレン・キャンベルがうたってヒット。最初はカントリーのヒット曲扱いだったのが、結果的には1967年度のグラミー賞カントリー部門、レコード、ソング、男性歌手賞を受賞して以来世界中の歌手にうたわれポップ・スタンダードとなった。いまから43年前である。

 1970年代以降のジョンの音楽は「ジェントル・オン・マイ・マインド」の喧騒が嘘だったように71年の『Aero Plain』『Morning Bugle』、76年のグラミー受賞アルバム『Mark Twang』に聞かれるように50年代のクラシック・ブルーグラスをルーツに持ったカントリーともフォークともつかないアコースティック・ミュージックを演じ、歌う日々だった。しかし、ジョンが描く歌の世界はいつも一筋縄でいかない複雑に交差した底の知れない茫洋とした、不思議な、安易に捉え難い雰囲気に包まれていた。グラミー賞をはじめ、さまざまな賞の候補にあがった際には、複雑な歌詞に音をあげ、聞くことを放棄した審査員もいたといわれる。しかし彼の歌は決して不快なものではなかった。どこか切なくて、どこか懐かしい。ジョン特有のブルーグラスとフォークとポップスがさりげなくひとつになって聞く者を惹きつけてやまなかった。晩年のジョンは自身のジョン・ハートフォード・バンドで演奏活動を行う傍らオールド・タイム・フィドルの保存、伝承に取り組み64歳の生涯を終えた。

 この『MEMORIES OF JOHN』は、そのジョンの最晩年を共に過ごしたバンド・メンバーによる追悼盤なのだが、ジョン・ハートフォード・ファンをこれほど悩ましい思いに誘うアルバムも昨今、珍しい。オールド・タイム・ストリング・バンドの演奏から、ブルーグラス、シンガー・ソング・ライターのどちらかと言えば地味な作品まで、その聞きどころの数々を縦横に語り、歌い、演じるストリング・バンドのメンバーとベラ・フレック達ゲスト・ミュージシャンの演奏に煽られて、いますぐジョン本人の歌と演奏を聞き、確認したくてたまらなくなる。ジョンで聞き直したい気持ちと、先を聞きたい気持ちが胸の内でつば競り合いを演じて、なんとも懊悩するほかない快いトリビュート・アルバムなのだ。しかし、なんといっても悪戯心とユーモアにあふれたジョンの世界に対する無条件の敬愛の念が、参加ミュージシャン全員のパフォーマンスに滲み出ているのが素晴らしい。

 今年2010年のナッシュビルで行われた「IBMAブルーグラス・ショー」はジョン・ハートフォード・ストリングバンドの感動の演奏で幕を下ろしたという。

 プロデューサー:渡辺敏雄/クリス・シャープ。


*写真=ナッシュビル「STATION INN」のジョン・ハート・ストリング・バンド
ジョンと息子のジェイミー・ハートフォード(左)(撮影:島田耕 1989年6月)


*写真=「SUMMERLIGHTS ‘96」左からマイク・コンプトン、ジョン・ハートフォード、
ジェリー・マッカリー(撮影:島田耕)

*アルバムに関するお問い合わせ/オーダーは下記B.O.Mサービスまで
http://www.bomserv.com/rc125.html

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